3話 ランデブー商会
あらすじ ゴミ売り少女
「いやいや申し訳わりません…あの者は最近この名高いランデブー商会に入り浸るフリーの魔道具技師なのですが、ああしてコネクションの強い人間を見かけると誰彼構わず自分の作品を売り出してくるので困っているのですよ」
額の汗を拭きながら階段を上る執事秘書の言葉にバジルは疑問げに尋ねる。
「迷惑してんなら出禁にでもすればいいんじゃないか?」
「そうしたいところなのですが、彼女の魔道具作りの師である祖父の方には私どもとしても大変にお世話になっておりまして…あまり心象を悪くしたくないといいますか…」
つまるところあのワカサと名乗った背の小さい女性は師の功績があるからこそお目こぼしを貰っているという事だろう。
確かにあんな物しか作れないようではどこぞの商会と契約を結ぶのは難しいかもしれない。
乗り物にはならない扱いづらい絨毯に悪戯程度にしか使えない透明化のマント。
子供の遊び道具には丁度良いかもしれないが目玉として売り出すには弱い。
別れ際、執事秘書に対し随分とゴネていたワカサの様子を思い出しながら嘆息する。
「なぁバジル…私は外に行っていてもいいか?首都に来たのは初めてだから色々回ってみたいのだが…」
話が退屈であったようで欠伸をしながらそんな事を宣うアルミンの頭をバジルが小突く。
「痛いぞ」
「お前はリイズでの前科があるから買い物は俺達と一緒に行くぞ。まあ、それもトワイアに会ってからの話だけどな」
「残念だ」
そんな風に軽口を言い合うくらいにはリラックスしているバジルとアルミンだったが、ユラはこの街に来てからあまり調子が良くなさそうだ。
なんだかんだ言ってリイズを旅立った後は荒野を駆ける日々であったし、補給のため立ち寄った村もそれほど外の人間に興味を示す者もおらず、人数もこの首都に比べて大きな差があったため今まで目立った反応は見せなかったが、こと血の繋がらない父に再会するという大きな事件を前にして積もりに積もったストレスが吹き出す形になったのかもしれない。
「大丈夫か?ヤコの事なら、俺が伝えておいても良いぞ」
「いえ…あの娘は私の妹です。なら、その父親は私の父親。一緒に過ごした時間は少なくても、娘の私がそれを伝える義務があります」
奴隷から救われ、旅をしたバジルの事をユラは信用していた。
彼の言う妹の死は正直信じたくはないが、それでもバジルがそんなつまらない冗談を言う男では無い事を知った彼女は涙を呑んでそれを納得する事に決めたのだ。
「そうか」
笑みを浮かべながらユラの頭を撫でるバジル。彼女の方が背が高いため少し撫でづらそうにしている。
「…いつも思うのですが、なんでバジルさんは私を一々子供扱いするのですか?」
もう19なんですよ。と不満げなユラを見てバジルは吹き出す。歳は彼女の方が上だがたまに見せるそう言った表情がとても幼く見えるのだ。
理由としては幼い頃から親から離され奴隷としての教育しか受けてこなかったことで精神面が未だに成長しきれていないのだと考えられるが…もはやそんなことはいい。
彼女はもう自由なのだからこれから焦ることなくゆっくりその心を育んで行けば良いのだ。
「いやまあそんなつもりは無いんだけどよ。今まで弟の世話ばっか焼いてたからなんだか無性に誰かにお節介が焼きたくてな」
「私にはそんな風に世話焼いてくれないじゃ無いか」
「お前には毎日毎日たらふく腕によりをかけた飯を食わせてやってるだろうが」
それにアルミンは頭を撫でたり、甲斐甲斐しく可愛がるようなタイプでは無いだろう。まだ謎の多い彼女のに対し明け透けに接する事が出来るのはもう少し先になりそうだ。
「ご歓談の所申し訳ありませんが、会長の部屋に到着いたしましたので…」
「…!」
執事秘書の言葉にユラがびくりと体を揺らす。
大切な母が愛し、幸せな過去を与えてくれた妹の父に当たる男との再会だ。
バジルから父は奴隷狩りにあった母とユラを探すため必死に商いを勤め上げていたことは聞いている。
そんな男に自分は妹の死以外に何を伝えればいいのだろう。何をすれば彼に報いれるのだろう。
ユラの中でそんな葛藤が渦巻く中、ヤコの父、ランデブー商会の長である男が待つ部屋へ繋がる扉が開かれた。
♢
「…そうか、ヤコが……そうか」
商いに関する様々な情報が書かれた資料が乱雑に広がる机に男が頭を抱え突っ伏している様子をバジルは見つめていた。
男の名はウィル・ランデブー。ウィリアムではなくウィルが本名であり、この商会を切り盛りする兎獣人の男だ。
バジルは幼い頃彼に会っているのだが、昔の印象と随分と変わってしまっていたウィルを見て少しだけ困惑したような表情を浮かべている。
昔ヤコを引き連れて村を訪れていたウィルは痩せ型で、幸が薄そうな優男と言った印象だったのだが、今の彼は随分と恰幅が良くなっており肌に脂がテカテカと浮かんでいた。
歳を取ると太りやすくなるとは聞いているがそれでもこの変化は顕著のような気がしてならない。
バジルの不躾な視線に気がついたウィルが弱々しい表情で笑みを浮かべる。
「以前妻とユラを失ってから仕事を頑張ってきましたがやはり、悲しさとストレスが凄くてですね…恥ずかしながら不摂生な生活を続けていたらこの有様ですよ」
腹を叩く彼からは悲壮感が漂っていたがバジルはどうにもその様子から違和感を拭えないでいた。
「しかし母の、アシュリーの事は残念だったがユラ、君が戻ってきてくれた事はだけは私にとって唯一の希望だ」
机から立ち上がりユラの元へ駆け寄るウィルは彼女の肩をガシッと掴む。
「ヤコまでも失ってしまった私には最早君しかいないんだ。また私と家族として一緒に過ごしてほしい」
突然の申し出にユラは驚き固まってしまうが、この申し出自体は想定していなかったわけではない。血が繋がっていないとはいへ親子は親子だ。もしかすればもう一度家族に戻るのかもしれないと考えもしたが、それはまだ先の話だろうと思っていた。
性急過ぎる。これは当事者のユラでなくとも感じた事だ。
「ウィルさん、それはちょっと話が飛びすぎなんじゃ無いか?」
思わず苦言を呈してしまうバジルだったが、ウィルの反応は厳しい物であった。
「これは私達家族の問題だ。幾らバジル…君?といえど口を挟むのはやめて貰いたい」
バジルの姿を見て一瞬「君」付けをするか迷ったウィルであったがその返答は頑なで取りつく島もない。
家族の問題と言われてしまうとバジルとして遠慮せざるを得ないため口ごもってしまう。
「君が求めているのは弟のトワイア君の情報だと聞いている。あの子に似た子は首相官邸で異世界から召喚された勇者様と居るのを見かけた。私が知っているのはそれだけだ。忙しいからもう出て行ってくれ」
冷たく言い放たれてバジルは眉を顰めてしまうがこれ以上ほかの家族の問題に首を突っ込むのもおかしな話だと部屋を出て行こうとする。
既にヤコの事は伝えた最早ここには要は無いだろう。
「バジルさん…」
「これからどうするのか、お前自身がしっかり決めろ。一緒にヤコの墓参りへ行く約束は落ち着いた頃でも構わないからゆっくり考えればいい」
「考える必要なんて無いんだぞ。ユラ。君はもう私の娘なんだから」
バジルの言葉に対し被せるようにユラへと言い聞かせるウィルの視界にアルミンが背負う荷物が映る。
「それは…珍しいですね竜の卵ですか。どうですか私どもの方で引き取っても構いませんよ?それなりの金額はお渡ししますので」
「お断りだな」
ウィルの方を見もしないアルミンに即答され一瞬彼の表情に怒気が浮かぶがすぐさまそれを商人特有のポーカーフェイスで覆い隠し一言「残念です」とだけ呟いた。
これがバジルとヤコの父との再会であり、そして一生出会う事のない別れになるのだった。
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