11話 相馬の妄言
ありがとうございました!
「ねえ、冷やかしならさっさと帰ってよ」
どんどん不機嫌になっていくワカサが気にしているのは危険な事に足を突っ込もうとしているキンベイの事かと思いきや、その実バジルが焼くと言っていたアップルパイの事しか頭にない。
甘いものに目が無い彼女は、目の前の客でもなさそうな面倒な男、相馬の事など既に興味の範疇に無かった。
反対にバジルは相馬を上手く利用できないものかと考えを巡らせている。
元々他人を利用するのはあまり好かないタチではあるバジルであったが、トワイアに繋がる手掛かりとあってはそう甘い事を言ってられない。
あまり悠長にしていられない現状、使えるものは全て使うつもりであった。
ホワイトフィールドの門番の話では、少なくともあの段階ではトワイアはあの中に居たはずだがいつまでもグズグズしていたらそれも分からなくなる。
出て行く人間を全て見張るというのも周囲の兵や出入り口があの門だけであると断定出来ず現実的では無い。…門番に偽物扱いされるのも腹に据えかねるしな。
となればすぐにでもホワイトフィールドへ侵入する必要がある。
出来れば穏便に済ませたいところだが、兵や魔道具が大量に配備されていると予想されている以上戦闘は避けられないと考えるのが妥当だろう。
だからこそキンベイのコンテンダーの改修を頼み少しでも戦力を増強するため時間を費やしているのだが、それを待っている間遊んでいるわけにもいかない。
少しでも、トワイアに会うための布石を打つ為バジルは行動をする。
「もっとホワイトフィールドの話を聞かせてくれよ。興味あるんだ。この国のトップがどんなところに住んでるかな」
「えぇ…そんな事よりさもっとバジルちゃんの話を聞かせてほしいな」
「俺の?」
「そうそう、なんてったって俺のヒロインなんだからさ!」
艶やかな黒髪に赤く水晶のように透き通る瞳、中性的な整った顔立ちからバジルの事を女性と勘違いするの無理はないが、すっとこのままというのも話し難い。
女と勘違いされている方がこの男の口も軽くなりそうではあるが、時折相馬が尻や薄い胸元に視線が向くのにも我慢の限度がある。
「悪いけど俺男だからヒロインにはなれねぇよ」
バジルが告げた真実に、相馬の表情が固まる。
「マジ?」
「大マジ。なんならブツを掴んでみるか?ん?」
堂々たる姿のバジルに、確かめずともそれが真実であると悟る相馬だったが再びバジルの姿を見て現実を信じきれないと言った風に頭を抱えた。
「〜〜〜っ…お、男の娘かぁ〜、最近じゃ珍しくもないけど…。あっワカサちゃんをメインヒロインにしてバジル君ちゃんをサブにすれば、いやでも俺ノーマルだしなぁ」
漏れ出る言葉の意味は分からない…が未だヒロインだの何だの妄想は続いているらしい。
コミュニケーションを円滑に取るのなら、自分が欲しい答えを求めるだけでは無く相手の声にも耳を傾けるべきなのだがここまで話が通じないとなるとそれも難しいかもしれない。
バジルが相馬と話すのを困難に思うのも無理は無かった。
何故ならば彼、相馬創流はこの異世界での出来事をどこか他人事で…それこそゲームに近い物として捉えている節がある。
本人たちが自覚をしているかはまた別として、異世界に連れ去られ、超常の力を与えられ、それこそ夢幻のような現実に突如追いやられた学生達の内の小説や一部カルチャーに造詣が深い者達は己を主人公だと思い込み行動していた。
「まあ、先の事は後で考えれば良いかな。とにかく俺の言う事は大統領の言葉と同じだからね。ちゃんと従者としてついて来てくれよな」
だから自分の言う事が絶対だと信じて疑わない。
強力な異能を得た者は特にその傾向が強く、逆ハーレムを築く生徒や大統領の命令に従わず好きに行動する者までいた。
かく言う相馬自身も己の異能の活用性に気がついた事で自分こそがこの世界の中心になるという欲を抑えきれずにいる。
「いや遠慮しておくわ。俺やる事あるし…お前に付き合ってやる暇はねぇよ」
「あたしもこの店での仕事があるし何よりアンタが嫌」
とりつくしまもない様子の2人に相馬は愕然とする。
残念だがこれは誰かが手掛けた物語ではない。相馬の思うように世界は進みはしないのだ。
だがそれであっさり引き退るほど彼も素直ではない。
「いやだから、何が不満なの?俺と一緒に旅が出来るし必要ならお金だってちゃんと渡せるよ?」
なおも相馬が食い下がるのは、クラスメイトの何人かが権力と金を積み好みの女を自由に抱いている所を見てしまっていたからだ。
権力者たちが勇者達の力を取り込むために性欲を利用するのはよくある事だが相馬にはそこまで欲望を解放する度胸も、クラスの女子達にどう思われても良いと開き直る事も出来なかった。
結局中途半端で夢見がちな彼が選んだのは、彼の思い描くイベントチャートを消化し、ヒロインの好感度を上げる事で情事に至る事。
彼が無能と呼ばれグループから外されたのは、創作物の主人公に憧れていながら、そんな風に短絡的で夢見る正義とは正反対な行動や言動に出てしまう事が多かった事が大きい。
実は元の世界でもそのような人物は少なくなかった。
正義の仮面ヒーローを愛しながら同じファンにソーシャルネットワークで牙を剥くものや、恋や愛を歌うアイドルに執着しつつ彼彼女らの恋愛を認めないものなど、自分の信じる象徴に背くチグハグな行動をする者は思いの外多い。
「お前にそんな事を頼んじゃいない。それよりも聞きたい事がまだあるんだけど」
「俺の従者にならないなら質問には答えない」
「じゃあ用事はないな。出口は後ろだぜ」
ホワイトフィールドの事をまだ聞き出したいところではあるが、従者の件を受けるつもりは無いし相手に話すつもりがないのならこれ以上戯言に付き合う気も起きなかった。
相馬は異能「万物創造」を発動し銃。正確に言えば現代のアサルトライフルに類するm4という名で有名な代物を出現させる。
「何の真似だ?」
見慣れなくとも、構え方や構造からそれが自分の持つ銃と同じ様な物だと見抜いたバジルは突然の事に驚いているワカサの前に出て相馬を見据えた。
「見たとこ2人とも魔法を使う触媒を持ってないみたいだし、バジル君ちゃんに至っては古臭いリボルバーでしょ?俺の作ったライフルには敵わないよ」
もう殆ど察しはついていたが相馬は俺達を脅しているらしい。
相馬のその顔には大粒の汗が滲み、声が僅かに荒くなっている事からそんな行動には全く慣れていないように思える。
「人を脅すのは初めてか?それに触媒を持っていないのはお前もおんなじだろ」
「俺達勇者はあんな棒切れが無くっても異能が使えるんだよ。この世界に伝わる魔法なんかはまた別で覚えなきゃいけないみたいだけど俺には『万物創造』さえあれば他を覚える必要なんかない」
つまり、この相馬という少年は数々の魔法どころか、魔障壁さえ使えないのだろう。
なら、安心した。
一回だけ乾いた破裂音が響く。
「…え?」
相馬はポカンと呆けたような顔を晒した。
彼の足からは赤い血がとめどなく溢れている。
その光景をバジルは硝煙の上がるリボルバーの撃鉄を再び落としながら冷たい目で見つめていた。
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