5話 贖罪
あらすじ 通信魔道具での怪しい会話
時はバジルとアルミンが故郷の村を出発するその時まで遡る。
「そういえば、あれはそのままで良いのか?」
「あれ?」
松明や荒縄を鞍に取り付けていたバジルはアルミンの問いかけに首を傾げた。
「なんか忘れてる事でもあったか?食いもんや金、魔弾作りの魔法陣だって詰め込んだし…」
頭を捻るバジルだったが一向に彼女の言わんとする事が分からない。
そんなバジルの様子を見かねたアルミンは村のある方向を指差した。
気のせいでなければ彼女が示しているのは二頭のアースドラゴンと対峙した場所であったと思う。
とすれば竜の死体に用があるのだろうか。劣化種といえどドラゴンはドラゴン。
その体から取れる素材の市場価値は高く、鱗や筋繊維は加工され開拓者が身につける装備に、勿論それだけでは無く牙や眼球、血の一滴に渡る全てが薬や魔法触媒等様々な用途に使用されるのだ。
しかし残念な事に二頭の竜どころか村を取り囲んでいた魔物達の全てが肉の一片も残さず消滅してしまった。他ならぬバジルとあるみんの手によって。
その事を忘れる筈の無いアルミンは、今更何をしにあそこへと赴こうとするのだろうか。
「竜の卵があるぞ」
「はぁ!?」
バジルは耳を疑った。竜の卵というのは竜の体以上に貴重な物だった。
竜の卵というのはその名の通り種を残すために産み落とされるものなのだが、他の生物のそれとは性質が大きく異なる。
まず竜の卵は親の種に影響されないのだ。これはレッサーアースドラゴンの卵だが産まれてくるのはレッサーアースドラゴンとは限らない。
卵の殻に包まれている状態の時に注がれた魔力によってドラゴンの種が変化するのだ。
竜の巣から持ち帰る以外に入手する機会が無く、神秘的な生態から研究者達から喉から手が出るほど求められている。
自らの魔力で育ち産まれた竜をテイムし己の使い魔として使役する者まで出てきた事でその価値は今もなお高まり続けていた。そんな物がこの村に存在しているという。
半信半疑ながらアルミンの示した場所へと訪れると本当に竜の物らしき卵が存在した。
それは2匹目の竜が這い出てきた穴の奥に隠される様に安置されていた。
あの時は只々疑問でしかなかったが2匹目のアースドラゴンが異常な程に憔悴していたのは出産が原因だったのだろう。
思わぬ所で答えを得たバジルであったが今度はこの卵の扱いについて悩まされる事となった。
売り払って旅の資金にするか?それともアルミンの魔力を借りて孵化させてみるか?
孵してどうする。育てるのか?親を殺した張本人の俺が?
本来ならここまで悩む必要もない事柄なのだが、いかんせん竜と対峙した際魔物達であっても家族の絆がある事を垣間見てしまったのがバジルを悩ませていた。
脳裏に浮かぶのは死んだ番いの亡骸を守る様に立ち塞がる一頭の竜。
自分の中で何が1番大切なのかは理解している。その優先順位も。
それを守りために必要であるならば俺はどんな事だってしてみせる覚悟がある。だがこれは…。
信念はある。しかしこうありたいというポリシーも持っている。
今回はこの2つが相反する結果となっただけの事だ。
俺はどうするべきなのか。
トワイアの元に戻るという信念の元家族に慈愛を向ける竜を殺した。しかし残された子を手にかける事には躊躇している。
命を選別するなんて所業はまるで神じゃねぇか。能無が笑わせてくれるぜ。
そう高笑いしながら自分がこちらを指さすのを幻視した。
悩んだ結果も取り敢えずアルミンに卵を任せるという現状維持なんてお粗末な物だ。
今まで自分は物事を即座に自分の心に従い決めてきたと思っていたが、どうやら際どい判断では優柔不断になってしまうらしい。
本当に嫌になってくる。
♢
揺れる馬上でバジルは卵から産まれて来るであろう稚竜の事を考えていた。
アルミンの魔力を吸って生まれてくる命は、一体どんな形をしているのだろう。親を殺した俺を恨んでいるのか。
命を襲いかかってくるのならバジルは何のためらいもなく引き金を引くだろう。しかしその心にのしかかる疑問や罪悪感はまた別問題だ。
わざわざ孵して苦しみを与えるくらいなら、今、この卵を割ってしまった方が幸せなのではないか。
卵を拾った時にも考えた事だが、現在卵がアルミンに抱えられている時点でそれは出来なかったのだと誰もが分かる。
ギリッと奥歯を噛み締め手綱を握る手に力を込めた。
俺はただ、弟と暮らしていけたらそれで幸せだったのに。
次から次へと体を縛るしがらみが増える事にバジルは心の底からウンザリしていた。
荒野を進み暫くして朽ちかけの表札を通り過ぎた所で、気分を害し俯いていたアルミンが始めて反応らしい反応を示してきた。
「今の表札…リイズと書いてなかったか?」
「それが何だよ」
「気のせいで無ければあのライドウとかいう男がその街を経由するルートには行くなと言ってなかったか?」
確かにライドウはそう言った。
奴隷狩りが出没するからだと言っていたが今の俺に回り道をする選択なんて存在しない。
あの気のいい男の気持ちを無下にするのは忍びなく思うが一刻も早くトワイアに会うことの方が大切だ。そのためだったら奴隷狩りだろうが何だろうが相手にしてやる。
ズシリと重さを増した様に感じるコンテンダーとリボルバーの存在を気にかけながらバジルはリイズへ向け馬を走らせた。
「何にも起こらなければ良いけどな」
そんなアルミンの呟きは蹄が地面を蹴る音に消えていくのだった。
よろしくお願いいたします!




