14話 勇者カーリー
お久しぶりです!
本日連続投稿分1話目です!
幼い頃から大人達に何かを吹き込まれてきた。
それが悪意なのか、教訓なのか、只の知識なのか幼い頃の俺には判断がつかなかった。
…が。それでも長い月日をかけて刷り込まれてきたものはまるで染みのように俺の心に深く刻み付けられた。
喩えそれが傍目から見ればおかしいとさえ思える事柄だったとしても子供の、人格が形成される前にもたらされた親の思想は、其の者の考えの根幹として巨木のように聳え立ち深く根を張るだろう。
別に俺は誰かを無闇に傷つけたいわけじゃない。
言動や行いから「乱暴者」「ドラ息子」と揶揄される事も多いが、それでも村の人間を故意に怪我させた事のなど一度も無いのだ。
俺は小さくともこの故郷の村を愛しているし、住民達も同じく守るべきものとして認識している。
こんな辺境で魔法の才能に恵まれたのだ。若い男なら誰でも抱く都会へ赴き己の力で財産を築くという淡い夢を抱いた事もあったが、自分がこの村を背負っていく立場にあるのだと自覚を持っていたので実際に村を出て行こうとした事は無い。これからもその筈だ。
粗暴な部分も多いが村の人間を案じ、代表として責任を背負って立つ覚悟を持っている。
そんな認識をされている人間。荒っぽい所も歳を重ねれば落ち着くだろう、村を思う気持ちも本物の彼はその内立派な村長として歩んでいくに相応しい人物であった。
ただ一つ欠点というか、この世界においてはそこまで珍しい考え方では無いのだが。
両親もそうだったように彼自身も又「差別主義者」であった。
一口に差別主義者と言ってもその分類は多義に渡り、獣人やドワーフなどの一部の亜人種を毛嫌いする者から人間以外全ては魔物と同類と断ずる極端な物まで様々だ。
彼の場合、獣人などにはそれほど悪感情を見せないが魔力を持たない「能無」という人間に対してのみ他では考えられないような攻撃性を発揮した。
「能無というのはね…魔力という神様からの贈り物を貰えなかった出来損ないの人間なんだよ」
そう両親は度々口にしていたのを思い出す。
家には特に目立った祭壇とか聖典とか置いてあったわけでは無いし妙な宗教に関わっていた影も見えなかったのでどこで両親がそう言った考えに至ったのかは分からない。
そして彼らはこうも言っていた。
「能無は人間では無い」と。
実際に能無に対し世界は甘くなかった。
両親の許しという免罪符を得た俺は村に住んでいる1人の能無を迫害し続けた。
幼い頃から何年も、何度も虐げ続けてきたにも関わらずあの女…いや、あの男は一切自分を曲げる事はなかった。それがまた気にくわない。
その内年の近い何人かはあの能無と普通に交流をするようになった。
自分には理解出来ない、なんであんな奴と仲良くできるのか。
お互い譲らず喧嘩をする中、アイツは手を替え品を替え、俺の魔法触媒を掠め取ってぶん殴ってきやがりもした。だがそれは魔法を使われれば自分に勝ち目はないと理解しているのがうかがえて内心ほくそ笑んでいたのだが…。
つい先日あの能無は戦う力を手にした。
それは俺が操る炎の魔法にも引けを取らない威力でオークの頭を吹き飛ばしたのだ。しかも危機にあった俺と友人を救ってである。
何でコイツをあれだけ蔑んでいたんだっけ?…魔力を持たないから?戦う力を持っていないから?両親の言うような出来損ないの人間だから?
しかし全てあの1発によって覆されてしまった。
認められる筈がない。能無のアイツが、力を手にすることなんて…。
俺が、俺様がこの村の一番にならなければいけないんだ。
あれに負ける事など許される筈がない。
この村の危機だって俺様が全てどうにかしてやる。
両親に植えられた種は芽吹き肥大化した能無への悪意は止められない、それは村を守りたいと思う彼の思う事と同等なくらい純粋なものであった。
♢
「そいつを寄越せ!!!」
横で項垂れるヤコを置き去りにし飛び出したカーリーは魔力切れで息も絶え絶えの様子にも関わらず信じられない速さで駆け寄りトワイアの持つ魔力回復薬の詰められた瓶を奪い取った。
「あっ、何を!?」
突然の事にトワイアは勿論の事、彼の回復魔法によってどうにか前線を維持していた開拓者達からも間抜けな声が上がる。
茫然とする周囲の人間を尻目にカーリーは薬を一本残らず全て飲み干した。
事態にようやく気がついた髭面の開拓者が額に血管を浮かせ暴挙に出た住民を殴り飛ばそうとするがすかさずカーリーの放った炎魔法によって黙らされてしまう。
『炎槍』
髭面の開拓者に迫る1匹のオークが炎の槍で地面へと縫い付けられた。…そして。
『炎槍』『炎槍』『炎槍』
続けて放たれた炎の槍によって前線で拮抗していたオーク達が次々に駆逐されて行く。
幾ら怪我や死を恐れない異常な精神状態の魔物といえど頭を消し飛ばされてしまったらひとたまりも無いようだ。ゆっくりと首のない死体達が倒れていくのをその場の皆が見ている。
遂にその場にいた最後の一匹を殺した時カーリーは怪我を抑える開拓者や砂埃に塗れるトワイアを見回しこう叫んだ。
「この村は俺様の物だ!!こんな豚どもにくれてたまるかってんだ!いいかよく聞け。この村を守るのは他所者の開拓者でもちょっと回復魔法が得意な野郎でも得体の知れねぇ技を使うカマ野郎でもねえ」
一気に魔力を使った事で一瞬ふらつくカーリーだがダンッと力強く地面を踏みしめ己をピンと立てた親指で指差した。
その自信にあふれる姿はまるで物語に出てくる勇者のように輝いて見える。口が悪いのは玉に傷だがその攻撃魔法の特出した才能と人を引っ張るカリスマによってその場の開拓者達には受け入れられたようで歓声を持って迎えられている。
「俺様だ!!この村の次期村長、カーリー・スノッヴ様だ!!分かったらさっさと他の豚共も殺しに行くぞ!!!!クソッタレ共!!」
「「おおおおおおおおおおおお」」
戦いの区切りに咆哮を上げる皆を見て1人、トワイア・アントリウムだけはその光景を冷めた面持ちで見ていた。




