7話 キンベイの工房
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黙ってキンベイの後を続いていると、背後から慌ただしい足音がパタパタと聞こえてくる。
「ちょっと、待ちなさいよ」
背が低い分歩幅も小さいのか短い距離でも息を乱しているワカサが目を釣り上げて駆け寄ってきた。
キンベイはそれに何も言わず、通路の荷物やら得体の知れない機材を退かしながら目的地を目指す。
その足取りに淀みはなく、長らく使っていなかったと思われる埃の溜まった区画を懐かしさを覚えているような眼差しで見渡しながら進んでいった。
俺とアルミンは普通に付いていけてるが、キンベイの歩くペースはかなり早い。
同じ歩幅のワカサはかなり辛そうだ。
「水でも飲むか?」
アルミンのリュックに取り付けたマジックバックから家畜の皮で出来た水皮を取り出し息を切らすワカサへ差し出す。
本来なら中身は保存性を高めるため果実酒などを薄めた物や麦酒が一般的なのだが、バジルが酒を一滴も飲めないほどの下戸なので中身はミルクだ。
魔法が使えれば真水を手に入れる事も出来るのだがそれは無い物ねだりだろう。
「能無なんかに施しを受ける気は無いわ!…けど勿体無いから水は貰うわね」
ワカサが悪態を吐きながら水皮を奪い取ろうとするが、バジルはそれをヒョイと躱す。
「何よ!!性格悪いわね!」
バジルの暴挙に憤慨するワカサだったがバジルは目を細めながら諭すように口を開いた。
「礼も言えない奴に何もやらねぇよ」
「・・・・」
「・・・・」
「あ、ありがとう。それ貰えるかしら?」
「ほらよ」
生意気な言動が目立つが元々素直な気質なのだろう。
顔を若干赤くしながらも律儀に従うワカサは小さな子供のような愛おしさがある。
「お前…トワイアがいないからってユラにこのチンチクリンに、見境が無さすぎるぞ」
「こんなチンチクリンに興味ねぇよ」
「そっちの意味じゃ無くてだな、世話を焼ければ誰でもいいのかって事だ」
アルミンが白い目で俺を見てくる。
バジル本人に全く自覚はなかった。
トワイアという愛情を注ぐ相手を失い、今誰かの世話を焼きたいという欲求が溢れているのだ。
もう一度言う。溢れているのだ。母性が。男だが。
まるっきり女の見た目をしているがこれでも歴とした男だ。そんな物が溢れてちゃいけないのだが、無意識のうちの行動なのだから正直どうしようもなかった。
「ッ!!!!ブーーーーーーーーっゲッホ、ゲホ」
あたりの真っ白な飛沫が上がり、それが降り掛かる寸前でバジルは飛び退く事で回避する。
水皮に口を付けたワカサが何を思ったかその中身を吹き出したのだ。
「あーあー…勿体ねぇな、何すんだよ」
「アンタっこれミルク!?アタシ嫌いなんだけど!!!」
「文句ばっか言うな!そんなんじゃ大きくなれねぇぞ」
「女に体格の事を言うなんて最低ね!!それにお生憎様!アタシは小人族の血を引いてるからこれくらいが正常なの!!」
「うるさいぞお前ら」
いつのまにか立ち止まっていたキンベイが苦言を漏らす。
どうやら目的の場所へと着いていたらしく、何やら物々しい鎖によって封鎖された扉の前にいた。
キンベイは施錠された扉を少し見つめた後、懐から取り出した鍵束でいくつも付けられた南京錠を外して行く。
ゴトリ、ゴトリと重たい鍵が地面に落ちる音が響いた。その重量の感じる音が鳴るごとにキンベイの顔が少しづつ喜悦に歪んでいくのが目についた。
「この部屋の中にはお前の爺さんがいた頃、銃をいじる為に使っていた工房だ。ついでに魔道具なんてモンも作っていたせいで魔道具技師だなんて勘違いされているがな」
「本当に魔道具技師になればいいじゃない。その方が儲かるし、最近なんてガンスミスどころかなんも魔道具作らないせいで収入無くて困ってるのよ」
そのせいで取引先のランデブー商会も困っているのよ、とワカサは締めくくる。
自分がキンベイの恩恵でランデブー商会に出入りが許されているのを理解しているワカサは必死であった。
「んなこと出来るか、儂はガンスミス。それだけは絶対に揺るがない」
ついに最後の鍵を外したキンベイが古びた扉を開け放ちバジル達に中へ入るよう促す。
中に入るとそこには乱雑に鉄製の器具が置かれている部屋の中心に、片付けられた大きな作業台が設置されうっすらと誇りを被っていた。
キンベイはその誇りを掌で軽く払うと、バジルに向き直る。
「よし、バジルといったか、確か男だってジェイソン…お前の爺さんから聞いていたが」
「いや男で合っているよ。この格好は俺の趣味だ」
「そ、そうか…まあ、人の趣味にとやかく言うまい」
堂々と言い放ったバジルを見てなんとも言えない形で顔を歪めたキンベイは黙り作業台の掃除を始めた。
汚れてはいないが、積もっている埃を綺麗に拭き取る。
一通りの掃除を終えて、何やら用途の分からない道具を木箱や棚から掻き集めたキンベイはバジルの前にそれらを広げた。
「さあ、準備は出来た。バジル、その腰に挿したコンテンダーを渡せ」
キンベイが口にしたのは祖父の形見でお守りがわりに普段から所持していた拳銃の名であった。
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