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106話 異変の解決と次の目的3

「さて、それじゃ今後の話でもするか」


 俺は紅茶を一口含んでから、そう口火を切った。

 ユリウス達が退室し、室内には俺達四人だけとなった。これからの予定を話すには、丁度良い機会である。

 俺の言葉に、クリスティーネが茶菓子へと伸ばす手を止め、首を傾げる。


「今後の話?」


「あぁ。ユリウスさんはああ言ってくれたが、いつまでもここにいるわけにはいかないだろう?」


 好きなだけ滞在してくれと言われたが、その言葉を真に受けて、いつまでも厄介になるわけにはいかない。ユリウス家にいれば飯は美味いし部屋は広いと言うことなしだが、あまりにも長居しては迷惑になるだろう。

 受注した依頼は完遂したし、報酬も受け取った。オスヴァルト関連のあれこれも片付いたことだし、ここから追加で依頼を受けるということもないだろう。


 唯一気がかりなのはローブを着た魔族の女の行方だけだが、それもすぐに見つかることはないだろう。

 そうなれば、ここに滞在する理由もない。元の冒険者生活に戻るべきだ。

 まぁ、オストベルクの町の冒険者ギルドで依頼を受け、昼間は依頼をこなし、夜はユリウス邸に戻ってくるという生活もできなくはない。きっとそのほうが、俺達としては楽だろう。


 だが、いつまでもユリウスの好意に甘えるわけにはいかない。一度王都に戻るか、それとも別の町に移動するかを考えるべきだろう。

 また冒険者ギルドで護衛依頼などを受注して移動するのがいいだろうかと思案していると、フィリーネがこちらへと身を乗り出した。


「それなら、ジーくんにお願いがあるの?」


「お願い?」


 復唱しながら首を傾げれば、「そうなの」という答えが返る。


「フィーの生まれた町に来てほしいの」


「フィナの、生まれた街に?」


 再度問いかければ、肯定するように頷きが返った。


「それはまた、どうしてだ?」


 特に目先の目標もないため、向かうのは構わない。構わないが、理由くらいは知りたいところだ。わざわざお願いをするのだから、それ相応の理由があるのだろう。

 そう思って問いかければ、フィリーネは何やらもじもじとして視線を落とした。


「もちろん、両親に紹介するの。それで、フィーとジーくんの仲を認めてもらうの」


「ジークさんとの、仲ですか?」


 フィリーネの言葉に、シャルロットが首を傾げた。

 俺も頭に疑問符を浮かべ、シャルロットと目を合わせる。俺とフィリーネの仲など、わかりきっている。冒険者仲間だ。

 昨日、フィリーネは俺達と一緒にいたいと言っていたから、冒険者として俺達と行動を共にしたいのだろう。別に、それ自体は俺にも異論はない。パーティメンバーが増えるのは歓迎だ。


 だが、そこに親の許可が必要なのだろうか。もちろん、冒険者になるかならないかで親と意見が異なる事もあるだろう。俺自身、身に覚えのある話だ。

 だが、フィリーネは既に冒険者として活動しているのだ。その状況でフィリーネが他の冒険者仲間と行動を共にすることに、両親の許可など最早必要ないだろう。


 そんな風に考えていると、クリスティーネが勢いよく立ち上がった。


「だ、ダメだよ、そんなの!」


 良くわからないが、クリスティーネは否定派らしい。それは、俺達と行動を共にするのに両親の許可など必要ないという意味で合っているのだろうか。

 何となく話がかみ合っていない気がするが、きっとそうだろう。クリスティーネがダメだというのなら、ダメに違いない。


「と、言う事らしい。諦めてくれ」


「嘘なの。半分冗談なの」


 半分は本気だということか。

 俺が半目を作れば、フィリーネは焦ったように言葉を続けた。


「本当は、呪術が関係してるの」


「呪術が?」


「そうなの」


 どういうことだろうか。呪術関連のあれこれについては、解決したばかりである。術者であるオスヴァルトも死亡し、これ以上に何かが起こるはずがない。

 首を傾げる俺の前で、フィリーネは少し真剣な表情を浮かべた。


「術者が死んでも、呪術は残るの。それで、フィーが呪いを受けたのは何年か前なんだけど、呪いを受けたのはフィーだけじゃないの。フィーの生まれた街には、他にも呪いを受けた人がいるの」


 その話で、フィリーネの言いたいことは分かった。


「つまり、フィナの町に残っている、呪術を受けた人たちの解呪をしてほしいってことだな?」


 俺の問いに、フィリーネはカクンと首を前に倒した。

 それならそうと、早く言ってくれればいい。俺としても、呪術を受けて苦しんでいる人がいるのなら、助けるのは吝かではない。

 ただ、解呪の礼として高額な金銭を要求する気はないが、移動にかかった日数や金額を考慮して、多少の報酬は欲しいところだ。何でも無償でやっていては、冒険者としてやっていけない。そのあたりは、実際に行ってからの交渉次第だろう。


「まぁ、受けるのは構わないとして……待てよ、ここからだとどのくらいで町に着くんだ?」


 これが、何十日も必要とかになると、少し考えものである。もちろんその場合でも向かうだろうが、そこまで長旅になるといろいろと旅程を考える必要がある。

 そんな思いが顔に出ていたのか、俺の顔を見たフィリーネがふっと笑顔を見せた。


「安心してほしいの、大体十日くらいで着くと思うの」


「……意外と近いな」


 それを聞いて安心した。それくらいであれば、何の問題もない日数だ。

 だが、考えてみればそれほど離れていないのは当然かもしれない。オスヴァルトだって、何も世界の端からは端まで移動したということではないだろう。

 ユリウスによれば昔はこの町に巣食っていた犯罪集団に所属していたということだし、この町から移動できる距離にフィリーネの町があるのは至極当然の話だった。


「なら決まりだな。フィナの町に行こう。クリスとシャルも、それでいいな?」


「はい、わかりました」


「うん! フィナちゃんの町に行くまでにも、いろんな町に立ち寄るんでしょ? 楽しみ!」


 クリスティーネの言う通り、旅の途中では町に立ち寄るだろう。四人いれば交代で見張りを立てて野宿ということも出来なくはないが、出来るならば夜は宿に泊まりたいものだ。


「よし、それじゃ軽く旅程を立てて、町に買い出しに行くか」


 そうして翌日の出立を目標に、地図を取り出して旅程を決める。大まかな行程が決まれば、旅路に必要なものの買い出しだ。その途中、ユリウスから貰った報酬で、クリスティーネが早速揚げ団子を購入していたのは言うまでもないことである。

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