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よろしくお願いいたします
秋のよく晴れた日。
デートに出かけた。
ワインレッドの秋らしいネイルがキレイだと思った。
朝から気合いを入れてお互いにおにぎりを握りあった。そして僕がお弁当の卵焼きを作る時に火傷をしたもんだから、またお揃いだと笑われた。
すこし電車を乗り継いで着いたのは池が綺麗な公園だ。
紅葉が絨毯のように広がって、手を繋ぎながら踏んで歩くとあまりの楽しさに二人とも笑いが止まらなくなった。
「子供のころ、こんな風に公園に出て遊びたかった」
ポツリと美也子が呟いた。
「母が家から出してくれなかったから。公園で遊ぶ子達が羨ましかったの」
風が吹いた。
少し強めの風は彼女の長い髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
彼女専用のシャンプーの香りが胸を締めつける。
「…これから、ずっと一緒に、たくさん遊ぼうよ」
彼女の髪を撫でて耳にかけた。僕の好きな薄い茶色の瞳が僕を見つめた。
どんな言葉をかけても、その瞳から寂しさが抜けないことを僕は分かっていた。
多分、彼女が一番望むものを僕は知っている。それでも、知っていてもそれを与える勇気がなかった。
ただ、優しく優しく。
彼女の髪を撫でた。
僕を見つめる瞳がゆっくりと穏やかに笑った。
「優しいね…」
「…そんなこと、ないよ」
子供が遊ぶ声が聞こえる。
アスレチック遊具があって、そこそこ賑わっている。
彼女とまた手を繋いで歩いていく。
ベンチでお弁当を食べて、卵焼きが思った以上にしょっぱくて。
ごめん、なんて言いながらとにかく笑った。
僕の笑顔につられて彼女が笑うから。
彼女はしょっぱくても美味しいよと食べた。
それが嬉しくて、また笑った。
ありがとうございました