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たとえ神に選ばれなくても  作者: ナカマクン
【そして一つ大人になった誰かの話】
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第8話。暴走! 憎悪に堕ちた魔法少女!

「ウゥウウウアアアアアアアアアアアアアア!」


 ZArrWA.LUKU! LukSiM! EeeeeaNeS!


 蒼き光の双剣が舞い狂う!

 光は巨大人形の首を切断した! 光は巨大ヴァイオリンを切断した! 光は巨大楽譜を真っ二つに両断した! 光は巨大オルガンの鍵盤を撫で切りにした! 本来のルミナの能力を超えた怒りの光が、人形を切って切って切りまくった!


 ZArrrWA.LUKU! BekHeS! WeeeeKSiS!


 一瞬の間を置いて切断面が爆発! 爆発! 爆発! さらに爆発! 巨大人形の頭がズレ落ちる! 爆発! 両断されたヴァイオリンの弦が跳ね踊る! 爆発! 楽譜は無数の紙片となって撒き散らされ、オルガンは端から順に火を噴いて鍵盤を空中高く舞い上げる! そして爆発爆発!


 EMyuTeeeeeSeS! ZArWaNarLuKerrrrr!


 斬り刻まれた人形たちが爆発! 爆発! 爆発! 爆発に爆発を重ねて爆発! 手も足も首も胴もバラッバラに切り刻まれて爆発! 右から腕が飛び爆発! 左から足が飛び爆発! 下から首が飛び爆発! 大小無数の破片を縦横無尽に撒き散らして爆発! 天も地も無く破壊の嵐が吹き乱れる!


 ZArWaLuuTer! PaKiSis.EeeemTer!


 蒼き光が爆炎を切り開く! 右へ左へ上へ下へ! 切り裂かれた爆炎が再び爆発! 爆発! 爆発! 七つのデーモン・コアがプラズマの網を張り巡らせる! 電撃! 電撃! 電撃! 人形が感電! 楽器が感電! 人形から人形へ感電が広がり、爆発! 爆発! 破壊の光線が細胞も電子も分子も原子も狂わせ走らせぶつけ合わせて爆発爆発爆発!


 ワアアアアアアアアア……!


 思いもかけない乱入者たちが奏でる破壊の演奏に、胡乱なるギャラリーたちは大興奮だ! 人形たちも仲間を破壊されて怯えるどころか、その演奏に更なる熱が入る!


 ZAーSA.WaTer! Zertea.LuuuTerrrr!


 爆炎と閃光の合間を縫い飛ぶ白い影! ルミナの輝く左目が父の仇を捉える! 煌めく両手が閃光の長剣を振るう! 振るう! 振るう! イノセントは盾で防ぎ、人形の背中に隠れ、緩急を巧みに交えた飛翔で破壊の光線から逃れる!


 EMyuTeeeee.SI! RA! Pars.WA.RA.Syarrrrrr!


 しかしイノセントがどれほど回避運動に徹しても、ルミナの蒼く輝く左目はイノセントの動きを捉えて離さない! 爆炎の向こう側にあろうが人形の背中越しであろうが、ルミナは敵の動きを常に捕捉し続け、射程数百mの光の刃を浴びせ続ける!


「殺したなぁーッ! パパを! ルミナのパパを殺したなアアアアアアアアアア!」


「お願い、もう止めて! あなただって人の死を悲しむことのできる魔法少女でしょう? こんなことをしても、お父さまは喜ばないわ!」


「パパを殺したお前が言うなあああああああああ!」


 ルミナの悲痛な咆哮は、天地を揺るがす破壊のコンサートの中心で、一際強く大きく激しく轟いた。




「あいつ、あんな熱い奴だったのか……」


 後方で巻き起こる破壊の嵐を窓から見るファイラは、素直な感想を口にした。


 ファイラとルミナの接点は殆ど無いに等しい。

 最初に見かけた時は、ファイラが声をかけてもろくな反応を返さなかった。ルミナがそそくさと父親の影に隠れたかと思うと、彼女の代わりに父親が「ごめんね。うちのルミナちゃんは人見知りをしちゃうけど、本当はすごく優しい子なんだよ。そうそうこの間も……」といった自慢話を長々と続けてきたことを覚えている。


 歳の近い女の子の魔法使いという存在はファイラにとって興味の対象だったのだが、それからも露骨に避けられているようだったので、やがてファイラも話しかけることは無くなった。


「死ね! 死ねっ! 死ねええええええええ!」


 激情のままに破壊を振り撒くルミナ。その姿を見た今にしてファイラは思うのであった。もう少ししつこく食い下がって、一度だけでも話をしてみればよかった、と……。




「お願いルミナちゃん! もうやめて!」


「気安くルミナの名前を呼ぶなああああああ!」


 ルミナの猛攻は、イノセントの反撃を許さなかった。


 反撃に転じる隙が無い。盾を解除して魔法クレヨンに戻そうものなら、即座にレーザービームに焼かれてしまうだろう。

 そしてまた、反撃のために少しでも速度を落としてルミナと距離を離そうものなら、破壊の光線が引き起こす爆風に巻き込まれてしまう。


 しかしイノセントが攻撃に転じない理由はそれだけではなかった。キャンバスはイノセントが抱えた心理的問題を的確に見抜いていた。


「イノセント、どうやらもう彼女の説得は不可能なようだね。残念だけど、あの魔法少女は憎しみに囚われてしまっている」


「そんな……どうしたらいいの?」


「このままだと彼女は無差別に破壊と殺戮を繰り返す殺人鬼になってしまう。そうなる前に、君が彼女を止めてあげるんだ」


「……うん! わかったわ! 私、頑張る! 戦うから!」


「ゴチャゴチャ喋ってないで死ねえええええええ!」


 キャンバスはイノセントの罪悪感を取り払った。

 ルミナから浴びせられる殺意も相まって、イノセントは戦う決意を固める。


「勝負よ! 魔法少女ルミナ! これ以上の罪を重ねないように、私があなたを止めてみせるわ!」


「勝手なことばかり言うなああああああああ!」


 般若の形相で吠えるルミナ! 神妙な面持ちで敵と相対するイノセント! ぶつかり合う憎悪と正義! 両者を結ぶ蒼き光の線! イノセントは右手で盾を構えたまま左手を掲げた!


「お願い……描いて! 輝く魔法の夢を!」


 イノセントの祈りに天が応えた! その左手に、もう一振りの魔法クレヨンが出現する! キャンバスの目が驚きに見開かれた!


「トリック・バイ・トリート!」


 イノセントの周囲に落書き扉が出現! 扉はイノセントと鎖で繋がり、引き寄せられて空中を追従する! 一斉に扉が開き、無数の巨大な鉛筆が次々と射出された!


「何もさせるもんかあああああ!」


 一閃! 迸る蒼光! 鉛筆群が切断! 落書き扉が切断! そして一斉に爆発! 飛び散る無数の破片!


「危ない! イノセント!」 


 キャンバスが素早くイノセントの横に回り込み、飛来した破片を尻尾で器用に弾く!「ありがとうキャンバス!」イノセントは軽く振り向いてウインク!


「油断は禁物だよ、イノセント。下手に反撃をしようとすると、大怪我をするかもしれないね。敵が息切れをするまで守りに徹したらどうかな」


「大丈夫よキャンバス! 正面から押すだけが戦いじゃないわ!」


「何か考えがあるみたいだね」


「うん! 発想力には自信があるの!」


 フォォオオオオオン……フォォオオオオオン……!


 ブリーチが共鳴を始めた!

 イノセントの全身が白光を強く強く放ち始める!


「お願い……届けて! 正義の心を!」


 ギュイイイイイイイイイイイイイイ!


 破壊の力がイノセントの全身を駆け巡り、魔法クレヨンへと収束していく! 爆炎を背負う十字架状の輝き! 光は地上に落ちた星のように、人形楽団の合間を駆け抜けていく!


「プリンセス! シャィインンン……! ストォオーム!」


 ルミナの瞳に大輪の花が映った。

 大円を描いて空に咲く数多の光の粒。それは、幼い頃に彼女が父と見た祭りの花火と酷似していた。

 花火との違いは、その光弾の一つ一つに込められた凶悪な破壊の意思であろう。イノセントから咲いた破壊の花弁が、盾を迂回し弧を描いてルミナへと飛来し始めた。


「それがどうしたああああああああああ!」


 迫り来る直径30cmの光弾! ルミナは両腕のみならず、七つのデーモン・コアからも閃光を放ち、光弾の迎撃を開始する!


 ヒュドドドドドドドドドドドドドドドドド!


 九つの光の刃が空間を縦横無尽に暴れ回り、光弾を切断! 切断! 切断! 光弾は切断の一秒後に爆発! 爆発! 爆発! その爆炎を抜け襲いくる次弾! 切って返す刃で閃光が往復! そして後続の光弾が爆発! 爆発! 爆発! 流れ弾に当たり人形も楽器も次々と爆発! 咲き乱れる炎の花! ルミナの正確無比なる射撃は、光弾ただ一つたりとも接近を許さなかった!


 だが……!


「油断したわね! 魔法少女ルミナ!」


 ルミナの青い左目が動く! あらゆる障害物を透過して目標に狙いを定める左目が捉えた敵の姿は、ルミナの足の下のさらにその下! テツドウのレールの真下にあった!

 光弾を迎撃するためにルミナの気が逸れた一瞬を利用し、イノセントはルミナの死角に潜り込んでいたのである!


「プリンセス! シャイン! ストォオームッ!」


 そして、光の粒が魔法使いの足元で爆ぜた。




「ゴホッ、ゴホッ……二人とも、無事かい?」


「たりめーだ、クソッタレが! ……ヘックチョ!」


 クロック・ハウスとファイラは、瓦礫を押し除けて身体を起こした。壊れた木片と錆びた鉄板が、床に大きく開いた穴からレールに落ちて、けたましい音を立てて消えていく。


 客室は半壊していた。

 室内には瓦礫が撒き散らされている。天井と床は五分の一が崩落し、客室右側の側壁は完全に消失してしまっていた。充満する煙と粉塵が肺に入って咳とクシャミを誘発させたが、その直後に風穴から流れ込んだ強風が視界から煙を取り除いていく。


 流れ弾が先頭車両にも命中していた。

 イノセントの放った光弾は乗客の死角から飛んできたために、ファイラもクロック・ハウスも迎撃することが出来なかったのである。


「……すくには追って来ないようだ」


 クロック・ハウスは、壊れた窓から顔を出して後方を確認した。ルミナの消息は気になるが、少なくともイノセントの気配は無い。今すぐ追撃が飛んでくることはなさそうだ。


「セドリック、おい、セドリック!」


 クロック・ハウスが後方の様子を見ている間に、瓦礫からはみ出す白髪頭をファイラは見つけていた。「うっ……」そして瓦礫をどかしたファイラは、セドリックの容態を見て青ざめる。


 光弾はセドリックの左手と左足を奪っていた。傷口からとめどなく血が流れる。瓦礫を赤く染めて広がりゆく赤は、致死量として十分に過ぎる量だった。


「セドリック君!」


 クロック・ハウスがセドリックの時間を巻き


 戻せなかった。


「何故だ……!」


 イノセントの光球による破壊は、クロック・ハウスの限定的時間逆行による治癒を完全に拒絶していた。


 クロック・ハウスはかつてのバルク・ホウガンとの交戦を思い出す。600秒間は持続する時間停止を、彼はたった6秒で抜け出して、静止した時間の中を自分と同じように動いていた。

 後にプリズンは彼の魔法耐性も常人の百倍になっていると評価していたが、今敵対している少女はそれを更に上回る時間操作への耐性を持っているのであろうか。


「クソッタレ! 次はアタシがやってやるぜ!」


 外に飛び出そうとするファイラの声が、クロック・ハウスの思考を現実に引き戻した。

 しかしファイラの足を血塗れの手が掴む。


「次は、僕の……番だ。乗客は、静かに座ってろ……」


「お、おい、無理すんなって! セドリック!」


「僕を、本名で、呼ぶな」


 セドリックが右手を軸にして体を起こそうとした。

 しかし腕一本では体を支えきれず、もがく足は自身の血で滑って、同じ場所を繰り返し繰り返し掻いている。


「おいって!」


 見かねたファイラが体を押さえようとしたが、セドリックはその手を振り払った。善意を無下にされたファイラの腕に一瞬だけ力が入ったが、彼女が握り締めた拳から徐々に力が抜けていく。


「お前……」


 ファイラは見てしまった。

 キザで病弱なニヒリストだとばかり思っていた青年が、その死の淵で今まさに強く強く燃え上がろうとする姿を。


「僕は、偉大な魔導管理機関の一員、『悪夢の13番駅(イビルキャリアー)』だ……!」


 客室が一度大きく揺れた。先頭を走るドクロの両眼窩が禍々しく赤い光を放つ。まるでセドリックの血を吸い上げて燃料へと変えているように。


 テツドウはそれまで連結されていた全ての客室を分離させた。さらにレールも客室の数に合わせて25本に分岐する。

 そして各客室の車輪が猛烈な唸りを上げて火花を散らし、各々が独立した道を走り始めた。


 13番駅の到着まで残り2分42秒。

 そして魔導管理機関の戦闘用人員……残り二名。


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