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たとえ神に選ばれなくても  作者: ナカマクン
【普通に皆で遊ぶだけの話】
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第3話。チェックメイト

 私は爆速で死んだ。

 しかし皆の好意により、特別に解説役として現世に残れることになった。ちょっと嬉しい。ただし本来なら口出し厳禁という立場をわきまえて干渉は最低限にしよう。


《それでは2日目の昼時間、スタートです》


「あたし様の判別結果を聞いてビビりやがれ! ミサキがクロ判定! クレアっちを犯して殺したのはこいつだーっ!」


「いいやクロはイエローちゃんだ! 可愛い顔してこの女、クレアさんをバラバラにして殺しやがったー!」


「えっと、クロ判定が2人出たってことは、つまりどっちかは本当に悪魔なんだよな?」


「ちょっと何をぼんやりしてんのよアクセル。あんた検視官でしょ。ラブリー・キッチンの判定結果を皆に伝えないといけないんじゃないの?」


「あ、ああ、悪ぃ。ラブリー・キッチンさんはシロだった。俺の判断ミス。俺の責任だ」


 なんか私、犯された上にバラバラ死体にされてる……。文句はあるが、死人に口無しだ。おとなしく自分の役割に徹しよう。


「さて、2日目は『ピュアルンがミサキにクロ』、『リューイチがイエローにクロ』、そして『ラブリー・キッチンは確定シロ』だったな。ナイン、この辺で初心者が理解しやすいようにリストを更新したい」


《了解しました。ではお姉さまがリストを作り直すまで、しばしゲームストップです》




《死亡》

 ラブリー・キッチン……シロ。1日目処刑により死亡。

 クレア……リューイチのシロ。1日目襲撃により死亡。


《生存》

 アクセル……検視官。今後の進行役。

 ピュアルン……グレー。エクCO。

 リューイチ……グレー。エクCO。

 ミサキ……グレー。ピュアルンのクロ。

 イエロー……グレー。リューイチのクロ。

 ハスキ……グレー。ピュアルンのシロ。

 レッド……グレー。

 エリー……グレー。

 マリア……グレー。


 人間陣営残り6名。

 悪魔陣営残り3名。




《リストが更新されました。ゲーム再開です》


「あらあら、ミサキさんとイエローさんがクロ判定ですか。でしたら両方を吊れば悪魔を1人減らせる計算になりますね」


 最初に口火を切ったのはマリアだった。


「いえ、両方を吊る必要はありません。クロを出された私かイエローさんのどちらか片方を吊れば、アクセルさんが本物のエクソシストを教えてくれるはずです。とはいえここで失敗してしまうと次のミスは許されませんので、今日はイエローさんを吊って下さい」


「ミサキママの言う通りだぜ。これ以上シロを吊っちまうとこの村はもう終わりだ。初日シロだったクレアさんの仇を討つためにも、今日は何が何でもイエローちゃんを吊ってクロを減らすべきだね」


「ちょっと待ってよ。吊るならボクじゃなくてミサキちゃんにするべきだよ。占い結果だってリューイチおじさんがまた後出しでしょ? ピュアルンさんが本物のエクソシストだよ。ミサキちゃんを吊ってよ」


「ミサキ吊りだぁミサキ吊り! こいつはなー! 勝つためなら一番親しいクレアっちを真っ先にぶっ殺す危険なデビルだゼェー! こいつが悪魔だったらヤベーからあたし様は真っ先に占ったんだぁ! 今日はミサキ吊り以外ありえねー!」


「フン、ミサキちゃんがクレアを殺すわけないだろ。クレアと遊べるのを楽しみにしてたんだぞ」


「ハッ、そりゃメタ推理だぜオオカミ娘。いいかぁ? こいつはなぁ、悪魔にとって怖い奴から殺されていくゲームなんだ。そりゃあイノセ……クレアの姉御が人間陣営なら真っ先に殺すだろうよ。姉御と同じ初日シロでも、テメェみたいな初心者は怖くもなんともねえしなぁ! そうだろアクセル!」


「え、い、いや俺は別に……」


「ガルルルルルルル!」


 次々と忌憚なき意見が飛び出してきた。初日は皆が私に遠慮していたのだろう。やっと場が温まってきたようで何よりだ。人狼ゲームはこうでなくっちゃな。それはそれとして今あいつ私をイノセントって呼ぼうとした? やっぱ殺しておこうかな? おっといけないいけない、ちょっと殺意漏れちゃった。


「そうやって他者を煽って結束を乱そうとするあなたも大変怪しいですね。議論が進められないように妨害して、悪魔陣営が有利になるように誘導しているのではないですか?」


「ハッ! 言うねえ、イカレ宗教の教祖様は! もしかして俺様に殴られたのをまーだ根に持ってんのか? ケツの穴の小せえ女だなぁ! 俺様が広げてやろうかぁ!」


「レッド君、ボク達もう女の子なんだからそういうのは……」


「ハッ! そうだったな、チ●ポもねえし仕方ねえか……。おいアクセル! お前のチ●ポを俺様に貸せ!」


「いや貸せって言われても……」


「いつまでもボケッとしてんじゃねえって言ってんだ! アクセル!」


 レッドの意図に気付いたエリーが、アクセルを肘で突いた。まだ意図を読み取れず怪訝な顔を返すアクセルに、エリーが小声で教える。


「進行役でしょ。あんたがこの荒れた場を何とかしないでどうするのよ」


 アクセルが素早く立ち上がった。


「あっ、アニキ! いくら何でも言い過ぎっス!」


 空気を読む力はエリーが上だが、アクセルには行動力があるようだ。対して暴言を咎められたレッドは、嬉しそうに目をつむって肩をすくめた。


「おっとと、アクセルに言われちゃあ仕方ねえなぁ……。二人とも悪かった! この通りだ!」


 そして素直に頭を下げた。

 なるほど。主義主張で荒れる場の主導権をアクセルに握らせるために、わざと憎まれ役を演じたのか。レッドの第一印象は脳筋ヒャッハー族だったが、周りを見て他者を立てる能力もあるようだ。


「それで? 今日はどうするのよアクセル。どっちを吊るのかあんたが決める? それとも自由投票?」


 うーん。エリーの選択肢は妥当だが、今すぐそれをアクセルに決めさせるのはなぁ……。


「俺は……それを決める前に皆の意見が欲しい」


 お?


「初日は俺の勘で決めて無実のラブリー・キッチンさんを吊っちまった。俺の勘はアテにならねぇ。だから今日は時間ギリギリまで皆の意見を聞いて決めたい。クレアパイセン、残り時間が1分を切ったら教えてもらってもいいっスか?」


「分かった。猶予はあまり無いが、残り1分前になったら教えよう」


 大正解だ! 偉いぞアクセル! よく気付いたな! そうそう、これは人の意見を聞くゲームなんだ!


「じゃあ今日のクロ判定2人のうちどちらを吊るべきか意見を聞かせてほしいっス。順番は……とりあえず俺の隣のエリーからで」


「あたしから? まあ別にいいけど、あたしもあんたと同じ初心者だからね? んー……今の時点ではどっちが怪しいとは断言できないわ。あたしも皆の意見を聞きたいわね」


「ありがとな。次はピュアルンさん頼んます」


「あたし様が最初に言ったとーりミサキがクロだ。リューイチは一番強そうなクレアっちを殺すために初日シロ出しをして、ミサキはその意図を汲んで動きやがった。そんで今日はあたし様がクロを見つけたのを聞いて、後出しのクロ被せだろぉ? こんなヤバい奴らを残しておくわけにはいかねーよぉ、今日はミサキを吊りなよぉ。ところであたし様は自分の本名が好きじゃねーから、オールラウンダーって呼んでくんない?」


「どうして? 可愛い名前じゃない」


「ボクも可愛いと思うよ」


「私も可愛いお名前だと思います」


「あたし様的には可愛いより、頭が良いって思われたいんだけどなぁ……」


「そうだな。見た目も中身も可愛いで売っていくのはもう無理があるしな、お前」


「おいクレアっち? 今の発言、マブダチじゃなかったら普通に硫酸ぶっかけてるからなぁ?」


「クレア様、あとでお話です」


「ええー!?」


「と、とりあえずピュアルンさんサンキューっス。じゃあ次はその隣のマリアさんにお願いしたいっス」


「初心者ですので的外れな意見でしたらご容赦願いたいのですが……現時点ではどちらがクロなのか判別しかねますね。ただ、崇拝者は誰がクロなのかを知らないのですから、両方がクロという可能性も追ってよいのではないかと思います。私からは以上です」


「マリアさんサンキューっス。次はその隣のリューイチさんオナシャス」


「俺の占い結果……じゃなくて判別結果はさっき言った通りだぜぃ、イエローちゃんクロだ。ちなみにイエローちゃんを調べた理由は、目立たないように隠れたいように見えたから。判別結果の後出しについては、偽物に先に結果を言わせればボロを出すかもしれないって思ったからだぜ。俺からは以上かな」


「リューイチさんサンキューっス。次はその隣のミサキ先輩頼んます」


「私の立場としてはシロを主張するしかありませんが、それを証明できる客観的な材料はありません。ですから今日はイエローさんを吊って、その結果をアクセルさんに調べてもらって真偽を判断して頂ければと思います。さすがにまだ冒険者も生きているでしょうし、確定シロで初日から守られ続けているはずのアクセルさんをクロが襲撃する事も無いと思います。私からは以上です」


「ミサキ先輩サンキューっス。じゃあ次はその隣のハスキ先輩よろしくっス」


「ミサキちゃんがクレアを殺すはずがない。それと、オレはこんな悪趣味で退屈なゲームはやっぱり気に入らない。ミサキちゃんがやるからオレもやってるだけだ」


「ええ……いやそんなの俺に言われても……」


「ハスキちゃん、正直に言ってくれてありがとうございます。たしかに今は詰まらないかもしれませんが、きっと明日からは面白くなりますよ。推理だけでなくロールプレイも頑張りましょうね」


「まぁ……ミサキちゃんがそう言うなら、演技くらいはしてやる……。演技は戦いでも役に立ったからな」


「そういえば俺、ハスキちゃんに騙されて底なし沼に落とされたんだよね。まあ助けてもらったけど助けてもらえなかったってゆーか割とトラウマってゆーかまだ根に持ってるのはガチなんだけど俺も俺で女の子を殴るとかいう最低なことしちゃった「アクセル、時間無いわよ。次」


「ハスキ先輩、ミサキ先輩、サンキューっス」


「ねえ俺、過去の確執を水に流す真面目な話「じゃあ次はイエローさんナルハヤで頼んます」


「ちょっと早口になるね。ボクの視点ではピュアルンちゃんが真エク、ハスキちゃんがシロ、リューイチおじさん崇拝者、ミサキちゃんがクロで確定だよ。それとミサキちゃんから冒険者の護衛先を誘導しようとする発言があったけど、ボクは凄く危ないと思う。きっとアクセル君が守られている隙を突いてピュアルンちゃんを襲うつもりだよ。気をつけて。本当の本当に今は危ない状況だよ」


「忠告サンキューっス、イエローさん。じゃあ最後にその隣のアニキの意見を聞きたいっス」


「残念だがもう1分前だ、アクセル」


 私がタイムリミットを告げると、レッドは肩をすくめた。


「ハッ、議論に入る前に終わっちまったなアクセル。だが今日まではこれでいい。皆の意見を聞いたお前が正しいぜ」


 そして彼女はアクセルの肩をポンと叩いた。不安気に眉をひそめるアクセルに、レッドは歯を見せて笑う。


「アクセル、今日は自由投票にしな。誰が誰に票を入れたのかをよーく見ておけ。処刑結果は明日、お前が皆に教えろ。メス豚はああ言ったが、なぁに心配すんな。少なくとも今日、お前は絶対に死なねえよ」


 まるで自分が守るような物言いに、アクセルは頷きを返した。レッドを見つめ返すその目からはすでに迷いが晴れている。知り合って日は浅いが、すでに彼らの間には信頼関係が築かれつつあるようだ。


「了解っス。アニキの助言に従って、今日は自由投票にするっス。ミサキさんとイエローさんのどちらか怪しいと思う方に投票してもらいたいっス」


 ふむ……。

 少なくともここまでは不審な点は無い。全員の発言に正当性があり、妥当なものだと認めよう。疑おうと思えばほぼ全員が疑えるが決定的な根拠は無い。それを踏まえた上での自由投票は現時点で最善の選択肢だ。誰が誰に投票したのか忘れないようにリストを作っておくか。


《昼時間が終了しました。議論終了です。全員目を閉じて処刑対象を指差してください》


 迷い。困惑。焦り。不安。自信。それぞれの指がそれぞれの思惑を乗せて、今日まで苦楽を共にした仲間を指し示す。絞首台に送られるのは悪魔かそれとも無実の人間か……。ふふふ、面白くなってきたぞ。私もまだ参戦していたかったなぁチクショウ!


《では結果を開票します。全員目を開けて下さい》




《2日目投票結果》


 アクセル……イエロー。

 ピュアルン……ミサキ。

 リューイチ……イエロー。

 ミサキ……イエロー。

 イエロー……ミサキ。

 ハスキ……イエロー。

 レッド……ミサキ。

 エリー……イエロー。

 マリア……ミサキ。




《投票の結果、イエローさんが処刑されました。対象者は席を離れ、あちらの方で悪魔狩りの行方をお見守り下さい。なお、ゲームに影響の出る言動は禁止です》


「ボクを信じてくれた人ありがとう……。信じてくれなかった人も、ボクに投票させちゃってごめんね……。ボクはここでお別れだけど、皆の勝利を祈ってるよ……」


 イエローは意気消沈しながらも立ち上がり、自らの足で処刑台へと向かった。アクセルは罪悪感を覚えたのかイエローの背中を直視しようとはせず、彼女が冥界に辿り着くまで顔を伏せていた。


《では続いて夜時間です。悪魔以外の全員は目を閉じて下さい。悪魔はハンドサインを用いて相談を行って下さい》


 私も指示に従い目を閉じた。ナインが各役職の処理を進める間に、現状を整理してみよう。

 客観的に見ると人間陣営にはまだ猶予がある一方で、悪魔陣営は…………かなり苦しいか。クロ1人以上が確定で見つけ出され、高確率で冒険者も健在、そして翌日にはエクソシストの真偽も判明してしまう。今日吊られたイエローがクロならば、悪魔陣営の敗北も秒読みだろう。


《全ての役職の処理が完了しました。なお、この一連のやり取りは各役職の生存に関わらず必ず行われます。…………3日目の朝になりました》


 この状況をひっくり返す手は限られている。

 もしも私が悪魔であったなら、検視官が鉄板で守られるこの状況を逆手に取って……。


《ピュアルンが無惨な死体で発見されました》


 逆手に取って、真エクソシストを殺す。

 これで今後クロの発見は不可能となった。あと一度でも間違えれば人間陣営の敗北となる……逆王手だ。

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