プロローグ・3 夜道
熊本城がライトアップされる、綺麗な光景が見える通り、電車通りを歩く。
現在は夜の十時。
熊本市民が都会に出向くときはお手頃な価格で乗れる市電を使うのだが、お手頃ゆえに使用客が多い。
今日も電停には長い行列があった。
「まぁ、どちらにしろタクシーを……」
街の道路には獲物を待ち構えるハンター……満員の市電に嫌気がさして高い金を払ってでも快適な空間を手に入れようとする妥協者を狙うハンターのようなタクシーが道路わきにひしめくように止まっている。
そのうちのどれかに適当に乗り込もうとした時だった。
ふと、自分の手持ちが気になり財布を開けてみた。
ちゃりん……。
「150円しかねぇ……」
これではタクシーで帰れない。
都の自宅は熊本城下から車で四十分はかかる市内のはずれの方にあった。
タクシーでは三千円はかかる。
「仕方ない……」
市電ならどこでも150円で済ませられる。
終点まで行き、まぁそこからそこそこ十五分ほど歩かなければいけないが、ここからフルで歩いたら何時間かかるかわからない。
都はため息とともに電停に向かっていった。
○ ○ ○
そして、飲み会帰りの学生たちにぎゅうぎゅうに揉まれる車内を耐え抜き、都は市電の終点までたどり着き、降りた。
もみくちゃになったスカートを正し、住宅街を歩く。
市電終点前の商店街を抜けると住宅街にたどり着き、そこを少し行くと田んぼ道が広がる。
果てしない遠くの山々まで見渡せる光景を見ると、九州の中心地だと言っても熊本とは田舎なのだと実感してしまう。
明日も学校だ……辛い……。
そんな憂鬱なことを考えながら、ひたすら家路を辿る。
すると……、
ゾクッ……!
背中に、悪寒が走った。
背後を振り返る。
街灯の少ない田んぼ道。十メートル間隔に申し訳程度にある街灯。それだけが周囲にある明かりで住宅ははるか彼方。
つまり、視界が悪い上に、助けを呼んでも滅多に人が来れない。
いる。
先ほど通り過ぎたちょうど十メートル離れた街灯の下。
小太りで眼鏡の男が立ち、じっと、夜中でもはっきりと感じ取れるほど熱心に、こちらを見つめていた。