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たとえ神に選ばれなくても  作者: ナカマクン
【クレアがバカになる話】
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第8話。月下美人の夜

 異教徒の村が燃えていた。


 誰かが蹴倒した篝火から広がった炎が家や屋台を貪っている。足を折られた人々は少しでも熱から逃げようと必死の形相で這いずり、舞い散る火の粉は彼らの服を焦がし肌に火傷を刻んだ。哀れな彼らを見捨てられなかった愚かな信者達の何名かは救助活動を始めているが、彼らが何をしようとも異教徒の末路は決まりきっている。騎士達は侮蔑あるいは憐憫の視線を送りながら彼らの邪魔はしなかった。


 ヤグラに高々と掲げられていたイノセントの肖像画にも今、火が点いた。こちらを向いて優雅に微笑む彼女の姿が炎に炙られ、端から黒ずみ丸まって……呆気なく燃え尽きた。


「ふぉっふおっふぉ、魔法少女戦隊じゃったか? 魔女未満に負けるようでは魔女狩り部隊の名折れじゃて。ここは儂らの面目躍如と言うたところかのぉ」


 騎士達を従えて満足そうに笑う老魔法使い。彼の威光の下に敗北者達は揃いも揃って首を垂れていた。騎士達に組み伏せられたブルー、イエロー、レッド。聖務執行妨害罪で身体の自由を奪われたグリーン。吐き出せる限りの情報を魔女狩り部隊に提供し続けている頭部だけのピンク。逃げ場を失いメインステージ近辺に集められた異教徒達。遠目には銀の壁に逃亡罪を適用されて半身不随となった者達も居る。


「ごめんね、ボクが弱いから……」


「いいえ……現場責任者である私の責任です……」


 すでに戦意を喪失し、互いに謝る事くらいしか出来ないイエローとブルー。二陣営の対決は魔女狩り部隊の圧勝を持って幕を閉じていた。


「クソがああああああああ!」


 地面に押さえつけられたレッドが無様に吠える。能力の中枢を破壊されて弱体化した彼女では、騎士の一人すら倒せなかった。


「うむうむ、元気が良くて何よりじゃ。子供は元気が一番じゃからのう。ではあらためてもう一度聞こうかの。お主の仲間はこれで全員じゃな?」


「はい。これで全員です……」


 老魔法使いの問いかけにピンクの生首が答える。


「お主らと魔法少女教団との関係は?」


「無関係です……。教会関係者殺害の罪を異教徒に被せるために、魔法少女教団に所属している振りをしろと命令がありました……」


「やれやれじゃ。見え透いた小芝居で儂らを騙そうとは、儂らも随分と見くびられたものじゃのう。人工とはいえ仮にも魔法使いを名乗るのならば正々堂々と勝負せぬか。誉れが泣いておるぞ」


 老魔法使いは罪人の如く跪き項垂れるグリーンに手をかざした。


「お主らの能力もお嬢さんから聞かせてもらったわい。他はともかく緑と赤の能力は危険じゃて。この場で判決を下そうぞ」


 なおグリーンが作り出した緑の沼に下半身を飲み込まれた騎士4名はすでに救助されており、仲間にもたれかかって苦しそうに血を吐いている。


「判決を述べる。被告は怪物の臓物や魔術師の呪具を身体に埋め込み、天より授かりし己の肉体を穢した。これは神への冒涜であり生命への冒涜である。従って被告には罰金刑を科す」


 不穏な風が吹く。銀色の本がバラバラとページをめくり、老魔法使いが厳格に頷く。騎士が兜から吐いた血が仲間を汚した。「おい、大丈夫か?」「すまん……」騎士達は仲間に肩を貸す。パチパチと村が焼ける音が聞こえる。世界は静かだった。


「なお被告の支払いは、金銭ではなく悪しき邪法に用いた心臓によって行うものとする」


 グリーンの心臓が差し押さえられた。彼女の心臓は外傷も無く抜き取られ、ピンクの生首の隣に浮かぶ。心臓は自分が身体から切り離された事にまだ気付いていない様子で、僅かに血を噴きながらドクンドクンと鼓動を続けていた。グリーンが顔を上げる。脈打つ自分の心臓がその眼に映る。彼女は心臓を抜き取られた自分の胸に手を当てた。当然ながらそこに鼓動は無い。間も無く絶命するであろう彼女の一挙一動に誰もが注目している。それまで喚き散らしていたレッドが急に黙った。冷や汗がどっと吹き出す。失った能力の残滓が彼女に全力で警告を叫んでいる。


「む」


 長い、あまりにも長過ぎるグリーンの末期に老魔法使いが胡乱げに眉をひそめた。グリーンと老魔法使いの目が合う。


「あらあら、欲の無いお爺様ですわね」


 そしてグリーンは心からの笑顔を見せた。


「仰って下されば心臓くらい何個でも差し上げますのに」


 緑色の沼が一瞬で血の赤に染まった。逆流する滝のような勢いで鮮血の水柱が上がり、異様に細長く青白い腕が何十本と生え揃う。脈打つ心臓を大切そうに乗せたそれらの腕には関節が無く、蛇や軟体動物を思わせる動きで老魔法使いを目指してグネグネと伸び始めた。


「ゼッ……!」


 驚きに目を見開く老魔法使い。うやうやしく心臓を差し出す血に塗れた腕の群れが、彼の視界一面を覆い尽くす。


「ゼノフォビアじゃああああ!」


 神聖なる銀色の格子が老魔法使いと不浄の怪物を隔てた。「余罪追求の為、被告に72時間の勾留を行う!」輝く格子は怪物の全方位を瞬く間に覆い、巨大な檻を作り上げる。


「あら、人違いですわ」


 怪物が差し出す心臓を内側から突き破り、細く小さな腕が何本も飛び出した。それらは格子の隙間から這い出そうとしたが、不可視の壁に阻まれてベタリと檻に貼り付いた。グリーンが頬に手を添えて考え込む素振りを見せる。


「でも……もしかしたら人違いではないのでしょうか? ゼノフォビア……異国人嫌悪……いいえ、能力からして異国人に限定しませんわね。相応しくは異種族嫌悪といった意味でしょうか?」


「とぼけるでない全生物の怨敵めが! 貴様ら悪鬼と儂ら教会が今まで何度戦ってきたと思うておる! 性懲りも無く本体の復活を目論んでおるのであろう!」


「そう申されましても困りますわ。わたくしは何も知りませんもの。こちらが教えて頂きたいくらいですわ。ゼノフォビアとは人名ですの? それとも種族名?」


「ぬううっ!? 偽証罪の適用外じゃとお!? 者共、十字陣形じゃ! 儂の号令に合わせて豪剣を放ち、忌まわしき悪鬼を血の一滴残さず焼き尽くせい!」


 指先をビシリと伸ばして片腕を突き上げる老魔法使い。豪剣を持つ20名の騎士達が彼に従い、血肉が満ちる檻の前へと躍り出た。


「まあ、せっかちですわね。教団の責任者をお引き渡しますから、もう少しだけお話しして下さいませんこと? わたくし、お爺様のお話をもっとお聞きしたいですわ。ゼノフォビア?さんったらわたくしを怖がるばかりで、何も教えて下さらないまま消化されてしまいましたの」


 血の沼から伸びる腕の一本が、それまで石の中に隠していたシスター・マリアを檻の前へと差し出した。レッドに殴られた彼女の右頬は無惨にも腫れ上がっている。


「その手には乗らぬぞ! すでにそやつも貴様の血が混ざった眷属じゃろうが! 儂がみすみすと貴様を外に逃がす……と、でも……」


 何かに気付いた老魔法使いが青ざめる。グリーンはクスクスと笑った。


「あら、ようやくお気付きになられましたの」


 騎士が脱いだ兜の内から「どうなされましたお爺様?」足をへし折られた異教徒の体の下から「顔色がよろしくないですわよ」誰かが吐いた血の染みから「それに先程から随分とお元気なご様子ですわね」老魔法使いの手元に浮かぶ心臓から「もしかして余裕をお失いになられたのかしら?」ピンクの生首の切断面から「あらあら大変ですわ、わたくしまだ何もしていませんのに」宙を舞う髪の毛の一本から「お爺様、豪剣とはどう使えばよろしくて? この手で自分自身を焼くなんてゾクゾクしますわ」号令に従い並んだ騎士の一人から「まあ! はしたなくってよ」グリーンと同じ顔の少女が少女が少女が少女が少女が咲き乱れた。


「ぬおおおおおっ!?」


「ギル爺様! 後退を!」


 騎士達が老魔法使いを抱えて次々と撤退する。「貴様らも来い!」囚われの三人娘も亜然としたまま抵抗する事なく、騎士達に担がれるがままに運ばれていく。

 少女達は全身から血を噴き出した。血の海が広がる。巨大な腕が原生林の如く乱立し、少女達は思い思いに腕と絡まり腰掛ける。そして彼女達は笑った。クスクスと口元を隠して淑やかに笑った、笑った、笑った。


「なっ、なんじゃあこれはぁ!? ゼノフォビアではないのか!? この増殖力と再生力はまるで、まるで……!」


「【パレード】ですわ」


 少女達の口が同時に動いた。


「わたくし、彼の血を舐めましたの。実に素晴らしい生命力に満ち溢れていましたわ。命は一人一つだと思っていましたのに、彼の血はたった一滴に百兆人分の生命が凝縮されていましたもの」


 血の滴る真っ赤な舌が艶かしく唇を舐める。口の端から漏れた鮮血の唾液を少女の手が拭った。彼女の手は血を塗り広げるようにその白い柔肌を滑り降りていく。アゴから喉へ、首元へ、胸へ、鳩尾へ、腹へ。そしてヘソの下を慈しむように撫で回す。


「わたくし、たくさんお話しをしましたわ。ゼノフォビアさんは最後までわたくしを気持ち悪いとか怖いとか許してとか仰るばかりで何も教えていただけませんでした。でも【パレード】さんはわたくしを認めてくれましたの。わたくしの夢を応援してくれるって仰ってくれましたわ」


「なんたるっ、なんたる事を! ゼノフォビアと【パレード】を軍事転用したなど、貴様ら正気かーっ!」


 わなわなと拳を震わせて激昂する老魔法使い。「わ、私は知らない! そんなはずはない!」騎士に抱えられたままブルーが叫んだ。


「グリーンに使われた素材は変身能力を持つ怪物で、石や動植物に変化する程度の能力だった! 彼女がゼノフォビアを取り込んだなどと、私は聞かされていない!」


「焼け死ね化け物め! fayra!」


 先走った一人の騎士が豪剣を放った。「馬鹿者っ……!」老魔法使いの叱責もすでに遅く、放たれた猛火が血肉の怪物を飲み込む。


「あああああああーっ!」


 しかし悲鳴は豪剣を使った兵から上がった。少女達を焼いたはずの炎は瞬く間に消え、それを放った騎士の体内から噴き上がっていた。


「儂の合図を待てと言うたろうが……!」


 口惜しげに顔を歪める老魔法使い。騎士の心身とその罪を喰らって轟々と燃える炎の向こうで、血肉の怪物が笑う。


「あらあら、いきなり焼身自殺されるなんて一体どうなされましたの? わたくし驚きましたわ。もしかしてお爺様の能力が味方にも適用されると教えて頂けていなかったのかしら……。ねえお爺様? きちんと部下には教育を施すべきではありませんこと? ふふふ」


「ぬうーっ! 黙らぬか悪鬼が!」


 事実として、ディーン国に在留していた魔女狩り部隊の精鋭はホルローグの一件によって壊滅している。急遽派遣が決まった老魔法使いに預けられた兵は実戦経験の乏しい若手達であった。


「わたくし段々と分かってきましたわ。罪と罰によって相手の行動を制限しつつ、自分達が攻撃する時は能力を解除して一方的に危害を加えるのがお爺様の戦い方ですのね。一見してお強い能力ですが、種が割れてしまえばいくらでも対処可能ですわ」


 グリーンが指を鳴らすと、彼女の血を浴びて自己を上書きされていた騎士達の顔が本来あるべき位置に戻った。「え?」「あれ? は?」「今、私は……」「体が」困惑を隠しきれない騎士達。


「対策その1、融合。原告と被告を同一人物にしてしまえば、自分に何をするも自分の勝手ですわ。現にお爺様は私を勾留するのが精一杯で、何の罪にも問えないご様子ですわね」


「貴様……! 地獄に落ちるぞ……!」


「まあ素敵。それならきっとわたくしはお父様と再会できますわね。もしかするとお母様ともお目通りが叶うのでしょうか? 今から楽しみで眠れなくなりそうですわ」


 淑やかに両手を合わせて本心からの笑顔を見せるグリーン。「な、何故……」そんな彼女とは対照的にブルーが青ざめ、ガタガタと震え始めた。彼女から大量の汗が流れ落ちる。


「何故、ピンクの遺体からも分体が出現した……? ゼノフォビアの血を浴びた兵が眷属化するのは理解出来る。だがピンクは……いや、お前、まさか、まさかっ……!」


「あら、お気付きになられましたのね。実は今朝、皆様のお食事にわたくしの血を混ぜましたの。残念ながら能力的にレッドさんとイエローさんには効果はありませんでしたわ」


「あっ、あああ、あああああーっ! 嫌だああーっ!」


 自身に今から訪れる運命を察したブルーは、眼球が飛び出さんばかりに目を見開いて絶望を叫ぶ。これが彼女が人として残せる最後の姿となった。


「お願いだからもうやめてグリーンちゃん! ブルー君が可哀想だよ!」


「申し訳ありませんが、承諾いたしかねますわ。では失礼しまして、お爺様への対策その2をお見せしますわね」


 イエローの懇願を無慈悲に蹴ってグリーンが指を鳴らすと、「嫌だああアアアアアアアブッ……!」泣き叫んでいたブルーが瞬く間に醜く膨れ上がって破裂した。彼女の皮膚の下からは血や臓物の代わりに何百個もの眼球が射出され、四方八方に飛散して魔女狩り部隊を見つめる。


「しまっ……!」


 ブルーの能力をピンクから聞き出していた面々が咄嗟に目を閉じる。しかしもはや手遅れであった。


「無駄ですわ。ブルーさんには透視能力もありましたもの」


 ブルーの素材に選ばれた魚頭の怪物は、かつて不老不死を求めた魔術師が作り出した怪生物だった。副作用として対象の性別を女性にする代わりに老人ですら若返らせ、どんな病気や傷をも治す怪生物に与えられた名はブルーヘッド。不老不死の第一歩だと持て囃されたこの怪生物は至近距離で目を合わせた生物に網膜から脳に命令を送り込み、激痛と共にその全身を細胞レベルで再構築させる。


「うぎゃああああああああーっ!」「ぎゃあああーっ!」「助けっ、助けてえええええ!」「痛い痛い痛い痛いいいいいいいい!」「助けて神様ーっ!」「やめろおおおおおお!」「あぶぶぶぶぶぶぶぶ」


 それが若返りや治療を装った怪生物の生殖行為であると調査機関が気付いた時には魔術師と怪生物は姿を消しており、怪生物の苗床に改造された犠牲者が何十匹もの幼体を各地で出産した後だった。


「なんじゃこれはああああああ!?」


 皺一つ無い自分の両手に驚くギルバード。驚き叫ぶ可愛らしい声の中には隠しきれない歓喜が滲む。幸か不幸か、件の怪生物の知識を彼は持ち合わせていなかった。


「あの忌々しい腰の痛みが消えおった! 首、肩、膝の痛みも片頭痛も綺麗さっぱり無くなっておる! 目もぼやけぬし、体が嘘のように軽くなっておるーっ!?」


 あの厳格な老人の姿は今や愛くるしい幼女へと成り果てていた。百戦錬磨の老魔法使いの勇志もどこへやら、ダボダボの僧衣に包まれてわたわたと混乱している。


「ギル爺様!? そのお姿はいったい!?」「おい! お前の声も変だぞ!?」「お前こそ!」「この鎧の下は何がどうなってるんだ!?」「脱ぐな! いいか! これは命令だぞ! 絶対に鎧を脱ぐな!」「ギル爺様……いえ、ギル婆様……?」


 幼女と同様に女性の声で、著しい混乱を見せる騎士達。変化が無いのは彼らに放り出されたレッドとイエローのみであった。


「良かったですわね、元お爺様。これでもっともっと長生き出来ますわよ」


「きっ、貴様ーっ! これは何のつもりじゃーっ!」


「対策その2、罪に問われない行為ですわ。他者の性別を変えたり若返らせたり体の不調を治すといった行為が、いったい何の罪に問われるのかを試してみましたの。裁きが下らない様子を見るに、元お爺様にも喜んでいただけたようですわね」


「黙れーっ! ワシが聞いておるのはそんなことではない! 今の不意打ちで目玉ではなく血を浴びせていれば貴様の勝ちであったろうがーっ!」


「あら、そんな勿体ない事は出来ませんわ」


 グリーン本体を封じ込めていた銀の檻が粉々に砕け散った。空を抱くように両腕を広げ、キラキラと輝き降り注ぐ紙片を愛おしそうに浴びる少女達の姿は禍々しくも宗教画的な美しさを秘めていた。


「まだまだ弱いわたくしは、夢の為にもっともっと強くならなければなりませんの。いっぱい勉強して、たくさんの魔法使いを取り込んで、イノセント様のお力も手に入れて、誰もわたくしの邪魔が出来なくなるくらい強くならなくてはなりませんの。つきましてはわたくし、実戦経験を所望いたしますわ。思い付く手は全部試して、相手の起死回生の一手に青ざめて、お互いの主義主張をぶつけ合う……そんな心躍る戦いをしてみたいと思っておりますの」


 周囲一帯を封鎖していた巨大な銀の十字架が次々と砕け散った。眩い光が失われ、光源は村を焼く火へと移り変わる。グリーンの顔が曇った。


「ああ……でも……どうやら元お爺様の能力まで若返らせてしまったようですわね。ブルーさんの能力は肉体だけに影響を与えるものだと決め付けていた、わたくしの不慮の至りですわ。わたくし、残念でなりません。全盛期の元お爺様が更なる力を見せてくださる事を期待しておりましたのに……」


「おのれ……おのれーっ!」


 生涯を懸けて練り上げた能力をリセットされ、悔しさの余りにギリギリと歯噛みをするギルバード。彼らがグリーンに気を取られている間に、後方ではピンクの首無し死体が魔女狩り部隊の退路を塞ぐように血を撒き散らして徘徊し始めていた。


「困りましたわ……。対策その3以降もせっかく考えておりましたのに……。女性から男性に戻すには一体どうすればいいのでしょう……? どうも男性を女性にする事しか出来ない様子なのですが……そもそも、仮に男性に戻せても年齢までは戻らないのでしょうか……? レッドん、イエローさん、ブルーさんの能力について何かご存知ではありませんこと?」


「知らないよ!」


「知るかよ! 気持ちの悪ぃバケモノが……!」


 レッドは中指を立てて唾を吐いた。


「まあ! バケモノだなんて酷いですわ! こう見えてわたくし、あなた方をまだ仲間だと思っておりますのに……」


「じゃあ仲間を目玉にしてばら撒いたの!? 酷いよ! ブルー君を返してよ! って言うか本当にあの料理上手で優しいグリーンちゃんなの!? 嘘だよね!? 嘘って言ってよ! 本当は怪物が乗っ取ってるんでしょ!?」


 涙目ながらに訴えるイエロー。その必死な叫びに心を動かされたのか、グリーンは眉をしかめ頰に手を当てて困ったような仕草を見せた。


「そう仰られると、弱りますわね……わたくしにも情けというものがございまして……。こういう時は『バカめ。こうも簡単に騙されおって』と高笑いするのが正しい作法なのですけれど……んん……少々お待ちを……」


 グリーンは一分ほど本気で悩んでいたが、やがてポンと手を打った。


「では、こう答えましょう。『残念でしたわね。グリーンは移植されたゼノフォビアの心臓を制御できず、昨夜ついに体を乗っ取られましたわ。今ここにいる私は、あなたが見抜いた通りグリーンに擬態しているだけの怪物ですの』」


 月下美人にも似た真っ白な花が血の海に咲き乱れた。花々から放たれた胞子は空中をフワフワと漂いながら、金色の仄かな光をいくつもいくつも作り出す。

 血肉の果樹園に幻想的な光景を強引に作り出した少女は、スカートの端を摘んで優雅な一礼をした。


 マジカル☆パラフィリア、残存戦力2名。

 魔女狩り部隊、残存戦力32+1名。


「つきましては、只今よりわたくしは【ゼノフィリア(人類愛好者)】と名乗らせていただきますわ。愛おしき人類の皆様ごきげんよう。どうぞ我が夢と末長くお付き合いくださいまし」


 ゼノフィリア、残存戦力100000000000000名以上。










「見ろ。こんな地下まで貫通していた光の壁が消えた。魔女狩り部隊は負けたな。やはり実力を隠していた奴が潜んでいたようだ」


 一方その頃クレア一行は、アマンダ邸の地下に隠された逃げ道を進んでいた。行手を阻んでいた光の壁は消え、クレアが手にする松明の明かりが洞窟の岩壁を頼りなく照らす。


「だがおかげで包囲に穴が開き、信者達に逃げるチャンスが生まれた。魔女狩り部隊の勝利よりはマシな展開だ。少なくとも皆殺しにはならないだろう。ひとまず私達はこのまま出口に向かう。偵察に出てくれたナインが戻り次第、私達に出来る事を考えよう」


「はい!」


 信者達は全員死ねと一度クレアは思ったが、彼らが実際に目の前で虐げられるとそんな考えは当たり前に吹き飛んでいた。誰に何を言われるまでもなく、彼女は最善を尽くして一人でも多くの信者を助けるだろう。偽善者の自覚を持ちながら、彼女は自分の性根を今日まで変える事が出来なかった。


 そして彼女が尽くす最善とは、敵対者にとっての最悪である。


 本気になった彼女は手段を選ばない。ミサキがレッドに頭を踏まれた時、クレアは自身の死を含むあらゆる手段を使用可能なカードとして手札に加えた。もしあの光景を過去にクレアと敵対した者が見たならば、思わず顔を覆っただろう。本人の預かり知らぬ所で虎の尾を勝手に踏まれたゼノフィリアにとっては、まさに不運としか言いようがない。クレアはすでに最後の手段を使う覚悟を固めていた。




 なお今回における最後の手段とは、性交渉と引き換えに魔法クレヨンをナインに盗み出してもらう売春行為を意味する。

君達に最新情報を公開しよう! 疫病神クレア・ディスモーメントは同性とのドスケベ交尾によって黒歴史と一体化し、魔法少女イノセントへと変身するのだ!

(魔法少女年齢制限違反及び、純潔保全義務違反)

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