新生活
※ホラーをテーマにしたコラムを掲載する為、編集部で体験談を募集。
今回は集まった体験談の中でも我々が一際気になった話をお届け致します。
>投稿者:坂本さん(仮名) 男性 大学生。
二十歳も過ぎてバイトで金が貯まり、そろそろ実家を出て、大学から電車一本で行けるアパートに引っ越して、一人暮しを満喫しようと楽しみにしてたんです。
引っ越した先は築30年くらいの3階建て、管理も行き届いてて家賃も安くて悪くない条件でした。
住む部屋は3階。
景色も良く遠くの東を見れば都心の高層ビル群が城のような形でそびえ、西を見れば住宅や団地などが平原のように広がってます。
3階の窓の真下を覗くとアパート1階の出入口、人一人がゆうに通れるスチール性の柵門が構えてあって、海外の様式を真似てるのか鋭い槍が何本も並べられたような形の柵門なんです。
前のめりになって、うっかり3階から落ちたら串刺しになるのが頭に浮かんで、身震いしました。
まぁ、その柵門が不気味で……。
あれは12月の早朝でした。
頬に霜ができそうなくらい寒かったんですよね。
大学へ行く為、身支度を終えて部屋を出ました。
それで1階へ降りてスチール性の柵門を開いて道路へ出た後に門を閉じました。
アパートを背にして駅の方面へ歩き出した時なんです。
キィィ……っと蝶番が錆びて鉄同士が擦り合わさる音が聞こえてきました。
振り向くと鉄柵の扉が勝手に開いていました。
ちゃんと閉まってなかったようで、柵門に近寄り改めて閉めました。
鉄柵の扉とかって内側に取手を回すと連なって回る、引っかける棒みたいのがあって、柵のフックにかけると閂みたいにロックされるじゃないですか?
扉を開けたままでいると、後で住人に苦情を言われそうで嫌だったので、取っ手を回して引っかけ棒をフックに乗せて、ロックしたんですよ。
しっかりとロックしたことを確認して離れたんですよ。
それなのに、キィィ……と、耳を引っ掻くように物音が聞こえ振り向くと、柵の扉が開いていたんです。
瞬間の行動を思い返して「確かに扉をロックしたよな?」と自問しましたよ。
早朝で眠いのか混乱なのか思考が停まって、しばらく鉄柵の扉に目が釘付けになりました。
すると、
ガチャンっ!
と、勢いよく扉が閉まって思わず後退りしました。
それだけじゃないんです。
扉はゆっくり開いたり閉まったり、開いたり閉まったりを、一人でに繰り返して。
冷えこんでましたけど風なんて吹いていないんです。
なんだか、見えない誰かが扉を開け閉めしてるように繰り返し、開いたり閉じたりを繰り返すんです。
もう気味が悪くて早歩きでその場を離れました。
その日は大学の講義に出ても、今朝のことが気になって集中できませんでした。
だって、気味の悪い物を見たその場所に帰るんですから。
夜、大学からバイトへ行き疲れきってアパートに帰って来て、柵門の前で足を止めました。
バイトへ行く頃には忘れていましたが、今朝の不気味な出来事が脳裏でよみがえり、不安を覚えたんです。
景色が暗くなり電柱の灯りだけになると、不安はよりいっそう増して足が氷って、地面に張り付けられたように動かないんです。
深呼吸して今朝の不可解な現象は気のせいだと言い聞かせ、柵門の取っ手へ腕を伸ばしました。
冷たっ!?
鉄の取っ手は真冬の寒さで氷を掴んだように冷えて、むしろそっちに驚いて手を離したくらいです。
朝は寝ぼけていたのだろう、やっぱり気のせいだったと安心して3階の部屋へ帰りました。
次の日、大学へ行く電車を逃してしまうと、慌ただしく部屋を出て3階から1階へ降りて柵門まで駆け寄り、取っ手を掴もうとしたのですが、門へ触れる間に取っ手の裏側の突っ張り棒の役割を持つロックが、まるで意思を持ったように一回転した後、扉がまた開いたり閉じたりを繰り返したんです。
朝から訳わからないですよ。
電車を逃したくなかったので、その時は何も考えずに柵の扉に体当たりして道路へ飛び出しました。
駅に着いて満員電車に揺られながら、ふとよぎるのはアパートの扉。
扉が生きてる?
ありえない。
いつも通り大学の講義を受けてバイトへ行き帰宅すると、何事もなかったように柵門は閉じていたんです。
そんなこと、ありますか?
管理会社や大家さんに相談したんですけどナゼか、柵門を直す時だけ業者が別の現場で時間を取れなかったり、天候や事故で作業が延期になるそうです。
外壁や水道管の修理は来れるのに柵門だけ、工事に取りかかれないらしくて。
余計、不気味になってきて、たった数週間住んで引っ越しを考え始めたくらいです。
それから数日。
クリスマスも近くなり大学の友達とパーティーをやる話が持ち上がったんです。
一人暮らしで心細さもあったので、僕のアパートでやることになって、前夜に来てくれました。
男1人女2人、僕を入れて4人。
12月24日。
友達からスマホにメッセージが送られたので足早に3階から1階に降りて、鉄柵の門を開けてアパートの敷地に招き入れました。
3人の内、1人の女子が妙な反応を見せたんです。
仮にその人をマホさんと呼びますが、僕を見たとたん、なんというか拒絶するような嫌悪の顔色を見せたんです。
「どうしたの?」と聞くと彼女は躊躇った後に柵門をくぐりました。
二十歳も過ぎて酒を飲めるようになり浮かれてみんな、ぐでんぐでん。
酔いと話が回って友達は饒舌。
マホさんと一緒に来た女子が変な話題を振ったんです。
「ねぇ、マホさぁ。アレ、やっぱりいる?」