プロローグⅢ
三章開始です!よろしくお願いいたします!
西部の物語とサルーンは切っては切れない関係にある。
サルーンというのは開拓者やカウボーイ、兵士、鉱夫といった者達に向けてサービスをする施設の事だ。
酒場と言ってしまえばそれまでなのだが、酒や料理を提供する以外にも宿泊も出来る場所として普及している。バジルが幼い頃から世話になっていた強面の店主がいる店がまさにそれに該当するだろう。
サルーンを訪れた客達は揃って酒を煽り、ギャンブルに興じ、情報を交換し合う。
この場所を利用する者達は基本的に気性の荒い人間が多い為トラブルが絶えず、場末だろうが繁盛している大店だろうが日夜血を見る事も少なくない。
だからこそ、そんな場所であるサルーンは様々な人々の人生の転機になるきっかけになる機会が多いのだ。
親を、恋人を殺された者が復讐を決意するだの、大きな戦いを前にして腕利きの仲間を集める為訪れるだの、ギャンブルの最中後頭部を撃ち抜かれそれから死人の手札に逸話が残るなど、礼を挙げたらキリが無い。
そして今も、サルーンでハムを齧る開拓者の男達が揃って噂話に花を咲かせていた。
「首都へライトニングが向かっているらしい」
男の言葉に対面に座り薄い葡萄酒をチビチビと舐める女性の開拓者が首を傾げる。
「ライトニングて誰?」
「腕利きの賞金稼ぎだよ…って今は違ったかな?そいつには色んな話があってごちゃごちゃしてんだ」
「例えば?」
「山を斬っただとか、海を割っただとか…」
「嘘くさいね」
「それは俺も思うけど、標的の首を一太刀で落とす事を好んでいるってのは本当らしい」
「物騒な奴ね」
「相手を苦しませないようにそうしてるって聞いたがどっちにせよおっかない事は変わらんな」
カカと笑い料理を掻き込む男をみて女は頬杖をつきながら酒が注がれた木杯を揺らす。
「そんな奴が何で首都なんかに向かってるのかしらね」
「決まってるさ」
「?」
遅めの朝食を平らげた男は態とらしいくらいに顔を悪どく歪め、ニヤと笑みを浮かべた。
「誰かを殺すんだろ」
「…」
「…」
「そんなに怖く無いわよ、それ」
「やっぱりそうか?」
堪えきれずに吹き出す男はせっかくの食事時に無粋な話題を出した事を詫びて店員に追加の酒を注文した。
「ちょっと待て私はもう酒は…」
まだ手元の酒が残っているというのに、並々と注がれた新たな酒を見て絶望したような顔になる。
女はそれほど酒が得意な方では無かった。
それでも最初の一杯位はと付き合ったのが不味かった。
女は開拓者として情報交換を目的として目の前の男した接触したのだが、男の方はというと女開拓者を酔わせ介抱すると銘打ちその瑞々しい肢体を抱こうと考えている。
下心満載の男と、慣れぬ酒に四苦八苦する女性という傍目から見れば実に平和な光景に見えた。
尤も、男が願いを享受出来たとして、酔いが覚めた女開拓者がどのような行動に出るかまでは予想できないのだが。
血を見るにしても、やり包められて家庭を築くにしても、物語の始まりはこのくらいのんびりしていた方が個人的には好ましく思える。
♢
場所は首都ノーウィークの付近にあるサルーンの宿泊施設の一室。
奴隷から解放されたバジル一行は弟を、血の繋がらない妹の父に会う事を目的とし旅を始め1ヶ月、遂にその目前にまで迫ったのだが到着した時間が遅く検問が開いていなかったので渋々その近場のサルーンへ泊まる事となったのだ。
ダブルの部屋に一応は男であるバジルとユラ、そして生物かどうか怪しいが女性であるアルミンが一緒に寝泊りをするというのは倫理的に問題がありそうな物だが、この場でそれを気にするものは誰もいない。
バジルは旅費の節約の事しか頭に無いし、ユラは長らく奴隷としての生活であった為その辺りの常識は少しズレている。
かろうじてアルミンだけがバジルの事をからかうような言動をしてはいるが本人に全く相手にされていなかった。
「なんなら私と同じベッドでも良いんだぞ?どうせ作り物の体だ。自慰と変わらんだろうし好きに使わせてやる」
「うるせぇな。そもそもお前がリイズで人の金使って豪遊してたのが原因だろうが。黙ってさっさと寝ろ。そんでしっかり卵を温めろ」
アルミンはリイズでバジルが捕まっている間待機の指示を受けていたが、寝泊まりの場所にかなりお高めなホテルを選んでいた。
そこで散々飲み食いしていれば、寒村でかき集めた資金などすぐにそこをついてしまう。
細かく指示を出さなかった自分も悪いとは思うバジルであったが、それでもこの全く悪びれていない様子は癪に触る。
そんな2人のお互いに遠慮がないやり取りを、青い瞳が熱心に見つめていた。
「…?なんだよユラ。俺達の顔になんかついてるか?」
もう1人の仲間であるユラへバジルは不思議そうに問いかける。
今でこそ幾らかマシにはなったが、リイズから旅を開始した当初、バジルはユラの奇行に困らされていた。
奴隷としての時間が長かったせいか油断すると極端なほど腰が低くなるし、何か施しをされればその度に土下座をしようとしたり、着替えをする際バジルの事を気にせず羞恥心を感じさせない行動が目立った。
そんな彼女の改まった質問の気配にバジルは思わず身構えてしまう。
「お二人はどんな関係なのですか?」
「関係…か。最初に話した通りだぞ?」
自分を含めアルミンの大まかな事情はユラに話してある。
村であった事件の事や、アルミンの体の事、バジルがまだ幼い頃に出会っているらしい事。
アルミンの体が作り物というのは初め信じていなかったようだが彼女がふざけて両腕を外してみせた時のユラの反応は今思い出しても笑ってしまいそうだ。
しかし、ユラとしてまだ納得がいっていないようでこうして追求をしてきたのだろう。
「そんなに深く考えるような事なのか?別にアルミンと俺の関係なんてどうでも…」
「良いわけがありません」
キッパリとそう言い切る彼女に目を丸くする。
「妹の恋人がそんなふしだらな人だなんて姉としては認められません」
「は????」
「ハハハハハっ」
ポカンとするバジルに無表情なまま高笑いをするという器用な事をするアルミン。対するユラの顔がどこまでも真剣なのが何ともシュールだった。
「俺はヤコとそんな関係じゃなかったんだけど」
「ですが昔話を聞く限りどうも…」
ユラには一般的な常識が欠如している面があるが幼い頃母親からそういった色恋沙汰の話をよく聞かされていた。
放浪する銀狼族という武闘派の癖して頭がピンク色な面を持つ母を少し恥ずかしいとは思いつつ彼女の話を聞くことは大好きだった。
彼女がそんな風だったからこそユラはヤコと出会う事が出来たのだから当然だろう。
だからこそユラは誤解していた。
幼い頃にヤコから聞いた話は大切な宝物であったため一時一句記憶している。
その際の妹の様子や、バジル自身の話から2人は恋人同士であったとずっとユラは考えていたのだが…。
「ユラの勘違いだよ…俺にそういうのは向いてねぇ」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ」
会話が途切れ場に沈黙が降りる。
その中に可愛らしい寝息が混じっている事に気付き片方のベッドを除くと、飽きたのかアルミンは真っ先に眠りの世界へと旅立っていた。…人形の癖につくづく人間みたいな奴だとバジルは思った。
くだらない話をしていないで自分も眠ろうと、バジルは床に敷いた野営の際に使う式布の上で丸くなろうとする。
明日はいよいよ首都へと入るのだ。
弟のトワイアの手がかりを探すためには頭が最高に冴えている状態でないといけない。
寝不足などもってのほか。…なのだが。
「何眠ろうとしてるんですか?まだ話は終わってませんよ?」
「ヤコの事に関して頑固すぎるだろ!!?」
今の発言はバジルには鮮やかなブーメランとして返ってくるのだが言わぬが花だろう。
ありがとうございました!
少しでも続きが気になったらブクマや批評コメントの方を是非ともよろしくお願い致します!!




