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まるで恋人みたいです。

 僕らが昼ごはんをテイクアウトして時計台の上で仲良く分け合いっこしていた頃、ヘイズは王都に汽車で向かっていたらしい。ひとり寂しく食堂車のオムレツをつついてたんだってさ。


 ヘイズは偉い人たちの前で熱弁を振るって、僕がドラちゃんと一緒にいられるよう説得してくれた。そのおかげでって言うのも変な話だけど、僕もドラちゃんも誰かに監禁されたり監視されることなく普段通りの生活ができている。


 僕はエズラの町の薬屋さんとして、ドラちゃんはそこに住んでる作家ドラゴンとして。


 もちろん、ドラちゃんの存在はバレないように配慮している。そこだけは絶対に秘密にして欲しいって国からも頼まれているし。いずれにせよ、ドラちゃんのことでは僕が責任を負うことになる。


「ちげぇ~だろ。俺が責任を取らされるんだよ、俺が!」

「あ、ヘイズ。まだいたの?」

「お前ねぇ!」


 ヘイズが帰ってくるまでの間、僕たちはまったく順調だった。僕の仕事はいつも通り暇で、ドラちゃんも騒ぎを起こすことなく、二人で町を散歩したり美味しい物を食べたり。


「いいご身分だなぁ!」

「そんなこと言われても。ちゃんと仕事してるよ?」

「それは当たり前だろ」


 当たり前って言われちゃった。


「俺はなぁ、ただでさえお前のお目付役ってことで責任があるんだよ。その上、ドラゴンの秘密は守らなきゃならねぇし、ドラゴンが何かしたら首が飛ぶし。重圧がかかりすぎて明日にでも血を吐くかハゲるかってとこなんだぜ!」

「……ればいいのに」

「なんだとっ!?」

「なんでもな~い」

「あははははっ、おっかし~~ぃひゃぁあっ!?」


 僕らのやり取りを聞いていたドラちゃんが、大笑いしてテーブルから落っこちそうになっていた。慌てて前肢でテーブルの端っこにしがみついて、後ろ肢でフチをカリカリ引っ掻いて登ってくる。本当、ネコみたいで可愛い。ハネがあるんだから飛べば良いのに。


「でもさぁ、ボク前から気になってたんだけど、バルドーって何しでかしたの?」

「…………」

「…………」


 僕とヘイズは顔を見合わせた。

 ヘイズは「分かってる」って顔で頷いて、余所を向いた。

 僕はため息を吐いてしぶしぶドラちゃんの質問に答える。


「若気の、至りってとこかなぁ。あんまり話したくないんだよね、それ」

「ふぅん。ね、バルドー、強いの? 強いから追われてるとか?」

「いや? 僕自身はまるで強くないよ。むしろ弱いよ」

「なぁんだ」


 あっ、なんかちょっとムカッとしたぞ。

 そりゃ僕は弱いけど、そんな風に言わなくたってさ……。


「ドラちゃんは、僕が強くなくて残念?」

「そういうわけじゃないよ。でも、バルドーが強かったら、ちょっと食べさせてもらえないかな~と思ってたから」

「…………」


 今、何て言った?

 は? さらっと今、「食べさせてもらえないかな」って言った?

 ……それって本気で食べちゃう系?


 ふと、僕の脳裏にかっ捌かれたデカブツ猪の姿が浮かんだ。


「ドラちゃん、人間、食べるの? 食べるならヘイズを食べなよ。コイツ強いし、筋肉しっかりしてるし、食べごたえあるよ」

「おいぃ!? 俺を売るな! 押すな!」

「ごめんヘイズ、これは尊い犠牲なんだっ」

「てっめ、バルドー!!」


 ヘイズを押していたら本気で腕をねじ上げられて痛かった。

 ドラちゃんが止めてくれなきゃ折れてた。


「もうっ、ヘイズ、ダメっ! バルドーはボクのなんだから!」

「なんだよ。妬けちまうぜ」

「はっはっは~、羨ましいだろ」

「いや、そこは否定しとけや」


 何でだよ。


「あのね、ボクたちドラゴンはね、食べるものの強さによって自分の強さが決まるの。あとは財宝。強いヤツから奪い取ることで自分もまた強くなるの」

「へぇ。なかなか面白いな」

「それとね、大切な誰かを食べるときも、強くなれるんだってお母さんが言ってたの。だから、バルドーが強かったら、ボク、どれだけ強くなれるのかなぁって」

「ドラちゃん……」


 濃い蜂蜜色の瞳に見上げられ、僕は胸が温かくなった。


「えっ。えっ? なに、お前らそういう関係なの? つきあってんの? えっ。マジ?」

「ヘイズ、うるさい」

「いや、だって……」


 ドラちゃん、僕のことそんな風に思ってくれてたんだ。

 嬉しいな。


 ヘイズがものすごく邪魔くさいけど、僕らの日常は穏やかに過ぎていった。カラーチョークで壁に落書きしたり、町中のポストに飴を入れて回ったり。ドラちゃんがとても力持ちなのが分かってからは、僕を抱えて飛んでもらって夜空を空中散歩したりもした。


「バルドー、楽しいね!」

「うん。楽しい。これまで生きてきて、今が一番楽しいかもしれない」

「そうなの? ボクもだよ!」


 空中散歩した帰り、家の屋根の上でドラちゃんと月を眺めていた。僕は膝の上に乗っているドラちゃんを撫でていた。


 寄り添う鱗の温かさがじんわり胸に染みていた。こんな風に誰かが隣にいてくれたことなんて、数えるほどしかなかったから。


 僕の人生は、ほとんどが孤独だった。きっとこれからもそれは変わらないと思っていたから、この変化は嬉しい驚きだった。彼女に拾われてから、一緒に過ごすようになって、僕は人生の喜びというものを初めて知ったんだ。


「これからも、僕の側にいてくれる?」

「うん、もちろん! 大好きだよ、バルドー!」


 でも、次の日、白金のドラゴンがまたしても王都の空を舞ったという報せが入ったんだ。

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