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たとえ神に選ばれなくても  作者: ナカマクン
【偽りの命をアイした誰かの話】
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第14話。「魔女狩り部隊」

「協力して    りがとよ。奥   おかげで  のラブレターができた。これ  届ければ俺     ら忘れられても組合を巻き込め 。旦那と奥さんには   世話になったな。 を手厚く弔って   恩は必ず   。旦那らはあの花畑に隠れて   冒険者を待つか、魔女狩り部隊が来る前に     逃げた方がいい。お互い   たら、また会おう」


 別れ際にそう言ったゼハ……ザハ…………ああクソ、とうとうあの男の名前まで消えかけている。




 三番村で出会ったあの男がホルローグを去って、しばらく経った。俺はあの日に三番村で起こったことを忘れかけている。あれが何日前のことなのかも、出会った男が何者だったのかも、アイに聞いてもすぐ忘れちまう。もう一ヶ月は経ったかもしれねえ。

 だがそれでも、人として絶対に忘れちゃいけねえことはある。


 アイは何人も人を殺した。

 その罪は絶対に償わなけりゃならねえ。

 そしてアイは俺を助けるために人を殺したんだから、その罪は俺が背負うべきだ。もしかしたら死刑になるかもしれないが……天国に行くためには、生きている間に罪の精算が必要だ。死んで永遠に地獄で拷問を受け続けるなんてまっぴらごめんだ。


 だから俺はこの山に残ることにした。


「天国に行くために死を選ぶ行為は、非合理的です。天国、および、地獄の存在は証明されていません」


「ヘッ、死んだこともないのによく分かるもんだ。ならお前は死んだ人間の魂はどうなるか知ってるのか?」


 アイと並んで三番村の見回りから帰る途中、そんな話になった。太陽は西に傾いていて、もうしばらくすれば日も暮れるだろう。


 戻ってきた三番村の連中は、何事も無かったかのように生活していた。壊れた家もいつの間にか直ってたし、アイが言うには村の連中も死んだ分だけ補充されているそうだ。

 遺体はあの日のうちに村の片隅に埋葬して十字架も立ててやったが、見回りした限りじゃそれを気にする素振りを見せた奴は誰もいなかった。今じゃもう本物の人間が残っているかどうかさえ怪しいもんだ。


「魂と呼称される非物理的存在の実在は証明されていないため、死は自己の完全な消滅を意味します。よって、魂の別世界への移動、および、現世への残留、および、輪廻転生、全ての可能性は否定されます」


「つまり?」


「魂が存在しないので、天国も地獄も幽霊も生まれ変わりも罰が与えられることもありません。あらゆる生物の死後に待ち受けている運命は『無』です」


「ああそうかい。俺より頭の良いお前が言うなら、そっちが正しいんだろうよ。だけどな、見えないからって無いわけじゃねえ。むしろ見えないからこそ有ると信じられるものもあるんだ。それに俺だってお前と同じようなことを考えた時期があったが、一つ分かった事がある。正しいかどうかは大した問題じゃねえ、救いがあるかどうかが大事なんだってな」


「救いとは、何でしょうか」


「亡くなった人には人生の続きがある。幸福に満ちた世界に行ける。そして自分が死んだ後もそこに行ける。そう信じる事だ。それで人は死の恐怖から逃れられる。死後に幸福が約束されていると信じることができれば、どんなクソみたいな人生でも耐えられる。それが救いだ」


「ダグラス様も、救いを求められているのですか」


「当たり前だ。俺はクソみたいな親から生まれ、死臭と暴力に塗れてクソみたいに生きてきた。家族だったジョーも死んじまった今となっちゃ、さっさとあの世に救いを求めるしかないだろうが。……だからその前に罪の精算が必要なんだ。自分の罪を忘れる前にな」


 ジョーを殺した奴の夢を何度も見た。遺体を殴り、傷付け辱める暴力の感触を何度も何度も思い出した。俺は罪人だ。罪人は裁かれるべきだ。もう自分で自分を責め続けるのはたくさんだ。


「了解しました。では当機もお供します」


「何度も言わせるな、その必要は無え。お前はザ……ゼ……あの男に忠告された通り花畑にでも隠れて、後から来る冒険者と協力して黒幕をとっちめる手伝いをしろ。本当に来るかどうかは知らねえけどな」


 村の連中が何もかも忘れているなら、アイのことだって忘れているはずだ。魔女が人を殺したと通報されていても、ここに来た時には魔女狩り部隊とやらもすっかり忘れているだろう。

 ならあとは俺が埋めた遺体を見せて自首するだけでいい。俺はただの人殺しとして裁かれて、アイは助かる。魔女狩り部隊が帰った後で凄腕の冒険者とやらが来てくれりゃあ、余計ないざこざも起こらず黒幕をとっちめてくれるはずだ。


 これで全てが丸く収まる。

 俺にできる償いは、これくらいだ。


「了解しました。作戦行動を開始する前に、質問をお許し頂けるでしょうか」


「急にあらたまってどうした。聞きたけりゃ何でも聞け」


「ジョー様は、ダグラス様の家族であるとの発言がありましたが、ジョー様、および、ダグラス様には、血縁関係が存在しません。それでもジョー様は、ダグラス様にとって家族という認識で間違いないでしょうか」


「当たり前だ。一緒に暮らしてたんだから家族だろうが」


「では…………」


「ん?」


 隣を歩くアイの足がピタリと止まった。足だけでなく、まるで全身が凍りついたように固まって微動だにしない。「アイ?」俺が呼びかけると、アイは人形みたいなぎこちない動きで自分の胸を押さえ、俺を見つめた。


「では、当機もまた、ダグラス様の家族として、認めて頂けるのでしょうか」


 俺は言葉を失った。


 アイは無表情で、その淡々とした声からも体温を感じられない。いつもと同じ、人間に似た振る舞いをする鉄の塊だ。こいつはジョーの死を悲しまなかったし、俺との別れを惜しむ様子も見られなかった。


 なのになぜ、今さらそんな……そんな、人間みたいなことを言うんだ……。


「お、俺はただ、お前を拾っただけだろ……」


「当案件につきましては、人知れず朽ち果てるはずだった当機を再起動して頂き、深い感謝の念を表します。同時に、当機は当機の全機能を用いて、ダグラス様に報いるべきであると、判断を下しました」


 ん? 判断? 判断したって?

 それはどういう……。


「警告。後方に熱源を確認」


 アイが山道を振り返った。その先、三番村の方角から立ち上る黒い煙が見える。耳を傾けると、大勢の悲鳴や怒声のような声までかすかに聞こえてきた。


「アイ、聞こえたか」


「音声分析の結果、魔女狩り部隊による、三番村の制圧が行われているものと、予測されます」


「ああ……ついに来たのか……。じゃあ、自首しなけりゃな……」


「警告。三番村の住民と思われる音声には、激しい恐怖、および、強い苦痛を示す表現が含まれています」


「……つまり?」


「魔女狩り部隊への投降は、危険です。生命活動の停止、および、手足の切断などといった、人体に深刻な欠損が発生する可能性があります」


「手足の切断……」


 死ぬ覚悟は決めていたつもりだったが、面と向かってそう言われると心が揺らぐ。せいぜい縛り首くらいだろうと思っていたが、三番村で泥人形に殺された人たちのように、拷問されて無惨に殺されるのか……? まともな人間がそんなことをするはずはないと信じたいが……。


「三番村の様子を見てみよう……。自首するかどうかは……それから決める」


「山道は封鎖、および、監視されている可能性があります。偵察は山中に身を潜めて実行するべきです」


「分かった。危なくなったら教えてくれ」


「了解しました」


 俺はアイの助言に従って山道から山中へ足を踏み入れた。生い茂る草木をかき分けて斜面を上り、三番村から逸れた方角を目指す。勝手知った山の中だ。迷わずに進む。


「注意。三番村へのルートを外れています」


「こっちでいいんだ。下からは見つけにくいが、切り立った崖みたいになっている場所があって、そこから三番村全体を見渡せる」


「了解しました。地形データを更新します」


 小走りで山中を駆ける途中にふと振り向くと、アイとかなり距離が空いてしまっていた。そういえばアイは怪我をしているんだったな。歩く姿しか見たことがなかったから、今の今まで忘れていた。アイに合わせて少し足を遅める。


 そうやって山中を進むうちに、やがて目的の場所に着いた。距離はあるが向こうから見つからないように身を伏せて、崖の上から三番村を見下ろす。


 三番村は燃えていた。

 半分以上の家がごうごうと燃え盛り、黒い煙をこれでもかと吐き出している。数十人の村人たちは一ヶ所に集められていて、誰も彼もが怯えて縮こまっているように見えた。

 そんな彼らの周囲を、百人近い数の兵士たちが遠巻きに取り囲む。彼らは全員が全身を覆うお揃いの鎧を身につけていて、今にでも戦争を始めそうな殺気に満ち満ちていた。


「なんだありゃあ……本当に人間か……?」


 その中に一人、異常にデカい奴がいる。

 身長は3mを軽々と越えている。牛より太い横幅もさることながら、腕の太さと長さが尋常じゃない。人間と同じくらい大きく太い金棒を持っており、背中には十字架まで背負っている。他の連中と違って意向を凝らした純白の鎧をまとっているので、きっとこいつがボスに違いない。


「遠方に敵勢力を確認。主兵装は弊社の開発したパワードスーツ、および、その改修型。火力武器は所持しておらず、打撃、および、斬撃に特化した武装を所持しています」


「アイ、悪いがちょっと静かにしてくれ」


「了解しました」


 集めた村人たちの前にそいつが威厳たっぷりに立った。怯える村人たちの視線がこいつに集中する。どうやら何かを話し始めたようだが、いくら耳を澄ませてもここからじゃ何を喋っているかまでは分からない。……お、そうだ。


「アイ、あいつらが何を話しているか分かるか?」


「肯定します。また、録音と再生を同時に行うことも可能です。内容をお聞きになられますか」


「ろくお……? まあ何でもいい。内容を聞かせてくれ」


「了解しました。『諸君、実に嘆かわしいことだ』」


「うおっ!?」


 アイが信じられないほど野太い男声を突然出したから、俺は驚いて二度見した。

 知らなかった。こいつモノマネが上手いんだな……。

 こんな時なのに、俺は少し感心してしまった。


『この山には魔女がいる。清廉潔白なる神の教えに反し、万民を不幸に導く邪教を極めんとする悪魔の忌み子だ。魔女は神の造りたもうたこの美しき世界を汚し、犯し、辱める。人々の幸福を忌み嫌い、平和を憎み、血と病を愛する異端の邪教徒である。我々はその存在を断じて許しはしない』


 俺の考えは甘かった。

 連中はアイのことをしっかり覚えていて、魔女狩り部隊の名前通りにアイを狩りに来たんだ。……チクショウ。


『諸君らを集め、家を焼いた理由を知りたいならば答えよう。それは諸君らに魔女の手先が混ざっているためである。魔女は邪悪な物品を用いて容易く隣人を欺く。魔女に抗うためには炎による万物の浄化と、鉄の如き揺るぎない信仰心が必要だ』


 デカブツは燃え盛る一軒の家を指差した。


『さあ、諸君の信仰心を神に示すまたと無い好機だ』


 二人の兵士が怯える村人に駆け寄り、そのうち一人の腕を両側から掴んでデカブツの前に無理やり引っ張り出した。


『お、俺をどうするつもりなんだよぉ〜』


『大したことではない。あの燃えている家の中に正面から入り、裏口から出て行ってもらうだけだ』


『えっ』


『神は決して敬虔な信徒を見捨てない。君に真の信仰心があるならば、火傷一つ負わずに出てこれるだろう』


 村人を捕らえていた兵士がその手を離すと、村人はヘナヘナとその場に崩れ落ちた。


『入れって? あの、火の中に?』


『そうだ』


『そんなことしたら、し、死んじまいますって』


『君は自分が入ったら死ぬと思うのだな』


『へ、へえ……そりゃああんな火の中じゃ誰だって……』


『では君は神を信じてはいない』


 デカブツは金棒を村人に振り下ろした。村人の姿が金棒の下に消え、泥が周囲に飛び散る。


『見よ、この通りだ』


 デカブツが金棒を持ち上げた。そこには血も肉も無く、叩き潰された泥だけが広がっていた。村の連中はここまで聴こえるような悲鳴を一斉に上げて、恐怖におののき腰を抜かした。


『この者は人間ではなく、魔女の使い魔であった。信仰心を持ち合わせておらぬがゆえに、試練から逃げ出したのだ。では次の者』


 兵士が再び村人に駆け寄る。今度は一番前にいた女の子をデカブツの前に引きずり出した。


『君は神を信じるかね』


『しっ、信じます! 信じています! だから……!』


『よろしい。では入りたまえ』


『お慈悲を……どうか、お慈悲を……!』


 女の子は跪き、両手を胸の前で組んで祈り始めた。ここからじゃ顔まで見えないが、きっと泣いているだろう。


『君に慈悲を与える者は私ではなく、神なのだ』


 デカブツが燃える家を指すと、兵士たちは女の子をズルズルと引っ張っていった。アイがモノマネをするまでもなく、女の子の助けを求める悲鳴がここまで聞こえる。兵士は女の子を家の目の前まで連れて行くと、おもむろに担いだ。


『神の加護があらんことを』


「いやぁあああ! 助けて! 神様! 神様っ……!」


 女の子は燃える家の中に放り込まれた。


 それっきりだ。

 悲鳴も聞こえず、燃える家の中から女の子が出てくることも無かった。デカブツはしばらくして満足そうに頷き、村人たちに向き直った。


『どうやら彼女は人間ではあったが、信仰心がいささか不足していたようだ。では次の者』


「アイ、モノマネはもういい。逃げよう」


 もう十分だ。あいつらはまともな人間じゃねえ。三番村の連中が一人残らず死に絶えるまで試練とやらを繰り返すだろう。三番村の連中はほとんど泥のバケモンだが、数少ない本物の人間に対してもあいつらは同じことをやった。逃げるなら今しかねえ。


「了解しました」


「急ぐぞ……!」


 俺はアイの手を引いて、その場から逃げ出した。草木をかき分けて山中を必死に走る、走る。もう恥も外聞も知ったこっちゃねえ。死ぬ覚悟なんてあっという間に吹っ飛んだ。

 逃げるなら三番村とは山を挟んで反対側にある、九番村の方角からだ。山を降りてどうやって生きて行くかなんて考えたこともなかったが、そんなのは後回しでいい。あんな連中に捕まったらアイも俺もこれ以上ないほど残酷な方法で殺される。もう少し走れば家だ。少しでも金目の物をかき集めて、すぐに逃げよう。ああクソ、もう息が上がってきた……!


「警告。人型生命体の接近を確認」


「ハァ……ハァ……はぁ!?」


「敵の追跡を受けています」


「う……嘘だろ!? もう追って来たのかよ……!」


「敵は三体。三番村とは別方向より接近。魔女狩り部隊の別働隊と思われます。まだ距離はありますが、我々の進行速度を大きく上回っています。約300秒後に接敵」


「ハァ……ハァ……! どうする……!?」


「ダグラス様を狙われる可能性があるため、屋外での戦闘は非推奨です。屋内での戦闘が推奨されます」


「屋内って!?」


「近くにある家の中で戦うべきです」


「近くにある、家なんて……俺の家だけじゃねえか! ああもう……とにかく、お前に、任せた……!」


 心臓が破けそうなほど走りに走って俺たちは山中を突っ切り、見慣れた我が家の前に飛び出した。毎日出迎えてくれたジョーはもう居ない。ドアを開けて家の中に駆け込み、アイを引っ張り込んで、急いでカンヌキを……カンヌキが見つからねえ! クソッ! そういえば普段からそんなもん使った覚えなんて無かった!


「接敵まで残り90秒」


「ど、どうする!? どうする!? もっと奥の部屋に入った方がいいか!?」


「肯定します。ここでは入口と窓から挟み撃ちになる可能性があります。ダグラス様のご両親の部屋にはタンスがありましたので、それで窓を塞いで敵の進行方向を固定しましょう」


「チクショウ! やるならやってやる!」


 俺はアイの手を引いて、両親の部屋に飛び込んだ。この部屋にも、もちろんカギなんてついてねえ。いや今はカギよりもとにかく急いでタンスで窓を「接敵します」……ああクソッ、間に合わなかった。


 コンコン。

 玄関ドアがノックされた。


「墓守りのダグラス何とかだな。ここに居るのは分かっている」


 もちろん俺は返事を返さない。

 アイは例の武器をどこからか取り出し、先端を部屋のドアに向けた。敵が家の中に入ってきてあのドアに手をかけたら、アイは赤い雷を放つつもりだろう。


「悪いが問答をしている時間が無いので、上がらせてもらうぞ」


 玄関ドアが軋み開く音がした。


「良い家だな。掃除が行き届いていて清潔感がある。これが死臭と虫に塗れて仕事をする墓守りの家と言われても、誰も信じないだろう」


 続いて兵士たちが家に上がり込んでくる足音が聞こえた。バクンバクンと暴れる心臓は一向に静まる気配が無く、喉もヒリつくように渇く。


「奥の部屋に居るな。隠れたところで足の土を落とさなければ、足跡が残ったままだぞ」


 床がギシギシと軋む。もうすぐそこに、薄壁一枚隔てた向こう側に、兵士たちが来ている……! ああクソ、殺るしかないのか!? 俺はこれ以上罪を重ねるのか!?


「それと、敵に居場所が割れている状況で屋内に立て篭もるのは悪手だ。外から火を点けられて焼き殺されるぞ。分かったらさっさと出てこい。魔女狩り部隊が来る前に急いで逃げるぞ」


 チクショウ、やっぱり俺を焼き…………ん?


「報告。先ほど追跡者は魔女狩り部隊の別働隊であるとの発言を行いましたが、誤りである可能性が浮上しました。攻撃を続行しますか」


「まっ、待て待て! ちょっと待て!」


「了解しました」


 慌ててアイを静止する。


「おい! お前らはあの頭のおかしい魔女狩り部隊の連中じゃないのか!? 違うならどうして俺を追って来た! お前らは何者だ!?」


 足音はドアの前で止まった。


「魔女狩り部隊とは心外だな。それに、どうして追って来たも何も、私を呼んだのはそっちだろう」


 ドアがゆっくりと開く。


「私は冒険者のクレア……」


 ドアの向こう側から、スーツを着た女が姿を現した。

 金色の髪。日に焼けた肌。俺より少し高い背。そして何よりも、燃える()()をその内に宿す琥珀色の瞳が、顔を斜めに走る古傷と相まって、名状し難い迫力をかもし出していた。


 本当に、こんなド田舎に来たのか……!

 凄腕の冒険者が……!


「クレアスーパーハイパーウルトラデラックスコスモアースノワールホワイトブラックサンダーファイヤーゴールデンナナテンレインボーバトルミラクルサンレインブラックシャドウドラゴンエターナルファイナルパニッシャーアカマキガミアオマミ……アオマミマミ……アマミ……省略! 黄バミ……いや、キマキガミだ!」


 ……………………ただの頭のおかしい奴だった。


 俺はアイの隣を通り抜けて、女冒険者の前に立った。

 ドアをそっと閉めて、女冒険者のキリッとした表情をドアの向こうに追い出す。

 そうしてほんの少しだけ迷った挙句、この頭のおかしい女冒険者がなるべく傷付かないように言葉を選んで、帰ってほしい、別の人を連れてきてほしいと、伝えることにした。


「………………チェンジで」






 そしてドアが勢いよく開き、俺はブン殴られた。


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