12話 認識の違い
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「は…え?何、これぇ…??」
突然の事に召喚勇者の相馬創流は現状を理解していないようだ。
ドプリと相馬のふとともから赤い血潮が湯水のように流れ出す。
すると足から力が抜けてしまったようで、その場に崩れ落ちた時にようやく相馬は自分の足が撃たれたのだと気がついた。
「ああ、ああああああああああああ」
弾丸が打ち込まれた部分を手で押さえるが一向に血が収まる気配がない。そしてバジルは知る由もないが、相馬は元々血生臭い争い事とは縁遠い土地からやってきた人間だ。
自分の足が鉛の弾で引き裂かれる程の痛みへの耐性などあるはずも無く、意味のない叫び声を上げながら傷口から血が溢れないようにする事しか考えられなかった。
「あーあ…あんまり店汚さないでよ」
ため息を吐きながら嫌そうに血を眺めるワカサの声を聞き、相馬は愕然としたような目で彼女を見る。
「なに、言ってんだ。早く…警察、いや救急車を…というか何でこんな事を!?」
衝撃から多少立ち直った相馬はようやくまともな言葉を口にするがそれも、バジル達に対し殆ど意味が通じないものだった。この世界には兵や保安官など似た組織はいるが「警察」と呼ばれている物は存在しない。救急『車』なんてそれこそあるはずがなかった。
「なんで?不思議な事言うな」
撃鉄の下がったリボルバーを眼前に突きつけられ相馬は「ひっ」と息を呑む。
「最初に銃を抜いたのはお前だろ?こいつは虚仮威しのオモチャじゃねぇんだ。抜いたなら撃て」
先程までの柔らかい雰囲気とは一転し冷たく見下ろすバジルが相馬はまるで別の生き物のように見えていた。
「はっ、はあ…だからって、いきなり撃つなんて卑怯だ」
「決闘じゃああるまいし、一々お前の準備を待つ程お人好しでもねぇよ。…なあお前なにか勘違いをしてねぇか?」
「…え?」
血を失いすぎているのか、はたまたバジルに恐れを感じ血の気が引いているのか顔を青くしている相馬を諭すように優しく語りかける。
「ここはお前の世界とは違う。どんな甘い場所から来たかしらねぇけどな、銃を抜いといて笑って見逃してもらえるなんて思うなよ」
バジルの言葉はどこまでも冷たく、そして苛烈であった。
命の危険など、元の世界にいた頃も含めて感じた事が無かった相馬は失禁してしまう。
「うわ、もう勘弁してよ」
広がった水たまりの掃除をする事になるであろうワカサは本気で顔を顰めてしまった。
「お、俺にこんな事をしてただで済むと思うなよ!?俺はこの国のトップに呼ばれた勇者なんだからな」
「あー…確かにそれはマズイわね。こんな奴のせいで大統領の不興を買うとかごめんよ?」
今気づいたとばかりにバジルへ抗議をするワカサを見て、相馬の目に始めて希望が宿る。自分を撃った時点で報復をする事は確定事項であり、難を逃れた後この者達をどうするかを考えメラメラと復讐の火が勢いを増していく。
…が。その後バジルから発せられた言葉により、そのささやかな火種はアッサリと吹き消されてしまった。
「バレなきゃ問題ないだろ。それにワカサ、お前は死体を隠すのにちょうど良いアイテムを扱ってんだろ?」
「あ、それもそうね。高いわよ?」
「そっちも得するんだからまけてくれよ」
「えー…まあ仕方ないわね。あたしの魔道具を買った初めてのお客さんって事で少しサービスしてあげるわ」
「まだ誰も買ったことないのかよ…」
確かにあんなゴ…オモチャでは魔道具ということで値が張る事を考えたら売れるはずもないだろう。
そう考えてしまったのはバジルの胸の中だけに仕舞っておく。
何やら店の裏方に行ってしまったワカサをポカンと見つめていた相馬は、話の内容から自分の命運が尽きかけている事に気がつき血相を変えて助命を懇願しだした。
「嫌だ!!、し、死にたくない!!ほんの冗談だったんだ。頼む命だけは許してくれ!俺に出来ることなら何でもするから!」
先程までの軟派な様子からは想像できないくらいに相馬は惨めだった。
まだ彼の魔力は残っているため「万物創造」で幾らでも道はありそうな物だが所詮は平和な世界からやってきた人間である彼が足を撃ち抜かれ激痛に苛まれている中冷静な判断を下す事など出来るわけがなかいのだ。
「何の騒ぎだ?」
キンベイとの話を終えたらしいアルミンが通路の暗がりから姿を現わす。
「何でもねぇよ、でもまぁ朗報かな…今日の夜中にホワイトフィールドに潜入する目処が立つかもしれない」
「へえ、良かったじゃないか」
「ああ、本当に…」
噛みしめるように呟きながらバジルはとある物体の存在を思いだし雑嚢を漁った。
先ほどは財布だったが今度取り出すのはある意味それよりもずっと価値のある代物だ。
指先につるりとした丸い感触が伝わりそれを取り出した後息を吹きかけ埃を払う。
「それは…回収してたのか」
少しだけ目を見開きながら言葉を発するアルミンを見て満足そうにしながらバジルは手の中でそれを弄ぶ。
「これ、どうにか使えるように出来ないか?魔力を使うって聞いてるし俺がそのまま目に突っ込んでってのは無理なんだろ?」
「そうだな…まあやれるだけやってみよう」
面白そうだ。と言いながらアルミンは翡翠色の髪を揺らした。
そしてバジルは再び放心状態の相馬に視線を向けるがそのあまりに憔悴しきった状態に思わず笑ってしまう。
自分も随分と血に対して冷めきってしまったものだ。
元々血気盛んな性格であったとはいえここまで躊躇無く足を撃ち抜くような男ではなかった。
しかしこれでも手加減をしているのだ。
相馬が魔障壁を使えないと分かった時点で魔弾の使用をやめた。
これを手加減と言わずとしてなんとするだろう。
だが人を撃つのに躊躇いが無くなっていたのもまた事実。
切っ掛けは多分とある奴隷商人を殺したことだろうか。
いや…それをやったのは別の人間だ。そう思おう。そう願おう。
自分がまだ血に酔った狩人にはなっていないのだと、バジルは己自信に語りかけ続けた。
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