14話 奴隷達の交流
あらすじ ユラとちょっとお話しをしました。
「オラ、今日は大人しくしてろよ」
牢屋へと投げ入れられ激しく地面へと体を打ち付ける。
この床に頬擦りをするのは何度目だろうかと考えるバジルはゆっくりと身を起こした。
「大丈夫ですかい姉御!?」
身体中に青痣を作っているバジルを見て何事かと犬獣人のジンが慌てて駆け寄ってくる。
「どうって事ねぇよ。それより…」
未だに泡を食っているジンを無視して牢の外から見え辛い位置を陣取る奴隷の男を見やる。
その事に気がついた男は得意げに鼻を鳴らしながら腰を浮かせ、地面の砂を払えばそこに奇妙な穴が8つ程姿を現した。
男がその穴に指を差し込み力を込めれば、なんと地面の一部分が浮き上がり外れたではないか。
まるでパズルのピースの様にピッタリと嵌め込まれていた石の下を見てみれば、酒やタバコの嗜好品から調理済みの塩漬け肉や堅パンから用途の分からないガラクタも一緒くたに詰め込まれている。
そこは先人の奴隷達が残した隠し収納であった。
とはいえ「隠し」と言ってもカーマス達はこの収納の存在も、中身も全て把握している。
何故この様な物を見逃しているかと言うと、カーマス自身が奴隷達に「飴」を与える事の重要性を理解しているからに他ならない。
実際、このカーマスが経営している奴隷商会での商品の扱いは他に比べれば待遇が良い方に分類される。
他では奴隷達の体調など気にもしない劣悪な環境や、調教と称して商人達が奴隷へ性的な虐待を加える事も珍しい事ではない。そこをこの商会は部下達への教育を徹底し、奴隷の価値を落とさない様工夫をしていた。
この床下収納を見逃しているのも奴隷達の管理に必要だからとカーマスが考えたからこそ残されている。
人間というのは慣れるものだ。奴隷として身を落とした時点で人生に悲観していても、くたびれた肉や酒精の殆ど残っていない気の抜けた酒であろうがそこに小さな自由が残されていれば有り難がり、他の奴隷商の悲惨さを知っていれば他所よりもマシという考えが生まれ順応して行く。
それは奴隷達に僅かばかりの心の余裕を与え更には心身へ有益な影響を及ぼし、結果商品としての価値も向上する。虐げるだけが奴隷の使い方では無い、全ては自らが価値を見出すべき大切な資源なのだという考えを持つカーマスだからこその運営方法である。
尤もそれは彼が甘いという訳では全く無く、この収納に凶器の類や脱走の為らしき物品が見つかれば即座に追求され見せしめに殺される事になるだろうが。
「随分と派手にやられたみたいですし景気付けに一杯やりますかい?」
そんなある意味では地雷とも言える床下収納から、金子守を担当している元鍵屋だと言う男が酒瓶を取り出し黄ばんだ歯を覗かせ笑った。
「酒は苦手だから遠慮しておくよ。というかちゃんと渡しておいたもんは仕舞ってあんのか?」
「あのガラクタですかい?それは勿論、あんな物一体何に使うんで?」
「それなら良いんだ。気にすんな」
先程述べた収納の中のガラクタと言うのがバジルが奴隷の仕事に赴く度にかき集めてきた物だった。
木片や建材の余り、布切れや鉄の筒等、本当にゴミと言っても差し支え無い物ばかりであった。その中で唯一落ちていた髪留めが無くなっていたのは監視者が目の前の元鍵屋の男を警戒した結果かもしれない。
しかしこれだけでは脱走を企てた証拠にもならないので捌けるだけに留まったようだ。
まあ惜しいといば惜しいが他の物でも代用は聞く事だし特に気にはしない。
ユラには近々動くとだけ伝えたが今日の所は体も重いしルームメイトの連中と話して終わる事にしよう。
「そう言えばアンタ鍵屋だっけ?牢屋の鍵も外したりとか出来ねぇの?」
拾い集めているガラクタの件は終わりにしてバジルはそう冗談交じりに男へと問いかける。
男の方も冗談だとわかっているようで吹き出しながらイヤイヤと手を降った。
「出来ない事もありませんけどね、そんな事したってすぐに駆けつけたあのオカマ野郎の部下に殺されるだけでしょうよ。あ、オカマ野郎って言っても姉御の事じゃありやせんからね?」
「また喧嘩がお望みなら受けて立つぞ」
降参だとばかりに鍵屋の男は苦笑しながら隠し収納を元に戻し再びその上に腰を下ろした。
「姉御、本当に大丈夫なんですかい?」
鍵屋が終われば次はジンの出番だ。
特に用がある訳でもなしまた無視するのは可哀想ではある。
「ユラに薬を塗ってもらったし問題ねぇよ」
「ユラってあの銀狼族の女ですかい!?アイツはカーマスのお気に入りだって言うしそんな相手に治療してもらえるなんてやっぱり姉御はスゲェや!」
「全く、尻尾を嬉しそうに振りおって…まるで飼い犬ではないか」
キラキラと目を輝かせる大柄の男に若干引いていると、後ろからそんな声がかけられる。
「ああ?何だよなんか文句でもあんのか?」
一瞬で剣呑な雰囲気を纏った人が声の主を睨みつけた。
睨みつけられた男はびくりとその痩身を震わせたがすぐさま高慢そうな仮面を被りなおし此方を滑稽そうに見据える。
「犬系の獣人が自分よりも強い相手に懐きやすいとは聞いてわいたがまさかこれ程とは…そんな相手に今まで媚びへつらってきたなんて自分が嫌になるわ」
当たり前の事だが喧嘩騒動の後鍵屋やジンのように打ち解けた者ばかりでは無い。
能無の相手に従うなど、あんなガキに媚び諂う元リーダーの事を認められない者も存在した。
この痩身の魔導具売りを自称する男が最たるもので、一々突っかかって来てジンとよく揉めている。
「魔法も使えない能無如きに従う理由は無いって言っているんだ!」
「ここで魔法が使えないのは皆同じだろうが!!阿保か!」
「阿保だと!?この私に向かって阿保とは、魔法も碌に使えない獣人の癖に」
「ならその自慢の魔法でどうにかしてみろよ!ああ、枷のせいで使えないんだったよな?そういえばお前は魔道具売りだっけ?その知恵でこの枷に掛かった魔法を無効化でも何でもしてみせろよ」
「この枷の仕組みも知らない馬鹿が偉そうに。いいか?この枷に魔法なんて掛かってないのだよ!封花石という魔力を封じる特殊な鉱石を使用しているから皆魔力が使えないのだ!作り自体はシンプルな鉄枷と同じな為私に外す手段など無い!!」
「出来ねぇ事を自信満々に言ってんじゃねえ!!!」
ギャーギャーと騒ぎ続ける2人に背を向けその場に横になる。
(まだ暫く続きそうだし、寝るか)
結局、バジルを起点にして始まったこの口論は皆が寝静まって後も暫く続けられた。
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