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第一話 あまりにもべタな再会

 宇土都は地方ローカル男の娘アイドルである。

 普段は熊本市内の東山中学校に通う普通の男子高校生なのだが……。


「ふぅ~、昨日は大変だったなぁ……」


 椅子にもたれ、机に脚を乗せ、ぎこぎこと不安定に椅子を揺らす。

 椅子を揺らすたびにミニスカートが揺れて、捲れそうになる。


「足ィ!」

「いったぁ!」


 ビシッと後頭部をはたかれ、都は姿勢を正す。


「何すんだよ! 英子!」


 彼の頭を叩いたのは東山中学の紺のブレザーの制服を身にまとう幼馴染、戸塚英子だった。


「何を朝っぱらからスカートの中をクラス中に公開しようとしてんのよ! そもそも、どうしてあたしと同じ制服を都が着てるわけ⁉」


 都が身にまとっているのは英子と全く同じ制服。

 そう、女子の制服だった。

 だと言うのに足を机にのっけてふんぞり返る姿はふとももの上で布がひらひら揺らめき、かなり目の毒だ。


「別にいいよ。減るもんじゃないし」

「減る! 周りの男子の反応みてみなっせ!」

「お、熊本弁」

「うるさい!」


 言われて周りに目を向けると、都と目が合うなり、視線をそむける。

 クラスの男子は皆照れていた。都は男だと言うのに。


「……うっふ~ん」


 試しにスカートをぎりぎりまで捲りあげてみると男子たちは皆ハッとした顔をした後一様に背を向けた。


「やめんね!」

「いったぁ!」


 バシッと再び英子から頭をはたかれる。


「そう何度も何度も人の頭を叩くんじゃない!」

「なら、もっと女の子らしい行動を心掛けなさい! あんたは……あんたは……悔しいけれど顔だけはこのクラスの誰よりもかわいいんだから……」


 そう言ってがっくりと肩を落とす。

 都は胸を張り、


「ま、当然ですな。アイドルやってますから」

「全く……でも、別に都の仕事は否定せんけど、学校くらいは男の子の格好すれば? 教師に怒られないの?」

「怒られない。だって俺は職業が職業だしぃ……ローカルアイドルとしては大人気だしぃ……俺がいるおかげでこの学校注目集めているしぃ……今時の風潮でそういう男らしい恰好女らしい恰好を強制できないらしいしぃ……」

「うっわ。学校の弱みに付け込んでる。ずるっこ」

「それに別に俺は男の格好が嫌いなわけじゃないんだ」

「じゃあ、何でしないの?」

「今日は気分じゃない。それだけ」


 英子が漫画のようにずっこけた。


「……そんなんで本物に迫られても知らんよ」

「本物って?」

「そりゃ、その、あっちの趣味の人……」


 英子は言いよどんで顔を真っ赤にして俯く。


「ああ、ホモか」

「あ、言った! 濁したのに言った! そう。その……男が好きな男の人に言い寄られるよ? そうなったらどうするの?」

「大丈夫。もう昨日言い寄られた」

「は⁉」


 英子が目を丸くする。


「言い寄られたって。昨日って……ライブだったんじゃなかと?」

「その帰り。一人で夜道を帰ってたらファンを名乗る男に言い寄られて、断ったらわいせつな行為をされそうになった」

「ハァァァァ⁉」


 教室中に響くほどの声を出し、注目を集めてしまう。

 英子は顔を赤くして都に顔を近づけて声を潜める。


「それって……つまり、あんたの尻の穴は……」

「馬鹿野郎。処女だよ」

「……あたしも聞き方が悪かったけれども、そう堂々と言うのもどうかと思う。でも、あんた非力で鈍足じゃん。どうやって助かったの?」

「お前も俺の男としての身体能力の低さを堂々と言うな。傷つくぞ? 助けが来た」

「どんな?」


 英子の質問を中断するようにバァンと教室の前の扉が開いた。


「ホームルームを開始する! みな席に着け!」


 ぴしっとスーツ姿で凛としたたたずまいの女性が黒板の前に立つ。

 都たち二年四組の担任、上代優香(29・独身)だ。最近十年間付き合っていた彼氏に振られて男性不振に陥っている。


「何~、優香ちゃん新しい彼氏できたの~?」

「それよりも前の彼氏とよりもどせば~? あと数か月で三十じゃん~」

「…………」


 ビシッ! ビシッ! と無言でチョークがヤジを入れた生徒へ飛ぶ。

 当てられた生徒が大きくのけぞるほどの威力でがっくりと力なくうなだれていることから、気絶するほどに力を込めているのだろう。

 それでも二年四組の生徒たちは静まり返ることなく、まだざわざわと騒いでいる。


「ええい! 黙れ、静まれ、席に着け! 転校生が紹介できんだろうが!」

「転校生⁉」


 そのワードを聞いた途端、教室中、散り散りに散らばっていた生徒たちが一斉に自分の席に着いて黙る。

 露骨な態度に優香は呆れるが、


「好奇心の塊か……わかりやすくていいけど。じゃあ、さっそく転校生を紹介するよ。入って」


 優香が招くと、教室の中に金髪で黒いセーラー服を着た少女が入ってくる。


「あ」

「あって何?」


 その少女を見た瞬間、都が呟いたのを、前の席の英子は聞き逃さなかった。


「助けてくれた子」

「は?」


 その転校生はまさに、昨日夜道で痴漢から都を守ってくれたヤンキー少女その人だった。


「あの子が助けてくれたんだよ。ファンの男から」

「ハァァァァ⁉」

「戸塚ぁ、うるさいぞ」


 英子があまりにも大声を出すもんだから、優香教諭に叱られる。

 そうなると転校生の眼も都の方へ向けられ、


「……! あ~~~~~~~~! お前はぁ!」


 転校生が都をビシッと指さす。


「わ~、なんてべたな展開」


 ははっとどこか諦めたような笑みを浮かべる都。


 黒板には転校生が書いたのだろう……大きく汚い字で『佐野葉月』と書かれていた。


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