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たとえ神に選ばれなくても  作者: ナカマクン
【悪の侵蝕者が完全勝利する話】
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第8話。呪いのアイテム発表会

 ピュアルンのアジトから使えそうな物品を持ち出した私達は、アルデンヴェインに戻ってゴート卿を降ろした。

 その際に教会に軽く顔を出してみたところ、アクセルとエリーにはまだ合格が出されておらず、二人とも虚ろな目をして反省文の山を作り続けていた。


「教養教養教養教養教養教養教養夢夢夢夢愛愛愛愛愛愛愛愛努力努力努力努力努力品性品性品性生命生命生命生命生命勉強勉強善意善意善意善意希望希望希望希望未来未来未来未来反省反省反省反省感謝感謝感謝感謝……」


「大変申し訳ございません厳しく反省いたします。大変申し訳ありません即反省いたします。大変申し訳ありません反省徹底いたします……」


 私が【パレード】から救出した時よりも衰弱している家出少年少女を、バリス卿が鬼の微笑みをたたえて見守る。


「いいですね。二人共だんだん誠意が出てきましたよ」


 …………賽の河原かな、ここは?


「センパーイ……」「クレアパイセン……ウス……」


 二人は助けを求める目で私を見ていたが、私も最近怒られてばっかりなのでこの反省会を止める資格が無い。


「また後で差し入れ持ってくるからな……」


 それだけを伝えて、私達はそそくさとワールドリウムへ向かった。







 以前は見渡す限りの草原だったワールドリウムには、新たな施設が発生していた。山や森や川といった地形の他に、雲まで届く大木、砂漠にそびえ立つ銀色の立方体、どう見ても悪い奴が住んでいる禍々しい城、お菓子の森、間抜けな顔をした超巨大ペンギンなど、ワールドリウムの境界線から見える範囲内だけでも随分と様変わりしていた。


「グッヒョ〜! ヒヒヒへへへ! いいねェ! 見渡す限り未ッ知未知じゃん! たまんねぇなぁー! ホホホーッ! 研究していい? 調査していい? いいよね? いいよ! ヤッター!」


 イェイイェイと狂喜乱舞する34歳。魔術師に調査してもらいたい気持ちはあるのだが、この発展速度に調査が追いつくとは到底思えない。予定通り運営者への攻撃を優先させよう。


「よう。待ち侘びてたぜ、男前のネーチャン達」


 山賊男は境界線のすぐ手前で私達を待っていたようだ。「ふうん」彼はピュアルンを遠慮なくじろじろと眺め回して値踏みする。風呂に入って黒ローブを着たピュアルンは、小悪党じみた顔付きと相まってそれなりに魔術師らしく見えた。


「このガキンチョが魔術師ねぇ……。まあ、魔術師なら見た目通りの年齢とは限らねえか。あんたらが見つけてきた奴なら期待できそうだ」


「んだあ? この集団レイプが得意そうなオッサンは? コイツもあんたらの仲間か?」


 子供扱いされて露骨に機嫌を悪くするピュアルン。

 仲間と言えば一応仲間……なのかな? 知らない人だけど。


「おいおい、オッサンはねえだろ。俺ぁまだ37だぜ?」


「十分オッサンじゃねーか! つーか集団レイパーの方を否定しろよ! 怖えーだろーがよぉ!」


 お前もそのオッサンと3歳しか変わらないだろ。そうツッコミたかったが、何かを察したミサキが真顔で私をじーっと見てくるので我慢した。そう、今や私はデリカシーを知る女。だからもうミサキの『お話』は勘弁してほしい。


「そんでどうだい、情報災害とやらは使えそうかい。知ったら死ぬような魔術や呪いは見つかったかい」


「理想通りにはいかなかったが、いくつかの情報災害は手に入った。ひとまずこれらを試してみるつもりだ。そっちはどうだ? ワールドリウムには変化があったようだが」


「ああ、見ての通りだ」


 山賊男は肩をすくめた。


「あんたらを待っている間に一通り調べてみたんだが、どこもかしこもキナ臭え。見た目より内部の方がずっと広いし、あの変な生き物共は無尽蔵に湧いてきやがるわ施設の奥にはとんでもなく強い奴が居るわで、散々だ」


「だったら運営者は、実験動物に刺激を与えて観察を楽しむタイプだねぇ。その気持ち、分かるよぉ〜」


 ピュアルンはニヤつきながら話に割り込む。


「ミニチュアの迷路を作ってネズミに解かせた経験とかない? 出口に水とチーズを置いて、道中には針とか落とし穴とかネバネバ罠とかのトラップを仕込むの。ネズミは餓死したくないから怪我しながらも一生懸命進むんだけどさぁ、それがもう可愛くってキュンキュンするよぉ。いつか人間で同じ事やるのがあたし様の夢なんだぁ〜」


 キヒヒと笑うピュアルン。


「なあ、男前のネーチャン……」


 こいつ大丈夫なのか? という疑問と非難の視線が山賊男から私に注がれる。すまん。どう考えても大丈夫じゃないが、今は目をつぶってくれ。


「そうか、まだ人間では未遂で安心した。それよりプレイヤーの様子はどうだ? 変化はあったか?」


 隙あらばゲスい人間性を見せてくるピュアルンから目を逸らすべく、私は話を本題に戻した。


「ああ……プレイヤーか。あいつは相変わらず死んだり生き返ったりしてるが、確実に強くなってるな。今じゃあ手から火の玉や雷を出すようになって、その辺の奴らにゃ負けなくなった。どうも変な生き物を殺す度に強くなっている様子だ」


「ふーん、やっぱり人類の歴史を辿ってるんだねぇ」


 面白そうに再び割り込むピュアルン。


「竜の時代より前に大流行して、今ではほぼ失伝した魔術だよぉ、それ。今のユニーク能力者バトルと違って、昔は戦闘向けの高速発動魔術が魔法って扱いだったらしいねぇ。時間がかかる記載方式の申請式に対して、口頭でも即座に発動するから詠唱式って分類されてるよぉ。敵を倒せば倒すほど強くなる特性も、大昔には当たり前に人類が持っていたと言われる特性だねぇ。今でも先祖帰り的にその特性を発現する人間がいるよぉ。ちなみにそれらがどうして失われたかについては、過去に教会が何度もやってる大規模な魔女狩りと焚書が「補足説明ご苦労。では早速乗り込もう。期待しているぞ、天才魔術師オールラウンダー」


 隙あらば自分の知識を披露したがるピュアルンの話を強引に打ち切る。こいつは放っておくと関係ない話を延々と続けるからだ。多分頭が良いと思われたいのだろう。


「天才魔術師……フヒヒッ、任せなよぉ!」


 そしてチョロくて扱いやすい。

 …………友達、少なかったのかもなぁ。






 ワールドリウムの中心地にあるあの村落は、以前と比べて特別な変化は見受けられなかった。どうやら運営者は、この村落よりも周辺施設の充実に力を入れていたようだ。プレイヤーの姿は見当たらないので、外へ探検に出ているのだろう。


「ムー! ムムゥー!」


 34歳は勝手に飛び出したり怪生物を捕獲・解剖しようとするので、両手両足を縛ってハスキが担ぎ上げている。カノン捕縛セットを手元に残しておいてよかった。


「今から拘束を解くが、次に勝手な行動を取ったら全裸にして縛る。その上で格安料金を身体に書いて浮浪者の溜まり場に一晩放置する社会実験に付き合ってもらうぞ。どれくらい稼げるか楽しみだな」


「ンンッ!? ンンー!」


「私の指示に従う気があるなら牛の鳴き真似をしろ。しなければこのまま帰って社会実験だ」


「ンムッ、ンムムーン! ンムー! ンムムーン!」


 全然似てないが、今回はこれくらいで勘弁してやろう。今後も定期的に手綱を絞めなくては。


「よし、では始めるぞ。シビライゼーション攻略戦だ」


「はい!」「おう!」「かしこまりました」「ムムー!」「大丈夫かねぇ……」







「さて、一番凶悪なコレクションはどれだ? 初手で最大の戦果を狙おう」


「色々あるけど一番はやっぱりこれかなぁ。『読むと必ず殺人鬼【LOST】に殺される絵本』」


「条件を満たすと来る系の殺人鬼か……ありきたり過ぎてパンチが弱くないか?」


「甘いねぇ。必ず殺人鬼が来るんじゃなくて、必ず殺されるんだよ。この絵本は作者不明、材質不明、経歴不明で破壊不可能。異世界から流れ着いたって言われているオーパーツで、この絵本そのものが殺人鬼を封じ込めた異空間なんじゃないかって言われてるお気に入りの逸品。今まで何名もの魔術師や魔法使い、教会関係者が犠牲になってるよぉ」


「そんなに強い殺人鬼なのか? 発動条件は絵本を最後まで読む事か? 目で読むだけではなく音読を聞くだけでも可能か? 数人で数ページずつ分担して入れ替わり立ち替わり読み上げても駄目か?」


「知らないし、知ってても言えないよぉ」


「なるほど、情報災害だからか。直接読まなくても、内容を知ってしまうとアウトなんだな。他者に話す事すら発動条件を満たす可能性があると」


「察しがいいね、あんた。こーゆーの初めてじゃないでしょ」


「まあな。それより詳しい発動条件が分からないと使いようが無いぞ」


「それならこのブツは俺に任せときな。一度知っても忘れりゃあ知らなかったのと同じだろ。あんたらが言う情報災害ってのは俺の呪いと相性が良い。いざとなったら俺が全部忘れさせてやるから安心しな」


「俺が忘れさせてやるってぇ? フラれた女を家に連れ込む時に使う口説き文句じゃん」


「人の好意を茶化すな、ピュアルン・メロリンハート34歳無職独身」


「本名を呼ぶのはやめろおおおおおおお!!」


「さんじゅう、よんさい、だって……?」






「次点の情報災害はこれ。『描くとすぐ隕石が落ちてくる図形』。長所は最強の破壊力で、短所は書いた人も死ぬ上に人類滅亡する可能性があるとこ」


「最悪だな! 絶対描くなよ! 絶対だぞ!」


「ええ〜? そう言われると描きたくなるじゃーん?」


「でも申請式なら、ここで描いても発動しないのではないでしょうか」


「というか、どうやってその図形が伝わっているんだ?」


「完成品を描くとすぐ隕石が直撃して粉微塵になるから、暗号化されて複数の図形に分割されて本に残されてるよぉ。そしてこれは『星を呼ぶ会』っていう魔術組織が開発した図形で、申請式じゃないから発動が期待できるんだぁ」


「なるほどな。分割したこの図形を村落の教会あたりに書き写す。疑問に思った運営者が手元で図形を組み合わせてみると、そこに隕石が直撃するわけか。…………運頼みが過ぎないか?」


「そうなんだよぉ……申請式と併用すれば遠隔地に隕石落とすテロができるんだけどねぇ……」


「スンスン……おいクレア。なんか臭いぞ、コイツ」


「今その話関係あるかぁ!? あたし様が臭くなったのはテメーらのせいだろぉ!? そもっそも女子に向かって臭いとか禁句だからなテメー!」


「まあ落ち着け。情報災害とは少し違う気がするが、一応試すだけ試してみるか。ところでその図形、まさか魔術師界隈に出回ってるのか?」


「フンッ! どうだろね! 全国の魔女狩り部隊が必死に焚書しているから、原物は少ないかもね! 知らんけど!」


「それは何よりだ。しかしまさか魔女狩りを応援する日が来るとは思わなかったな……」


「あっそ!」


「なあ男前のネーチャン。あくまでも一般論としてだけどな? 34歳は女子としてカウントするべきなのか?」


「おうおうおうおう! やられ役の顔したオッサンよぉ! 言ってくれるじゃねーの! ああん!? 女は20過ぎたら行き遅れのババアってかぁ!? 薄汚えロリコンの虫ケラがよぉー!」


「いや何もそこまでは……」


「仲良くしろとは言わないけど、せめて喧嘩するなよ……」






「さて、気を取り直して次に行こう。次はどんな呪いの商品なんだ?」


「ケッ。じゃあ次は情報災害第三弾、『永遠に続く質問』。箱に樹脂を流し込んで封じ込めた石膏製のデスマスク」


「ふむふむ、封印を解くとどうなる?」


「クレア様、ちょっと楽しくなってきてません?」


「気のせいだ。気にするな」


「これを解き放つと、デスマスクから質問が聞こえるようになるよぉ。なぜなに期の子供みたいに、〇〇って何? 〇〇って何? って延々と聞かれ続けるんだぁ。それを聞いた人はすぐに回答しないと、今度は自分が他人に〇〇って何? って聞き続けるようになるよぉ。そうやって感染者がどんどん増えていくんだぁ」


「最終的にはどうなる?」


「質問する以外の行動ができなくなるから、無事に衰弱死するよぉ」


「食事も不可能になるなら、そうなるだろうな。よし、採用だ。武器屋にでも置こう」


「じゃあこれも俺の出番か。樹脂なら火で炙れば溶けるかい?」


「解放はそれでいいけどさぁ、あんたの忘れる呪いって自分にも効くの?」


「ある集落の名前を口に出すと、俺も前後の記憶を綺麗さっぱり忘れちまうぜ。そうでなくとも一日に何度か不定期に呪いが発動しちまう。あんたらと同じく興味も違和感も忘れちまうから、設置した場所には立ち入り禁止の目印を残しておかねえとな」


「不定期に発動するなら、最悪口が使えなくても大丈夫か。ところでこれ、一見地味に見えてかなり危ない情報災害じゃないか?」


「大丈夫大丈夫。このデスマスクが使ってくる言語は大昔に滅んだ国のものだから、勉強してる魔術師以外は何言ってるのか分かんなくて感染しないってオチ。運営者の知能が高ければワンチャン解読してくれて効くかもねって」


「うーん……70点だなぁ」


「悪うござんしたね! 器用貧乏で!」






「続いての情報災害は、『三回見ると心臓麻痺を起こして死ぬ呪いの絵』。これを防具屋に置くとかどうかなぁ」


「ふむふむ、何故かここでは外から建物の中を覗き見れない仕組みになっているから丁度いいな。それで?」


「それでって……これだけだけど……」


「もっとこう……面白い逸話とか無いのか? どんな絵なのかとか、由来とか、作者の話とか」


「クレア様、絶対楽しくなってきてますよね?」


「あたし様もオークションで落札しただけだし、ネズミで実験したら本当に死んだって結果以外は分かんないよぉ」


「そっか……。分かっちゃいたけど、なんだか盛り上がりに欠けてきたな……」


「なんでそんなに残念そうなんだよぉ? お前やっぱさぁ、こっち側の人間なんじゃねーのぉ?」


「ところで呪いと魔術ってどう違うんですか?」


「呪いも魔術分野の一つだけど、解明されていないテクノロジーに伴う異常な効果が呪いって呼ばれてるねぇ。あり方としては魔術より魔法に近いかなぁ? 一般的にイメージされてる、人を遠隔地から呪い殺すような技術は流通してないよぉ。あ、放射性物質って知ってる? 目に見えない毒を撒き散らす物質なんだけど、昔はこれに該当する鉱石をネックレスとか宝石に加工してターゲットを暗殺するっていう手法が呪いとして「さて、次に行こう」


「聞けよぉ!」






「じゃあ次は『激ヤバ猛毒病原体妄想ネズミ』」


「おいそれ私達は大丈夫なんだろうな。病気持ちのネズミは洒落にならんぞ」


「大丈夫だよぉ。このネズミは実在しないからねぇ」


「ん? ちょっと面白くなってきたな。どういう事だ?」


「ヤバい病気を持っているネズミが近くに居るっていう妄想に取り憑かれる情報災害だよぉ。この妄想に感染すると、存在しないネズミを見つけ出して根絶しなくてはならないと思い込んで延々と探し続けたり、目に映る人がネズミに噛まれて感染源になったから殺さないといけないと思い込んだりするんだぁ。感染者からさらに感染もするし、家族同士で殺し合ったり魔女狩りしたりと、社会がメチャクチャになったよぉ」


「いや普通に何一つ大丈夫じゃないんだが? 実在しないなら感染源は何だ?」


「キヒヒッ。知覚、聴覚、視覚ときてぇ〜?」


「もしかして嗅覚か?」


「ご名答〜! どっかの魔術師が何かを封じ込めたこの箱を開けて匂いを嗅ぐと「クレア様! いつの間にかハスキちゃんが居ません!」


「しまった! 嗅覚だから……ん? 今ハスキさんじゃなくて、ハスキちゃんって言った?」


「そんなの後でいいじゃないですか!? 早く探しに行かないと!」


「そうだな! 急いで探しに行かないと……ネズミを!」


「はい! 今すぐネズミを捕まえましょう!」


「あっ、ヤベッ、やっちまったかもコレ……。まあいいや、あたし様もネズミ探しに行こっと。邪魔する奴は全員ブッ殺してやらぁ!」


「麦わら帽子の嬢ちゃんならあっちで穴掘ってたぜ。様子がおかしかったから、とりあえず忘れさせといた。あんたらも一度忘れさせた方が良さそうだな」









「ネズミの後も色々と試してみたが……」


「あんまり効果を実感できませんね……」


「成功も失敗も分からないのはイライラするぞ」


「日没も近いし、中間報告書も書かないといけない。今日はここらで切り上げて、明日出直すか……」


「ええ〜? もう終わりぃ〜? あたし様だけここに残って調査しちゃダメ〜ぇ?」


「甘えた声を出すな、臭い34歳」


「臭かったのはあたし様じゃなかっただろぉー!?」


「落ち着け。私としても調べて欲しいのはやまやまだが、運営者からの報復があるかもしれない。それと……」


「それと?」


「教会から赤い霧が出てきた。赤い霧には嫌なイメージしかないから、すぐに撤退したい。心当たりはあるか」


「えっ、赤い霧……うわマジだ! ヤベべべべべべべ!?【LOST】の前兆じゃん!? ダメダメ逃げようすぐ逃げよう! おいオッサン! お前何してくれてんの!? なんで血の霧が教会から漏れてんだよ! こっち向かってきてるぞアレ!」


「教会なら運営者に確実に繋がると思って、あそこで絵本を朗読してやったぜ。しばらく待っても誰も来ないから失敗だと思ってたんだが、どうやらただの遅刻だったみてぇだな! ガハハハ!」


「ガハハじゃねえええええ! それ覚えてるって事は、お前自分の記憶消してねーな!? 今すぐ読んだ記憶消せよオイ! じゃねーとウチらも抹殺対象になんだよボケ!」


「おい! 逃げるならさっさと走れ! 置いてくぞ!」


「あんたらの逃げ足、速えええええ!? 待って! 待ってよおおおお! 投獄されてたんだから、あたし様の足腰弱ってんの分かるだろおおおお!? 「ホ」やだあああああ! 置いでいがないでよぉおぉお! まだ死にだぐないよおおおおお! お母ぢゃああああああん!!」


「ん? どうしてネーチャン達は走ってんだ?」


「即断即決できて偉いぞオッサン! 死にたくなかったら、あたし様をおんぶしてすぐ走れ! 後ろ絶対見るなよ!」


「あいよ?」


「ギャハハハハハ! オッサンなかなか速えじゃーん! GO! GO! オッサン号!」


「お姉さま、ここは危険です。お急ぎください」


「言われなくても危険なのは分かってる!」


「後方では教会を中心として異なる二つの空間が互いを喰らい合っているように見えます。一つはワールドリウム、もう一つはまさに地獄絵図といった様相で……おや? 私達の周囲が赤い霧に包まれて……」


「おおおい!?」


「バカヤロー! あたし様の忠告聞いてなかったのか!? 【LOST】は立派な情報災害だッってんだろ! 知ると! 逃げられねえんだよボケ! おいオッサン! こいつらの記憶も消せ! 特にあの無能アサシンは今までの人生の記憶全部消してやれ! 今と大して変わんねーから!」


「赤の他人の変態がすまん! あとで通報しておく!」


「コイツお前の仲間じゃなかったのかよお!?」









「はー! 楽しかっ、たぁー! 現地調査サイッコー! 未知との遭遇ゥ〜、バンザーイ!」


「おっ……お前、一人だけ、走って、ないし……! 怪生物とも……! 戦わず、楽、しやがって……! スーッ……ハーッ……! ブハーッ……!」


「適材適所といこうじゃーん? あたし様の的確なアドバイスのおかげで、こうして全員生還できたんだからさぁー」


「フーッ……ヘッヘ……だがよぉ、少なくとも、効果ぁ……あったみてぇじゃねえか……! バケモン対決は、どっちが勝ったか……いっちょ賭けてみっかい……!」


「クレア様……お水……どうぞ……」


「先に君が飲め……! ハスキも、ナインも……先導と露払いご苦労……! ホント助かった……!」


「オレの方がたくさん狩った」


「いいえ、私の方が多く殺しました。お姉さまの懐刀には私が相応しいです」


「おいおいケンカすんなよぉ。ウチらはもう一緒に死線を越えたマブダチだろぉー? なー、クレアっちー」


「馴れ馴れしいな急に!」


「今日の夜は親睦会とぉ、あたし様の歓迎会とぉ、ついでに作戦会議しようよぉ〜。次はプレイヤーに焦点を当ててみるとかどうかなぁ〜」


「フーッ……歓迎会はともかく、作戦会議は必要か……」


「ワールドリウムの発展がプレイヤーの行動に準拠するならさぁ〜、プレイヤーの行動を妨害すればそれはそれで現状に封じ込める事ができると思うんだよねぇ〜。ウチらの手であの箱庭を停滞させてやろうよぉ〜」


「嫌がらせホント好きそうだなお前!」










 翌日。


 再度ワールドリウムに向かった私達は、想定外の事態に直面した。殺人鬼の敗北。情報災害攻撃の失敗。運営者の報復。ワールドリウムの拡張。そうした予想できる最悪の事態を、現実はいつだって超えてくる。


「プレイヤー……が……」


「増えて、ますね……」


 人、人、人、人。頭上に名前を浮かべた何千人ものプレイヤー達が、見渡す限りワールドリウムに溢れかえっていた。彼らは思い思いに怪生物と戦い、巨大建造物を冒険し、力を合わせて巨大ペンギンと戦っていた。


「ふーん、なるほどねぇ」


 プレイヤーの封じ込めという新たな希望を打ち砕かれて歯噛みする私達の中で、ピュアルンだけが目を輝かせて現場を見ていた。


「あんたらが出会ったプレイヤーは試験的な存在……言わば『テストプレイヤー』だったんだねぇ。つまりここからがシビライゼーションの本題、ワールドリウムの本格運用開始ってわけだぁ!」

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