17話 虫室
あらすじ カーマスになんかされた。
真っ暗で、一寸先どころか自分の身の回りさえ認識出来ないほどの闇。
目は空いている感覚があるのに何も見えないというのはまるで夢の中にいる時の感覚に近いものがあるが、意識はハッキリと覚醒している確信があった。
暗闇に落ちる最後の光景もよく覚えている。
自分と同じ様に女装をしている男のカーマス。
怪しく瞬いた赤い瞳。
体を駆け上がってくる石。
大量の虫と何処か見覚えのある石像。
今も尚身体中を這い回る感触と全く自由の効かない四肢の状況から自分が体を拘束されあの蟲溜まりに放り込まれたのだと理解できてしまった。
これも魔法の一種なのか体の感覚は無く、一切動かせないというのに意識と、肌に纏わりつく無数の毒虫供の感触だけは嫌にハッキリと認識出来る。
今自分の体が一体どうなっているのかは分からないが、毒虫に食まれた痛みがない事から、取り敢えずの身の安全は保証されていると考えて良いだろう。
問題はこの闇がいつまで続くのか。
あまり長い間では困る。俺はさっさとユラの問題を片付けてトワイアを追いたいのだ。
カーマスの目的は俺からアルミンの情報を聞き出す事だ。それほど長く時間を取らせないとは思うが出来れば早くしてもらいたい。
安全だと分かっているのなら虫程度で一々発狂するほどの細い神経を持ち合わせている訳でも無し。この何も出来ない時間はバジルのとっては只々退屈な時間でしかなかった。
少なくとも今だけは。
♢
どれだけ時間が経った?今は一体何時なんだ。
最初に生まれたのは疑念だった。
試してみたが眠る事も出来ず、ただ暗闇の中を漂うだけの時間はバジルに己の考えへの不信感をいだかせる。
もうかなり時間が過ぎたはずだろう。なんであのカマ野郎はおれを解放しないんだ。
次に生まれたのは焦燥。
時間の感覚を失うその空間はバジルの中に「もうここから出られないのではないか」という疑念が存在する影響で無意味な焦りに身を焼くこととなった。
悪性の種が生まれればもう連鎖は止められない。
不安、不興、困惑、恐怖。感情は激しく移ろい、意識を手放す事も出来ないバジルはその濁流に揉まれ続けた。
そうなれば今度は、最初そこまで気にしていなかった身体を這い回る毒虫の感触にも過剰に反応してしまう。
虫が蠢く室へと放り込まれた時点で不快極まりないのだが、カサカサと動き回るムカデやクモの脚の感触が体の内側から聞こえてくる様な錯覚を覚え始めた頃から肌を掻き毟りたい衝動に襲われていた。
発狂したくても声が出ず、体も一切身動きが取れない状況はバジルの精神を着実に追い詰めて行く。
それだけこの世界から隔絶された様な闇は人の精神へ多大な悪影響を及ぼす。
何も見えず、温度も感じず、四肢の感覚も無く、肌と意識が研ぎ澄まされた状態でこの虫室に放置されるのは、トワイアの為であればどんな事だってしてみせる覚悟があるバジルでも中々に堪えるものであった。
そして永遠にも思えたこの地獄の様な静寂は唐突に終わりを告げる。
虫達のざわめく感触が無くなった後暫くして視界が光に満たされた。
急に視界を取り戻した事で朧げだった景色も徐々にその輪郭を露わにしていく。
まず始めに目についたのは目の前のカーマスだ。
何が楽しいのか怪しげな笑みを浮かべキセルを吹かしている。
「最初に見るのがアンタの顔なんてついてねぇな」
言いながら寒気に体を震わせた。
二の腕の部分を摩ると水で湿っている。
大方体にへばりついていた毒虫を洗い流すために水をぶっかけたのだろうが、こんな日も当たらない場所で濡れ鼠になっていれば寒いのも当たり前だ。
「意外と元気ねぇ、まぁ1日程度じゃこんな物かしら」
1日…。それほど時間を無駄にしていない事を喜ぶべきか、あの闇で過ごした時間がたったそれでけしか経っていない事に驚くべきか。
『雷掌』
カーマスの掌で青白い火花が散った瞬間。バジルの体を鮮烈な痛みが駆け巡った。
「っっっ!!」
「あまり能無がはしゃがないことね…アルミンとかいう女との繋がり以外価値なんて無いんだから」
電流の影響で痙攣するバジルを残しカーマスは牢屋の外へと出て行く。
この時点で始めてバジルは自分がいるのは牢屋だという事に気がついた。それだけ気が動転していたのかと、己の神経が思っていたよりも貧弱であったことを嘆く。
「それじゃあ私は仕事に戻るわね。いい?ちゃんと仕事は全うするのよ」
その言葉が自分に向けられているものでは無い事に詰るはすぐに気がついた。
ならばほかに誰がいるのかと牢屋の中を見回してみると、部屋の隅の暗がりに1人。先客がいるのを見つける。
それは顔から表情という表情が剥がれ落ちたユラであった。
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