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閑話の様な本筋 2

閑話2話目です!

一章本編の方も細かいミスなどを随時修正しております!

 悲しみの果てに居ても人は腹を空かせるのだと気怠げに身を起こすトワイアは知った。


 喉がひりつき、吐き気は未だ覚えているが吐き出せる物など腹の中には残っていない。


 ヘンリーと会話をしてからトワイアはしばらく部屋に引きこもっていた。


 窓から漏れていた光が2回ほど通り過ぎていたことから二日近くの期間何も口にしていない事が分かる。

 一応使用人らしき人が部屋へと食事を持って訪れてはいたのだが、その時の自分は誰とも会話する気が起きなかった為追い返してしまったのだ。


 今はそれを少し後悔している。


 二日という時間は悲しみに暮れていたバジルに、考えることが出来る程度には余裕を取り戻させるには充分な期間だった。


「兄さんが死んだ」


 そう端的な事実を口にすれば、ストンと納得してしまう自分がいる。

 認めたくは無いが魔物が溢れ、竜が暴れている村に一人飛び込んでいった兄が生き残る事は難しいと、認めたくなかっただけで初めから理解していたのだ。


 そしてそんな無茶を兄に強いてしまった理由は何なのかを思い出し、再び充血したままの眼から涙を流す。


(お墓を作ろう。兄さんやヤコさん、みんなのお墓を作ろう)


 村の全員が死んでしまったなら残された自分がその最後の仕事をするべきだろう。


 大切な人達の死を飲み込めた訳では無いが、今は自分に出来る事をしようと思うトワイアはベッドから降り床に足を下ろす。


「…?」


 そこでトワイアは少しの違和感を感じた。


 トワイアは2日近くの間飲まず食わずでベッドの上で過ごしている。

 ならば栄養、運動不足により体に倦怠感や疲労感によりフラついてしまうのが道理なのだが、トワイアの足取りは実にしっかりしていた。


(お腹は減ってるけど、体の調子はとても良い様に感じる…僕はそれ程体力がある訳じゃ無かったのに何で…)


 己の手の平を見つめるトワイアに村で気を失う前の記憶がフラッシュバックする。


 魔法を使ったあの時、自分の中で()()が外れた様な感覚あった後、自分でも抑えきれないくらいの魔力が溢れ出したのだ。


 思い出したトワイアは己の体に宿っているであろう魔力へ意識を向けると、以前の自分の物とは比べ物にならない程膨大な魔力が渦巻いているのを感じるが、村の時とは違いそれは随分と安定している様にも思える。


 トワイアの体に衰えが無いのはこの凄まじい魔力が主人に馴染んだことによって体内機能を補っている事が理由なのだが当の本人はそんな事はつゆ知らず、只々自嘲していた。


(この魔力があの時使えたらみんなを救えたのかな)


 そう考えたところで首を振る。


(いいや、たられば何て考えたってしょうがない…今僕がやるべきなのは村に帰ってみんなを弔ってあげることだけだ)


 ノブに手を掛け、トワイアは遂に沈黙を破り部屋の外へ足を踏み出した。


 ♢


 扉を潜ると、広く長い廊下が広がっていた。


 そこは飾り気が無く、簡素に見える空間だったが、窓から差し込む計算された朝日の角度やシミひとつない清潔な壁や細かい装飾で彩られた照明器具などから設計した人物の品の良さと清廉さを窺わせる。


(そう言えば…ここは王都らしいけど窓の外の景色はまだ見てないな)


 久々に感じる太陽の光に目を細めながら外を覗いてみると、そこには生命の輝きに満ち萌える草花で溢れる美しい庭園が広がっていた。

 庭園を挟み大きな建物が二つ聳え立っている。広大な土地を有している事からここが只の王都にある宿屋という線は消えた。


 その光景に暫し目を奪われたトワイアだったが自分が何の為に部屋を出たのかに思い至り清潔な廊下を進む。


(取り敢えずヘンリーを探して…村に戻る事を話そう、それから…)


 これからの予定に考えを巡らせているトワイアの目の前を一瞬、赤い光が通り過ぎた。


 フワフワと揺れながら飛んで行く小さな発光体を目で追っていると廊下の曲がり角の所で一旦停止する。


「付いて来てって事…かな?」


 そう言うと発光体が上下に揺れる。心なしかそれは嬉しさを表現している様にトワイアには感じられた。


 トワイアにはやる事があったがこの時は何故かこの発光体を追うべきだと思った。


 導かれるままに見慣れぬ建物を進んでいると中庭らしき区画へと出た。中庭は外の庭園とは違い花などは植えられておらず地面が剥き出しの殺風景な様相が広がっている。

 その中で何やら集団が抗議の様な物が行われていた。


 ここまで歩いて来て充分に分かった事だが、この敷地はどれだけ広いのだと関心を通り越して呆れさえ覚える。


 立ちぼうけになっているトワイアに気づいたのか集団の中からキンキンと耳障りな声が上がった。


「キャアアアア!!何あのイケメン!!金髪に碧眼!?超タイプなんですけど!」


 その声を皮切りに集団の意識がトワイアへと向けられた。

 突然視線が集中しウッと声を詰まらせるが駆け寄って来た存在によって逃げることも儘ならなくなってしまう。


「ねぇねぇ貴方誰?パーティーの時は見かけなかったけど…そうだ!貴方もアタシの従者になってよ!!ね!決まり!」


 目の前で濁流の如く喋り続ける少女に圧倒されているトワイアだったが、その少女の特徴が自分の見かけたことのない人種だということに気がつく。


 黒い艶やかな髪は普段から見慣れていたが鼻の高さや堀の深さなど顔立ちが全く違う。


 資料や話などに聞いていた東方にある国の人々の印象に近い様に思えた。


 見れば集団の全てが黒髪に黒目といった共通点や妙な連帯感を持っている所からこの者達が故郷を同じくしている事が分かる。


「聞いてんの?ここではアタシの命令は絶対なんだから」


 無視されていると感じたのか少女は不機嫌を露わにしてトワイアへと迫った。


「あ、ああすいません…でも僕にはやる事があるので従者というのはお断りさせて貰います」


 意識が追いついたトワイアが放った言葉に少女は一瞬何を言われたのかわからないという様に呆けた表情を浮かべた後、顔を真っ赤にして烈火の如く怒り始めた。


「はあ!?アタシ勇者なんだけど?態々来てやってるのにその言い草は何!?ねぇヘンリー、コイツに説明してやんなさいよ!!」


 名を呼ばれたヘンリーが集団の中から顔を覗かせる。

 先ほどの光はどうやら僕がヘンリーを探している事を察してここまで案内してくれたらしい。


 それにしても今の言葉の中に気になる単語があった。


 少女は勇者と言った。


 元々自分以外に勇者の候補がいるとは村で話し合っていた際に聞いていたが彼女がそうなのだろうか。


「部屋から出ていたのですねトワイア様。気が付かず申し訳ありません」


 仲裁に入ってくれるのかと思いきや少女を無視する形でトワイアへと礼をするヘンリーに少女は更に憤慨する。…この男はわざとやっているのではないだろうか。


「ちょっと!!なんでアンタまでアタシを無視すんのよ」


「ミエ様、この方はあっしが個人的にお招きしているお客様でして従者にする事は出来ないのです。ご理解ください。勿論ヒッコリー大統領の了承も得られています」


 この国を取り仕切る人物の名を出されてトワイアの方が固まってしまうが、ミエと呼ばれた少女の方は例から漏れる様で尚も飄々としているヘンリーへと噛み付く。


「そんなの知らないわよ!」

「ミエ様…どうか落ち着いて下さい」「そうです私達が居るではありませんか」


 集団の中から黒髪黒目の者達とは違うこの国ではよく見られる顔立ちの青年たちがミエという少女を落ち着かせるため駆け寄って来た。


 怒れる少女を宥めている青年は3人ほどだったが全員見目の整った男で構成されている所を見るに、この少女が言う従者というのは己を取り囲むハーレム染みた物を構成するための要素なのだろうと見当がつくが自分がそんな物に勧誘された理由が分からないトワイアだった。


 兄のバジルや両親生前の写真から分かる通り、美人美丈夫の遺伝子をトワイア自身もしっかりと受け継いではいたのだが本人にはその自覚がない上、故郷の村ではキャラクターの濃い兄がいたおかげでそこまで目立つ事もなかったからだ。


 そこでふとミエの取り巻きの一人とバチリと視線が合う。


 初めは己の主人が関心を示した相手へ警戒心を示す目線だったが、トワイアの顔を凝視するにつれてその表情から顔色をなくして行く。


「勇者様…」


 ボソリと呟かれた単語はエミという少女では無く、トワイアに向けて発せられていた。

 その事にエミや、黒髪黒目の集団も気づいた様でザワリと先程とはまた違った騒めきにその場が満たされる。


「違います!僕は…」


「ミエの悪い癖がまた出たのかと思ってたら…お前がそうか」


 反射的に勇者だと言われた事に対し否定をしようとしたトワイアだったがまたもや集団の中から発せられた言葉に遮られてしまった。


 集団の中から1人跳躍しトワイアとエミ達を遮る様に着地したこの者が先の言葉を口にした人物の様だ。


 例により黒髪黒目のトワイアと同い年くらいの少年は黒地の詰襟の服を身につけている。

 着地の際に舞ったであろう砂ほこりを何とも芝居のかかった仕草で払う様子をエミという少女は冷めた目で見ていた。


「ヤマネ?まだアタシが話してんだけど?」


「それは済まなかった、あとで埋め合わせをするから今だけは譲ってくれ」


 ヒラリと手を振る少年にエミは目を細める。


「ホント()()()に来てから鬱陶しい性格になったわよねアンタ」


「それはお互い様だろう?」


 気障ったらしくウインクをかますヤマネという少年をみてエミはウゲッと心底不快そうな様子を露わにした。


 この意味の分からない状況をどうにかして欲しいとヘンリーを横目で見ると、いつもの胡散臭げな笑みを浮かべて黙っているのでこれは当てにならないと察したトワイアは逸早く行動に移る。


「すいません…気分が優れないので部屋に戻らせてもらいます」


 勇者の話など気にならないと聞かれれば嘘になるが、所詮自分には関係のない話だと割り切りさっさとその場を去る事を選んだトワイアであったがヤマネという少年がそれを許さない。


「まあ待てよ。俺達は異世界から態々呼ばれて来た召喚勇者なんだぜ?もう少し敬いって物があってもいいんじゃないか?」


 トワイアの肩を掴みニヤつくヤマネという少年。


「召喚勇者?」


 聞き慣れない単語に思わず聞き返してしまったトワイアだったがそれがまずかった様で、ヤマネは小鼻を膨らませながら誇らしげに語り出す。


「そうさ!俺達はこことは別の世界から勉強中の教室にいた全員がいきなりつれてこられたんだぜ?40人近くの人間を問答無用で拉致して来たんだからもう少し誠意があってもいいだろ」


 確かに言葉だけ見れば同情するに値する内容ではあるしこの国の方針に疑問を持つ良い判断材料にもなる。


 しかし、彼の、ヤマネという少年の表情からはこの世界に来た事はとても喜ばしい事だと考えている節がある。そしてきになる事もいくつか。


「つれてこられた人数の割に随分と少ない様ですが?」


 ヤマネは40近くと言っていたがこの場にいる彼の同郷らしき人物は精々20人程度だった。


「ああ、ここに来た奴らは俺みたいに()()人間だけではなかったものでね…嘆かわしい事に与えられた自室や書庫に篭りきりになっている奴も多いのさ」


 確かに突然知らない土地へと連れ去られたのなら、精神的にショックを受ける者がいるのも無理はないだろうと思うのと同時にこのヤマネやミエは何故ここまですんなりと順応が出来ているのだろうかと疑問を覚え、実際に尋ねてみた。


「別に、俺達は事前に()()()()()()()()と知っていただけさ。まあ、中世ヨーロッパ的な世界じゃ無くて魔法が広まってる西部劇の世界って事までは予想してなかったけどね」


 肩を竦ませるヤマネは無駄話は終わりとばかりにトワイアへと距離を詰めてくるがヘンリーが立ちはだかった事で道を遮られてしまう。


「何をするおつもりですかぁ?」


「いや何、この世界の現地勇者様がどれほどの物か試してみようかと思ってね」


「トワイア様は勇者ではありませんよぉ、今は諸事情があってここに身を寄せているだけです」


 自分を庇うヘンリーを意外そうにまじまじと見つめながらトワイアは、やはり面倒な事に巻き込まれたのだと確信した。

 世界を救いにやって来てくれたらしい人物に失礼な態度を取るのは偲びないが、今はそんなものよりも故郷の村が気にかかる。


「ヘンリーさん、僕は村に帰ろうと考えているのですが馬車を手配してもらう事は可能でしょうか。代金については村に着いてからお支払いします」


「んー?…村に帰るおつもりですか?それはおススメしませんよぉ。今がどんな状況かも分かりませんし、恐らくショッキングな光景を目の当たりにする可能性があります」


 彼の言うショッキングな物というのは、兄や知人達の遺体の事で間違い無いだろう。

 ギリッと奥歯を噛み締め俯く。


 分かっている。承知の上だ。


 自分だって絶望的だとはいえこのまま兄の生死をうやむやのままにしていた方が精神的には幾分か楽ではある。

 しかしもし兄があの村で命を落としていたら?弔う者が存在せず、その体を魔物達に啄ばまれたり、怨霊が入り込んでアンデットにでもなってしまったら?


 考えただけで気が狂いそうだ。


 恩返しが出来なかった兄の体まで満足に埋葬してあげられないなんてとても耐えられそうにない。


 トワイアの瞳を見て引く気がない事を感じ取ったヘンリーは顎に手を添え何やら考え込み始める。


 ただ視線を送るトワイアと考え込むヘンリーとの間に生まれた静寂を破ったのはヤマネ少年だった。


「へえお前勇者のくせに魔物から村守れなかったの?現地勇者って大した事ないのな」


「僕は…勇者なんかじゃありません」


「でもこの首都からずっと勧誘の為に使者を出してたって話聞いたけど?」


「それだってずっと断って来ましたし元々僕にそんな力はありませんでした」


「今はあんの?」


「…」


 否定は出来ない。実際自分の中を今までとは一線を画す量の魔力で満たされているのを感じている。


 ここで嘘をつくのは簡単な筈なのだがトワイアの生来の真面目さが沈黙という行動を咄嗟にとらせてしまう。

 これは肯定だと思われても仕方がない。ヤマネはやはりと笑みを深めた。


「比べてみようぜ。俺とお前、召喚勇者と現地勇者の力を」


「なんでそんな事を…」「面白そうですねぇ。やりましょうか」


「!?」


 突然のヘンリーの裏切りに目を剥くが自体はもう止まらずあれよあれよと言う間に準備が整えられてしまった。


 場所は変わらず中庭だが黒髪黒目の集団とヘンリーを背にして自分と、ヤマネと名乗った少年が魔法の試し撃ちに使うらしい魔導カカシとそれぞれ向かい合っている。


 ヤマネは相変わらず自信ありげな表情を浮かべており思わず溜息をこぼしてしまう。


(何やってるんだろ…僕は)


 大切な人達が亡くなって、悲しみに塞ぎ込んで、思いつきで部屋を出てみればトラブルに襲われている。

 兄が死んだのも自分のせい。


 その事実がふと改めて自分にのしかかり肩を震わせ唇を噛む。


 そんな風に俯いているものだから近づいて来たヘンリーに気付かず渡された物体を取りこぼしそうになってしまう。


 慌てて握り込み確認すると、それはあの村でトワイアの命を救った特徴的な作りをした魔法触媒だった。あの時に比べ磨き抜かれたように輝きを放つそれとヘンリー

 の顔へ交互に視線を向けた。


「何のつもりですか?」


「勝負に乗ってくださればあの村へ行く馬車を手配しましょう。それに、ここで力を示しておけば無駄に絡まれる事も無くなるでしょうし悪くない話だと思うのですが?」


「…本音は?」


「面白い物が見られそうだなぁと」


「・・・」


 しかしヘンリーの言う事にも一理ある。すぐにここを発つつもりとはいえ一々絡まれていては気が滅入ってしまう。


 トワイアに攻撃魔法の心得は無いがオークロードを屠ったあの魔法が使えれば問題ないだろうと考えていたら、ヘンリーが黒髪黒目の集団に向かいながとんでもない事を呟いた。


「その触媒にはもう魔法は宿っていないので本当にただの杖でしかないのですが頑張ってくださいね」


「えぇ!?」


「貴方様は勇者です。安心して()()()()()()()()


 言うなりヘンリーはトワイアの制止も聞かず集団の中へと消えていってしまった。


 狼狽するトワイアの背後で凄まじい熱風が吹き荒れる。


 どうやらヤマネが中級程度の炎魔法を放ったらしい。

 魔導カカシが魔法の猛威に晒されて黒焦げていた。


 転移する前は魔法とは縁のない世界だった為習得を始めたのはほんの数週間前からだと言う。それでここまでの魔法を身につけるのは隔絶した才能とちーと?があるからだと本人が声高らかに説明してくれた。


 どちらにせよ自分に攻撃魔法の知識はない。


 このまま何もせず終了かと空を仰ぎ見ると、自分をこの中庭まで導いてくれた赤い発光体がフヨフヨと飛んでくるのを見つけた。


 それはトワイアの顔の横に停滞し何かを囁いてくる。


 この異様な存在を誰も知覚していないようで反応を閉めすのはトワイア1人であった。


 囁きを正確に聞き取ったわけではない。

 しかしその『意味』はしっかりと彼の心に伝わった。


「精霊の赴くままに」


 数分前のヘンリーの言葉が蘇る。


「じゃあ、君が?」


 トワイアがそう言うなり光が嬉しさを体現する様に上下に激しく揺れた。


「なら本当にこれだけで僕は攻撃魔法が使えるの?」


 半信半疑ながらトワイアは精霊と思しき存在から賜った知識を持って体内の魔力を操り、その名を口にする。


炎弾(フレア)


 その場にいた者達が見たのは一瞬の目がくらむほどの輝き。そして轟音と共に魔導カカシごと中庭の一角を消しとばす大爆発であった。


 本来炎弾(フレア)と言う魔法は拳大の炎の塊を撃ち出す初級魔法に過ぎない。殺傷能力に至ってもたかが知れている筈なのだが、トワイアが放ったものは魔法を嗜む全ての人間の常識から外れていた。


 直撃を食らった魔導カカシは跡形もなく消え去り、存在したであろう場所はクレーターのように落ち窪んでいる。爆発の余波で近くの壁が崩れかけている事がその威力を物語っている。


 黒髪黒目の集団も、この勝負の相手であるヤマネという少年も、取り巻きを含めたミエのグループも揃って口をあんぐりと開けている。


 だがこの場でこの結果に何より驚いているのは他でもない。トワイア自身であった。


「な…にこれ…」


「っつ!!!無自覚系のチート主人公なんて今時ありふれて流行らねぇよ!!」


 訳のわからない事を叫びヤマネは何処かへ走り去ってしまった。他の同郷の者達もトワイアに接触しようとする者はいないようでそのまま中庭を後にして行く。


 茫然と立ちつくすトワイアの内心を占めているのは凄まじい魔法を使った爽快感でも、いけ好かない人物を打ち負かした高揚感でもない。


 只々恐怖していた。


 自分の力に。勇者として生きるのだとしたらこの力を他の命あるものに向けなければいけなくなっていた事実に。


(こんな力…僕の力じゃ無い。こんなのは…っ)


 無邪気に顔の付近を飛び回る精霊らしき発光体にさえ今は怖気を抑えきれない。


 最早この場には己の肩を抱き震えるトワイアとそれを胡散臭げな笑みを浮かべて見つめるヘンリーだけが残されていた。


 するとそこへ1人の皮ベストを着込んだ青年が走りこんでくる。

 彼はヘンリーに用があったようで彼に敬礼した後報告をした。


「何ですって?トワイア様の兄と名乗る人物が面会に来ている?」


「っ!!!!」


「はい!現在は敷地の門の前でお待ち頂いて…勇者様!?」


 報告を続ける青年とヘンリーの横を勢い良く通り過ぎ、トワイアは兄が待っているらしい門へと向かった。


 やっぱり兄さんは生きていた!話したい事が山程あるけど今は兄の手料理が無性に食べたい。そんな気分だった。


 喜びと安心の笑顔を浮かねながら廊下を駆け抜けて行くトワイアの背中を男は胡散臭い笑みに表情を歪めながら見つめていた。












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