プロローグ・2 宇土都という男、おとこ……?
「うっじぇ~~……ちかれたぁ……」
ライブ終わりの控室。
スタッフたちがあわただしく動き回る中、ローカル男の娘アイドルMiyakoこと本名、宇都都はパイプ椅子にどっかりと腰を掛けて背もたれに体を預けている。
「こら都、足!」
「へいへい……」
大きく開いていた足を叱られて仕方なく閉じる。
注意をしたインテリ眼鏡にスーツを着た女性は、そんな様子に嘆息する。
「全く、アイドルなんだからそういうの気を遣わんね。ここにはスタッフさんしかおらんとはいえ」
「アイドルって言っても男だし。みんな知ってるし本当は俺が男だってこと」
「一人称も俺じゃなくてボク! そういうのも気をつけんとファンは一瞬で離れていくけんね⁉ わかっとっと⁉」
「熊本弁激しいよ母さん……何をいってるかわかんねぇよ」
指摘された都の母は若干顔を赤らめて咳払いをする。
「とにかく! 私はあなたの事務所の社長兼あんたのマネージャー。ちゃんと職場では社長と呼ぶように。そして、学校やプライベートはいいけれども、その恰好をしているときはちゃんと女の子らしく振舞うようにいいわね!」
「はいはい」
「返事は一回!」
都は立ち上がり、ロッカーの扉を開けて着替え始める。
アイドル衣装を脱いで裸身が現れるが、まだ十四才で筋肉がついていない体は女の子にしか見えない。
その様子を見ながら都の母は首を振る。
「全く黙っていれば、完璧に女の子なのに。どうして言葉遣いも完璧にしようとしないのよ」
「別に俺は女になりたいわけじゃないし」
「僕!」
「僕は!」
母親にかみつく都。
私服を取り出し、勢いのあまりロッカーの扉をバンッ! と閉じてしまう。まだ中に荷物があるのに。
「我が子ながら何を考えているのかわからない……。だって自分から女の子の格好を始めたんだからてっきりそのことで悩んでいるものだと」
都がロッカーから取り出した服は男物のズボンではない、青いワンピースだった。
下にシャツを着ながら、ワンピースを着用していく。
そして、服に挟まった長い髪をさっと手で流す。
その姿はどこからどう見ても女の子そのものだった。私服なのに。
「女の子になりたいわけじゃないし、男の子として生まれたことを後悔してもいない。だけど、好きな格好。可愛いと思う格好はしたいの。わかる?」
「わからない……」
「まぁ、こういう風に産んでくれて感謝してるよ。男なのにこんなかわいい恰好ができるキャワイイ容姿で産んでくれたことには♡」
言いながら鏡の前でポーズを決める都。
「ハァ、そういうあんただからアイドルにプロデュースしたけど、やっぱり何考えているかわからんわ……で、今日はもう帰るんでしょ?」
「うん、送ってよ」
「まだ後片付けがあるから無理。タクシー拾って帰らんね」
「え~……! 何があるかわかんねぇじゃぁ~ん。襲われるかもよ?」
「じゃあ、そんな格好せんでズボンでもはきなっせ」
「パワハラ~! 人の自由を侵害しようとしている~!」
「うるさい。無理なものは無理。女の人でも明るい場所を選んで歩いたり、電車じゃなくてタクシー使って犯罪に巻き込まれないようにしてるんだから、ちゃんと自分の身は自分で守りなっせ」
「冷てぇ~……」
唇を尖らせながら、渋々と言った様子で、都は控室を出ていった。