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バレちゃったみたいです。

 お風呂から帰ってくると、ドラちゃんは元の姿に戻っていた。惜しいような、そうでもないような。買ってきた焦がし麦パフを牛乳で流し込み、僕は出かける準備をした。


 ちょっとした工夫だけどね。

 鞄に穴を開けて、ドラちゃんが外を覗けるように。


「サクサクうま~」


 ドラちゃんも麦パフを食べている。

 スプーンでちょっとずつ。可愛い。


 なんて眺めていると、いきなりカウンター側の玄関が開いた。


「よっ、バルドー! 邪魔するぜ!」

「ぴゃっ!」


 ドラちゃんが驚いて机の下に隠れた。うん、良かった。


「勢いよく開けないでねって言ってるのに……」

「わりぃ、わりぃ!」


 全然悪いと思ってないよね。


「ヘイズ、何の用? 僕、これから仕事」

「おう、俺も仕事なんだわ。ちと顔貸せ」

「……わかった。そっちへ出ていくから、待ってて」


 白衣を脱いで生活スペースの方へ移動する僕の足に、ドラちゃんが絡んでくる。心配そうに見上げてくるものの声を上げないのは、僕がドラちゃんを隠そうとしているのが伝わっているからだろう。


 色んな物に隠れて、ドラちゃんが僕と一緒に寝室に入ったのは、ヘイズには見えなかっただろう。


「バルドー、誰あれ? お友だち?」

「お友だち……かな。たぶん」

「いい人?」

「いいヤツだよ。ただ、面倒な職に就いてるからなぁ」

「ボク、いっしょに行っちゃ、ダメ?」

「う~~ん」


 結局、ドラちゃんも連れて行くことになった。せっかく専用鞄も用意していたことだし。それに何より、ヘイズの「仕事」の内容によっては、一緒にいた方が安全かも知れないからね。


「やったね、初めて町に行ける! 大丈夫、ボクおとなしくしてる!」


 お店の玄関にかけていた「開いてます」の看板を裏返し、鍵をかけてヘイズに従って歩く。連れて行かれるのはおそらく冒険者ギルドだろう。ヘイズはそこの一番偉い役職……つまりはまぁ、ギルド長なのだから。


 ヘイズは僕と同い年だけど、僕とは違って小さいときから普通の子とは一線を画した存在だった。年齢が上がるにつれてメキメキと頭角を現し、腕っぷしだけじゃなくて頭の具合も良かった彼は、最年少でギルド長へと駆け上がった。


 とはいえ、年功序列的なものもあり、王都の近くのギルドには受け入れ先がなかった。だから、僻地へ飛ばされたわけ。新ギルド立ち上げっていう名目で。多分、総合的な稼ぎはギルド長になる前の方が多かった気がするんだけど、そこのところをどう思っているのか、僕はヘイズに尋ねたことはない。


「なぁバルドー、最近どうしてた?」

「別に、なにも。いつも通りだったよ」

「へぇ……」


 嫌な予感がした。

 なぜかはわからないけれど、ヘイズのヤツ、僕を何かの事件の容疑者だと思ってるらしい。ということは、これから行われるヘイズの「仕事」は尋問。……拷問じゃないことを祈りたいね。


「逆に聞くけど、ヘイズは何してたんだい?」

「俺ぇ? 俺は……いつも通りだよ」


 会話が止まる。

 僕たちは無言で冒険者ギルドの建物へ向かった。とても大きいところで、冒険者に欠かせない武器、防具、道具類の売買や修理の店が建ち並んでいる。人間が集まるところにはお金も集まるもので、そのお金のためにさらに人間が集まる。


 冒険者ギルドはこのエズラの町の中心を飲み込んで、今じゃまるで町が丸ごとギルドみたいになってるんだ。ここはすべての欲求が満たされる場所。食事、睡眠、それに祈りの場まで。教会をも飲み込んでいるから、揺りかごから墓場まで面倒みてもらえる。


 ヘイズは冒険者ギルドの在り方をすっかり変えてしまうつもりなんだ。その足がかりが、ここってわけ。


 さて。正面から入らずに幹部専用のルートを通る。見回りの人たちが軽く挨拶してくれる。通された奥の個室は、簡素な机と椅子しかない取調室だった。


 入ってすぐの椅子にヘイズがどっかと腰掛ける。ガントレットに覆われた腕を机の上に投げ出し、


「で?」


 と言った。

 態度が悪いなぁ。


「で? って言われても。何が聞きたいの?」

「……昨日。ある村にギルド所属の冒険者たちが向かった。若い自警団員に大怪我させた、でっけぇ猪を退治するためだ。そう、お前が出かけた場所も同じトビト村だったよな、バルドー」

「…………」

「だけどな、そいつらは猪を見つけられなかった。一度村へ戻ってみたら、なんとすでに猪は退治されてたってぇ顛末よ。誰が横取りしたのかって思ったそいつらが村人に尋ねると、バルドー、お前の名前が上がったんだよ」


 言い訳無用、だね。

 他人のそら似は通用しないか。


「お前、武術なんてからっきしだったろうが。どうやってあのデカブツ倒したんだよ~。おっと、毒じゃないことは分かってる、だからこそおかしいと思ったんだもんよ。ツレのいないお前にどうやったらそんな芸当ができるのか、ちゃあんと教えてくれ」

「……それは」

「それは?」

「……罠に、引っ掛けて……頭をぶつけさせたんだ……」

「マジか! 槍で思い切り突いても死ななかったアイツを一発でぶち殺せるような罠があるんなら教えてくれ!」

「あ~~~、う~~~ん」


 つまらない嘘なんて吐くんじゃなかった!


「なぁにが、『僕は目立ちたくありませんから』だ。思い切り目立ってんじゃねぇか! いいかバルドー、今この国は大変なことになってるんだぜ。王都の周辺をドラゴンが飛び回ってる。みんなピリピリしてんだ」

「うん、聞いたよ」

「そんなときに、大変なヤツがさらに大変な力を持ってるとバレてみろ、今度こそ首が飛ぶぞお前!」

「それは困る」


 ヘイズのでかい掌が机にバンッと打ちつけられて、僕は目を白黒させた。その言葉の内容にも驚いてたけど。処刑は嫌だなぁ。


「バルドー、キミって首だけで飛べるの?」

「あ?」

「おっと」


 ドラちゃん……。おとなしくしてるって、言ったよね?

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