13話 兎の仮面
いつもありがとうございます!
ユラ視点です。
「ウィルさん、私は何をすればよろしいですか?」
「いいや君は何もしなくて良いんだよユラ。それに私の事は父さんと呼びなさい。もう家族なのだから」
バジル達が去った後の部屋ではそんな血の繋がらない親子の会話が紡がれていた。
ウィルはユラが奴隷であった頃を慮るように彼女を諭すが、彼女からすれば彼と過ごした時間は短く突然距離を詰められても困惑するばかりである。
「これからどうするのか、お前自身がしっかり決めろ」
そう言ってバジルさんは居なくなってしまった。
もっと礼をしたいと思っていたのだが、躊躇いもなく立ち去ってしまったバジルの事をを思い少しだけ気落ちしてしまう。
だが彼が残した言葉もまた事実だ。自分の身の振方は自分で決めるべきなのだ。
当たり前のことだ。私はもう子供じゃない。ウィルの元で再び家族の縁を構築するにしても、再婚する前の母のように放浪の旅に出るにしても全ては自分次第だ。
「私は…まだ迷っています。これからどうするのか、ウィルさんと家族に戻るのかも…」
「!?何を言っているんだ!私はアシュリーの夫だぞ!?ならば君は私の娘だろう!」
突然慌てたように声を荒げるウィルにユラは驚き目を見開いてしまう。
そこへ部屋の外で控えていた初老の男、執事秘書がウィルに音もなく近寄り耳打ちをする。
…なんだか嫌な感じだ。
その様子にユラは少し違和感を覚える。
一通り話し終えたウィルは先程とは打って変わりにこやかな表情を顔に貼り付けてユラへと笑いかけた。
「いやすまないね。私はどうも焦っていたみたいだ。愛する実の娘とアシュリーに先立たれた私にはユラ、君しかいないんだよ。どうか…私の気持ちもわかってほしい」
・・・。
「ウィルさん?」
「なんだい?」
どうして…。
「どうして母が死んだ事を知っているんですか?」
「ん…?」
最初に此処へ来た際私はヤコの死しか報告していない。
ウィルはその時「アシュリーは残念だった」と言った。これはまあ共に帰ってこられなかった事を嘆いていると考えれば違和感はあれどそこまで気にするほどの物では無かった。
しかし今ウィルは「娘と、アシュリーに先立たれた」と口にしたのだ。
「…不思議なことでは無いだろう?今までずっと君達を探してきたんだ。そのくらいの情報は掴めるさ」
そういうものだろうか。
芽生えた疑念の種子が少しづつ成長して行くのを感じるが、ヤコの父に対しそんな感情を抱いてしまう自分を恥じてしまう。
気のせいだ、忘れてしまおう。
そう自分に言い聞かせながらユラはウィルに1つの提案をした。
「そうですか、なら私も今までお世話になったお礼をしなければいけませんね。…父さんのお仕事を手伝わせて頂く事は出来ないでしょうか?妹の、ヤコの意思も継ぎたいので」
これ自体は妹の死や、自分達を買い戻すための資金を貯めていた事を聞かされた時点で思いついていた物だ。
奴隷の、ましてや銀狼族なんて代物を買い取るのなら、それこそ屋敷を買う程度の蓄えが必要なのだ。
そんな困難だとわかりきっているのにも関わらずヤコはキャラバンに参加をして黙々と愚直に目標へと突き進んだ。
そんな優しい妹の末路が魔物に引き裂かれて終わりなんて、それで良いはずがない。認められるはずがなかった。
彼女のした事は誤りでは無かったのだと、無意味では無かったのだと、あの子の仕事を引き継ぐ事でそれを皆に知って欲しかったのだ。
自分には掃除と、あとは戦いくらいしか能が無い。それを分かりきっているのにこんな事をウィルに頼んでいるのは偏に安らぎの時間をくれた妹への思いからに他ならない。
どれだけ大変でも、無謀だとしてもユラはそれを心から願っていた。
今私が1番したい事はこれだと、ユラはバジルに胸を張って話せる事を見つけたのだ。
「そんな必要はありません。君は余計な事は何も考えなくて良いんですよ」
しかしその父親からの返答ははっきりとした拒絶。
確かに、不躾なお願いであったとは理解しているが、ここまでの言い方をしてくる男の瞳をユラは思わず覗き込んでしまった。
そこに浮かんでいたのは、「怒り」か、「恐怖」、「焦燥」と言ったいくつかの負の感情により揺れている。
ウィルは自分が見透かされているように感じユラから視線を外した。
ウィルの印象が昔の記憶と随分違っていると思った時から度々胸を指す違和感は確かな疑いとしてユラの中で形を成していく。
成金趣味なこの店も、昔とは似ても似つかない肥えたウィルも、恩人であるバジルに対しての反応も、全てがユラにとって疑念を深めていく要因となった。
嫌だ。妹の実の父を疑うなんて嫌だ。
そう考えてはいたとしても心のコントロールは思いのほか難しい。
ヤコの意思を継いで商売をするのなら、別に此処でなくとも出来る。
ウィルを信じられない位ならいっその事首都から飛び出してしまおうかとユラが考えていると、首筋にチクリと痒みが走った。
「ん…?」
虫にでも刺されたのかと思い首に手をやりながら顔を上げると、驚いたような顔をしているウィルが瞳に映る。
その表情の意味は分からないが、深く観察する前に普段の商人然といた営業スマイルに隠されてしまった。
尋ねようと思い、ユラが口を開こうとすると、グニャリと世界が歪んだ。
「あ…れ…?」
グラグラと揺れ視界が掻き回されているような錯覚を覚えているユラは立っていることが出来ず、その場に崩れ落ちた。
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