4話 一歩手前
あらすじ ヤコのパパが太ってた。
追い出されるような形でランデブー商会を後にしたバジルはチラリと煌びやかな建物を一瞥したのちそそくさと歩き出す。
ユラやヤコの父親の様子は気になるが、俺にはまだやる事がある。
この街にトワイアがいる可能性がある以上、彼女達の事情にいつまでも関わっている場合ではないのだ。
となれば次に向かう場所は決まっている。
少々邪険には扱われてしまったがウィルはトワイアに繋がる重要な情報をもたらしてくれた。
曰く、トワイアらしき人物を首相官邸で見かけたという。
異世界から召喚された勇者とか気になるワードが聞こえたが今の自分にはトワイアがそこにいるかも知れないという情報が何よりも重要だった。
それに、弟を村へしつこく勧誘に来ていたヘンリーという胡散臭い男がこの国でも重要なポジションに就いているらしい事から官邸にいるという話はかなり有力なものだと考えている。
またあの男に会うのは憂鬱だがそれでも村の危機の際トワイアを逃がしてくれた事には礼を言いたい。
とは言え今まで魔物の被害なんてまるで無かった村への襲撃で1番徳をしたのは誰かと考えれば、あの怪しい風貌から色々と疑いたくもなるが、民間の間でトワイアが勇者として認知されていない事からまだそこまで疑うのは性急だろう。
俺がただ礼を言い、ヘンリーがそれを受け取るだけで済めばいいと心の底からそう願ばかりだ。
「行くのか?」
「あぁ、そのために旅をしてきたんだ」
ここで動かなければ何のためにここまでやって来たのか分からなくなる。
幸い幾らこの街が広いと言っても首相官邸が分からないなんて事はないだろう、目的地まではすぐに辿り着ける筈だ。
さっさとトワイアに会いあの家へと一緒に帰る。それが今の俺の何よりも優先したい気持ちで間違いない。
でもまあ…。
「あとで少し様子だけ見に来るか」
背後の建物を見やりボソリと呟く。
「素直じゃないな」
「うるさい」
旅をし、共に危険を潜り抜けたユラはもう友人だ。
能無であるバジルにとって数少ない友人達はとても貴重であり、ここでウィルと共に生きるにしても墓参りをした後サヨナラするにしても、彼女との別れを憂いの無い物にしたいと思うのは当然の事だろう。
ユサユサと背の卵を揺らしながら「素直じゃない」とアルミンになじられるバジルの耳はほんのりと紅かった。
♢
「駄目駄目、トワイア様には会わせらんないよ」
首都なだけありノーウィークは広く、多少の時間はかかったものの首相官邸、通称ホワイトフィールドと呼ばれているらしい場所には問題なく辿り着いたのだがそこは広大な土地を塀が取り囲んでおり、唯一の進入経路として用意されている門にて兵士の男に素気無く追い返されかけてしまっている。
兵の男は魔望鏡を装着しており俺が能無だとは気づいているみたいであったが、先の検問を担当していた兵よりはいくらか対応が柔らかいがその顔からはうんざりしたような雰囲気を感じた。
その理由は分からないが、実際にここにトワイアがいる事を知りすごすごと引き退るほどバジルは物分かりがいい方ではない。
「俺はバジル・アントリウム。トワイアの兄だ。それでも会わせらんねぇって言うのか?」
バジルの言葉にこれ見よがしに大きなため息を吐いた男はバジルの視線を後ろの寂れた建物へと促す。
そこにも兵士が警備を担当しており、バジルの視線に気づいてその厳つい双方をこちらへと向けてくる。
「あそこはお前みたいにトワイア様の兄を語った者達が拘束されている留置所だよ」
「はあ!?」
「確かにここには首相の客らしいトワイアという名の少年がいるが、どうやら彼には生き別れになった兄がいたらしくてな、どこから情報が漏れたのか。お零れに預かれるとでも考えたらしいアホどもが1ヶ月よりも前から度々ここを訪れてるんだよ」
何故そんな事になっている!?と、バジルの頭は混乱の最中にあるが兵士の男の話は続く。
「俺も少しだけトワイア様と話したがとても良い子だったよ。だから…お前みたいなハイエナじみた奴等があの子に迷惑をかけないように取り計らうのが俺の仕事だ。今回は見逃してやるからとっとと帰るんだなお嬢さん」
「ちょっと待て、俺は本当に…トワイアに会わせてさえくれれば」
ここまで来て追い返されてたまるかと焦り反論しようとしたバジルの耳に門の向こう側から何やら騒々しい物音が響いて来た。
「話は終わりだ。今からここを馬車が通るから轢き殺されたくなきゃさっさと退いておけ」
話は終わりだとばかりにバジルをシッシと猫を払うような仕草で下がらせ、門を開いて行く。
「隙をついて中に入っても警備の人間に群がられて終わりだろうな」
「…分かってる」
バジルの背後に控えるアルミンがそんな事を言うがそれは重々承知している。
トワイアがいると言うのに顔さえ見ることさえできないと言うのが全くの想定外であった。
兄だか姉だか適当な情報を流したやつも、それに踊らされた馬鹿どもも揃って殴ってやりたい衝動に駆られる。
この場は引き下がるしか無い。
唇を噛みながらそう冷静に判断したバジルは目の前を通り過ぎるきらびやかな馬車と無慈悲に閉じられる扉を見守った。
「一旦どこかで休もう、速攻の出戻りでランデブー商会に戻るのは気が引けるしな…今後の方向性をそこで決める」
「フゥン、私は何でも良いぞ。お前について行くだけさ」
途方に暮れながらヨタヨタと歩き始めるバジル達の背中に聞き覚えのある小煩い声が掛けられた。
「あれ?アンタさっきの失礼な能無よね?うん、絶対そうよ」
後ろを振り返り視界に捉えたのは此方の反応を伺う事なく自分で納得している背の小さな女性。
魔道具技師ワカサであった。
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