13話 塗り薬
あらすじ オカマにビリビリされました。
「う…ん」
鎖で吊られたまま身じろぎをするバジル・アントリウムという名の奴隷の体を拭いていく。
ご主人様は雷魔法で彼を痛めつけた後、私と配下の男を数人残して仕事に戻ってしまった。
「ちゃんと顔以外をしっかり狙うのよ。それと余計な事はしないように」
ご主人様が去った後、配下の男達は下衆な笑いを浮かべて裸に剥かれたバジルを注視する。
「本当にコイツ男だったんだな」
「信じられなかったがこれを見ればなぁ」
ゲラゲラと笑いながら男達は目を覚ましたバジルを殴り始めた。
男達の拳は容赦のない物だったが、主人の命令通り顔への一撃は避けている。
「これだけ顔が良けりゃあ楽しめそうだけどな」
「馬鹿が、社長に釘刺されただろう。死にてのか?」
「じょ、冗談だって、あの人気に入らない奴を石にしたって噂もあるしおっかないんだよな」
「お前は最近入った新人だったな、社長は本当に怖えから命令には背くなよ。分かったな?」
「お、おう」
会話をしている最中もバジルへの殴打は続いている。
私は、それを眺めるだけだ。
そして、リンチの時間は終わり男達は拷問部屋を出て行き私はバジルの体を濡れた布で拭っていた。
「ありがとよ」
「…仕事ですので」
露出した局部には極力視線を向けない様にしながら答えるユラはこの奇妙な男について考える。
(あれだけ酷い目に会って、自分を捕まえた本人にお礼を言うなんて変な人ですね)
自分にはまだこの男の全容が掴みきれずにいる。
何故奴隷になったと言うのにそれほど明るく向こう見ずな行動が出来るのか。
聞いた話によると奴隷の仕事自体は真面目にやっているそうなのだが、初日に同じ部屋の奴隷達と喧嘩騒ぎを起こし、食料庫から勝手に肉を持ち出し、仕事先のご主人様の部下の監督を気絶させ好き勝手にやっているという。
聞いただけではとても信じられない内容ばかりだ。
奴隷に落とされた時点で人生に悲観し全てを諦めた者、逆上し暴れたは良いが調教されすぐに大人しくなった者は数多く目にしてきた。
だがこの男は奴隷にされようが苦痛を与えられようが意に介した様子がまるで無い。
初めは只の馬鹿なのかとも思ったがそういうわけでも無いらしく、自分にご主人様から何かしらの価値を見出していると理解しているからこそこの様な行動を取っている節が見て取れた。
極め付けは。
「まだ答えを聞いていなかったな。ユラ、お前はこの先どうしたい?」
そう、会う度にこの男は私にこう尋ねてくるのだ。
質問が大雑把すぎるというのもあるが、そもそも質問の中の「この先」というのが理解出来ない。
私にこの先などあるのか、ご主人様の命令は絶対だ。それに従い生きていく事以外に何があるというのか。
今朝も見た身体中に鎖を巻きつけた状態で暗く、薄汚れた道を只々進んで行く夢を思い出したユラは目から光を消して首を振る。
「俺には弟がいてな」
「?」
急に変わった話に私は小首を傾げた。
「その弟を探すために首都へと行かなきゃいけないから、あと数日でここを出て行く」
「…随分簡単に言いますね」
「簡単だからな」
「ご主人様がそれを許すとでも?それに逃亡奴隷はすぐに手配されて捕まってしまいますよ」
「なら追えない様にしてやれば良い」
そう口にした瞬間、ユラはバジルの首を掴み持ち上げた。
細身といえどバジルはそれなりに鍛えているため体重も重い筈なのだが、ユラはそれを片手で重さを感じさせないほど自然な仕草で吊り上げている。
バジルの腕につけられた鎖がジャラジャラと不快な音を立てた。
「ぐうっ」
「ご主人様に手を出す事は許しません」
真っ直ぐバジルを見つめるユラの瞳には明確な殺意とドス黒い炎が宿っていた。
「っ、…へぇ意外、だな。そこまで奴の事を慕っているとは思わなかった」
「…」
冷静になったユラはゆっくりとバジルを下ろす。
「ゲホっ、まったく獣人ってのはとんでもねぇな」
咳き込みながら笑うバジルに私は毒気が抜かれたしまった。
彼はどうしてこうも明るくあれるのだろうか。
どうして自分を曲げずに生きられるのか。
どうして私と同じ鎖が巻かれているのに…。
考えても仕方がない。この鎖は徐々にその重さを増して行く。そうすれば彼もいずれ変わって行くだろう。
すぐに出て行くというバジルの言葉をユラは信用していない。気にかけていた血の繋がらない妹が死んだって事も信じていない。
だが今だけは…。
「これ…」
「ん?」
「必要になりましたね」
そう言ってユラが取り出したのは街で出会った時にバジルが押し付けた塗り薬であった。
「俺は使わねぇから」そう言って渡された薬を見てバジルは己の体にも視線を向ける。
ユラの足枷部分ほどではないが先ほどのリンチのせいで所々に青痣が出来てしまっていた。
「この野郎」
ニヤリと笑うバジルに私も意地悪く笑みを返す。
「塗って差し上げましょうか?これも仕事なので」
奴隷の卑しい物でもなく、助けを乞い哀れみを誘う物でも無い。
屈託無く笑ったのは一体いつぶりであろうか。
塗り薬の蓋を外しながらそんな事を思うユラであった。
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