107話 異変の解決と次の目的4
陽の光に目を細める。朝日はいつもと変わらぬ光量で俺達を照らし、じんわりと体を温める。今日も実に良い天気だ。少し風はあるが、雲は少なく雨の心配をしなくてもよさそうである。
俺は背負い袋を担ぎ直すと、陽の光に背を向け屋敷の方へと向き直った。
俺の隣に並んでいるのはクリスティーネとシャルロット、それにフィリーネの三人だ。全員が冒険時の服装に着替え、各々背負い袋を担いでいる。
俺達の向かい側、屋敷の正面に並んでいるのはユリウス、ハイデマリー、アンネマリーといったユリウス家の面々だ。俺達がこれから出立するということで、わざわざ見送りに出てくれたらしい。
「それじゃ、俺達は行くよ。何日も世話になったな」
振り返ってみれば、思った以上に滞在してしまった。当初は王都からオストベルクへの護衛依頼、日数にして三日ほどの予定だったのだが、気付けばそれから五倍ほどの日数が経過してしまっている。まぁ、とは言ってもその大半は移動日なのだが。
俺としても、ここまで依頼が長引いたのは初めての事だった。貴族の屋敷に宿泊するのもパーティに出るのも初めてのことで、困惑することもあったが総評するといい経験だったと思える。
「世話になったのはこちらの方だ。好きなだけ滞在していいと言ったのに、もう行ってしまうとはな」
言葉にやや残念そうな響きを加えたのはユリウスだ。その言葉通り、確かに俺達は随分と働いたように思う。
護衛依頼を三度、そのうち一回はオストベルクへの移動中に襲撃を退け、一回はパーティに潜入したオスヴァルトの凶刃からアンネマリーの身を守った。
その後は町を襲ったオスヴァルトの呪術を止めるために尽力もしている。
合間に何も予定もない日なども挟まっているが、事件の密度で言えばかなり濃い日々を過ごしたものである。それ相応の謝礼も頂いているので、文句などはないのだが。
「いつまでも居座るわけにはいかないからな。冒険者らしく、仕事に戻ることにするよ」
ユリウス家に滞在する日々は大層快適なものだったが、それに甘えていてはダメになりそうだ。いくら早朝訓練を続けたところで、実践に勝る経験はない。
「そういうことなら、引き留めるわけにはいかないな。旅の無事を祈る」
「あぁ、ありがとう」
そうして、俺はユリウスと握手を交わした。
それから、ユリウスは思い出したように口にする。
「そうだ、何か困ったことがあればいつでも頼ってくれ。貴族絡みであれば、それなりに力になれると思う」
「わかった。その時は、甘えさせてもらう」
今回のように、貴族にかかわるようなことは早々ないだろうが、未来に何があるかはわからない。折角得た繋がりなのだし、困ったときは遠慮なく頼らせてもらうとしよう。
「それから、この町に来たときは、是非我が屋敷に立ち寄ってほしい。アンナも喜ぶし、例の魔族に関して情報交換もしたいからな」
「わかった、覚えておくよ。俺の方でも、出来るだけ情報を集めておく」
あの日から、魔族の女の行方は掴めていない。ユリウスの手により、かなり大規模に町を捜索しているようなのだが、手掛かりの一つとして見つけられてはいなかった。
結局、魔族の女の目的はわからないままだった。オスヴァルトに協力して、何がしたかったのだろうか。ユリウス自身も魔族に狙われるような原因に心当たりはなく、魔族がユリウスを狙っていたのか、それともただオスヴァルトに協力していただけなのかもわからない。
俺の個人的な見立てだが、あの魔族の女はユリウスに個人的な恨みがあるようには見えなかった。何らかの目的のためにオスヴァルトに協力、と言うよりも利用しているように見えた。そのため、今後再びユリウス達が狙われるということはないように思う。
それよりも、だ。俺自身が、再びあの魔族と会うことになるような気がしている。あの魔族は俺の事を知っているような口ぶりだったし、また会うことになるとも言っていた。個人的には、あまり係わりたくない相手だが。
俺とユリウスとの会話が一段落したとみてか、アンネマリーがこちらへと一歩踏み出し見上げてきた。胸の前で両手を組み、俺の事を見上げてくる。
「ジークさん、私の事を守ってくださって、ありがとうございます」
そう言ってスカートの端を持ち上げ、軽く膝を曲げて優雅な礼をして見せる。
それに応えるように、俺は片手を胸に当てて丁寧に礼をして見せた。
「アンナさんが無事で何よりだ」
俺の言葉にアンネマリーはにっこりと笑顔を見せる。それから隣へと身を移し、シャルロットの手を取った。
「シャルさんも、クリスさんもフィナさんも、たくさんお話が出来て楽しかったです。また、冒険のお話を聞かせてください」
「はい、アンナさん。また会いましょう」
「お菓子をありがとう! とっても美味しかったわ!」
「次に来るときは、面白い話を用意しておくの」
クリスティーネ達がアンネマリーへと口々に別れを告げる。
そうして、俺達はユリウスの屋敷を後にするのだった。
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