18話 閑話の様な物の始まり
本日1話目です!
よろしくお願いします!
「お帰りなさいませ。お怪我はありませんか?」
怪我などするはずがないと知ってはいたが職務に忠実なペインは敢えて問いかける。
豪奢な作りの馬車に近付く魔物やそれ以外を斬り伏せながら主人の帰りを待っていたペインは彼の持つ2つの荷物を見て形の良い眉を歪めた。
「トワイア様と…そちらの方は村長の息子ですね?」
「ええ、存外に使えそうだったので持ってきました」
犬猫の様にそんな事を宣う上司にペインは思わず軽蔑の視線を向けそうになり慌てて首を振る。
「不満そうですねぇ」
尤も、上司にはそんな事はお見通しだった様で何が愉快なのか笑みを浮かべそんな事を言われて仕舞えば気まず気に視線を落とすしかない。
しかしいつまでも此処にいる訳にもいかない。目的は果たしたのだ。荷物を詰め込み出発の準備を整えるのが今の自分の仕事だと考えることにしたペインはせっせと無心で体を動かす。
そこへ魔物達の物とは違う声と足音を響かせた集団が近づいてくるのに気づく。
どうやらそれは逃げる算段を失った村人やキャラバンの商人達らしく、ペインは命令を思い出し顔から表情を消し腰の西洋剣へ手をかけるがそれを振るう機会は主人のヘンリーによって失われてしまった。
助けを求めていたのか、それとも馬車を強奪しようとしていたのか、何かを喚き近づいてきた群衆はヘンリーが小さく何かを呟き手を軽く払う。たったそれだけの動作を皮切りに走ってきた勢いのままバタバタと倒れていく。
倒れていった物達の顔を見れば転倒の拍子に怪我を負っているのにもかかわらず一様に穏やかな寝息を立てていた。
相変わらずの上司のお手並みに感心しながらも殺傷ではなく、睡眠という手段を取った事を訝しむ。
「万が一死体が残って毒なんて見つかったら面倒ですからねぇ」
そう言いながら懐から睡眠薬や水銀、首飾りを模していたケースに収められた興奮作用のある麻薬など様々な薬品や液体が収められた容器を馬車内の廃材置き場へ投げ入れ新しいものと交換した。
「この村は魔物達に襲われて滅びた。それが1番大事なんですから」
トワイアを丁重に、カーリーを無造作に馬車へと放り込み自らは手綱を握る御者の隣へ腰を下ろす。
「隣町へ向かってください」
御者にそう告げるヘンリーは既にこの村への関心を失っている様で視線は村を取り囲む魔物達へと向けられている。
この村の中にはとある化け物が放たれているうえ外は弱いが大量の魔物達に包囲されていた。
我々ならば突破は容易いが生き残りの村人達や仲間を失い満身創痍の開拓者達では生き残るのは不可能だろう。
となれば主人が今隣町へ赴こうとする理由など分かりきっている。
徹底的に今回己が立てた筋書を遂行するつもりならばあの男の殺害は必要不可欠のことだ。
自分は国に魂を捧げた身であり、この手だって何度も血で汚してきた。この村でだって何人もの罪のない人々を切り捨ててきた。
確かに主人の言う様に自分は潔癖なのかもしれない。
青臭い時代など等に過ぎ、人を斬る際にも顔色1つ変えなくなってもこんな質問をしてしまうのだから。
「こんな、大掛かりな事をする必要があったのですか?」
「私の脚本は気に入りませんでした?本職ではないのでツメが甘いのは分かっていますけどねぇ」
事もなげに自分がこの村を滅ぼしたのだと告げる上司をペインはまるで彼が自分とは違う生物なのではないのかと錯覚をしてしまう。
「折角の勇者誕生なんです。派手な方がいい。魔物の襲撃、家族や大切な人の喪失、オークや上位種じゃあ少し見劣りするので取って置きも用意しました。後に残るのは魔物を恨む1人の少年」
農村に住む子供が家族の仇を取る為旅へと出る。
ありきたりな物語だ。
「ああ…面白くなりそうだ。実に楽しみですねぇ」
胡散臭く笑うヘンリーにもう何を言うことはない、と荷台に乗り込み目を瞑ると村を取り囲む魔物の集団の方から破裂音が聞こえた。
それは最近めっきり聞こえなくなっていた銃声だと言うことに気がついたのはこれから殺しに行くつもりだった青年の顔を思い出したからだ。
「おや…どうやら彼が随分と早く戻ってきたみたいですねぇ。隣の街のは寄らずに済みそうです」
顎に手をやり何やら考え込んだヘンリーは少ししてペインに対し指示を出す。
「王都へ帰ったら奴隷を見繕ってください。念のため男女数名用意しておきましょうか、それとライトニングの招集もお願いします」
「かしこまりました」
「何故」とは聞かない。
意図のわからない指示に戸惑ったとしても命令ならば従うまでである。
「保険ですよぉ」
もしかしたらもっと面白いことになるかもしれない。そんな上司の呟きはペインの耳には届かず、騒がしい周囲とは反対に異様な静けさに包まれた村に溶けていった。
♢
砂埃が舞い、様々な魔物がひしめき合っているそれはまるで黒煙の様であった。
「トワイア!!!!!」
ヤコから借り受けた馬を走らせ街から戻ってきたバジルは目の前の光景を目にして戦慄する。
この魔物の群れの中に弟がいると考えただけで頭がおかしくなりそうだ、
手綱を握ったまま残弾の確認をする。
(鉄屑の弾丸が…24発。魔弾は10か。昨日無駄使いするんじゃなかったな)
魔を帯びていない弾丸を6発込めたバジルは村の方角を睨みつけ黒毛の輝く美馬をひと撫でした。
「ゴメンな…無理させちまって。あと少し、もう少しだけ頑張ってくれないか?」
「ブルル」
透き通る瞳をバジルに向ける彼女は実に堂々としていて、美しい。
ヤコが太鼓判を推して進めてきたのがよく理解できた。
「待ってろよトワイア」
言うなりバジルは漆黒の馬と共に駆け出した。
風を切り魔物達の煙に囲まれる村へと向かっていくとその行く手を豚ヅラの大男が阻んだ。
「邪魔だ!!」
叫びリボルバーを引き抜いたバジルは馬上から2発、弾丸を解き放つ。
頭部に命中するが案の定単なる鉛玉では筋肉と鋼の様な骨に阻まれ効果は薄い。
ならば。
撃鉄を起こし再び放たれた訛りの矢は吸い込まれる様に豚ヅラ…オークの眼球に着弾し、その脳を貫いた。
ガクガクと痙攣し泡を吹きながら倒れるオークの横を駆け抜けて村を目指す。
「脳ミソまで筋肉じゃあなくて助かったよ。意外とインテリなんだな」
冗談めかしてそんな事を言うバジルであったが内心はかなり焦っていた。
トワイアの事も勿論だが村に近付けば近付くほど魔物達の密度が上がっているのだ。
オークを鉛玉1発で倒せるといってもこれだけの物量だとそんな物は些細な問題でしか無い。
(もっと魔弾を増やしておけば良かった)
迫る草原狼の頭を撃ち抜き後悔を募らせるが今は考えている時間が惜しく思う。
分厚い壁みたく群れる魔物達を見てふとポケットにある小石の存在を思い出す。
考えるや否や魔鋼の塊を魔物の群れの渦中へと放り投げ魔弾を1発用意する。
(魔物の葬式に花火は勿体無いな)
不可視の暴風を身に纏った弾丸が小石に接触した瞬間、魔物の群れの一画を轟音と激しい発光を伴って消しとばした。
巻き上がる砂煙の合間に村への道が開けたことを確認したバジルは手綱を強く握りこんだ。
吹き飛ばされた魔物達の穴を埋める為残った者達の穴を埋めようと殺到する彼等を躱し置き去りにするバジルは立ち込める煙へと突入する。
それを抜ければ遂に村へと到達だ。
残りの魔弾は9発。
村の内部にどれだけの魔物がいるかは分からないがたったこれだけの弾丸では心許ない。しかし躊躇いは無かった。
必ず弟と、そしてヤコや友人を助ける。
英雄願望なんて大層な物でも無い、無力な筈の能無が抱く誓いでも無い。ただ胸中を占めているのは誰かを案じる思いだけだ。
肌を一陣の風が荒っぽく撫でる。
すぐ横を何か大きな物体がガラガラと大きな音を立て通り過ぎた様な気がしたが確認する余裕などなく、駆け抜けた。
煙を抜け、汗と纏わりつく塵の不快感を拭いながら侵入を果たした村の様子を窺うとそこには異様な光景が
広がっていた。
家屋の一部は倒壊していて、村人達の姿は見えない。
だが村の中は耳が痛いほどの静寂に包まれていた。
つい先程まで魔物が暴れていた痕跡があるのにその姿も形も無い。
村の周囲とはまるで別世界の様なその雰囲気に寒気を覚える。
(何がおこってるんだ…なんで周りの魔物達は村へと入ってこない)
「お前は安全な所に隠れてな」
何かに怯えるように一定の位置から此方へと来ない魔物達へ数瞬視線を送った後、バジルは馬を降り村へと歩みを進めた。
弾倉を魔弾で埋めるのは忘れなかった。




