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たとえ神に選ばれなくても  作者: ナカマクン
【そして一つ大人になった誰かの話】
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第4話。対面! 二人の魔法少女!

「戦争をすることは悪いこと!」


 マグナオプス帝国を崩壊させた魔法少女イノセントは、次に帝国と戦争中だった周辺国を襲った。交戦中でも行軍中でも訓練中でも、軍隊と呼べるものはこれを見つけ出して徹底的に叩き潰した。


「戦争の準備をすることは悪いこと!」


 イノセントは軍需産業も破壊した。中でも特に壊滅的な被害を受けたものは魔術分野である。どんな結界も防衛機能も隠蔽能力も全てをブチ抜いて破壊の限りを尽くした。魔術師が何代にも渡って積み重ねた研究成果は焼き払われ、魔術師は全てを失って丸裸で放り出された。


「人の物を奪うことは悪いこと!」


 王族、貴族、政治家、支配階級の者たちもイノセントに襲われた。彼らの私兵はイノセントにいとも容易く蹴散らされ、彼らの身柄は搾取し続けていた貧民層に財産と共に引き渡された。


「独り占めすることは悪いこと!」


 富裕層や商会も狙われた。彼らの内部留保は全て落書き生物に運び出されて市民に還元された。これをやられた国では一時的に市場は潤ったが、イノセントの襲撃により国家機能が麻痺した国の貨幣価値は必然的にと暴落する。経済は破壊され、多くの失業者が溢れ返る結果となった。






「よう、探したぜ」


 3つの大国と11の中小国家の社会構造が破壊された頃に、魔導管理機関はイノセントと接触した。ピースメーカーが集めたリアルタイムの目撃情報とカーくんの超機動力を用いて、ようやくファイラは神出鬼没のイノセントへの待ち伏せに成功したのである。


「テメーが噂の魔法使いか。随分とまぁ、チョーシこいてくれてるみてぇじゃねーか」


「誰!?」


 大烏の背に仁王立つ赤髪の少女が、純白の少女と小さなマスコットを見下ろした。

 舞台は密林上空。ファイラは己の能力を最大限に活かせる場所を戦場に選んでいた。ここならば人や財産に被害が出ることもなく、延焼物も豊富にある。炎を操るファイラにとって最良のフィールドであった。


「アタシはファイラ・フレイア・ガルフレア。魔導管理機関の魔法使いだ」


 ファイラの髪が炎を纏った。腕組みをした彼女の後ろ髪が持ち上がり、頭髪を延長するように炎が束ねられていく。さらに彼女が放つ火の粉が蛍めいた動きを見せて寄り集まり、空中に彼女の名を描いた。ファイラ・フレイア・ガルフレア。


 対するイノセントは、輝くような笑顔をファイラに見せた。


「まあ、あなたも魔法少女なのね! 素敵素敵! すっっごくカッコいい自己紹介だわ! 次は私の番かしら? 任せて!」


 イノセントは爆発的な速度で上空へ飛び立った。彼女が空気の壁を突き破った際に発生した音と風がファイラを押す。髪をはためかせながら、ファイラは顔色一つ変えずに空を見上げた。そこではすでにイノセントが自由落下を始めている。


「……お願い」


 頭から落下するイノセントは何も身に付けていなかった。あばらの浮き出た未成熟な体を惜しげもなく青空に投げ出し、祈るように目を閉じて胸の前で両手を合わせ、重力にその身を任せている。


「届いて……この……想い!」


 イノセントが手をほどくと、緑色の輝きが生まれた。輝きは緩やかに回転して十字型に収束すると、幸運を意味する四葉のクローバー型ブローチへと変化した。幾重にも輝く光の粒が放たれる。


 少女が両腕を広げると、ブローチから光の帯が溢れ出した。帯は華奢な少女の体に巻きついて、目の眩むような純白へと色を変える。そして帯は溶け合うと継ぎ目を消し、花が咲くように優しく膨らんでシルクのドレスを紡ぎ出す。


 そして少女の背中から翼が生えた。天地が逆転し、翼が一度少女を抱きしめた後に勢いよく開く。自由落下が止まる。羽が舞い散る。百合の花を思わせる赤いラインがドレスに走り、少女が空に伸ばした手に魔法のクレヨンが握られた。そして笑顔のウインク。


「マジカル! コミカル! クリティカル! 天に代わって悪を狩る! 夢と正義の魔法少女、プリンセス☆イノセント! 無垢なる祈りと共にただいま見参!」


 イノセントがVサインを決めると、クレヨン彩色の花火が彼女の背後で弾けた。


 自己紹介にしてはあまりにも隙だらけであったが、ファイラはイノセントへ攻撃を仕掛けようとはしなかった。

 ファイラは負けず嫌いであるがゆえに、向上心の強い性格である。不意打ちや騙し討ちで勝つことは、自分を成長させる機会を捨てることだと考えていた。


 強敵には正面から戦わなくては挑む意味がない。

 それがファイラの持論である。


 ただし、それはそれとして自分より派手な登場シーンを年下の少女にキメられたことは少し面白くなかった。


(決めたぜ! 痛い目に合わせてやる!)


 ファイラがイノセントを睨みつけても、イノセントはキメポーズのまま硬直していた。「ん?」首をかしげるファイラ。するとイノセントはポーズを解き、何やら恥ずかしそうにもじもじと内腿を擦り合わせ始めた。


「えっと……終わり、です」


「ああん?」


「あの……私、魔法少女らしくしようって思って……変身の演出とか……決めポーズとか決め台詞とか……一応自分で考えてみたんです、けど……やっぱり、変……でした、か?」


 イノセントは上目遣いで不安そうにファイラのリアクションを伺っている。その様子は親に褒めてもらいたがる子供そのもので、戦闘に向けて昂っていたファイラの毒気が少し削がれた。


 それでもファイラは数秒だけリアクションを考えた結果、拍手をしてあげた。ファイラは年下の少女に気を使う良識を持ち合わせていた。


「うん……まあ、なかなかいいんじゃねーの。次からは相手にリアクションを聞いたり恥ずかしがったりしないで、これがアタシだ見てけ! くらい図々しくやるといいぜ」


「えへへ……あっ、拍手ありがとうございます! あとアドバイスも!」


 目映いばかりの笑顔を見せたイノセントは、勢いよくファイラに頭を下げた。その丁寧なお辞儀を見て、ファイラの闘志がまた少し下がる。


(もしかしてコイツ、話せば素直にウチに来るんじゃねえか?)


 ファイラが魔導管理機関について話そうとした時、ファイラとイノセントの間に奇妙な生物が割り込んだ。白いカエルに羽と尻尾を生やしたようなイノセントの使い魔、キャンバスである。


「気をつけてイノセント! 彼女は悪の魔法少女だよ!」


 キャンバスのその一言で、弛緩しかけていた空気が緊張感を取り戻した。「ああん?」ファイラのこめかみに青筋が浮かぶ。


「そんな……せっかく同じ魔法少女に出会えたと思ったのに……」


「おいコラ」


「騙されちゃダメだ! 彼女はシャドウを利用して世界征服をしようとしている悪の秘密結社、魔導管理機関の一員なんだ! 君の力を悪事に利用しようとしているんだよ!」


 事実無根の言いがかりだが、幹部はともかく魔導管理機関の末端のメンバーに対してはファイラは少し思うところがあったので、反論はしなかった。その代わりに手の骨をポキポキと鳴らして戦闘の意思を示す。


「本当!? そんなの……許せない!」


 イノセントが魔法クレヨンを振るうと、落書き扉が彼女の上下左右に出現した。イノセントに従う落書き生物を高速で生産する自動装置である。


「勝負よ! 魔法少女ファイアフレア! この魔法少女イノセントが、あなたを止めてあげるわ!」


「いいぜ。やる気になったってんなら相手してやる。こちとら元々そのつもりだったんだ。ブッ殺されてピーピー鳴くんじゃねえぞ、クソガキ」


 ファイラはカーくんの背中から飛び降りた。自由落下が始まる。風がファイラの耳を叩く。ファイラの意思を察したカーくんが一声鳴いてその場を離れた。その一声がファイラには応援に聞こえた。


 ファイラは誰にも頼るつもりはない。ミレニアムの予言も知ったことではない。仕事? 役割? 使命? 知ったことか。もうそんなものは二の次だ。


 今はただ目の前の敵を……ブッ飛ばす!


 思考からそれ以外の不純物を焼き尽くし、ファイラは身も心も熱く燃え上がった。


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