6話 祖父の軌跡
「あっ、じじ…師匠、ちゃんと呼んで来たんだから約束守ってよね」
ワカサが背後から現れた年配の男性に声をかける。
その人物は彼女と同じく背がとても低い。年齢で腰が曲がっていてそう見えるわけではなく、背筋を伸ばした状態での身長がバジルの腰くらいまでしか無いのだ。
しかしその小さな体には年を重ね老成したことでのみ備わる迫力や重圧というのが確かに存在していた。
「さっきからお前ワシの事ジジイって呼びかけてるだろ。そんな奴に教える魔導具製作のための技術なんて何も無いわい」
「はぁ!?コイツの事話したらいきなり連れてこいなんていうからそうしたの何それ!?魔道具技師が契約を破って良いの!!?」
「ワシは魔道具技師なんて名乗った覚えはねぇ、お前さんも仮にも弟子になるつもりなら魔道具技師ではなくこう名乗れ」
歴戦の戦士にも似た威圧感を振りまきながら彼は言う。己の魂を殉じさせる程の覚悟を捧げる生業の名を。
「ガンスミスってな」
♢
ガンスミスというのは銃のメンテナンスや製作を担う人間のことだ。
剣をつくる鍛治師の銃版だと言えば分かりやすい。
バジルは幼い頃祖父からその言葉を聞いていたが…同時に随分と昔に廃れてしまった職業だとも。
「ガンスミス…?爺ちゃん自分で銃組み立てたり出来るし必要なの?」
幼心ながらそんな事を聞いた覚えがある。
祖父は無口であった為、端的に「そうだ」とだけ答えた。
それっきり黙り込んで何やら作業に没頭し始めた祖父だったが、バジルがしつこくガンスミスの話をせがんだ為渋々と言った感じで話し始める。
曰く、自分が手を加えた銃は未完成品だと言う。
どれだけ知識を集め、丁寧に作業をしたとしても所詮は素人仕事。
最後に銃へと命を吹き込むのはガンスミスの役目なのだと祖父は答えた。
祖父は生前、国に仕える職業軍人であった。そのため死線を何度も潜り抜けていると素人のメンテナンスだけでは銃のポテンシャルを保つのは中々難しく、首都にある友人の店で何時も銃を診て貰っていたらしい。
過去に銃の文化は魔法の技術の向上や台頭によって衰退して行った。
銃の文化が栄えていた頃首都にあったというの関係のある店もその波に煽られ次々と姿を消して行く。
つまりガンスミスというのは、まさに時代の波に取り残された人間達と言っても過言では無い。
という事はこの首都で未だに「ガンスミス」を名乗るこの人物は相当に頭がおかしいか、時代錯誤な老いぼれという事になってしまうのだが、ウチの祖父の銃を見て目の色を変えているところを見るにこの人物が祖父が昔言っていた銃をメンテナンスしてくれるというガンスミスの友人なのだろう。
祖父が首都に赴く度にここへ立ち寄り、銃のメンテナンスをしながら俺やバジルの話をしていたのかもしれないと思うと妙に考え深くなってくる。
急に店へとつれてこられた理由も、旧知の男の孫に会うためと考えれば不思議では無い。
俺は確か祖父からこの男の名を聞いている。
確か…「キンベイ」と言ったっけ。
♢
「えぇ〜ガンスミスなんて今時儲からないよ。ジジイが銃を弄る片手間に作る魔道具が大手の商家に見初められてたからこそ弟子入りしたのに」
「もうお前さん「ジジイ」って言うのに躊躇すらしなくなったな?幾血の繋がった孫といっても師に対する礼儀がなっていなかったら破門にするぞ」
ワカサとキンベイはどうやら血縁関係にあるようだ。確かにそれならばこの気安い雰囲気も頷ける。
それにしてもキンベイが認められたというのはランデブー商会の事だろう。ワカサの暴挙が黙認される程の貢献をガンスミスの作業の合間にしているというのは尋常なことでは無いように思える。
「そんなこと言ったってもう何年も前からガンスミスの仕事なんて来ないじゃ無い!お得意さんが居なくなってからずっと塞ぎ込んで魔道具も作らずどうやって生活していくの!!アタシが魔道具売るしかないじゃないの!!」
「お前さんにはガンスミスに必要な事を全て叩き込んだ。それで良いだろう」
「良いわけないわ!小さい頃はこれも魔道具作りに必要な事なんだなぁって無心で仕事を覚えてたけどそれが全部銃作りの修行の一環だなんてあんまりよ!そのせいで気がついた後も変な癖が付いちゃってまともな魔道具が作れないじゃ無い!!」
「それは単純にお前さんの才能が無いだけだよ」
「よし!この透明マントが役に立ちそうね!死体を隠すのにちょうど良いわ」
騒がしくなってきた埃っぽい店内で、バジルは咳を1つしつつおもむろにその場を後にしようとする。
祖父の知人に出会えたのは嬉しいが今は悠長に世間話をしている余裕は無い。
それに気がついたキンベイがギャーギャー騒ぐワカサを押し退けバジルを引き止めた。
「待て、どこにいくんだ。まだ話は終わっていないぞ」
「悪りぃな。何となくここまで来ちまったけどよ、俺は今忙しいんだ」
「トワイアの事だろ?」
この首都を訪れた理由を先ほど初めて出会った相手に言い当てられ思わず硬直してしまう。
キンベイはそんなバジルに様子を見てシワの多い顔を笑みで歪めた。
呆然とするバジルを無視して、キンベイは店の奥へと歩いて行く。
奥の部屋へと続く扉の前で立ち止まったキンベイは顔だけをバジルへと向けた。
「付いてきな、ワシはお前さんが望む物を与えてやれる」
そう言って彼は部屋をあとにした。
ただの戯言だとこの場を去るのは簡単だ。…しかし。
バジルはアルミンの様子を伺い、少しの葛藤をした後キンベイに続いて部屋を出て行った。
その場に残されているのは押し退けられた際の体勢で固まるワカサだけである。
「アタシの扱いが雑!!!!!!」
そんな彼女の叫びは誰にも聞かれることはなかった。
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