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柵門  作者: にのい・しち
2/2

クリスマス

 なんの話なのか男友達が彼女へ聞くと酔った彼女は軽々と話した。


「マホ、霊感があって見えるんだって。前に別の女子の家へ遊びに行った時、この子が見えるっていったところに、変なことが起きてたのよ」


 そう話した女友達の横でマホさんは少し動揺して、酔いが覚めていくのが見て取れました。

 でも、それはマホさんだけでなく僕も同じで、他の2人は冗談めかして笑ってましたが、僕とマホさんだけ表情に影を落としていました。

 僕とマホさんが黙るので部屋の空気がよどむと、女友達は換気をよくするように話題を変えました。


 0時を回り12月25日、クリスマスを迎えました。

 それから飲んで4人でゲームしたりTikTokをSNSにアップしたり、大学の教授をディスったりで楽しい時間が過ぎて、あっという間に始発。

 みんなは眠気を引きずり僕の家を後にします。


 ふと、ある懸念がよぎり僕は彼らの先頭を歩き、気がかりを止めに外へ出ました。


 柵門が、開いたり閉じたり開いたり閉じたりと、風もないのに動いていた。


 小走りで扉を掴み強引に動きを封じたが、鉄柵のドアは痙攣するように取っ手が震動して僕の握る手を振りほどくかのように揺れました。

 友達を手厚く見送るような素振りでアパートの外へ追いやったんですが、マホさんだけは僕を見た後に目を背けながら足早に柵門を通過して。


 安堵の気持ちにひたり無事に彼らの背中を見送ることができると、やっぱり気がかりがぬぐえず彼らの背中を追いかけたんです。


「マホさん!」


 彼女は振りいて足を止めました。

 帰り足の2人に気付かれないようにマホさんに小声で聞きました。


「何か、見えたよね?」


「あっ、あの……その……」


 視線を伏せて誤魔化す彼女を説得して、見えたモノを教えてもらいました。


 マホさんが言うには「子供の霊が扉を動かしている」と。


 あぁ、やっぱり幽霊とかなんだ。

 勝手なイメージで青白い顔した子供が黙々と扉を開けたり閉めたりして、遊んでいる絵面を想像した。

 見えないイタズラをして生きた人間を驚かしてかまってほしいんだと。


 話を聞いて気持ち悪くなって来ました。


 少し離れた場所で柵門を見たマホさんは、突然涙を流しすすり泣いたんですよ。


 怖すぎて泣いてしまったのか?

 悪いことをお願いしたなと罪悪感に気が落ち込み、

謝罪を述べようとすると、意表をついて彼女が先に謝って。


「ごめんね。私、ちょっと見てられない……ずっと子供の霊が泣き叫びながら暴れてる」


「え?」


 彼女の言っている意味が呑み込めずにいると。


「子供が……鉄柵の上に首が刺さって、泣きなら暴れてるの。『ママ、痛い、ママ、痛い、ママ、痛い』て」


 彼女が見たモノは3歳か4歳の子供が槍のように尖りを出した鉄柵の扉の上に、首を刺して暴れているみたいで、顔を赤くして苦しそうな表情で泣きながら母親を呼んでいたとのこと。


 このアパートは事故物件だったんです。

 僕の話を管理会社にすると、会社が不動産屋を問い詰めて教えてくれたそうなんですけど。


 よくある話で、シングルマザーが3階に住んでいて生活もかなり苦しかったようです。

 母親は子供を託児所に預けて夜まで働いてたらしいんですけど、休日出勤で家を開けないとならなくなったとか。

 託児所は休みで預けられない。

 仕事は午前か昼に終わると見越して、仕方なく子供を家に留守番させて職場へ。


 でも3歳4歳になると、わりと器用に家の物を動かせたりできるので、子供がロックを外してベランダの窓を開けて3階の柵を登ったみたいで。


 クリスマスで母親の帰りが待てない子供は、柵に登ったところでひっくり返えって3階から落下。

 ほぼ真下にある1階の鉄柵の扉の上に首が刺さり、串刺しのまま窒息と出血多量で死亡したそうです。


 亡くなった子の母親はショックから仕事を辞めて実家に引っ越して、その後に何人か入居者がいたので、不動産屋は事故物件の告知義務をしなかったんです。


 翌年、僕は無理をして引っ越しすることにしました。


 最後にあの開いたり閉まったりする柵門を見て、マホさんの言葉を思い出しました。


『ママ、痛い、ママ、痛い、ママ、痛い』


 首を串刺しになった子供の幽霊の悲痛な叫び。

 子供の幽霊はその鉄柵の扉で苦しみながら、帰ってこない母親を呼び続けるんですよね。

 多分、工事をしようとすると業者にトラブルが起きるのは、子供の幽霊が邪魔してたんでしょう。

 母親が帰って来て苦しみから救ってくれると信じて。

 ある意味、地縛霊なのかなって思います。


 クリスマスでにぎわい華やいでる世間の知らない場所で、誰も知ることなく子供の霊はずっと苦しみ続けるんですよね。

 来年のクリスマスも、再来年もその先も。

 それを考えたら、やるせないです。


 きっとその子供の霊だけじゃないんですよ。

 世の中には幸せなクリスマスを過ごせない人達が、沢山いるんじゃないんですかね?


 何年かした後に住んでいたアパートの前を通ったんですよ。

 そしたら例の柵門が撤去されてて。


 長いこと工事が出来なかったのに、何があったのか。

 工事が出来たってことは、あの子供の幽霊は何かに救われたのかもしれない。

 あるいは強引に撤去されて、どこかで首を串刺しのまま今も苦しみ続けているのか。


 僕にはわかりません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 柵門、開閉に気を取られました。マホさんが言った「見えたモノ」から、自分も「遊んでいる絵面」を想像しました。形状……恐ろしや……。見えるマホさんはさぞ辛かったろうなぁと思います。虐待やネグレ…
[良い点] ∀・)内容としては正統派な怪談だと思うんですが、タイトルにある「柵門」が安易に恐怖の対象となっていないところにオリジナリティを感じました。文体がネット掲示板への投稿ってところもミソ。 [気…
[良い点] 体験談的な形式で綴られる本当にありそうなエピソードが怖くも切なくて良かったです。 子どもさん……救われていてほしいです……。
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