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104話 異変の解決と次の目的1

 カン、カンという軽い音が冷えた空気に響き渡る。剣と剣との衝突音だ。

 ユリウス家の庭の中心付近で、俺はシャルロットへの剣術指南を施していた。右、左と振られる剣は、前回よりもいくらかの鋭さを増して俺へと迫ってくる。

 それでも、まだまだ初心者の剣である。俺が対処できないわけがなく、その直線的な軌道を見切り捌くのは容易なことだった。


 しばらく打ち合ったところで、少し距離を開けて手を止める。疲労が重なり、シャルロットが大きく肩で息をし始めた。今日の剣術指南はこんなところだろう。

 俺は訓練用の剣を肩へと担ぎ、シャルロットへと声を掛ける。


「今日の訓練はここまでだ。それにしても、シャル、何かあったか? 随分と気持ちが籠っているみたいだったが……」


 普段の訓練に気合が足りていないというわけではない。シャルロットは根が真面目な子だ。普段の早朝訓練でも依頼中でも、真剣に取り組んでいることは知っている。

 だが、今日はいつもより剣に気合が込められているようだった。俺へと打ち込む剣には、間違いなく普段よりも力が込められていた。

 ただ何となくであればそれでもよいが、何かあったのならば聞いておいた方がいいだろう。俺の問いに、シャルロットは困ったような顔を見せる。


「えっと、その、何と言いますか……自分の力不足を実感しまして……」


 そう語るシャルロットの表情は、どこか自信なさげなものだ。

 その言葉には、一つ心当たりがあった。


「あの女に負けたことを気にしているのか?」


 オスヴァルトと戦闘をした日の事だ。シャルロットはクリスティーネと共に、ローブを着た魔族の女と戦い、そして破れた。

 あの女がその気であれば、二人とも殺されていただろう。そうならなかったのは、単にあの女に二人を殺す気がなかったためだ。


 二対一という有利な状況にもかかわらず、二人は負けた。戦闘の様子は見ていないためにわからないが、その後の女の様子を見るに、大敗だったのだろう。

 もちろん二人には呪術の影響もあったのだろうが、戦闘に於いてそのような言い訳は何の意味もない。


 俺の問いに、シャルロットはおずおずとした様子で頷きを返す。


「はい……もっと私が強ければ、あの人を捕まえられたかも知れないのに……」


 どうも、シャルロットはあの女を逃したのが自分の責任だと思っているようだ。確かに、シャルロットが今以上の実力を持っていれば、結果は変わったかもしれない。

 だが、それは意味のない仮定である。シャルロットは手を抜いたわけではなく、自身の力を十全に発揮した結果だ。それで破れたとしても、俺には一切攻める気はない。

 第一、仮定の話をし始めれば、何だって言えてしまう。


「自分を責めるなよ、シャル。それなら、俺がもっともっと強ければ、あの女もオスヴァルトも、楽々捕まえられてただろう? それが出来なかったのは、俺が弱かったからだ」


 俺にもっと力があれば、屋敷の庭であの女と対峙した時に、三人がかりで一瞬のうちに女を無力化できていただろう。その後、屋敷の中に踏み入ってオスヴァルトを捕縛すれば、最善の結果を迎えられたはずだ。

 だが、俺はその場を二人へ任せ、オスヴァルトを優先した。その判断が間違っていたとは思わないが、女を逃した責任があるとすれば、その選択をした俺だろう。


 俺の言葉に、シャルロットは勢いよく首を横に振る。


「そんなことはありません! ジークさんは強いです!」


「ありがとな。だが、届かなかったのは事実だ。だからって自分を責めても、劇的に強くなれるわけじゃない。俺達に出来るのは、昨日の自分よりも少し強くなることだけだ」


「昨日の自分より、少し強く……」


 シャルロットの呟きに頷きを返す。それから少女の元へと歩み寄り、水色の髪へと軽く片手を乗せた。


「焦らず、少しずつ強くなっていけばいいさ。いつか、努力してきてよかったと思える日が、絶対に来る」


 俺の言葉に、シャルロットは俯きかけた顔を上げる。そうして胸の前で両手を握り、俺に向けて力の籠った瞳を向けた。


「私、頑張ります!」


「あぁ、期待しているぞ」


 そうして、しばらく優しく頭を撫でる。


 俺とシャルロットが会話をしている間にも、傍らからは剣戟の音が響いていた。シャルロットが音の方向へと顔を向け、ほぅと息を吐く。


「目標は……クリスさんでしょうか」


「そうだな、クリスくらいの実力があれば、俺も安心だな」


 釣られるように顔を向ければ、視線の先には剣を握ったクリスティーネの姿がある。その身へと迫る二本の剣を、手に持つ一本の剣で巧みに捌いていた。

 クリスティーネへと剣を振るっているのは白翼の翼を持つ少女、フィリーネだ。俺達が早朝訓練をするにあたって、フィリーネも参加を表明したのだ。


 俺がシャルロットへと剣術指南をしている間、二人は模擬戦闘を行うことにしたようだ。以前のフィリーネの戦い振りを見る限り、クリスティーネに分があるように思えたのだが、俺の予想に反して二人は互角の戦いを繰り広げている。

 それと言うのも、フィリーネの動きが格段に良くなっている。剣を振るう腕も足捌きも、以前とは別人のようだ。


 フィリーネの動きが良くなった原因は一つ、呪術が解呪されたためだろう。呪いに侵されている間は、その実力を発揮することも難しかったようだ。

 その呪いが解けたとあって、フィリーネの表情は生き生きとしている。対するクリスティーネも、どこか楽しそうだ。


「負けないよ、フィナちゃん!」


「呪いがなければ勝てると思ってたの……ここで勝って、発言権に優位を得るの!」


 二人の剣と剣がぶつかり合い、火花を散らす。二人の実力は拮抗しており、なかなか決着が付かない。

 その後、俺達を呼びに来たユリウス家の執事、セバスチャンの一言で天秤が一気に傾いた。

 間も無く朝食だということを聞いたクリスティーネが一気に攻め込み、勝負を決めたのだった。勝利と食事に喜びを見せるクリスティーネの後ろ、フィリーネは再戦を誓っていた。

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