21話 首なし卸業者と奴隷のマーチ
あらすじ 仲間が増えた。
カーマス、というよりこのリイズの街を本拠に構える奴隷商人達は街の外を騒がせている奴隷狩りを生業にしている荒くれ者達と癒着していた。
分かっているだけでも月に20を超える人間がリイズの近辺で行方不明になっている。
これだけ被害を出しているのに未だに彼等が討伐されていないのはカーマスの様な力のある商人が常駐している保安官達や司法に携わる人間を買収しているからに他ならない。
悪党というのは、飛び抜けて無能でもなければ基本臆病な物だ。
リイズでこの暗い密約に関わっている者は凄まじい結束力を持って、この利害関係を守って来た。
奴隷狩り達が街の外で人を狩り、その足でリイズの中の商人に売り付ける。
実に効率的でお互いに都合の良いシステムだと思う。何せ奴隷狩り達は商品の売り手に困らず、買う側も絶え間ない供給を得られるのだから。
しかしそれは悪人達の理屈だ。
巻き込まれた罪のない人間はたまった者ではない。
だからこそ今、街に近付く人々を襲い続けて来た彼等は報いを受けているのだ。
「これで最後でござるね」
「待ってくれ!何でも話す!だから助けっっ…」
サン、と静かな音が空間を薙いだ。
命乞いをしていた身なりの汚い男は首を鮮やかに飛ばされ、残された体は自分が死んだのを気づいていないかの様に暫くその体勢を保っていた。
神速で振るわれた刃には血も油も纏わり付いておらず薄ボンヤリと輝機を放っている。
「そうやって助けを求めた人間をお前さんは見逃したでござるか?」
ライドウはキンと小気味良い音を立て刃を鞘へとしまった。
影の様な男の背後には首のない死体が実に40程転がっている。
この世の地獄の様な光景は、荒事に慣れた開拓者であっても気分を害してしまうほどの凄惨な物であった。
そして血河を作り出した張本人であるこのライドウという男は、厳しい顔をしながらも至って正気を保っている。
まるでこの惨状が当たり前だというかの様に。バジルとアルミンが出会った時の飄々とした雰囲気の愉快な男とは随分とかけ離れていた。
そこは奴隷狩り達の隠れ家であったがライドウは我が物顔で中を進み、生き残りがいないかを探して行く。
家捜しをするついでに奴隷狩り達が管理していた内部資料なども漁って行くがその内容にライドウはウヘェと実に嫌そうな声を漏らしてしまう。
(出るわ出るわ、リイズの奴隷商人達との黒い関係を示した証拠が。奴隷を売買した際の契約書やこの一件に関わった商人のリストまであるでござる)
もう一度言うが分別のある悪党というのは総じて臆病な物だ。
切り殺して来た男達の無骨な顔に似合わず綿密で詳細な資料が残されているのは万が一この密約が公になり、商人達から損切りされたとしても一方的に被害を被らないためである。
商人達も商人達で奴隷達の情報を犯罪奴隷や身売りとして登録し手続きをしているあたり、書類上では奴隷狩り達との繋がりを完全に見えなくしているためその懸念も決して間違いではなかった。
ライドウとしてはそんな狸の化かし合いを間近で見せつけられウンザリとした気分になってしまう。
自分は剣を振るうしか能が無い人間だと割り切っているライドウはこの手の細かい機微を読む仕事は苦手なのだが、あの上司がこうして自分を派遣した以上事件の収束までの全てを丸投げしてくる可能性が高い。
ライドウは通信用の魔道具である水晶を取り出しながら憂鬱そうな表情で資料をめくり続けた。
♢
牢屋を脱走した一行は慌ただしくなって行く商会を駆け抜けて行く。
途中何度かカーマスの部下に遭遇しているが、仲間を呼ばれる前に全てジンが倒している。
攻撃魔法は使えない様だが、魔力による身体能力の強化は可能らしく只でさえ強靭な体を持つ彼は恐ろしい膂力を持って立ちはだかる人間を打ち倒して行った。
魔障壁を素手で叩き割るそのあまりの迫力に同行している何人かが引いてしまっている。
主に鍵屋の男と魔道具売りの痩身の男だ。
「お前…今ならそこの能無だにも勝てるんじゃ無いか?」
「馬鹿言うな!姉御は対等な対場で俺に勝ったんだ。自分の得意な土俵でもう一度戦ってくださいなんてそんな情けない事が言えるか!!」
叫びながらまた哀れな雑兵が一人空を舞う。
現代の人間が見たらそれは自動車に跳ね飛ばされる交通事故を連想する様な激しい物だった。
幸い被害者達に命の別状は無さそうだが向こう数ヶ月はまともに動くことは出来ないだろう。
「それでこれからどうするんでさ!?」
走りながらなので息を乱しながら鍵屋の男が尋ねる。
「取り敢えずあのカマ野郎の屋敷を目指す」
「なんだと!?このまま逃げるのでは無いのか!?」
先程カーマスにお灸を吸えると言っていたのは冗談だと思っていたらしい痩身の男が吠える。
この反応は当然といえば当然かもしれない。折角牢屋を脱出出来たのに態々敵の本拠地に赴くなんて正気の沙汰では無い。
「冗談では無い。私はこのまま逃げさせてもらうからな!」
踵を返し、一行とは違うルートへ向かおうとした魔道具の男であったが、バジルからかけられた言葉で足を止めてしまう。
「それは自由だ、お前の好きにしろ。でも俺達は屋敷に乗り込んだ時、お前の奴隷契約書はそのままにしておくからな」
「!!!」
「あそこに乗り込むのはあれを抹消すんのも目的の1つだ。クソみたいな契約の仕方だったとしても厄介な事にあれはしっかり法的な力を持ってやがるからな」
「ぐぐぐ…私の分もついでに消しては…」
「んな面倒くせぇ事はしねぇよ。お前は勝手に追われる身のまま生きな。嫌なら付いて来い」
「こんの詐欺師があああああ」
発狂しながら痩身の男は懐から鈴を取り出し、新たに向かって来たカーマスの部下に向けて激しく打ち鳴らした。
するとどうだろう、屈強な男達が崩れる様に倒れてしまったでは無いか。
横を走り抜ける際様子を伺ってみれば彼らがいびきをかいて眠っている事が分かる。
「便利だなそれ」
「当たり前だ!!私が加工した魔道具だぞ!!!」
この痩身の男は魔道具売りだけありその知識は豊富で、魔力を使い紋を刻み込む事で魔道具を作り出す事が出来るらしい。
有り合わせのためその効果は長くは持たないと言ってはいたが相当な腕を持つ職人と見て良いだろう。
運が向いている。
バジルはそう感じた。ジン達は思った以上に強い。少年2人という守る対象がいても問題なくここまで突き進む事ができていた。
弾丸を節約しなければいけない立場のバジル的にはこれは非常に助かる。
しかしこう上手くいっていると感じる時は何か良くない事が起きると相場は決まっている。このままアッサリと目的の場所にたどり着けるなんて甘い考えをバジルは持っていなかった。
そして残念ながらバジルの予感は的中している。
爆進と言って良い勢いで進軍を続ける一行の前に天使の様に美しい姿をした絶望が立ちはだかった。
「あの牢のとこで待ってて欲しかったんだけど?」
「…」
絶望からの応答は無い。
銀色の長い髪を靡かせ、絶望は静かに臨戦態勢を取る。それが答えだった。
絶望の名は「ユラ」。
圧倒的な戦闘能力を誇る最強の種族が今、解き放たれた。
ありがとうございました!
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