2話 本店
あらすじ 行列イヤ
検問では特に大きな問題は起きず、首都へと入ったバジル達はその人の多さに圧倒された後、宿で決めていた今後の方針に基づいて行動を開始した。
まずはトワイアの情報を探るためにヤコの父親が営む商店へと向かうことにしたのだ。
広いノーウィークでも彼の店は少し聞き込みをすれば場所が分かるほどの知名度があり、大通りに面したその店構えは真新しい物であったせいか年月から滲み出る風格というものは少なかったが、清潔で上品な作りの建物は商売をする上での信用を買う事に一役かっている。
バジル達が店へと入ると、ドレスコードなど知らぬ彼らの粗野な風貌に先に来店していた一部の客達が揃って眉を顰めた。
ヤコの父の店は昔話に聞いていた倹約家のイメージとは異なった高級志向の物らしい。確かにこの煌びやかで上品な空間にとってバジル達は異質と言える存在なのだろう。客達がこういう反応をするのも頷ける。
今更そんな事を気にするバジルでは無かったが、ユラにとってその侮蔑と嘲りが含まれた視線は奴隷の時代を思い出すらしく少々堪えるものであったようで気丈に振る舞ってはいるが肩を小さく震わせていた。
その時、事情を聞きにきたのか、身の丈に合わない物を求める困った客を追い返しにきたのか分からないが従業員らしき初老の男が近寄ってきたため、自分達がこの店のオーナーの娘の関係者である事を告げた。
初めこそ貧民が集りにでも来たのだろうと話を取り合わなかった初老の男だが、その目線がユラに向かった事でその表情を一変させる。
バジル達にすぐに会長、つまりヤコの父親へ取り次ぐと言い残しせわしなくその場を後にしてしまった。
どうしたものかと息を吐きながらその場に立ち尽くす彼らに1人の大きなバックパックを背負った女性がトテトテとした足取りで近づいてくる。
「やあやあお客さん、なーんかこの商会にツテがあるみたいだけど話を聞いてもいいかい?良いよね!」
こちらの返答を待たず矢継ぎ早に話す小さな女性にバジルは少し警戒をするが、どこか小動物のような雰囲気を持つ彼女を拒絶しきれずにいた。
またもや店の従業員かとバジルは思ったがどうやらそうではないようで、彼女は魔道具技師をしているワカサという者だと名乗った。
「で、なんかようか?そこそこ忙しいんだけど」
「待ち惚け食らってる癖に何を言ってんの。それにアタシはそんなもん腰にぶら下げてるやつに用はないから」
そう言って彼女が指差すのはバジル腰に巻かれたガンベルトに収められたリボルバーだ。
「コイツに親でも殺されたのかよ」
「似たようなもんよ、というよりアタシが…ってなんでアタシがベラベラ話さなきゃいけないのよ。アンタみたいな能無じゃなくてアタシは後ろの2人に話があるの」
「あっそ、なら後は頼むぜ」
銃に関心があることは気になるが、この小煩い女性と会話を広げるために労力を割くのも面倒な為バジルは物珍しげに周囲を見渡すアルミンと、幾らか落ち着きを取り戻していたユラへと丸投げする。
「ささっお二人さんどうしてあの頑固で有名な執事秘書を動かすことが出来たんですか?」
執事秘書というのは先程の初老の男のことだろうか。秘書と言われているのだからそれなりのポジションについているであろう男の姿を思い出し、撫で付けられた白髪混じりの髪や雰囲気から「執事」秘書というのは言いえて妙だとバジルは隠れて笑いを零した。
「お前が答えてやれ」
「わ、私がですか?」
アルミンも面倒そうにユラへと質問をパスする。
当のユラはどこまで答えて良いのか伺うような視線をバジルへと送ってくるが彼はそれに気づかないふりをした。
「…私はこの商会主と親戚のような関係なので」
いつまでも人に判断を委ねるのは良くないという判断からの行動だったのだが、ユラの出した返答はまあ無難なところだろうと思う。
「ふむ…本当だったら一笑に付すところだけど、さっきの執事秘書の反応から本当って考えても良さそうね」
そう納得したワカサは背のバックを開き敷き布を露店の要領でその場に広げた。
周囲の客もバジル達もこれには驚かされてしまったのだが、ワカサは特に気にした様子もなく、再び開け手を突っ込んだバックパックから様々な物品を取り出す。
「そんな繋がりがあるならアタシが作った魔道具をこの店で扱ってくれるよう取り計らっておくれよ」
「そんな権限私には…「面白そうだな、どんなもんがあるんだ?」」
ユラの言葉に被せて食い気味に尋ねるバジル。
正直執事秘書が帰ってくるまで暇であるため、好奇心が満たせそうと思えば自分を邪険にする相手にだって関係なく絡んで行く。
一瞬片眉を釣り上げたワカサだったがバジルの問いがセールスの潤滑油になると考えたため先ほどみたくあしらう事はしなかった。
「さあまずは全人類の夢である空を飛ぶ絨毯さ」
「空を、飛べるのですか!?」
思いのほか良い食いつきを見せたのはユラだった。普段落ち着いているというか、奴隷の生活が長かった為感情表現が苦手な彼女はこうしたふとした瞬間に年相応の少女のような顔を見せる。
「魔力を原動力にして空を自由自在に飛び回るその姿は圧巻さ!」
バックから取り出した色味の鮮やかな絨毯を自慢げに掲げるワカサと目を輝かせてそれを見るユラ。
「おお!」
「しかし難点が1つ」
「?」
「人は乗れない。ペラペラの絨毯だからな」
そう言って彼女は自慢げに掲げていた絨毯を乱暴にバックへと投げ入れる。
ユラはそれを残念そうな面持ちで見ていたが小さく「でも、凄いです」という呟きをバジルは聞いた為、彼女に財布を持たせるのはやめておこうと心に誓った。
「今のはほんの前座です。次が本命の本命、アタシ一押しの商品よ」
そう言って彼女が取り出したのは夜空のような色をした布だった。
「今度は空飛ぶカーテンか?」
「馬鹿ね、違うに決まってるでしょ。透明マントよ。男の子なら誰でも憧れる己の姿を隠すマント」
ワカサは得意げに布を広げると、それで自分の姿を覆い隠してしまう。
そしてバジル達は瞬きをした瞬間、彼女の姿は忽然と消えていた。
これには流石にバジルも驚きあたりを見回すが本当に姿が見えなくなっているようで財布の紐を思わず緩めてしまいそうになるくらいに凄い商品であると感じた。
「そこに…いますね」
「分かんのか?」
コクリと首を縦に振ったユラが指差した虚空からマントを脱いだワカサが姿を現す。
「お見事。デモンストレーションも終わった事だし、この商品はどう?魔道具だけど原材料にカメレオン系統の魔物の体皮を使用しているから魔力の消費もない優れものよ」
「ほぁ…」
目をキラキラさせてこちらを見るユラに頭が痛くなってくるが、その前に聞かなけりゃいけない事があるだろうと言うと、彼女は小首を傾げてしまう。
「デメリットは?」
しょうがないから自分が聞くしかないと考えたバジルだったが、この問いによってワカサの事を信用するかを決めようとも思っていた。
「さっきそこの女の子が見つけていたようにマントを被って姿を見えなくしても魔力までは隠せないから、その子みたいに勘のいい子には見つかるし、魔力探知系の防犯センサーにもバッチリ反応するわ」
…商売人なら商品の駄目なところはあの手のこの手で隠そうとするものだが、この背の小さな女性はそんな虚飾は使用せず、しっかりと物のデメリットをは説明してくれた。
商売上手とは言えないが客に対して正面から向かい合っているのが伝わってきて好感が持てる。
しかしこの透明マント、今の魔法文明が発達している現代では全くと言っていいほど無用な物らしい。使えてもせいぜい子供のイタズラくらいだろう。
「ゴミじゃねぇか…」
「失礼ね!!今ならオマケでクルミ割り魔導人形もつけるわよ!」
「バジルさん!!凄いですよこれ!こんなに硬いクルミをいとも簡単に!」
「お前ならンなもん素手で簡単に握りつぶせるだろうが!!!!」
大騒ぎになっている店の一角に慌てた様子の執事秘書が戻ってきたのはそれから数分後の事であった。
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