第17話。
7日目に秘密があると、ソルは断言した。
しかし、あれから私たちは何度も1週間を繰り返したが、あの7日目を再現することはできなかった。
私は今までのように意識が朦朧とした状態で花に囚われてしまい、ソルは6日目が終わると1日目に飛ばされるようになってしまっていたそうだ。
世界樹にとって都合の悪いことがあったから私たちは7日目から遠ざけられたのだと、ソルはそう断言した。
それから私たちは、再び7日目に辿り着くために思いつく限りのことをやった。
私がこれ以上傷つかずにすむようにと、ソルは暴徒や怪物から私を守る方法を探そうとした。
最大の難関である5日目に湧き出てくるあの怪物たちは、町の住民が変化し終わった姿で間違いないようだ。
一度その仕組みを調べようと、町の住民全員をリスト化して怪物化の関連性を探ってみた時があった。
どうやら怪物化する時は毎回必ず同じ怪物の姿になるようだが、同じ人でも怪物化しない時があったし、滅多に怪物化しない人もいた。
どうやら怪物化する前兆として発狂してしまうようだが、心が人間でなくなった者は体も人でなくなってしまうのだろうか。
怪物に変化するのは人間だけで、他の動物は凶暴になりこそすれど変化しなかったことを考えると、本当にそうなのかもしれない。
さらにどうやら怪物化した時の強さは人間の時の強さに比例するようだ。怪物化した子供と大人では、比較にならないほど力の差があった。
つまりは、最も恐れなければならない怪物は騎士たちだった。彼らは最も頼りになる味方であり、苦痛と絶望をもたらす災厄でもあった。
キュリオ卿。
考え方が柔軟で、実直で真面目な騎士だと思う。私たちが騎士たちを説得する時、最初に私たちを信じてくれるのはいつも彼だった。貧しい出自にも関わらず医学や薬学の心得があるらしく、検死もできるそうだ。
彼は毎回必ず怪物化した。
鬼のような姿になり、とても力が強くて動きも素早く、いくら斬りつけても弱る気配を全く感じさせない厄介な怪物だ。ソルがいくら急所を狙っても、いつも武器の方が先に壊れてしまう。
どんなに逃げても隠れても必ず私たちの居場所を突き止めて襲ってくるので、私とソルは何度この怪物の胃袋に収められたかわからない。
ビステル卿。
とにかく人の話を聞いてくれない。元々貴族の出身だったらしく、自信家で高圧的な騎士だ。彼が私たちに協力してくれたことはほとんど無かった。
けれども暴徒や怪物たちとの戦いでは、半ば怪物化した体で誰よりも多くの敵を潰してくれた。苦手な人だけど、優秀なことは確かだと思う。
彼もよく発狂したが、完全に怪物になることは少なかった。
よく火に飛び込んで自害することを考えると、いつも彼は自分に残った最後の理性で抵抗しているのかもしれない。
怪物化した時には、最悪の敵となった。
燃え燻る獣のような姿となり、真っ赤に燃え上がる鉄の武器を次々と飛ばしてくる。
あまり出てこないことが救いだったが、当然ながら剣で勝てる相手ではない。ソルの勝率は0%だ。この怪物に勝てたことは一度もない。それどころか他の怪物たちでさえ一匹残らず灰にされる。
大火災が起きたらこの怪物がどこかで出現した合図だ。業火の苦痛に耐える覚悟を決めることだけが、私たちに許された抵抗だった。
ウルグン卿。
ソルが最も信頼している騎士だと思う。隠れることに長けていて、足音どころかドアの開け閉めでさえ全く音を出さない。監視や追跡のスペシャリストらしい。
全くと言っていいほど喋らないが、ソルの言うことや頼み事を拒絶したことは一度もなかった。
実は騎士たちの中で一番の年長者のようだ。騎士になる前からソルとは知り合いのようだが、詳しくは聞かせてもらえなかった。ウルグン卿だけでなく、ソルにとっても辛い過去があったらしい。
ただ一つの条件を除いて、彼は正気を失わなかった。
彼にとってあの羽帽子は自分の命よりも大切な聖域らしい。それを侵された時、彼は自分の体が原型を留めないほどに破壊されていても怪物化した。
鬼の腹を引き裂いて現れたその姿を見るまで、私は彼が元殺し屋だと思っていた。
怪物化した彼は、たくさんの従者を引き連れていた。白い布で作ったてるてる坊主に、限界まで開かれた目と口を墨で描いたような造形の従者たちだ。ドス黒い涙を流す従者たちはいずれも幼い子供程度の背丈で、真っ赤に焼けた鉄の首輪と鎖で繋がれていた。
数にして百体以上の従者たちは、母親を呼びながら男女の区別なく近くにいる者の◾️◾️……あるいは◾️◾️を目掛けて殺到する。◾️◾️◾️の◾️を無理やり拡げられてその中に体を強引にねじ込まれるために、私もソルも鬼も◾️◾️から◾️◾️した。
その間ウルグン卿本人は、全身を数え切れないほどの小さな十字架で貫かれながら、自分の◾️◾️で汚れた羽帽子の残骸に向けて謝り続けていた。
私は彼が児童売買に関わっていたことを、何となく察した。
バリス卿。
彼は何もしなかった。怯え、逃げ惑い、泣き、混乱し、助けを請うばかりだった。ビステル卿によく役立たずと怒鳴られていたが、実際一度も戦おうとしなかったのでその評価も当然なのかもしれない。
どうやら有名な貴族の長男らしいが、臆病な性根を叩き直すために無理やりソルの隊に入れられたらしい。世界で一番怖いものは父親だそうだ。
なぜかソルは彼をよく気にかけていた。いつも自信がなさそうにおどおどしている彼に何かしらの役目を与えたかったようで、ミーティングでは毎回書記に任命していた。彼は記録した内容をたどたどしく読み上げていたが、私はなぜソルが彼を気にかけているのか疑問だった。別に嫉妬していたわけではない……はず。
彼は正気を失うこともなければ、怪物化することもなかった。その代わり、突然姿が消えたかと思えば数時間後に何事もなかったかのように現れるということが度々あった。
あるいは見た目が変わらないだけで、彼も怪物化していたのだろうか。
私たちは致命傷を負ったはずの彼が、次の瞬間には何事も起こらなかったように元通りになっている姿を何度も目撃した。それはもう、あの世界樹を遥かに上回る再生速度だった。
ソルは不死身のあだ名を彼に譲るべきですねと笑い、私もつられて笑ってしまったことがあった。
それと彼は他の騎士たちと違って、完全ではないが断片的に今までの記憶が残っているようだった。
1日目に戻るたびに彼は酷い悪夢を見たと証言するが、その内容は間違いなく以前の体験談としか思えないものが含まれていた。
なぜソルと私は完全に記憶が残っているのに、彼は不完全な形で残り、他の人たちはすべて忘れてしまうのだろうか。ソルとも何度も話し合ったが、決定的な答えは出なかった。
ただし、もしかしたら7日目を迎えることが記憶を維持できる条件なのかもしれないとソルは言った。
全てが消える6日目の終わりに最後まで残っていたのはソルと私だけだったように思えたが、彼もまたどこかで残っていたのだろうか。
ゴート卿。
眼鏡をかけたやや太り気味の男性で、彼の死体も謎だった。
魔術の知識を持つ専門家ということだったが、どうやらこの町に入った時に死んでしまったようだ。
そう、死んでいた。この死ねない町で最初から死んでいたのだ。検死を担当したキュリオ卿によると、外傷を始めとした死因らしきものは全く見当たないので、突然何の前触れもなく心臓が止まってしまったとしか思えないそうだ。
一応のところ、彼は心臓病を患っていて、この町に入る直前で発作を起こして死んでしまったのではないか、という結論になっている。
真相はわからないけれど、私はこの町に囚われる前に死ねた彼が羨ましかった。
話が怪物から騎士たちへと移ってしまったが、何度も何度も繰り返してわかったことは、安全など何処にも無いということだけだった。
それでも私たちは少しでもましな場所を探した。
民宿に篭った。
一度に殺到する暴徒の数によっては守りきれず、火を放たれたりバリケードを破られたり騎士たちが全員敗北することもあった。暴徒に捕まった時には私は散々◾️されて◾️◾️の中に◾️◾️◾️を詰められてグチャグチャに◾️◾️◾️されるので、私はソルに見ないでほしいと頼んだ。
教会の地下聖堂に篭った。
遺骨を安置する納骨場として使っているらしい。こんな場所があるとは知らなかったが、やはり安全な場所ではなかった。何かに引き寄せられるように怪物たちはここにも集まってきた。逃げ場を失った私たちは唯一の出口を塞いだ。私が怪物を呼んでいるせいだとビステル卿に断言され、背中から真っ二つにされた。ソルが激昂してビステル卿と戦い始め、キュリオ卿が発狂して鬼になって地下聖堂の柱を壊し、鬼以外の全員が石と土の下敷きになった。私はソルが怒ってくれたことが嬉しかった。
漁師たちの船を使い私とソルだけで海の上に出てみた。
これは最初、今までの中で一番上手くいったように思えた。わざわざ海の上まで追いかけてくる暴徒はいなかったし、怪物たちも大半が海を泳げないようだったからだ。しかし、残りの泳げる怪物たちに対しては手の打ちようがなかった。異形の魚たちは嬉々として船に穴を開け、水中に私たちを引き摺り込んではいたぶる。私もソルも窒息の苦痛と共に、怪物の稚魚が自分の◾️◾️を泳ぎ回る感覚を味わった。
他にも色々試したが、似たり寄ったりの結果に終わった。私が怪物を呼び寄せている、というのは実際その通りなのかもしれない。
怪物たちへの対処は諦め、逃げ道を探してみることにした。
赤い霧の切れ目を探してみた。
これは私が今まで何度も何度も探し続けてきたが、今一度騎士たちと探してみた。当然ながら外の世界への出口など見つからず、霧が途絶えている箇所も薄くなっている箇所も見当たらなかった。わかっていたことなので、特に残念でも何でもなかった。
赤い霧がかかっていない場所から出ようとした。
これはビステル卿の案だ。臆病者は海の中や土の中でも通って逃げればよかろうと吐き捨てるように言われたが、確かにそれは試したことがなかった。
どうせいくら息を止めても死なないのだ。私とソルは海中を泳いだり土を掘ったりして、霧に触れないように町の外へ出ようとした。
しかし結果はやはり同じだった。ある一定のラインからは、少し進むと後ろに戻されてしまうのだ。結果は徒労に終わったが、新しいアイデアをくれたビステル卿に一応お礼を言っておいた。彼は呆れた顔をしていたが、ソルはそれを見て笑っていた。私もソルを笑顔にすることができて嬉しかった。
隠し部屋や隠し通路を探した。
おそらく私の父あるいは祖父であるクローカス・クレマチスがこの町から逃げた方法があるはずだった。怪しいのはやはりあの地下室だったので、壁や床を片っ端から壊して秘密の出入り口を探し回った。結局何も見つからなかったけれど、重たいハンマーを振り回して本棚や机をどかんどかん壊すのはちょっと楽しかった。
私そっくりの死体は外に運び出して、キュリオ卿に検死をしてもらった。キュリオ卿の報告によると、身体中の血管が未知の素材に入れ替わっていたそうだ。おそらく世界樹の根だろう。
この死体をいくら破壊しても世界樹の成長を止めることはできないということは知っていたが、安全地帯も逃げ道もない私たちは世界樹を枯らせる方法を探すことにした。
ちなみにソルが聞かせてくれた世界樹とあの花は別物にしか思えなかったが、他にいい名称も思いつかなかったので、そのまま世界樹と呼ぶことにした。
燃やした。
ただ燃やすだけなら今まで数え切れないほど試したので、今度はさらに灰を海に撒いてみた。世界樹は当たり前のように元の場所に咲いた後、いつものように町中を飲み込んだ。
ボートを使い、海流に乗せて霧の外へ流した。
私たちが出れなくてもあるいは……と思ったが、世界樹も外の世界へ出ることはできないようだった。曲がりなりにも植物のくせに、繁殖したり生息地を増やす気はないのだろうか。ソルにそう言ってみたところ、とても悲しそうな顔をして、外の世界に世界樹が出て行かなくてよかった、とだけ言った。私は騎士としてこの国を守り続けてきたソルを侮辱してしまったのでないかと焦って謝った。ソルは謝るほどのことではないと言ってくれたが、しばらく悲しそうな顔をしていた。
世界樹だけでなく、私たちも子供を持てないことに気づいたのは、だいぶ後になってからだった。
世界樹を再生させている何かを探した。
ソルが言うには、不死身と呼ばれる生物には必ず弱点があるそうだ。大抵の場合は心臓で、そこを破壊しない限りどんなに傷ついても再生するらしい。ならあの世界樹にも心臓があるのかとソルに尋ねたが、そもそも植物には心臓がないことに気づいて私は赤面した。しかしソルは茶化したりせずに私を褒めてくれた。心臓に該当する弱点が体の中にあるとは限らないそうだ。全く別の場所に隠されていることもあるという。
これだと思い、何周も何周も繰り返して全ての建物や海の底、果ては私の体の中まで暴いて調べたが、それらしきものは、どこにも無かった。
唯一の成果は、私はあの死体と違って普通の人間の体であることが判明したことくらいだった。正気を保ったまま私たちを調べさせてしまったキュリオ卿には少し悪いことをしたと思う。
もうこれで完全に手詰まりだった。他にも思いつく限りの可能性を模索したが、結局はどれもこれも絶望と徒労だけしか残らなかった。
私は泣いた。ソルに何度も謝った。巻き込んでしまってごめんなさい、私は一人で苦しむべきだった。
ソルは私に罪はないと慰めてくれた。もし貴方がいなければ私は一人ぼっちだったと言ってくれた。
私たちは疲れていた。
しばらくの間、この世界からの脱出を考えないようにして、二人で様々な幸せの形を探した。この残酷な世界と折り合いをつけて生きていく方法を探した。
ソルはよく外の世界の話をした。
彼は行ったことのない土地へ行くのが好きなようで、珍しい食べ物や出会った危険な生物の話をしてくれた。
中でもソルのお気に入りの話は、ソルが人づてに聞き集めた誰かの冒険譚だ。今はほぼ絶滅したとされるオークや人狼などの古い危険生物が出てくる話はソルを饒舌にさせた。
彼も教会の騎士として、そうした怪物や恐ろしい道化師と戦ったそうだが、救えなかった犠牲者の事を考えると武勇伝として語る気にはならないらしい。仕事の話はあまりしてくれなかった。
私は彼と話をすることそのものが好きだったので、飽きずに同じ話を何度もせがんだ。
ソルと海に行って遊んでみた。
魚は全然釣れなかったけど、二人で泳いで遊ぶのはとても楽しかった。ソルはバレてないと思っているようだったけれど、常に私の胸を見ていた。ちょっと指摘したら凄い勢いで土下座して凄い勢いで言い訳を始めた。ソルのこんな姿を見るのは初めてで、息ができなくなるくらい笑ったのもこれが初めてだった。
ソルから字を習った。
ソルは私が何度間違えても決して怒らず、優しく読み書きを教えてくれた。私はソルに褒めてもらえることが嬉しくて、飲食も忘れてソルに続きをねだった。色んな本が読めるようになったが、私はもっともっとソルに色んなことを教わりたかったので、他にも色んなことを教えてほしいとソルに頼み込んだ。
ソルから剣を習った。
ソルから習ったことで、これだけは全然上達しなかった。私の筋肉量が貧弱すぎて、重たい剣を満足に扱うことができなかったからだ。代わりにナイフでの護身術を少しだけ習った。ビステル卿のように投げれるようになればソルの役に立てるかと思ったのだけれど、あの投擲術は達人技でソルにもできないとのことだった。一応二人でビステル卿に頼んでみたが、怒鳴られただけだった。
ふと思いついて、ソルと魔術書の解読に挑んだ。
残念ながらソルも知らない言語で書いてあるものばかりだったので全然全くわからなかった。ゴート卿なら解読できたかもしれないとのことだったけれど、私はあまり残念には思わなかった。時間の無駄に終わっても、ソルと一緒に何かをすることが私の生きがいになっていた。
ソルとチェスをした。
意外だったがソルもあまり詳しくはなかったので、広場でチェスをしていたおじいさんたちから二人で習った。駒の動かし方に始まり陣形や戦略について習ったが、とても奥が深い遊戯だった。ソルと対戦した時はほぼ必ず私が勝っていたが、どうやらわざとソルが負けているらしいことに気づいたので怒った。それからは4対6くらいで私が負け越すようになった。ビステル卿に見つかった時は怒鳴られるかと思ったが、ビステル卿はチェスが好きなようで乱入してきた。当然のようにソルと私はボコボコに負けた。広場のおじいさんたちも負けていた。
ソルとお酒を飲んでみた。
最初のうちは全然酔わなかったので、なんだこんなものかと思ってグイグイいってしまった。ソルに止められたが、大丈夫と見栄を張ってますますペースを上げてしまった。
でもそれがいけなかった。気分が悪くなり吐いてしまった。けれどもそんな私をソルが介護してくれるのはすごく嬉しかったので、愛してるだのなんだのわめきながら抱きついたりキスをしたりした。
しかし酔いが覚めた次の日の朝。自分の失態が恥ずかしくなってきたので、布団に潜り込んで大声で叫んで忘れようとした。
ソルと何度も愛し合った。
誰かと触れ合うことが、こんなに幸せなことだとは思わなかった。周回する度に痛みはあったが、それを上回る幸福感に包まれていた。
私はソルから幸せを貰ってばかりだったので、何かソルにお返しをしたいと相談したが、ソルは私の幸せが自分の幸せだと言ってくれた。私も同じ気持ちだったので、とても嬉しかった。
ソルと結婚式を挙げた。
この町に迷い込んだ行商人が高価なドレスを持っていたので、ソルに買ってもらってそれを着た。お姫様のようだとソルに言われて、私は舞い上がった。
傍目から見れば初対面同士の結婚だ。騎士たちに怪しまれ、誰からも祝福されることはなかったけど、私はとても幸せだった。
その数日後、そのドレスを着た状態で鬼に犯された。
鬼はソルが動かないように◾️◾️だけを貪り食った後で、ソルの前で見せつけるように棘だらけの◾️◾️で私を頭の先まで◾️した。ソルが買ってくれたドレスは踏み躙られて◾️◾️をかけられた。
ソルは私に尽くしてくれた。
その度にソルと他の騎士の関係は険悪なものとなり、酷い言葉でなじられた。職務放棄だ。やる気がないのか。遊んでいる場合か。悪女に堕落させられた。ふざけるな。真面目に仕事をしろ。辛い言葉や無言の圧力を散々浴びせられる度に私は騎士たちを憎んだ。
ソルがどれほど今まで頑張ってきたのかを知らないくせに。理性を捨てて楽しく暴れ回るあなた方に、どれだけ私たちが苦しめられたか知らないくせに。
ソルは騎士たちに謝罪をし、それでも私に尽くしてくれた。
ソルが隣にいるだけで、どんな苦痛にも耐えられた。
◾️やされた◾️められた◾️された◾️べられた◾️られた◾️◾️られた◾️された◾️まれた◾️された◾️された◾️きずり◾️された◾️された◾️かされた◾️り◾️ろされた◾️かれた◾️られた◾️られた◾️まれた◾️かれた◾️られた◾️られた◾️ぜられた◾️み◾️けられた◾️められた◾️らせられた◾️◾️された◾️◾️された◾️◾️された◾️◾️された。
でも、ソルが傷つくことだけは耐えられなかった。
周回を繰り返す度に、ソルは少しずつ弱っていった。笑うことが少なくなり、暗く落ち込む時が増えていった。彼は明るく振舞おうとしてくれたが、無理をしていることは明白だった。私は翳りゆく太陽に、何もしてあげれなかった。私は無力だった。
私はようやく理解した。
人生にハッピーエンドなんて無い。
この世界はどこまでも残酷に無慈悲にできていて、美しいものや大切なものを、いとも容易く踏み躙り腐らせていく。
きっとこれは、罰なのだろう。
ソルの存在は私にとって、あまりにも望外過ぎる幸せだった。私の何もかも全てを捧げても、本来は手に入るはずのない宝物だった。
私が、私なんかが、幸せなんて望んでいいはずがなかった。普通の生活や普通の幸せを手にしようとしてはいけなかったのだ。
だからこれは、その代償に与えられた罰に違いない。
神さま、神さま。
お願いがあります。
私はまた、一人ぼっちになってもいい。
どんな痛みを与えられても構いません。
だからどうか、ソルを助けてください。
お願いです。お願いです。
誰かソルを、助けてください。
誰か。誰かいませんか。
もう限界なんです。
傷つき弱る彼をもう見たくないんです。
きっとこのままだと、彼は壊れてしまいます。
お願いします。
誰か、助けて、ください。
この声が、どこかの誰かに、届いてください。
誰か、ソルを助けてください。
神さまでも悪魔でも、普通の人でもいいんです。
誰か、いませんか。
誰か……誰か……誰か……誰か……。
久しぶりに、新しい人がこの町に来た。
金髪と黒髪の女性二名だった。
「グランバッハ家・当主直属騎士団所属・独立特殊部隊長のクレア・ディスモーメントと従者のミサキだ。我がグランバッハ家の次期当主、バリス様の救助に来た。よろしく頼む」
第17話……『狩人の到着』




