24話 砕けた鎖
あらすじ ユラとイチャイチャ2nd
体が宙を漂うような気分だった。
目は開いていると言うのにその視界は朧げで、曖昧な空間は朝のひと時に見た覚えがあった。
暗鬱とした奴隷の日々であっても朝の微睡みに身を委ねる事くらいはある。今自分の状態はその時の様子に酷似していた。
その事を理解できても、蕩けた頭では自分が先程まで何をしていたかまでは曖昧だった。
眠りに落ちた頃夢と現実を彷徨う事があるように、私はここが現実では無い事を理解しつつ全てを忘れたまま波間に小舟が揺蕩う様に身を委ねた。
夢の中でくらいは現実を忘れ、大好きだった母や家族になった少女達の思い出に浸っていてもバチは当たらないだろう。
私は、ユラはそう考えていたのだが、いつまでたってもそこは朧げで曖昧な空間のままだった。
元気にはにかむ兎獣人の少女も、同じく兎獣人の少し痩せ気味なお堅い雰囲気のある男性も、普段おっとりとしているのに怒ると凄まじく恐ろしい母も、今日に限って現れない。
自分は夢の中でさえ自由を禁じられてしまったのかと、こんなところに至ってまで暗い気持ちにさせられるユラだったが、そこでふと違和感を覚えた。
自分は今まで、自我が消えてゆく焦燥感と身体中に重たい鎖が纏わりつく感覚に苛まれ続けてきた。
しかしそれが今随分と楽になっているのだ。
まだしこりの様に雁字搦めになっていた頃の余韻が残っているが、それさえもいずれそう遠く無い内に消えてしまうという確証がある。
それを知覚した瞬間、ユラの体が急激に引き上げられた。
目覚めるのだ。この曖昧な空間から。
意識が明瞭になっていくにつれて、自分が気を失うまでの記憶も次々に浮かんでくる。
そうだ私は、妹の友人と名乗る男と戦っていたのだ。
その最中お腹に重い一撃を貰い気絶した。
不意打ちだったとは言え圧倒的に有利な筈の相手に遅れをとったのには変わらない。
悔しいと思いつつも、どこかスッキリとした面持ちのユラは意識を取り戻す寸前、とあるシルエットを見た。
長い髪の女性に見えるその影は母性を感じさせ、ユラは鎖が外れた事を母が祝福してくれているのだと思った。
夢の中でも変わらずそこにあった枷はもう存在しない。
ユラは一言だけ呟いて現実へと舞い戻った。
「お母さん…」
♢
「はい、お母さんですよぉユラちゃん」
ユラが目を開けるとそこには意地の悪い笑みを浮かべたバジルが寄り添う様にその場へ腰を下ろし何やら作業をしていた。
拳銃のメンテナンスをしている事は分かるのだが、妙なつぶやきをしっかりと聞かれていたと理解したユラは真っ赤にした顔を両手で覆う。
意識が戻る直前見たシルエットも母ではなくこの男だったのだと察したユラは子供の様に母を求めていた事に終始悶えていて話にならないと考えたバジルがおもむろに立ち上がる。
「それじゃ俺は行くけど、用事済ませたらすぐに戻ってくるからな。動けない様なら物陰に移動させとくけどうする?」
覆っていた両手を顔から剥がし、バジルを見る顔は未だにほんのり赤い。完全な八つ当たりだがこの男に羞恥を味合わされた仕返しがしたいと考えたユラは口を開く。
「…すぐに起きて貴方と戦う事も出来ますけど、それは困るでしょう?」
バジルの端正な顔が分かりやすい位に引き攣る。
その顔が見れただけでユラは満足だった。
言葉にした通り、戦闘を再開する事も可能なのだが。今はもうそんな気持ちが失せてしまった。
暫くはこの開放感に浸っていたい。
「お前…なんか変わったか?」
警戒した様にそんな事を言うバジルにユラは呆れの混じった目で答える。
「貴方が、バジルさんが思い出させてくれたんですよ」
「…そうか」
「そうです」
頭をガリガリと掻き、考えるのが面倒になったバジルは取り敢えずのメンテナンスを終えた銃に1発だけ弾丸を込めて弾倉を戻す。
中折れ式にした急造銃は1発だけしか装填できず不便そうではあったがバジルが持つと妙に様になっている。
そして彼が見覚えのある小袋を捨てたのを目にしたユラが思わずといった様子で声をかけた。
「それってお腹に隠していた袋ですよね。もう予備は無いんですか?」
バジルが自分を倒す際に使ったのが、牢を脱出した時に使った妙な兵器だと分かっているユラはその残りがあと1つだけなのを見て聞かずにはいられなかった。
何せバジルの戦いはここで終わりでは無いのだ。
自分の主人であるカーマスの元へ行くのが彼の目的だ。にも関わらず、戦うための手段が残りわずかと言うのは余りにも…。
それを消費させた張本人である自分がとやかく言えることでは無いが、カーマスはそれなりに実力者なのだ。それに、彼はあの忌々しい人を石に変えてしまう閃光も持っている。
ユラは、自分が石に変えられた際の事を思い出し身を震わせてしまう。
「あんなカマ野郎、1発ありゃ充分だ」
なんの気負いもなく、そう言い放つバジルの表情は明るい。
時間が惜しいとばかりにユラを置き去りにして駆け出したバジルを見送った後、ユラは再びその場に寝そべった。
別に体が痛むわけでも無い。もうほぼ完全に動けるまで回復している。
ただ疲労は残っているため、落ち着いて考え事をするにはこちらの方が向いていた。
(急いでたのに私が起きるまで側にいるなんて、本当に変わった人ですね)
自分はこのままで良いのだろうか。
このまま状況に流されるだけで…全てを彼に委ねても恐らく解決すると言う予感がある。
本当に妹が死んでしまっているのなら、彼の言う通り墓参りへともに行く事になるのだろう。そして妹の肉親である義理の父に会いに行き、一緒に泣くのが流れとしては1番美しいのだろう。
しかし、ユラの中にある芯がそれを拒んでいる。
このまま他人に自分の運命を預けるなんて今更認められない。
彼が来なければ自分が奴隷のまま落ちていき、宿していた憎しみも簡単に消えていた事だろう。もしかすればカーマスを孤独なまま討つという選択もあったかもしれないがどちらにせよ自分に明るい未来は訪れなかった筈だ。
感謝はしているがこのまま助けてもらうお姫様の立場に甘んじているわけにはいかない。
私は誇り高い銀狼族の、母の娘なのだ。
決着は自分でつける。
バジルがいなくなってから数分後、ユラは『立ち上がった』。
ありがとうございました!!
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