1話 検問
あらすじ ライドウの想像
「おや?なんだか卵が動いたような気がするな」
竜の卵を収納しているリュックを見ながらアルミンがそんな事を言う。
「それ何回目だよ…退屈なのは分かったから大人しくしててくれ」
「今度のは本当だ」
「さっきのは嘘だったのかよ」
彼らが暇を持て余すのも無理はない。
トワイアを探すために朝早く宿を出発し首都へと赴いたバジル一行の前には首都へ入る者を見定める検問に繋がる行列が連なっていた。
ユラによる追求のせいであまり眠れていないにも関わらず、朝日が登る前に出発したバジル達であったが、もう太陽は空高くに登っている。
宿からの道のりを差し引いてもゆうに3時間を超える間待ちぼうけを食らっているのだ。
首都ノーウィークはこの国の中心、長である大統領が住まう場所であるからして検問が徹底しているのは仕方ないとバジルは思うのだが、それでもこの状況にウンザリしてしまうのは人として仕方がない事だろう。
「次」
ゆっくりと列が進んで行く。
検問を担当している兵士の声が耳に届く事から、そう遠くないうちに街へと入れる事を察してバジルは安心した。
馬を宥めながらどこか緊張した面持ちのユラは体力的には全く支障がなさそうで、アルミンの方も特にこの長い待ち時間を苦にしている様子もなく背負った卵を愛でている。
この場で疲労感を感じているのがどうやら自分だけだと知ったバジルはなんとも情けない気分になった。
「次」
そんな間にも人の流れは進み、遂にバジル一行の一歩手前にまで迫る。
「次」
前方の人波が消え、目の前に軍服に身を包んだ兵士が鋭い眼光でバジル達を睨みつけた。
(感じ悪いな…)
心の中で苦言を呈しながらもバジルは、朝からこれだけの人数を延々と相手にしてたら不機嫌にもなるかと思い直し、そそくさと兵士達の待つ検問へと歩み寄る。
検問所には大きめの机と、そこに武装した兵士が数名、少なくともバジルからは丸腰に見える兵士が2名ほどが集団から一歩引いた背後に控えていた。
「ノーウィークへは何をしに?」
行列を流す声を上げていた兵士がぶっきらぼうにバジルへと尋ねる。
「観光と…ついでに人探しだな」
「探し人と言うのは?」
「弟だよ。大切な家族だ」
「ふむ」
目録らしき物に何やら書き込む兵士をバジルは黙って見つめていた。
勿論荷物検査などもあるため、馬に積まれた食料や備品なども改められたのだがその際ユラはずっと緊張のせいか固まっていた。
まだ奴隷生活の余韻が抜けていないせいか、ユラはこういったコミュニケーションに関して不慣れな面がある。
アルミンは特に抵抗はしなかったが背負っている卵を触られそうになった時だけ難色を示した。
「気軽に触れるなよ。これは私の魔力で育てた竜だぞ」
竜の卵の価値は天井を知らない、もし売ればひと財産になる代物を見て検査をしていた兵士達の目の色が一瞬変わるが、彼らは大人しく仕事を終える。
政府のお膝元だけあって兵士達の練度はそれなりに高いらしい。これが辺境の検問であったならトラブルは避けられなかっただろう。
足元を見られふっかけられる程度なら別に構わないが、力づくで奪い取るなんて話になったら面倒な事この上ない。
その点この兵士達は実に業務的に、私情を挟まず仕事を果たしてくれる。
普段から面倒ごとに縁があるバジルにとってそれはかなり新鮮な事だった。
一通りの手順が終わり、いよいよ首都ノーウィークへ入ろうかとなったところで、背後に控えていた兵士の1人が検問を指揮している目の前の男へと駆け寄る。
そして何や耳打ちをしたところで、兵士の態度が変化した。
先程までに関してもお世辞にもサービス精神にあふれた対応とは言えなかったがそれでも職務には忠実で、俺達を蔑ろにする事はなかったのだが…。
「行け」
「あ?」
「早く通れ、目障りだ」
兵士の目には侮蔑の色がありありと浮かんでいる。
何故急に態度が変わったのか普通に考えれば先の耳打ちが原因だと、丸腰の兵士を見てみればその顔に見覚えのある魔道具が装着されていることに気がついた。
魔望鏡。
魔力を色で見る事が出来る道具だ。
これを見るとバジルは故郷で死んだアンデルセンという偏屈な魔道具売りの事を思い出すが、今はノスタルジーに浸っている時でもないだろう。
つまるところ、彼らは知ったのだ。
俺が、バジル・アントリウムが魔力を持たず蔑まれる能無という人種だという事を。
まあそれならばこの反応も納得がいくし慣れたものだ。
普段と違い態々絡んでくることもないため実に楽に思える。
「だそうだ。早く行こうぜ」
面食らうユラにバジルはそう言い放ち軽い足取りで門を越えて行く。
ユラは慌てた様子でそれに続いていくが、アルミンは自分のペースでゆっくりと歩みを進めた。
こうして一行は遂に首都ノーウィークへと足を踏み入れたのだった。
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