プロローグII
本日より第2章が始まります!
暗い道を歩んで来た。
長い間ずっと、先も周囲も見渡せない程の暗闇の中を進んで来た。
光を知らないかと言われればそれは違うけれど、その幸せであった筈のひと時は遥か遠く、手を伸ばそうともう届くことは無い。
脚に繋がれた鎖。
それが今の私にある全てだ。
嬲るような目で。
他者を見下す笑みを浮かべたその口で。
嘲るような言葉で齎せられた物が私に与えられる全てだ。
そんな世界に身を置いて既に何年経っただろうか。
以前持っていた物は全て奪われた。
今頃どうしているのだろうか…。私と同じように苦しんでいたりするのだろうか。
もしくは幸せになってくれているのだろうか。
頭に浮かぶのは大概共に地獄を歩んだ母親1人だが、ふと他にも浮かぶ事もある。
それは2人、細く不健康に痩せ細った男とその頼りない手をヒシと掴む自分とそう歳の変わらない少女の存在だ。
家族…だったらしい。自分もその頃はまだ幼く、事情は飲み込めていなかったが今ならそれが再婚だという事だと理解できる。
元々の父親の事は知らないし何故自分達の様な存在が故郷を離れてこの者達と家族になった経緯も分からない。
しかし母と2人で旅をしていた時も、新たな家族と共に食事を囲んだ記憶も私にとって、確かにそれは幸福だった。
しかしそんな過去に思いを馳せる事も最近は随分と少なくなった様な気がする。
比例して絡みつく鎖の重みもジワリジワリと増し、その数を増やしていった。
実際は数年前から変わらず錆びた鎖が足へと繋がれているだけで、重さも数も変化は無い。全ては私の錯覚でしか無いのだけれど、身体中を蛇の様に這う鎖を私は確かに幻視している。
重く纏わりつく鎖が増えるごとに私は何かを失って行った。
私にとって1番大切な事は何か。
それは主人からの命令だ。
以前の自分であれば全く別の事を答えていた筈だが、今はそれ以外に思いつかない。
二束三文で売られ、奴隷の証を体に刻まれ、主人の命令に背く事は許されない。
それが私達『奴隷』だ。
聞いた話だと私は随分と値の張る奴隷だったらしい。そのおかげで今まで性処理に使われる事は避けられたが、主人に私と同郷の者が見つかった時繁殖させると聞かされた時はつくづく自分に人間としての価値など無いのだと教えれてしまった。
…今も主人が呼んでいる。奴隷に休息の時間などありはしないのだ。
今日は何の仕事だろうか水汲みか、買い出しか、家畜の世話か。
私は銀狼族、任されるとしたら力仕事が中心だろう。それか荒事…。
必要であれば鉄塊だろうが大の大人よりも巨大な馬だろうが持ち上げてみせる彼女だったが、命令のままに誰かに害をなす事だけは未だに躊躇していた。
それもその内消えるのかな。
主人の元に向かう女性は鎖が繋がれている左足が酷く重く感じた。




