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たとえ神に選ばれなくても  作者: ナカマクン
【普通に皆で遊ぶだけの話】
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第2話。ゲーム開始

「あたし様がエクソシストCOだオラァ! ハスキが初日シロ! 確定人間陣営だぜぇ〜!」


「対抗エクソシストCO! クレアさん初日シロ! ウハハこりゃあ頼もしいね!」


 初日の昼時間が始まるや否や、2名のエクソシストが名乗り出た。『ピュアルンはハスキに初日シロ』、『リューイチは私に初日シロ』か。『私の役職は村人』なので、少なくとも今の時点ではどちらのエクソシストが本物なのか判別はできない。


「あのー、COってなんスか?」


 おっと、用語の説明をしていなかったか。私は初日シロだし初心者も参加しているので解説をしてあげよう。


「カミングアウトの略だ。そして2名のエクソシストのうち片方はおそらく崇拝者で嘘をついている。ちなみに先にCOをした方が本物である可能性がやや高い」


「それはどうしてなの、センパイ?」


「偽物はあてずっぽうでシロ出しをするしかないわけだが、先出しで運が悪いと本物のエクソシストにシロ出しをしてしまうからだ。対抗エクソシストは悪魔陣営のはずなのにシロが出るなんて破綻しているだろう? 速攻で悪魔陣営と認定されてしまうので、本物のエクソシストが名乗り出るのを待ってから自分も出てくるのが偽物の定石なんだ」


「おいおいクレアさん、俺の初日シロなんだから俺を庇ってくれなきゃ困るぜ」


「あー……先手シロ寄りの定石を逆手に取って、初手から賭けに出る崇拝者先手COも当然アリだ。だから先出し後出しだけで真偽を判別するべきではない。これでいいか?」


「ヒュー! さすが初日シロは優しいねえ!」


「はいはい」


 だが初日シロを出された私はおそらく……いや、それをあえて口に出す必要は無いか。それを決めるのは悪魔陣営だ。


「それで次はどうすればいいの? 悪魔陣営が誰か分からないのに、処刑する人を決めようもなくない?」


「その通りだ。だから初日は吊る者を決める前に、今後の進行を話し合う」


「吊るということは、処刑方法は絞首刑なのですね。比較的苦しみの少ない死に方で安心しました」


「キヒヒヒ、今から吊られる心配〜? あんた怪しいネェ〜」


「私は現実でも絞首刑にされるかもしれませんので」


 クスリと笑うマリア。本人は冗談のつもりかもしれないが、ブラック過ぎるので笑う者は居ない。ふーむ。変態教団のリーダーをやっているだけあって、優しそうな見た目によらず肝は座っているようだ。ところでどうして私は教皇と呼ばれているのだろう。


「まあいい、話を戻そう。エクソシストが2名出てきたが、まだどちらも信用できない。ならば次は霊媒師……じゃなくて検視官に出てきてもらうのが定石だ」


「それってどんなメリットがあるの、センパイ?」


「シロかクロか分からないグレーを減らせる。エクソシストの無駄撃ちを避けれる。貴重なシロ役職を投票で処刑してしまう心配を消せる。進行役を決められる。大体この四つだな」


「でもそれ、エクソシストみたいに偽物が出てきたら成立しなくないっスか?」


「アクセル、あんたってほんっとーにバカね。3人しか居ない悪魔陣営のうち2人が出てきたら、本物も偽物も全員まとめて処刑するだけで残り1人まで悪魔を減らせるじゃない」


「あ、そりゃそっか。確かにそんな危ない橋は渡れねーよな」


「さらに言うと、その展開ですと本物のエクソシストは自分の処刑順になるまでに、残りのグレー7人の中から悪魔を1人だけ見つければよいのですね。最低3回は判別のチャンスがあり、役職主張4名は処刑対象。悪魔の立場としてもグレーしか襲撃先がありませんので、厳しい展開になりそうです」


「その通りだ。エリーとマリアは初心者にしては飲み込みがかなり早いな。アクセルも疑問はちゃんと口に出してくれるので見込みがある。ハスキとラブリー・キッチンはあまり喋らないが、ここまで理解は大丈夫か?」


「オレは問題無い。人間と違ってこういう邪悪な遊びが好きじゃないから黙ってるだけだ」


「あちしも大丈夫でちゅ。こうして人と遊ぶのは子供の頃以来でちゅので、感動していまちゅ」


 不機嫌なハスキより、ラブリー・キッチンのキラキラした目が怖い。怖すぎる。そもそも普通に殺人鬼だから敵サイドだし、お近づきになりたくない……。


「えっと、じゃあ結局COした方がいいんだよな? はい、俺が検視官っス」


 アクセルがあっさりと手を挙げた。全員の注目が彼に集まるが対抗馬は無し。今の解説を聞いて対抗COをしようとする者は流石に居ないようだ。


「よし、ではアクセルは確定で検視官だな。ここまでは私が進行役を勤めていたが、ここからは確定シロであるアクセルに進行役を任せる」


「ええ!? ちょっと待ってくださいよ! 俺初心者だから何も分かんないっスよ!?」


「アクセル! 男がメソメソ泣き言を抜かすんじゃねえ! こういう時はドーンと構えて、俺に任せろって言えやいいんだ!」


「アニキィ……でも俺、自信が……」


「バーッカヤロウ! 自信があるからやるんじゃねえ! やるから自信がついてくんだ! 最初の一歩にビビってんじゃねえ!」


「そうか、そうだよな……最初の一歩にビビってちゃ何もできないよな……。分かったよアニキ。俺、やってみるっス」


「その意気だ! 任せたぜぇアクセル!」


 豪快な笑顔でビシリと親指を立てるレッド。

 ふーむ……見殺しにするのは可哀想だったので口実を作って拾ってきただけなのだが、彼女は意外にも本気で教育係を担ってくれている。大して期待はしていなかったが、考え直す必要があるようだ。ミサキの頭を踏んだ時はどうやって殺してやろうかとも思ったが、案外悪い奴ではないのかもしれない。ただしリョナ性癖らしいが。


「では進行役であるアクセルには、情報量の少ない今日の投票方法を決めてもらおう。私からの提案は二つ。全員がそれぞれ自由にグレーへ投票しランダムに吊る『グレラン』か、進行役が投票先を指定する『吊り指定』だ」


「俺が処刑する人を決めていいんスか?」


「アクセル君、両方のメリットとデメリットを聞いてから決めた方がいいとボクは思うよ」


「了解っス。クレアパイセン、それぞれの長所と短所を聞かせてほしいっス」


 エリーだけでなくアクセルも素直で良い子だな。オッサンにモテるのも納得だ。あの頃の私にもこれくらいの素直さがあれば良かったのだが……今さら後悔しても意味が無いな。今はゲームを楽しもう。


「グレランのメリットは、誰が誰に投票しなかったのかを見れることだ。悪魔はお互いに投票を避けるのがセオリーなので、後々にこれが効いてくる展開もある。対してデメリットは、悪魔がシロに票を投じる為に必然的にシロが吊られてしまう可能性が高い点だな」


「センパイセンパイ! じゃあ吊り指定のメリットは悪魔を一発で吊れるかもしれない事だよね! それでデメリットは皆の投票先を見れなくなっちゃうことでしょ?」


「大正解だ。流石だな、エリー」


「やったぁ! センパイに褒められちゃった! それで、どっちを選ぶのアクセル? どうせあんたのことだから、グレランにしようと思ってるんでしょ。そっちなら無実の人を吊っちゃってもあんたの責任じゃないし、責められずに済むものね」


 責任の所在についてはあえて明言を避けていたのに、エリーに突かれてしまった。


「舐めんな、俺は吊り指定にする。一発で悪魔を当てられるかもしれねえのに、ビビっても仕方ないだろ」


 アクセルが面白くなさそうに言い切った。懸念はあれど、進行役の意思は尊重しなくてはならない


「ラブリー・キッチンさん。悪いけど今日はあんたを吊らせてもらうっス。反論はあるっスか」


 そして見た目が一番怪しい奴に吊り指定が飛んだか。初心者がいきなり吊られるのはこのゲームではよくある光景だ。楽しみにしていたところを悪いが、冥界で観戦してもらうしかない。


「反論でちゅか……」


 ラブリー・キッチンは何かを迷うように視線を泳がせたが、こんな序盤で反論の材料などあるはずもない。いや、むしろ『材料があるなら反論してはいけない』のだ。このゲームが終わったらその理由を初心者に教えておこう。


「反論はありまちぇん。あちしを吊ってくだちゃい。いつかは処刑場に送られる日が来るとは思ってまちたが、案外遅かったでちゅね」


 ラブリー・キッチンはフゴフゴと笑って己の死を受け入れた。


「明日になればあちしがシロだったことが分かるはずでちゅが、気を落とさないで下ちゃい。あちしの死体は皆しゃんで食べてくれたら嬉しいでちゅ」


 この人の発言、いちいち怖いんだが?

 仲間認定されたくないんだが?


《昼時間が終了しました。議論終了です。全員目を閉じて処刑対象を指差してください》


 若干曇ったアクセルの表情を見るに、吊り指定先の遺言を聞いて迷いが生じたようだが、制限時間が来てしまった。もはや何も変えられない。私は目を閉じて、ラブリー・キッチンが座っていた位置を指差した。


《では投票結果開票です。全員目を開けて下さい》


 目を開けると、予定通りに全員がラブリー・キッチンを指差していた。


《投票の結果、ラブリー・キッチンさんが処刑されました。対象者は席を離れ、あちらの方で悪魔狩りの行方をお見守り下さい。なお、ゲームに影響の出る言動は禁止です》


 ラブリー・キッチンは黙って頷き、素直に部屋の片隅に移動した。ふむ……見た目と中身は最悪だが、ルールは守ってくれる性格らしい。それが知れただけでも良かった。


《では続いて夜時間です。悪魔以外の全員は目を閉じて下さい。悪魔はハンドサインを用いて相談を行って下さい》


 ナインの指示に従い再び目を閉じる。思えば初日は殆ど私が喋るだけで終わってしまったが、まあ序盤はこんなものだろう。情報が増える明日以降からが本番だ。ちょっと楽しくなってきたぞ。ふふふ……。


《…………相談が終わり、悪魔の襲撃先が決定しました。悪魔は目を閉じて下さい。続いてエクソシストは目を開けて判別相手を指差して下さい。私が手でマルを作ったら対象者は人間。バツを作ったら悪魔です。…………判別結果をお伝えしました。エクソシストは目を閉じて下さい。続いて冒険者は目を開けて護衛対象を指差して下さい。…………護衛対象を確認しました、目を閉じて下さい。続いて検視官は目を開けて下さい。私が手でマルを作ったら本日の処刑者は人間。バツを作ったら悪魔です。…………結果をお伝えしました。なお、この一連のやり取りは各役職の生存に関わらず必ず行われます》


 それにしてもナインの進行は実にスムーズだ。おそらく進行役ばかりを任されてきたのだろう。プレイヤーとしても参加させてあげたいが……難しいな。バナナを食べてウホウホしか話せないゴリラ人狼ならいけるか……? まあそれは後で考えよう、今はこのゲームを楽しみたい。ここ最近ですっかり失ってしまった私の威厳を取り戻してやるぞ、必ず!


《2日目の朝になりました。クレア・ディスモーメントが無惨な死体で発見されました》


 んへえぇ……。

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