1話 追放
「ジークハルト、お前は今日でギルドをクビだ」
ギルド『英雄の剣』のギルドハウスの奥にあるギルドマスターの部屋で、俺ことジークハルト・ザイフリートの目の前にいる男は出し抜けにそう言い放った。
剃り上げた頭で光を反射するその男は、名をヴォルフと言う、このギルドのギルドマスターだ。つまり、俺のような冒険者が集まって構成するギルドという集団において、一番偉いということになる。
その男から告げられた言葉に、一瞬理解が及ばない。一呼吸おいて言葉を噛み砕き、ようやく理解した際に浮かぶのは疑問の二文字だ。
「いきなりクビって、どういうことだよ!」
俺は身を乗り出すようにして声を荒げる。当然だろう、いきなり解雇宣告をされるような心当たりがない。依頼を失敗するようなことはなかったし、大きなミスというのも覚えがないのだ。
それに対し、ヴォルフは呆れたように机へ片肘を付けて頬杖をついた。
「お前、はっきり言って弱すぎるんだよ」
そう言って、なおもヴォルフは言葉を続ける。
「レベル15にもなって、中級剣技も中級魔術もろくに使えない。使えるのは初級剣技に全属性の初級魔術ときたもんだ。そう言うのは『万能』って言うんじゃない、『器用貧乏』って言うんだよ」
告げられたのは、俺が直視しなければならない現実だ。
ヴォルフの言う通り、俺に使えるのはちょっとした身体強化と初級剣技、一通りの初級魔術だけである。レベル15にもなれば『剣士』であれば中級剣技が、『魔術士』であれば中級魔術の一つくらいは使えるものだが、俺には未だどちらも使えなかった。
その原因はヴォルフの言った『万能』というギフトが原因だと考えられる。
すべての人間は『ギフト』と言う才能を、少なくとも一つは持って生まれてくる。必ずしもその才能にあった生き方をする必要はないが、多くの人間は持って生まれたギフトを指針として生きていた。
そして俺に与えられたギフトが『万能』だった。このギフトは珍しいもののようで、その人物のギフトが何なのかを鑑定してくれる協会でも詳しいことはわからなかった。
言葉を素直に受け取ると何でもできるといった印象で、実際に『剣士』のような初級剣技と、『賢者』のようにあらゆる属性の初級魔術を使うことができた。
しかし、どちらも初級に過ぎず、それだけでは冒険者として上を目指したい俺には足りない力だった。せめて、中級剣技か中級魔術のどちらか片方は使えないと話にならないだろう。
俺自身でもそう思うのだが、今はその思いを振り払うように頭を振る。
「レベルが上がれば使えるようになるかもしれないだろ!」
この世界にはレベルという、強さの指標となるような概念が存在する。魔物などの生物を倒すことによって上昇するそれは、そのまま本人の強さに直結し、『魔術士』などの術士であれば使える術が増えていく。
それを考えれば、何れは俺にだって中級剣技や中級魔術が使えるようになる可能性はあるのだ。
「今までだってやってこれたじゃないか! どうして今になってクビなんだよ!」
冒険者になると言って16歳で故郷を飛び出して早二年、このギルドに所属して何とかやってきたつもりだ。苦労はそれなりにあったものの、順調にレベルだって上がってきている。
身を乗り出す俺の前で、ヴォルフは一つ溜息を吐いて見せた。
「このまま何事もなければギルドに置いておいてもよかったんだがな……お前、『頂へ至る翼』ってギルドは知っているだろう?」
告げられたのは、この大陸で一、二を争うと噂のSランクギルドだ。俺の所属する『英雄の剣』と同じ王都に拠点がある。
とは言っても、うちのようなCランクギルドとは訳が違う。そのギルドは一流の冒険者達だけで構成されているという話だ。
そのギルドが一体どうしたというのだろうか。
「そのギルドから合併の話を受けてな、俺は受けようと思ってる。うちのギルドのメンバーが、そのまま『頂へ至る翼』の下に収まる形だな」
ギルドが合併するというのはよく聞く話だ。今回のように大きなギルドが更なる発展のために他のギルドを吸収することや、人数の減ったギルド同士が合わさることなど珍しいことではない。
今回もそういう事だろう。SランクギルドがわざわざうちのようなCランクギルドに声を掛けるのは珍しいことだが、ない話ではない。入るのも難しいSランクギルドに吸収されるというなら、このギルドとしても悪い話ではないだろう。
しかし、その話と俺をクビにするという話がどう繋がるのだろうか。まだ理解が及ばない俺の前で、ヴォルフは話を続けた。
「うちとしても、弱いやつを連れていくのは向こうに申し訳ないからな。よって、今日限りでお前をクビにすることにした。文句があるなら、今すぐ強くなって見せろ」
「そんな無茶苦茶な……」
何とかならないかと言葉を尽くす俺だったが、ヴォルフは首を横に振るばかりだった。一度決めたら考えを変えることはないヴォルフのことだ、これ以上は言うだけ無駄だろう。
他のギルドメンバーに相談しようかとも思ったが、それも無意味だ。
ギルドの新人達をはじめとして仲良くしてくれていた人もいるが、ヴォルフのように初級剣技と初級魔術しか使えない俺のことを馬鹿にしていた奴も多い。わざわざギルドマスターに歯向かうようなことはないだろう。
こうして俺は、ギルドから追放されることになった。