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これでお別れみたいです。

 報せを運んできたのはもちろんヘイズだった。いきなり寝室こじ開けて入ってきて、僕らのベッドに手を入れてきたもんだから、ドラちゃんがびっくりして噛んじゃった。


「いってぇ~~!」

「バカだな、ヘイズ。手首ちゃんとついてる?」

「もっとちゃんと心配しやがれ!」


 知らないよ。

 泥棒みたいな真似するヘイズがいけないんだよ。とはいえ、大怪我されてたら寝覚めが悪い。明かりを点けて手当てしようとしたら、甘噛みだったみたいで血は出てなかった。なぁんだ。


「おい、バルドー。お前、あのプラチナドラゴンは見送りだって言ったな。確かにアイツらはいなくなったさ。けどよ、また一匹戻ってきたぜ。このちっこいの、迎えに来たんじゃねぇの?」


 迎えに、来た……。

 その言葉が僕の胸を抉った。


「さっさと送り返しちまえよ、バルドー」

「なんだよ、ヘイズ~。ボク、帰らないからね!」

「メーワクなんだよ! これ以上バルドーの邪魔すんな!」

「んなっ!?」


 角突き合わせるヘイズとドラちゃんの間に手を入れ、僕は二人を止めた。考えろ、考えるんだ、バルドー。


 プラチナドラゴンがまた飛来して、きっと王都は大混乱だ。だからこそヘイズがこんな時間にやってきた。ドラちゃんの兄弟が何のつもりで戻ってきたにしろ、それを知らなきゃ話にならない。僕らは王都に行くべきだ。


 それも早い方が良い、不安になった人間たちはいずれ武器を手に取るだろう。相手が一匹しかいないなら尚更だ。ドラちゃんが連れ戻されるかもしれないなんて、考えている余裕なんかない。そんなの後回しだ。


 人間とドラゴン、二つの種族が争うかそれとも平和の道を辿るのか、今がその分岐点なんだから!


「ドラちゃん、すぐに王都に出発しよう」

「えっ? だって……」

「いや、行くんだ。どの兄さんが来ているかは分からないし、どんな用件かも分からない。けど、君を探して飛び回ってるんだ、君が行かなくっちゃ」

「でも、バルドー……」

「大丈夫。僕も行って話を聞くから。それで、もしお兄さんが君を連れ戻しに来たんだとして、僕も一緒に行かせて欲しいって頼んでみるよ。……ずっと、離れないって、約束したからさ」

「バルドー!」


 ドラちゃんが僕の胸に飛び込んできて、感動の抱擁!

 ……とはならなかった。ヘイズのヤツが邪魔したから。ふざけんな。


「王都にはお前だけで行け、ドラゴン」

「ヘイズ!」

「バルドー、お前をエズラから出すわけにはいかねぇんだよ。王都には立ち入らないって誓約を忘れたのか?」


 そうだ、僕には誓約がある。けど、


「王都の中に入らなければいい。近くまで行けば、ドラちゃんのお兄さんが見つけてくれる」

「そうだよ、ヘイズ。バルドーの言うとおりだよ!」

「……ダメだな」

「なっ! ヘイズの分からず屋!」

「おっと!」


 ドラちゃんが牙を剥き出しにして吼える。

 ヘイズは僕を後ろから羽交い締めにして盾にした。苦しい。こんちくしょう。


「オラ、とっとと行け、ドラゴン。そんで二度と戻ってくんな!」

「む~~~~っ!」

「離せよ、ヘイズ! くそっ!」


 僕はヘイズの腕から逃れようと藻掻いた。でも、腕の力は緩まりはしない。それどころか、ヘイズは腰から引き抜いた短剣を僕の首に押しつけて、調薬スペースへと後退し始めた。


 僕は焦った。

 ドラちゃんも、どうしたら良いか分からないみたいに空中で羽ばたいているだけだ。こんなことをしている間にも、時間はどんどん過ぎていく……。僕は覚悟を決めた。


「ドラちゃん、行ってくれ」

「でもっ!」

「行って、王都から離れるようにとお兄さんに伝えてくれ。人間たちは不安になると、とんでもないことをしでかすんだ。一度でも武器を交えたら、本当に戦争になっちゃう」

「でも、でも、ボク……、バルドーと離れるの嫌だよ!」

「ぐっ……!」


 僕だって!

 僕だって嫌さ……。


 でも、その言葉を口に出すわけにはいかなかった。


「追いかけるよ! 必ず、追いかけるから……。ね、ドラちゃん……」

「ふぇっ……! ボ、ボクもっ、早く帰ってくるから! すぐに帰ってくるから!」

「ドラちゃん!」

「バルドー!」


 伸ばした手は、届かなかった。

 銅の鱗が、月明かりに燦めいて、とても綺麗だ。

 僕は泣いていたかもしれない。


「……わりぃけど、お前の身柄はギルドが預かる。追いかけさせるわけには、いかねぇんだよ」


 悪いなんて思ってないくせに。


 僕は抵抗むなしく拘束されて、(ごく)に繋がれた。保護って名目でね。あり得ないでしょ。これのどこが保護なんだよ。


 両手両足の金具には鎖が渡されていて、ほんの少ししか自由がない。せめてもの情けなのかベッドのある部屋に転がされて、僕は朝を迎えた。


「ドラちゃん……」


 あんな小さな皮膜で、無事に王都まで飛んで行けたんだろうか。お兄さんとは会えたんだろうか。


「会いたいよ、ドラちゃん……」


 側で過ごした時間が心地良すぎて、独りがとても、寒く感じた。

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