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たとえ神に選ばれなくても  作者: ナカマクン
【クレアがバカになる話】
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第4話。イノセント様大感謝祭

 結局、こんな所に来てしまった。


 あの頃のようなクソ以下の偽善では二度と動かないと心に決めていたのだが、今回に限っては私の撒いた種だ。ならば責任を取らなくてはならない。


 それに黒歴史を世界中に拡散されるくらいなら、自分の手で抹消出来る可能性に賭けた方がまだマシだ。ついでに人の黒歴史を勝手に崇拝している邪教も叩き潰せれば、この際タダ働きでも文句は言うまい。


 しかし私は事態を甘く見過ぎていた。

 ある程度は腹を括っていたつもりだったのに、私の覚悟など何の役にも立たなかった。今まで過酷な現場を散々見てきた中でも、ここは最悪の地獄だ……。






「はぁ〜踊り踊れば〜イノセント音頭〜」


 夕暮れ時。広場の中央には私の肖像画が掲げられたヤグラが組まれ、その上で上半身裸の男がドドンガドンドドンガドンと大太鼓を打ち鳴らしている。その下ではヤグラを中心に邪教徒共が輪を作り、両手を上げてクネクネと不気味に動かしながらイラつくステップを踏んで反時計回りに踊っていた。全員骨折しろ。


「YO〜! 地上に咲いた一輪のフラワー、この世の悪を滅するパァワー。飾る世紀のイノセンス、かざす正義のライセンス。君に咎無し汝に罪無し、その愛この胸に刻んでいたい」


「キャー!」「ステキー!」「cool!」


 メインステージとは別に設置された特設ステージでは、ゴミみたいなライムをかますバカと猿のように喜ぶオーディエンスが騒いでいる。全員埋めてやりたい。


「ヘイ! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 魔法少女教団名物、イノセント様焼きだよ!」


 村のあちこちには所狭しと屋台が並び、たわけた名前をつけた焼き鳥やら焼き肉やら焼き芋やら焼きトウモロコシやら焼きそばやらモチョモチョ焼きやらを売りまくっていた。割と美味しかったのがこれまた腹立つ。私だけ半額にしろ。


「イノセント様の仮面買って買ってよー!」


 さらに屋台では食べ物だけでなく、誰かさんを模した仮面やらグッズやらオモチャまで売っていた。私から見ても過剰な美少女化がされており、どれもこれも無意識にキラキラなデコレーションが施されている。


「よーし、じゃあパパは聖杖と聖槌の二刀流やっちゃうぞ〜」


「パパずるーい!」


 しかも腹立つ事に、あの武器のレプリカまで屋台では売り捌かれていた。見たところ人気があるのは魔法クレヨンの方らしく、ほとんどの信者が自慢気に持ち歩いている。


 他には色のついたヒヨコや金魚を紙ですくうゲームや、砂の中に隠した鉄の魚を磁石で釣って景品を貰うゲームなどを売り物にしている屋台もあった。遊びを売るのはこの辺では見ない文化だ。どこか別の国から来た信者が持ち込んだのだろうか。


 あっ、キャンバスのぬいぐるみまで売ってる。こっちは本物よりずっと可愛いな……。どうしよう、これだけちょっと欲しい……。私もお願いしてミサキママに買ってもらおうかな……。


「フハハハ! 滅びるがよい魔法少女イノセント! この世界は暗黒の地獄と化すのだ!」


「負けないわ、キングシャドウカイザー! 人の心にある夢と正義の輝きを教えてあげる!」


「無限の闇の中でも〜希望の花が咲く場所を〜知っていーるー! 愛を知らぬ暴力の連鎖ー、今断ち切れー! 魔法少女イノーセーントー! (間奏)」


 そしてメインステージでは、人の黒歴史を勝手に脚色しまくった最低の演劇が始まっていた。全身黒ずくめでマントを着て派手な化粧をした謎の悪役と、あんまり私に似てない子役が痛々しい小芝居を繰り広げ、バックコーラスでは邪悪な聖歌隊が人の主題歌を勝手に作って勝手に歌っている。なにこれ。


「みんなー! イノセント様を応援してー!」


 なんかナレーションのお姉さんも居るし……。


「イノセント様頑張れー!」「イノセント様負けるなー!」「イノセント様ー! 勝ってー!」


「感じるわ……夢と正義を愛するみんなの心の光を……! 私にみんなの力が集まってくる……!」


「イノセント! 今こそあの必殺技を使う時だ!」


 なんか糸で吊られたキャンバスぬいぐるみもぴょこぴょこ跳ねてるし……。


「イノセントアルティメットギャラクシィバスター!」


「ぐわああああーっ! これが人の心の力かーっ!」


 なんか私の知らないラスボスを私の知らない必殺技がやっつけてる……。なにこれ……だれかたすけて……。


「イノセント様バンザーイ!」


「イノセント様よ永遠なれー!」


「お姉さまのその髪型とお召し物! まるでお姫さまみたいでサイコー!」


 髪型って何の話? とにかく右を見ても黒歴史、左を見ても黒歴史。元より最悪だった邪教徒の隠れ家は、ここ数日でさらに最悪を更新した。ゴキブリのようにゾロゾロゾロゾロと各地から大量の信者達が集結し、あっという間に村を丸ごと大改装してしまったからだ。


 今では『イノセント様大感謝祭!』と書かれた横断幕があっちこっちで掲げられ、松明もランタンもガンガンに点けられて24時間フェスティバる祭り会場になってしまっている。


 何より気が触れそうになるのは、全員共通のイカレコスチュームだ。花をモチーフにした例のドレスのレプリカを老若男女関係なく全員で着ている光景は悪夢としか言いようがない。当然私とミサキも着せられている。拒否したけどダメだった。死にたい。


 もしかして神から見た人類もこんな感じなのかな?

 ここに集まったアホタレ全員死ねばいいのに。


「クレア様、発作は大丈夫ですか?」


 ここ数日で耐性を付けていたとはいえ、ミサキママがずっと私を甘やかしてくれていなければ今頃正気を失って死んでいたかもしれない。というか今もまだちょっと頭がおかしくなってる気がする……。


「ああ……何も考えなければ何とか耐えられるようになってきた……」


 そうだ、思い出せ。私はクレア・ディスモーメント。魔法少女イノセントとかいう痛いクソガキとは別人だ。


「お祭りって楽しいですねクレア様。珍しいものがたくさんあって、見てまわるだけでもなんだかワクワクします。私の故郷でも、わざと牛を怒らせて皆で逃げるお祭りがあったんですよ」


「えっ、その話ちょっと気になる」


 気になる……が、今はそれより気になる事がある。ミサキから聞いた怪しいライターの話だ。私は正気を失っていたので何も分からなかったが、ミサキが言うには取材を名目にして教団村を探っている印象を受けたらしい。さらにその男は、この祭りが始まって人が増えてきた頃から見かけなくなったそうだ。


 魔女狩り部隊の密偵だろうか。

 早く来てこの邪悪な教団を叩き潰してくれとは思うが、曲がりなりにも数日間の世話になった彼らを無惨に殺してほしくはない。魔女狩り部隊が来る前に魔法クレヨンを盗んで逃走……? 聖女とやらを人質に取って信者達を解散させる……? どうすれば被害を一番抑えられるだろうか。正気を取り戻すのに時間を取られたせいで、作戦を考える時間が足りない。


 あ、そうだ、魔女狩り部隊が来る前にここら一帯を火の海にして強制的に信者を解散させ、ドサクサに紛れて魔法クレヨンを壊すか回収して逃げる。これなんてどうだろう。どこか人気の無い場所を探して、ミサキに相談してみようか。


「ああ居た居た! あんた達! もうすぐ聖女様の演説が始まるよ! さあこっち来な!」


「あっはい……」


 しかしその矢先、アマンダさんに見つかってしまった。アマンダさんも祭りを堪能しているらしく、魔法クレヨンのレプリカを持ってイノセントの仮面を頭に乗せている。


「クレア様?」


「うん……行こっか……」


 私とミサキはアマンダさんに手を引かれるまま、人混みをかき分けて素直に着いていく。

 う〜ん……どうにもこういう世話焼きなオバチャンには弱い。私には家族の記憶が無いから、自分の面倒を見てくれる女性には無意識に母の面影を重ねてしまうのかもしれない。


「おい、そろそろ始まるってさ」「聖女様ってどんな方なのかしら」「今回はイノセント様二世が見つかるといいな」「よーし、パパも魔法少女を目指しちゃうぞぉ〜」「パパずるーい!」


 それまで好き勝手に騒いでいた信者達も、次々と催し物や屋台を抜けて一箇所に向かいゾロゾロと集まっていく。人の流れが向かう先は村の外側。先ほどまで三文芝居が行われていたメインステージだ。


「わぁ……こんなにたくさんの信者さんが居るんですね」


 メインステージ付近は、集まった信者達でびっしりと埋め尽くされていた。私がこの拠点へ来た当初は全員で百人くらいだったが、今ではその数倍以上も居るように見受けられる。なるほど、これだけの人数が集まるならば広場では狭いわけだ。しかもここに集まった信者が全教徒というわけではないだろう。私が思っていたよりも邪教の規模はずっと大きいのかもしれない。今のうちに滅ぼさなくては。


「ほら、あれが聖女様だよ。おばちゃんも見るのは初めてだけど、お美しいねぇ」


 ざわめく人混みの先。人々の頭越しに見え隠れするステージの上に、一人の若い女性が上がってきた。病的に肌が白く、教会のシスター服を真っ白にアレンジしたような格好をしており、杖先で慎重に足下を探りながらゆっくりとステージの中央へ歩いていく。盲目なのだろうか。彼女の目は閉ざされていた。


 まいったな……。魔法クレヨンを奪いに来たのだが、目が見えない人から希望を取り上げるのは流石の私でも躊躇するぞ……。

 いや、まだ分からない。聖女気取りで人々に担ぎ上げられて調子ブッこいてるクソ女の可能性が残っている。とりあえず様子を見てみよう。


 彼女がステージの中央からややズレた位置で足を止めた時、大歓声と溢れんばかりの拍手が場を包み込んだ。そして彼女が深々と頭を下げると同時に、それまで爆発していた騒音が嘘のように引いていく。1分以上も頭を下げ続けたお辞儀が終わり彼女が頭を上げた時には、唾を飲み込む音さえ聞こえるほどの静けさが場を支配していた。


「皆様、初めまして。私はイノセント様の忠実なる一介の信徒、シスター・マリアと申します。本日はこのような場にお招き下さりまして、まことに感謝いたします」


 そしてまた頭を下げた。……少なくとも腰は低そうだ。


「皆さまのお時間をほんの少しだけ頂く事を、どうかお許し下さいますでしょうか」


 彼女に応じるように拍手喝采が鳴り響く。それが収まるのを待って、彼女は再び話し始めた。


「……この世界は、暴力に支配されています」


「弱肉強食、という言葉をご存知でしょうか。弱い者は強い者に食べられる運命にある……という意味です。この言葉は一個の生命のみならず、種族間における生存競争にも当てはまります」


「人類もその運命に従い、強者になるべく戦いを続けてきました」


「それは種の生存を賭けた過酷な戦いでした。ゴーレムの反乱、大絶滅、人竜大戦の敗北による人類の家畜化。そうした危機を何度も乗り越え、長い長い戦いの果てに人類はようやく強者の地位を手に入れたのです」


「ではその後に起こったのは何でしょう。大いなる脅威を排除した人類は平和を手にし、互いに手を取り慈しみ合う時代が訪れたのでしょうか」


「……残念ながら、答えはNOです」


「人類が勝利した後も、世界は何も変わりませんでした。竜と人の争いは人と人の争いへ。竜による支配構造は人による支配構造へ。天敵が滅んだ後も戦いを捨てられなかった人類はその力を同族へと向け、より小さな輪の中で争い殺し合うようになってしまいました」


「我が故郷アウラもまた、その苛烈な暴力の渦に飲み込まれました。私が愛した生まれ故郷は植民地となり、国民は奴隷化されて不毛の荒野へと連行されました」


 アウラ……えっ、アウラ!? じゃあ彼女は私と同じ故郷の出身!? 私がメチャクチャにしてしまった、あの黒歴史ランドの元国民!? ええ……どうしよう……。


「そして始まった……過酷な強制労働と虐待の日々……。毎日のように誰かの大切な人が殺され、痛め付けられ、不具者にされました……。私の両目も、その際に奪われています」


「恐怖、怒り、そして絶望が、私に残された全てになりました。ありとあらゆる幸福を奪われた私は、天へと問い続けました。神は居ないのか、この世界に救いは無いのか。かつて私達が有ると信じていた、愛と正義は偽りの夢物語だったのかと……」


 彼女はそこで言葉を切り、たおやかに祈る仕草を見せた。10秒……20秒……勿体ぶって信者達を焦らした上で、ようやく彼女は顔を上げた。


「イノセント様がご降臨なされたのは、まさにその時です」


 会場がドッと沸いた。先程のような声を振り絞る歓声ではなく、「おお!」とか「ああ!」とかの短い感嘆の声が一斉に重なり合った声だ。早くも感極まって涙を流している信者も居る。もう嫌。帰りたい。


「イノセント様は、私の望みを、叶うはずもないと諦めていた妄想を、いとも容易く実現なされました」


「驕り高ぶりのままに暴力を振りかざし、我こそ竜の後継者にして生態系の頂点と思い上がる魔法使いや支配者達を……地上にはびこる野蛮で邪悪な者達を、次々と一掃なされたのです」


「これを天罰と……そう呼ばずして、何と呼ぶのでしょう」


 力に溺れたクソガキの正義ごっこだよ……気持ち良く殴れる相手なら誰でもよかったんだよ……。


「イノセント様のご降臨によって世界は変わりました。もはや天罰の存在を疑う者は居ません。強者が節度を覚え、弱者を虐げる事を恐れ始めたのです。現在各国に広がりつつある基本的人権という概念が生まれたのも、イノセント様のご活躍あってのものです」


 当時の大国なんて片っ端からぶっ壊れたから、そりゃトラウマにもなるよな……。でも人の過ちを正当化する好意的な解釈やめて……。


「そしてイノセント様の真に偉大なる御業は、その奇跡的な力による善行ではありません」


 お願いだからもう勘弁して……。


「生態系の頂点、世界の支配者、神に最も近い王の座を手に入れたイノセント様は……なんと自らの意思で、その玉座をお捨てになられたのです。これは地球誕生以来初の、弱肉強食の原理に逆らう偉業です」


 ん?


「どういう意味なのかをご説明させて下さい。『イノセント様はお亡くなりになられた』……これは、大人でも子供でも知っている事実ですね。ここに集まられた皆様方も、例外なくご存知だと思われます」


 なんか悪い予感がしてきた……。


「では一つお尋ねします。イノセント様がいつ、どこで、どうやってお亡くなりになられ、ご遺体はどうなられたのかを説明できる方は居られますか。そして、イノセント様がお亡くなりになられたという話を、誰から自分が聞いたかご説明できる方は居られますか」


 信者達がざわめき始めた。

 ああああ! ヤバいヤバい!


「……そうです。私も含め、誰も説明できないのです。それにも関わらず、私達には『イノセント様はお亡くなりになられた』という記憶だけがあります」


 その話やめて! お願いだから!


「また私は先程、子供でも知っているとは言いましたが、この共通認識は8歳以下の子供には見られません。彼らはイノセント様が姿を消した日以降に生まれた子供達です。これがどういう意味か、もうお分かりになられた方も居られますね」


 分かりません! もう許して!


「では結論を申し上げます。ある日を境にして全ての人々に『イノセント様はお亡くなりになられた』という偽りの記憶が発生したのです。そして偽りという事は……」


「イノセント様は生きておられるんだー!」


 会場のどこかで子供が叫んだ。余計な演出を挟んだクソガキに呼応するように、会場には歓喜のどよめきが広がっていく……。


 終わりだ。


「その通りです」


 聖女が微笑んだ。

 うわぁ……名探偵に犯罪を暴かれる犯人ってこんな気持ちなんだ……たすけて。


「やむを得なかったとはいえ、悪しき者達を排除された優しきイノセント様は……命を奪ってしまった罪をお悔やみになられました。そして善人悪人の区別なく全ての犠牲者に哀悼の意を捧げると共に、血で塗りたくられた支配者の玉座にはお座りになられない決意をなされたのです」


 これに関してはだいたい当たってるけど……私の自発的な決心じゃなくて、ファイラさんと先生のおかげだし……。


「イノセント様は生きておられます。そして自らをお亡くなりになられた事にされながら、今この瞬間も私達を見守り試されておられるのです。私達が平和を愛し、手と手を取り合って生きる事ができるかどうかを」


 無理だからそんなの……。人間は馬鹿ばっかりだから、滅びるまで殺し合い続けるよ……。


「その事実に気が付いた者は、私の父だけではありません。各国首脳陣や教会、魔術組織や秘密結社といった様々な組織がイノセント様の生存に気付いており、秘密裏に互いを出し抜き合いながらイノセント様の行方や遺産を追っています」


 ええええ!? そうなの!? じゃあ私、正体バレたら危ないじゃん! クソゥ! エメス、お前さえ生きてくれていれば……! エメスー!


「私達はイノセント様を護らなくてはなりません。弱肉強食の原理に逆らって力を捨てたイノセント様の決断は至上最も尊い偉業であり、何人にも穢されてはいけない聖域です」


 護るってなに!? お願いだからこれ以上、私の過ちを美化しないで!


「イノセント様に与えられた愛を、人類が未来永劫に忘れないように語り継ぎ……」


 やめてホント今すぐ全員記憶喪失して!


「暴力をお捨てになられたイノセント様が再び裁きの刃を振るわずに済むように……イノセント様に心穏やかにお休みいただく為に……父はこの教団を設立いたしました」


 お前らのせいで、穏やかとはほど遠いんだが!? いや元を正せば私の自業自得なんだけれども!


「私達はイノセント様にこれ以上の働きを求めてはいけません。イノセント様の尊いご意志は、私達が自分自身の手で引き継いでいくべきです。それがきっと……イノセント様の最後の望みです」


 私の望みはー! 今すぐお前ら全員が正気に戻って解散してくれることでーす! あああキャラ壊れてきた!


「ふわぁぁ……! イノセント様って凄いお方なんですね、クレア様……!」


 ミサキママまで洗脳されかけてる! もうヤダー! クレアおうち帰る!


「しかし皆様方がご存知のように、現在の私達は存亡の危機に立たされています。イノセント様の影響力を恐れた者達によって聖地イノセントランドは制圧され、志を共にする多くの仲間達が命を奪われました……」


 それは……うん……同情するけどさぁ……。


「それでもまだ希望は残されています。父を始めとする……多くの仲間達が、この聖杖を私に託し、命懸けで、逃して、くれました……!」


 マリアがやや涙声になりながらも言い切ると、彼女の背後に立っていた信者の一人が魔法クレヨンを高々と掲げた。信者達の息を飲む声が重なる。


「私達には使命があります……! イノセント様のお力を悪用しようとする者達から聖杖を守り抜き、正しい心を持つ次世代の魔法少女へ聖杖をお渡しする事です……!」


 へー、だからイノセント教団じゃなくて魔法少女教団なんだー、ふーん。……分かったからもう帰して? それとイノセントに正しい心なんて無かったよ? 多分今も無いけど……。


「……以上です。ついつい長くなってしまいましたが、これにて挨拶を終えさせていただきます。お集まりの皆様方、ご清聴ありがとうございました」


 パチパチと拍手が鳴る。

 ふぅ……やっと終わったか……はい解散解散。


「では続きまして、魔法少女生誕の儀を始めます」


 え?


「参加者はどうぞ一列にお並び下さい。また、時間には限りがありますので、以前に一度でも参加なされた方はご遠慮下さいますよう、謹んでお願い申し上げます」


 なんで? もう帰るとこなんだけど?


「ほら始まるよ! あんたらも並んで並んで!」


 アマンダさんが私の手を引き、人混みをかき分けてステージ前へと連れて行く……。

 あの、帰してくれません? なんか嫌な予感がするんですが?


「何も難しい事はありません。参加される皆様方には、かつてのイノセント様のように聖杖を振るっていただき、イノセント様がお使いになられた聖言を唱えていただくだけです。イノセント様の志を受け継ぐ正当なる後継者が居られたならば、聖杖は必ずやお応えになられるでしょう」


 ファーッ!?


「新たな魔法少女の誕生を、今夜こそ皆様方とお祝いできますよう……心の底からお祈りいたします」


 それやると私があぶり出されちゃうだろおおお!?

 もうヤダアアアアアアアアア!

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