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異世界男の娘ガンマン ~魔法が使えない能無でも弟の為に最強目指す~   作者: 冷えピタ
二章 首都ノーウィークへ 〜奴隷編〜
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11話 持たざる者の強さ

あらすじ 喧嘩をするよ

 2つの影が踊る度に鎖が地面を削る音が響いた。


 奴隷達の頭目らしい人物と相対する事となったバジルは足に着けられた枷の鬱陶し差に辟易しながらも、ジンの大振りの拳を難なく躱して行く。


 確かに獣人だけありその膂力は凄まじい。

 奴隷達は魔力を封じる効果を持つ鉄輪を例外なく装着しているため、彼の様に素の力に秀でた者がボスとして君臨しているのだろう。


 所詮は奴隷の中での地位でしか無い為、そのようなランク付けは滑稽でしか無いのだが。


 獣人の身体能力を活かし怒涛の攻撃を見舞うジンであったがその全てがことごとくいなされてしまう。

 ジンは己の優位を確信してたはずなのだが振るった拳が全て無意味に終わり徒労感を隠せないでいる。


 少しの気の緩み。その数瞬を狙い澄ましたかのように顎へと強烈な衝撃が走った。


「ぬぐ…あ」


 膝から力が抜け倒れかけるのをどうにか堪えているジンは、突然襲った衝撃の正体が目の前の少女のような見た目の男が放った一撃だと気づき愕然とする。


 顎を正確に捉えた一撃はジンの脳を揺らし、その思考能力を奪う。本来ならその1発で意識が飛んでもおかしくは無いのだが獣人特有の耐久力と奴隷達の頭というプライドによってそれは免れた。


 動揺しているのは周囲を取り囲む奴隷達もまた同じだ。


 自分達の代表が手も足も出ず、まるで児戯みたく弄ばれる様を夢を見るかのような眼差しで見つめている。


 あんなひ弱そうな男?に。ましてや能無という魔力を持たない弱者に?

 ギャラリーの奴隷達は己の目で見た物が信じられなかった。


 彼等は想像もしていないだろうがバジルは幼い頃から能無というハンデを乗り越えるために様々な努力を重ねて来た男だ。


 細くともその身体はしなやかで強靭な筋肉で覆われており、軍人であった祖父から格闘術の類の指南も受けている。

 魔力が使えない状況を想定し続けて来たバジルが同じ土俵に立てばある程度優位に立てるのは当然の成り行きだ。


 そして魔力を必要としない強さを追い求めて来たバジルは目に前で膝をつく男のとある点についても気づいていた。


「お前()()じゃねぇな?」


「…だからなんだってんだ」


 バジルが見抜いたのはこの男が元々戦いに慣れた人物では無い事。それは今の戦いの中でも細かい所作に現れていた。

 奴隷に落ちる前はそう言ったものとは縁の無い仕事を営んでいたのだろう。


 獣人のポテンシャルがあれば一般市民は元より、魔力ありきの戦い方に慣れている開拓者でさえも()()()封じられた状態であれば圧倒することが出来たのだろうが、ことバジルに関してはその限りでは無い。


「お前が勝てねぇ理由が1つ分かっただけだよ」


「ほざけ!!」


 バネの様に飛び出したジンがバジルへと再びその剛腕を振るうが、脳が揺らされたダメージがまだ深く残っているため大味であった攻撃は更に精細を欠いていた。


 そんな物が当たるはずも無く盛大に空を切り、ジンは体勢を崩す。

 遥か遠くにあった頭が今は目の前に降りて来ている事を確認したバジルの行動は速い。


 バジルはその場で勢い良く跳ね、踵落としの要領で足の鉄輪をジンの頭へと振り下ろしたのだ。


 ガツンと鈍い音を響かせる。


 このスピードと重さの乗ったそのあまりの衝撃にタフな獣人であるジンも堪らず悶絶し、程なくして意識を失った。


 シンと静まり返る牢屋の中で唯一バジルだけが軽い足取りでジンと向かい合っていた始めの位置へと戻る。


「後からブツクサ文句言われても面倒だしよ。他に気にいらねぇ奴がいるならとっととかかって来やがれ」


 この一言を皮切りに、入室初日にして牢は血と暴力がパッケージされた箱庭へと変わった。


 結局この喧嘩祭りは二日間にかけて続けられ看守さえも手を出せない程の惨状となりカーマスの命令でで張ってきたユラによって揃い鎮圧されたのだった。




 ♢



 あの時最後まで立っていたのは俺だった。

 こう言った手合いは最初に力を示しておけば暫くは大人しくいてくれると踏んでの行動だったのだが…。


「姉御も早く食べないと時間なくなってしまいますぜ」


「姉御!どうぞ俺の分も食ってください!」


「馬鹿野郎!姉御は俺が用意した薫製肉を食うんだよ!」


 …ここまで懐かれるとは思わなかった。


 顔を見れば冗談で言っているのだと理解できるが正直毒気が抜けすぎていて戸惑ってしまう。


 話を聞いてみるとここにいる男どもは重大な罪を犯した事で堕とされる所謂、犯罪奴隷では無く、やむおえない事情や奴隷狩りなんかのせいでここに連れてこられた者が大半であるらしい。


 彼等もここへ来て一月程しか経っていないみたいなのだが突然日常が奪われ奴隷として毎日を過ごすうちに心がどんどん荒んで行ったようだ。


 更にそんな境遇に皆が絶望しどんよりとした雰囲気が伝染し短期間であの辛気臭い空間が出来あがったという。


 新入りをいびる様な真似は褒められたものでないのは確かだが彼等も元々は善良な気質を持った人間であったのだろう事はこの数日でも察することができた。


 そんな中俺が現れた事が彼等にとっての転機になったらしい。


 奴隷に落ちた状況でも全く自分を見失わないバジルの存在は絶望する彼等には一種の清涼剤として機能したのだと思われる。

 現に皆、少しずつではあるが生来の明るさを取り戻し始めていた。


 これが今自分が置かれている現実から目を背ける行為というのは重々承知している彼等であったが、今だけはこの若い青年に負けていられないと己を鼓舞して立ち上がる者が少しずつ増えていった。


 辛気臭く、自分の運命を誰かに委ねたまま文句しか吐かない奴は大嫌いだが自分に嘘をついてまで明るく振舞い前を向く連中は好きだ。


 奴隷に支給されたクソ不味い携帯食を齧りとり同じ奴隷部屋のグループを眺める。


 無味の粘土じみた携帯食を眉を顰めながら咀嚼していると、奴隷達とは違い小綺麗なウェスタンスタイルに身を包んだ一団がゾロゾロと近づいて来て声をかけられた。


「随分と好き勝手やってるじゃねえか能無の姉ちゃんよぉ」


 代表らしき人物が群れから一歩前に出て、見慣れた嫌らしい笑みを貼り付けそう口にする。


 こいつらも例によってカーマスの部下なのだが彼に会うのは初めてでは無く、ここへ来た目的もよく知っていた。


「社長がお呼びだ」


「うるせぇな…今行くよ」


「姉御…」


 俺とカーマスの部下とのやりとりを不安そうに見守るジン達に苦笑する。


 心配はいらないさ。寧ろ、数少ないカーマスとユラに接触出来る貴重な機会だ。



(さぁて…今日の拷問(話し合い)でユラの考えをしっかり聞き出せたら良いんだけどな)


 もう何度となく味わった苦痛を思い出し、バジルは片目を瞑った。





よろしくお願いいたします!

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