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11話 ゴブリン討伐依頼1

 素材採取に出掛けた翌朝、俺はクリスティーネと共に再び冒険者ギルドを訪れていた。目的は、昨日手に入れたゴブリンの魔石や薬草などの売却と、受注可能な依頼の確認だ。

 冒険者ギルドへと入ると、どの受付も今は対応中ではないようだった。どこでもよかったのだが、俺はなんとなく昨日と同じ受付の女性の方へと足を運ぶ。

 近付く俺達に気付いた女性が、笑顔で対応してくれる。


「おはようございます。本日はどうなさいましたか?」


「依頼を見に来た。ついでに、素材の買取を頼みたい」


 カウンターへと背負い袋を置き、クリスティーネにも袋の中身を出すように促す。

 そうしてカウンターに並べられたのは、十個少々のゴブリンの魔石と薬草の類だ。改めて見ても、あまり多くはない量である。

 駆け出しの冒険者ならこんなものだろうが、正直に言うと毎日この程度の成果では、冒険者としてはやっていけないだろう。日々を生きるには何とかなるが、装備の更新などの費用が圧倒的に不足する。


「ゴブリンの魔石に薬草類ですね。少々お待ちください」


 女性が報酬額を計算し、銅貨と銀貨を渡してくれる。俺は礼を言ってそれらを受け取り、クリスティーネと分け合って懐へと仕舞った。

 そうして受付を離れて依頼掲示板へと向かおうとする俺の背中に、受け付けの女性から声が掛けられた。


「そういえば、丁度ゴブリンの群れの討伐依頼が来ていましたよ。たしか、まだ受けられていなかったはずです」


「ゴブリンの群れか……」


 一体ならさして脅威でも無い魔物だが、群れると厄介なのがゴブリンだ。

 倒したところで魔石くらいしか売れないため積極的に狙うような魔物ではないが、討伐依頼であれば別に依頼料が出るため、受けてもいいかもしれない。


 ワイルドボアやオークといった、肉が売れる魔物でも狙った方が実入りはいいような気がするが、まだクリスティーネとパーティを組んで二日目だ。

 互いの呼吸を合わせるためにも、ゴブリンくらいが丁度いい相手かもしれないな。


 依頼掲示板の前に立ち、貼り出されている依頼を眺める。そうして貼り出されている依頼を眺めれば、受付の女性が言っていた依頼はすぐに見つかった。

 内容は村の近くにゴブリンが巣を作ったため、駆除してほしいという依頼だ。推奨ランクはE、推奨人数は二人以上。村の場所もここから近く、徒歩でも半日もあれば辿り着くだろう。


 報酬額もそれほど悪くはない。この依頼を受けると今日と明日で二日ほど費やすことになるだろうが、十分に元手は取れるだろう。


「クリス、この依頼を受けようと思うが、いいか?」


「どれどれ? ……ゴブリンの群れね、簡単簡単! 私に任せてよ!」


 クリスティーネは自信満々といった様子で豊かな胸を軽く叩いて見せる。実際、昨日のクリスティーネの動きを見る限り、多少ゴブリンの数が増えたところで問題はないだろう。

 異論はないようなので、依頼票を手に受付へと戻り女性へと差し出した。


「この依頼を頼む」


「依頼の受注ですね。それではパーティ名か、代表者の名前を記入してください」


 俺はペンを手に自身の名前を記入する。指名依頼など来ないだろうし、しばらくはパーティ名など付けなくてもいいだろう。

 受付で手続きを済ませれば、依頼の受注は完了だ。


「それでは、お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 こうして、俺とクリスティーネは冒険者ギルドを後にした。




 ネーベンベルクの町を発ち、西の方角へと足を進める。少々空に雲は見えるが、雨の降る様子はなく足取りも軽やかだ。

 途中で一度昼食休憩を挟み、街道に沿って進めば夕方前には目的の村へと辿り着いた。

 この村の名前はドルフ村という小さな村だ。村の名前を聞いたことはあったが、訪れるのは初めてになる。


 魔物から村を守るためなのだろう、村を囲むように木の柵が立てられているのが見て取れた。

 ゴブリンの群れが村の近くに出たためだろうか、村の入口には槍を手にした見張り番の姿があった。俺は見張り番の青年へと、軽く右手を上げながら近づいていく。


「ネーベンベルクから来た冒険者だ。ゴブリンの群れ討伐の依頼を受けてきた」


「冒険者の方ですか! お待ちしておりました。このまま真っ直ぐ行ったところにある大きな家に村長がいますので、まずはそちらにお願いします」


 青年に礼を言い、クリスティーネと共に村へと入っていく。村の中にはまばらに木造の家が建っており、数人の村人が各々の仕事をしているようだった。

 外からくる人間が珍しいのかこちらを見てくるので、会釈を返しておく。村の雰囲気からはそこまで緊迫した様子は窺えない。

 まぁ、近くに魔物が出たといってもゴブリンだから、そんなものだろう。


 やがて他の家よりも一回り大きな家へと辿り着いた。おそらくここが村長の家なのだろう。木製の扉を叩くと、声が返ると同時に中からこちらへと近づく人の足跡が聞こえてきた。

 やがて扉が内側から開き、一人の老人が姿を見せた。顔には皴が多く、立派な白髭を蓄えている。見た目の年齢の割には、足腰がしっかりしているようだ。


「どちら様ですかな?」


「ゴブリンの群れの討伐依頼を受けて、ネーベンベルクの町から来た冒険者だ」


「おぉ、それはそれは……ええと、そちらの方も冒険者なのですか?」


 老人の視線はクリスティーネへと向いている。老人が疑問に思うのも無理はないだろう。

 翼と尻尾を隠している今、クリスティーネは人族の少女にしか見えないのだ。腰に剣を差した姿は冒険者に見えなくもないが、さして強そうには見えないだろう。


「クリス、魔術を解いて翼と尻尾を出してもらえるか?」


「ん? いいの?」


「あぁ、見せたほうが早そうだからな」


 どちらにせよ、ゴブリンと戦う際には魔術を解いて戦うのだ。見張りの村人くらいはいるだろうし、遅かれ早かれ半龍族の姿を見られることになるだろう。

 それなら、今見せても同じことである。


 半龍族は珍しい種族だが、一般的には普通の人族よりも能力が高いと知られている。その姿を見れば、この老人にも少しは安心してもらえるはずだ。

 クリスティーネが指を鳴らすと、その背後から光に包まれて翼と尻尾が現れる。それを見た老人は、わかりやすく驚いた表情を形作った。


「おぉ、これはもしや、半龍族という方ですか?」


「そうだよ、半龍族のクリスティーネって言うの! よろしくね!」


「これはこれは、私はこの村の村長のハンスです。ようこそおいでくださいました」


 ハンスが頭を下げるのに対し、俺も礼を返す。

 どうやら、少しは安心してもらえたらしい。


「それで、これからどうなさいますか?」


 ハンスの言葉に、少し悩む。

 今からゴブリンの討伐に取り掛かると、日が暮れる恐れがある。基本的に魔物の方が夜目が利くため、夜の戦闘は昼間よりも不利だ。

 それでもゴブリン程度なら問題ないとは思うが、そこまで危機的な状況でもないようだし、討伐は明日に回していいだろう。


 それでも、今日できることは今日のうちにしておきたい。

 今ならまだ、ゴブリンの数や地形などの確認は可能だろう。


「討伐は明日にしようと思うんだが、今日のうちに標的や周囲を確認しておきたいな。案内を頼めるか?」


「それでしたら私にお任せください。今は村の者が交代で見張っておりますので、そこまでご案内いたします」


 そう言ってハンスが先導する後を、俺はクリスと共について行った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の冷静な考え方が地の文から伝わってきて、いつも読みやすくて面白いなぁと楽しんでおります。クリスティーネの元気の良さも良い雰囲気が出ていて良いと思います。可愛らしい子ですね。 [一言]…
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