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20話 抗いの末に

本日1話目です!

 極限の集中状態により生まれた永遠にも思える時間が幕を閉じた。


 そう気づけたのは手にリボルバーの重みを感じたからだ。


 体はある。命は消えていない。


 理解したバジルへと緊張の糸が切れた事でドッと疲労感がのし掛かる。


 身体中を襲っている痛みも思い出しフラつく足へ喝を入れ、どうにか倒れ込む事は堪えたバジルは決闘の相手であるレッサーアースドラゴンへと視線を向けた。


 どちらかが必ず死を迎える一騎討ち。


 バジルが未だ生きているという事はつまり、アースドラゴンが敗北し死をもたらされた事に他ならない。


 直立のままガクガクと痙攣し続けるアースドラゴンはドロリと桃色に泡立つ内容物を鼻や眼孔などの隙間から垂れ流している。

 一際大きくビクリとその巨躯を震わせた後、竜は崩れ落ちる様にその場へ伏した。


「勝った…っ!!」


 絞り出す様にしてその確かな結果を口にする。


 倒れたアースドラゴンの頭部が血と臓器が入り混じる液体がヌメり、湯気が広がる。

 不快な竜の死の臭気が充満するが多大な疲労と竜殺しのちっぽけな達成感に酔うバジルには大して気にならなかった。


 鱗や頭蓋の強度は超えられなかったが、そのおかげで魔鋼同士の爆発の威力を余す事なく頭の中で堪能出来たであろう竜を見てほくそ笑む。


 流石に竜といえど脳味噌や神経、肉や血液を一緒くたにシェイクされてしまっては生きてはいられまい。


 竜に外傷は殆どないがその実頭の部分に詰まっているのは徹底的な撹拌された臓器のジュースだと誰が分かるだろうか。

 ましてやその竜殺しの偉業を成したのが誰もが蔑む能無(ノーム)という矮小な存在だという事を誰が想像するだろうか。


 しかし彼を賞賛するものなどこの場には誰一人としていない。あるのは村の外周部に陣取る魔物達か、知人の骸達だけである。

 竜を殺してもやるべき事はまだまだ山積していて一息つく暇さえ与えてはくれない。


 そしてふとバジルは妙な違和感を感じた。


(魔物が怯えていて村に入ってこないのはアースドラゴンに怯えていたから…なら)


 首の後ろがチリチリとひりつき、心の中の俺が警告してくる。

 気をぬくなまだ終わってはいない。と。


 (何で奴が死んだのに村の中が静かなままなんだ?)







 刹那、世界が白く反転した。


 空が嫌味な程青くて、綺麗だった。


 ふとそんな感想を覚えるバジルだが倒壊した家屋へと叩きつけられ即座に現実へと引き戻される。


 何が起こったのか。薙ぎ払われたのだ。


 何に?強靭な尾に。


 何の?決まっている。


 自問自答の末、重さを増した瞼をどうにか開くとそこには竜がいた。


 バジルが先程倒したのとはまた別のアースドラゴンがその巨体で同胞を守る様に立ちふさがってる。


「そう…言えば番いだった、な」


 思ったように声が出ない。


 バジルは再び絶望を前にしつつも観察は怠らない。

 地面にポッカリと空いた大穴から這い出てきたらしい新たなアースドラゴンは随分と消耗している様にも見える。


 竜の一撃を受けてもバジルがどうにか命を繋いで入られたのはそのおかげだろう。

 しかしそれでもその衝撃が普通の人間の強度しかないバジルへと与えた被害は相当なもので、只でさえボロボロであった体は最早一歩も動けない位に壊れていた。


 暴虐の主であるアースドラゴンはというと、物言わぬ死体と成り果てた連れ合いに鼻先を押し付けている。その行為は別れを惜しむかの様な、我が子を慈しむ様な慈愛に溢れた竜の思いを表していた。


 そんなものを見せられては若干の後ろめたさを感じなくもないバジルだったがやがて向けられたアースドラゴンの瞳を見て息を呑む。


 憎しみ。


 両の目に宿っていたのはそれだけだった。

 当たり前だがパートナーへと向けていた時の慈愛の色は一切浮かんでいない。


 兎にも角にも、このままジッとしているわけにはいかないと身を起こそうとするバジルであったが溶けた鉛が纏わり付いたように重く熱を発している体は全く言う事を聞かず立ち上がることさえ出来なかった。


 利き腕は辛うじて動かせるがそれ以外は意思の通わない糸が切れた人形みたく放り出されたままの四肢を見てゾッとする。


 まともに動かせない体。村を取り囲む魔物達。自分を激しく憎んでいるドラゴンの存在。


 絶望するには条件が揃いすぎている。…だが。


「それが、どうしたってんだ…ガボッ」


 血痰を吐き出し震える指先で撃鉄を起こす。


 寒い。


 自分の命が刻一刻と死に近づいて行くのを感じる。


「それがどうした」


 同じ言葉をハッキリと、今度は確かに口にする。


 まだ弾丸は2発残っている。ならば先程と同じ方法でこの竜も殺せばいい。


 扱い慣れたリボルバーの重みでさえ億劫に感じてしまう今のバジルは側から見れば死に損ないの弱者でしかないのだが、本人は諦めるどころか寧ろ一層に闘志を滾らせていた。


 恐怖に足を竦ませる段階はとうに過ぎた。

 最早バジルはヤコの思いやトワイアを置き去りにして死んでなるものかという一心のみで意識を繋ぎとめている。


「お前の嫁さん…旦那?まぁどっちでもいいけど、こっちも必死だから勘弁してくれよな」


 言葉を理解しているのか定かではないがアースドラゴンの怒りが更に高ぶるのを肌で感じた。


 貴重な弾だ。1発も無駄に出来ない。


 目を血走らせるアースドラゴンへ向け銃を構える。身につけた魔望鏡がまだ動作している事を確認しバジルは眼球を狙い引き金を引き絞った。しかし。


「…?」


 リボルバーから魔弾が放たれる事はない。尻尾を振りぬかれた際に弾倉の部分に異常をきたしてしまったようだ。

 幾らシンプルな構造で丈夫なリボルバーといえど火力の段違いな魔弾の使用や、魔物やアースドラゴンとの連戦などの無理を重ねればこうなってしまうのも無理はない。


 だがそれは今のバジルにとってあまりにも残酷な事実だった。


「クソッ!!お前が先に死んでどうすんだ!!!」


 使い物にならなくなったリボルバーから残りの魔弾を取り出し、使う事は無いだろうと考えていたコンテンダーへと手を伸ばす。


 コンテンダーは中折式単発装填という普段愛用していたリボルバーに比べると何とも扱い辛い銃ではあるのだが幅広い弾丸に対応し、高い精密性を有していると祖父から聞いていた。


 一応使い方に関してのレクチャーは受けていたのだが、このコンテンダーの特徴ともいえる弾丸の装填方法に苦戦する。


 銃身と本体のフレームを接合する蝶番のピンを外し弾を装填するのだが体が思うように動かず片手のバジルには少々難易度が高い。


 バジルが手間取っている間にアースドラゴンはブレスを吐き出す準備を整えてしまう。

 増大する魔力を見たバジルは装填を急ぐが片手ではどうにも上手くいかない。


 何故祖父はこんな面倒な銃を使っていたんだと憤るが、無慈悲にも縁談は放たれた。


 体は動かせず魔弾の用意も未だ出来ていない。


 理由は分からないが新たなアースドラゴンは弱っていた。尾の一撃の様にブレスの火力も控えめであったらいいなと願うバジルだったが真近に迫る炎弾をを目にしてその考えを改める。


 多少勢いが削がれていたとしてもその1発はバジルの命を刈り取るのに充分な威力を備えている事を察してしまった。


 それでも身を捩り直撃だけは避けようとするが一向に体は言う事を聞いてくれない。


 しかし痛みに喘ぎ声は出ずともバジルの生き残ると言う意思はまだ消えていなかった。

 どう見ても詰みだといえるこの状況で生にしがみ付くバジルを見て人は何を思うのだろうか。


 ある者はそれに異常性を見出すだろう。


 ある者はそれを滑稽だと笑うだろう。


 ある者は憐憫の情を催すだろう。


 大半はこの何れかだが女性の様な見た目の青年に竜が熱い吐息を吹き付ける光景を見守る1人の影はこれらとは全く別の事を考えていた。


「及第点だな」


 そう呟いた影は()()()ブレスとバジルとの間へと降り立った。




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