6話 奴隷商都リイズ
あらすじ 竜の卵はヤバイ
「都市」と言われるだけありリイズは人口が多く、経済的にもかなり裕福な地域だ。
今まで自分の村と、隣の宿場町くらいにしか行ったことがなかったバジルのとってそこは目が回るほどの都会だった。
商業が盛んな事でも有名なこの都市は人の出入りもめまぐるしく、能無であるバジルが紛れた所で早々に騒ぎになる事はないだろう。
さてここで1つ、この街についてのクイズを出そう。
何簡単さ、この街は商業が盛んだと言ったがその主流になっている商品を当てれば良い。勿論ヒントだって出す。
少なくとも、そこらの市で売られている果物やパン、服飾品ではない事は言っておこう。
まず、それは生き物だ。
2つ、それは食用以外のほぼ全ての用途に使われる万能品だ。まあ、食用に関しても極々一部で需要があるかもしれないが。
3つ、それは商品になる際業者の人間が捕まえてくる場合と、自らか、もしくは第三者の同意のもと入荷してくる事。
4つ、それはこの世界の仕事を回すのに必要不可欠の存在だ。
5つ、それは我々人類と見た目が同じな事。ルーツは同じだが商品となった時点でそれはもう人間では無い。
6つ、7つ、8つ…。
もうわかったかな?
3、2、…1。はいお終い。
答えは奴隷さ。少し簡単すぎだったかな。
まあ、いいや、それよりもここは様々な嗜好、要求、労役に答える奴隷が集う街、リイズ。
街がこんなんだから近隣に奴隷狩りが蔓延るのは無理もないよね。
だって、卸先がすぐ近くにあるんだから都合が良いのはあたりまえでしょう?。
実に効率的だね。
♢
奴隷商都リイズ。
結局、ライドウの忠告に従わなかった俺達はこの奴隷の商いが盛んな街へと訪れていた。
運良く街へと入る前に噂の奴隷狩りに遭遇することは無かったが、ここから次の街まで少し距離がある為ある程度の準備が必要だった。
主に言うと食料。アルミンがドカ食いするせいで想定していた以上に消費が激しい。
食料が尽きたまま荒野を彷徨うなど正気の沙汰では無い。
奴隷が主な商品だとしても食い物が全く無いと言うことはあり得ないだろう。準備が整い次第リイズを出発しようと考えていた…のだが。
「おい、今日は何処かに泊まるのか?それなら飯の旨い宿が良いのだが」
「…関所にいた男から宿を聞いてるから安心しろ」
人混みをスルスルと通り抜けながらフンスと満足そうに鼻を鳴らすアルミンを見て、バジルは頭を抱える。
村で俺を助けた時の様な底知れぬ雰囲気は微塵も感じない。
唯一手袋に覆われた植物の義手がこの女が異常な存在なのだと思い出させてくれる。
そんな風に物思いに耽っていたのが災いしたのだろう。
人混みを歩く事に慣れていないバジルは向かいから歩いてくる人影に気づかずぶつかってしまった。
「あ…」
「っすまん!」
運悪く、その者は籠で荷物を運んでいた最中だったようで辺りに色とりどりの果物が散乱した。
「今拾う…「すいません」」
慌てて謝り散らばった物を拾おうとすると、何故かぶつかってしまった相手から謝られて面食らってしまった。
膝を降り、大きな籠に果実を拾っていくのは長い銀髪で褐色の肌をした獣人の女性だ。
我に帰り自分も手伝おうと体を屈めると「大丈夫ですから」と本人に辞退されてしまった。
しかしぶつかったのは俺の責任でもあるし、彼女の言葉を無視して手際よく拾っていくがジャラリと耳障りな音が聞こえ、音源へと視線を向けると…彼女の足には鎖が繋がれていた。
奴隷か。
片方の足首の位置に付けられた鉄輪の部分が青痣になっていて痛々しい。
鎖以外の身なりはかなり綺麗なのでそれなりに裕福な主人に仕えているのだろうが…。
「っ…」
バジルが足の鎖を見ているのに気がついた女性は服の裾でそれを隠そうとするが、うまくいかず折角拾った果物がまたもポロポロと転がり落ちてしまう。
「あまり女を凝視するのは感心しないな」
「分かってる。…ゴメンな」
アルミンに窘められ不躾な視線を送ってしまった事を謝る。
「い、いいえ…謝って頂くほどの事では、私奴隷ですので」
痛みが走った様な薄い笑みを浮かべる自分と同い年くらいの女性を見てバジルは目を瞑る。
脳裏に浮かぶのは幼い頃職を探しに隣町へと来た時奴隷商に遭遇した事だ。
もし何か違っていたら俺もこうして鎖に繋がれていたのかも知れないんだな。
「これ使え。痣によく聞くから」
雑嚢から塗り薬を取り出し女性に押しつける様にして渡したバジルは、もう転がっている果実が無い事を確認するやスッと立ち上がった。
「こ、困ります」
「いいから貰っとけ」
「俺は使わねえからその足に使えって」
「…っ、いただけません!」
「はあ、あっそ」
元々薬を渡そうと思ったのは気まぐれに過ぎない。これほどまで拒否されてしまったのなら、まあ理由があるのだろう。それだけ主人が厳しいのか…あるいは。
薬を受け取ろうと手を伸ばしかけたバジルだったが、押し問答を続けるうちに近づいてきた一団から声をかけられ動きを止める。
「ウチの娘をナンパしないで貰えないかしら?」
言葉だけ見れば女性的な物だが、その声質が絡みつく様なバリトンボイスを聞くに男性の物で間違いなかった。
「ご主人様…」
彼女が主人だという男を見ると、白い髪を雅に結い上げた美丈夫がいた。
そして俺はこの男に見覚えがある。
相手の方もそうなのかは知らないが、俺の顔を見て一瞬目を見開いた後顔を様々な欲に濁った笑顔で彩った。
「あなた…能無ね」
奇しくもそれは幼い頃にかけられた言葉と同じであった。
よろしくお願いいたします。




