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たとえ神に選ばれなくても  作者: ナカマクン
【悪の侵蝕者が完全勝利する話】
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第5話。対シビライゼーション作戦会議

 私達は一旦、現場から引き上げる判断をした。


 黒幕が私達を無事に帰したかったためか、行きで大方駆除したためか、帰り道では最後まで怪生物と出会わなかった。

 ちなみに半裸男あらためプレイヤーからの贈り物は境界線を越えるとやはり消えたので、気は引けるがその辺りに置いてきた。


 誰とはなしに行きと同じ配置で座り、馬車に揺られる。


 馬車内は重苦しい空気に包まれている。シビライゼーションの現地調査にて信憑性のある仮説を立てたはいいが、その対策がまだ見つからない。リスク管理を徹底している敵なら、エメスの時と違って引きずり出すのは不可能だろう。


「まいったね……どうも」


 それまでずっと無言だった山賊男がため息を吐き、肩の力を抜いた。


「俺なりにずっと考えてはいたんだが、男前のネーチャンの見立てよりしっくり来る話は出来そうにねえ。それに俺のカンも言ってるぜ。あんたが正解だ、ってな」


「それは何より。だがあくまでも推論は推論だ。全てが正解だとは思わない方がいい。どこかに必ず穴がある」


「見当も付かなかった俺からしちゃあ立派なもんさ。だがよ、それならこのヤマはどうするんだい。あの男、プレイヤーは要するに黒幕のペットだろ? 殺しても生き返る奴を殺せたとしても、飼い主がまた別のペットを連れてくるならキリがねえ。あっちの世界とやらに乗り込んで、飼い主を殺す方法はありそうかい」


「無い。乗り込む手段も無ければ、世界の壁を超えて侵略してくる相手に正面切って勝つ可能性などありはしない」


「だよなぁ……」


 山賊男は腕を組んで再び押し黙った。無理もない。普通なら同じ舞台にすら立てない相手だ。次元が違う。


「申し訳ありませんお姉さま……」


 馬車に乗せた覚えの無い無賃乗車女の声が、足の下から割り込んできた。馬車の底に貼り付いているのかコイツは。


「その……私、暗殺に関しては自信があるのですが……さすがにこれは専門外と言いますか……もはや人間にどうこうできる相手とは思えません……。お役に立てず、申し訳ない限りです……」


 アサシンとしての自信が折れたのか、ストーカーはしおらしい態度で申し訳なさそうに謝ってきた。


「心配するな。最初から期待していない」


「そんなー! あぎゃあああああぁぁぁぁ……!」


 叫び声が馬車の外に落ちて遠ざかっていく。ショックで落ちたか。だが今はあんな奴とクソコントする空気じゃないので放っておこう。


「なあ男前のネーチャン。ずっと気になってたんだが、あんたの仲間が一人「あいつは仲間じゃない。殺人歴のある変態ストーカーだ」


 私が事実を述べると、山賊男の表情が凍りついた。「クレア様、言い方……」ミサキがフォローしようとしたが、事実なので仕方がない。


 さて、変なのが消えたところで……そろそろ始めるか。今日はゲストも居ることだし、今回は前置きを挟んでおこう。


「情報は集まった。私達は現場を見て敵を知り、まともに戦っては勝ち目が無い相手だという結論が出た」


「はい」「そうだな」


 ミサキとハスキが同時に頷いた。今から始まる事をすでに理解している様子が声のトーンで分かる。頼もしい仲間に恵まれたな、私は。


「だがそんなのはいつもの事だ。勝てない相手には勝てないと認めてからが、私達の戦いが始まる」


「ですね!」「おう!」


 空気の変化を嗅ぎ取ったのか、諦めムードに弛緩していた山賊男の目付きが鋭さを取り戻していく。


「敵への勝利は目的ではなく、最終的な勝利への過程にすぎない。ならば敵を打倒せずとも、最終的な勝利に辿り着ける道はある。あらゆる手段を出し尽くそう。可能か不可能かは二の次でいい。馬鹿馬鹿しいと切り捨てかけたアイディアが絶望に風穴をブチ開ける勇姿を、私達は何度も見てきた」


 こうして話していると不思議なものだ。まだ何も対抗策は思い付かないのに、何とかなりそうな気がしてくる。

 最初から無理だと諦めるから無理になる……か。先生の教えは本当にその通りだった。


「では始めよう。対シビライゼーション作戦会議を」







「まずは目的の確認からだ。ミサキ、今回の目的は?」


「侵蝕する文明、シビライゼーションの無力化です」


「その通りだ。では無力化とは何か。それを考えるにあたって余計な先入観を排除する為に、敵の能力や特性は一度忘れて事態をもっとシンプルに捉えてみよう。例えば……そうだな、縄張り争いはどうだ。侵略と縄張り争いが大同小異だとして、動物の縄張り争いはどのように終結する。同族同士でどちらかが死ぬまで殺し合うか? ハスキ」


「同族で殺し合うのは人間だけだ。大抵は弱い方が縄張りを諦めて逃げる。勝った側は追いかけない」


「耳が痛いな……。だが早速、使えそうな解決策が出たな。これでわざわざ向こうに乗り込んで黒幕を殺して帰る手段を探す必要が無くなった。ハードルが劇的に下がったぞ」


「敵にワールドリウムを諦めてもらうんですね。それなら何とかなる気がします」


「私もそう思う。では次は諦めてもらう手段を探すために、より詳しく敵の分析を行おう」


「はい!」「おう!」「…………俺は邪魔しないよう、終わるまで静かにしておくぜ」







「敵は異界の神……と呼ぶとメチャクチャ強そうだから、心理的なハードルも下げる為に別の呼び方を考えようか。ワールドリウムの創設者……ううん……経営者……んー……運営者、かな。運営者でどうだ」


「急に世俗的な感じになりましたね」


「少なくとも神を名乗れるほど全知全能ではないだろう。本当に全知全能ならわざわざ他所の土地を使う必要も無いし、あんな紛い物だらけではない本物の世界を丸ごと作ればいい。つまりは敵のやってる事は『神様ごっこ』だな。ならば運営者で十分だろう」


「今までにも似たような事やってた敵居たな。自分の巣を作る奴らだ」


「そうだな、そしてやはり本物の神は居なかった。今回の敵、運営者の印象はどうだ。ミサキ」


「運営者の印象ですか? んっと……悪意や敵意を感じないので、エメスさんの時に近いですかね? あとは作った世界を見る限り、私達とすっごく似た世界の方だと思います。すごいバケモノ〜! って感じの敵もいませんでしたし、多分ですが運営者の見た目は私達と似てるのではないでしょうか。案外この世界の方なのかもしれませんね。他には……んーと……運営者はプレイヤーさん以外にはあんまり興味無いのかなーって」


「どうしてそう思った?」


「えとですね、今まで色々見てきましたけど……これまでに出会った敵の皆さんって、皆さんなりに人間の価値を認めていたと思うんですよね。価値って言っても食料としてとか、実験材料としてとか、遊び道具とかですけど……。でも今回の相手は違うなって……何となく分かるんです、私」


「なるほどな。お前、売れ残ってたってクレアから聞いたぞ。だから見向きもされないって分かるんだな」


「その通りなんですけどぉ! もうちょっと配慮してくれません!?」


「なるほど、一理あるな」


「クレア様のいじわる」


「ええ!? あっ、違うって! ミサキの話じゃないんだって!」


「本当ですかぁ〜?」


「その目怖いからやめて! ミサキの価値を誰よりも認めてるの私なんだけど!?」


「はぁーい。……えへへ」


「お前らお互いの扱い方、上手くなったな」







「さて、気を取り直して運営者の印象をまとめるぞ。私達と似た発展を辿った世界出身で人型。ミサキの感覚と、侵入者が破壊活動をしない限り排除しない様子を見るに、別世界へ乗り込む力を持ちながら現地に興味が無い。そしてひたすら箱庭いじり……か。んんー……考えられる理由は三パターンかな」


「聞かせて下さい」


「まずは『飽きている』。時空を超える事は運営者にとって大した事ではなく、異世界も見飽きているから興味が無い。私達を虫程度にしか思っていないのかもしれないな。もしも私が同じ能力を持っていたなら大喜びで観光するし、交易に技術革新に文化交流など、ありとあらゆる楽しみを味わい尽くすんだが」


「でしたらこの場合、様々な世界の様々な技術を吸収して、これ以上は進歩しないってところまで行っちゃった方なのかもしれませんね。それはそうとクレア様」


「何だ」


「いつかお金貯めて、みんなで旅行に行きませんか?」


「えっ? なんで急に?」


「ダメですか?」


「いや、たしかに旅行とか凄く行きたいけど……行きたい、けど……行っちゃおうかな………………行く?」


「はい、行きましょう」


「ミサキが行きたいなら仕方ないな、うん、仕方ないから三人で行くか、うん」


「もしかしてオレもか?」


「もちろんです。美味しいもの、たくさん食べましょうね」


「本当か!?」


「どこに行こうか、ちょっと楽しみになってきたな……。とと、話を戻そう。次は『配慮している』という可能性だ。まあいわゆる環境保護の精神だな」


「環境保護の精神って何だ?」


「そうだな……例えば狩りに行った時、大人のイノシシと子供のイノシシを見つけたらどうする? 大人のイノシシだけ狩るか? 両方狩るか?」


「掟で決まっている。大人のイノシシだけだ」


「その理由も分かるか?」


「子供のイノシシまで狩れば、大人になり子を産むイノシシが居なくなる。それを繰り返せば、すぐに森からイノシシが居なくなるからだ」


「なら大人のイノシシを狩った帰りに、今度は大人の鹿を見つけた。狩るか?」


「狩らない。掟で決まっている。獲物を食べ切ってまた腹が減るまでは、次の獲物を狩ってはならない」


「その理由は?」


「さっきと同じだ」


「素晴らしい掟だ。それが環境保護の精神だ」


「よく分からないぞ」


「無闇やたらに環境を荒らし回ると、巡り巡って自分の首を絞めるという事だ。おそらく過去に手痛いしっぺ返しを受けたか何かがあって、運営者はその教訓として現地に関わらないようにしているという説だ。配慮していると言うより、『リスクを避けている』と言った方がそれっぽいかな。現地から変な病気を持ち帰ったりしないように、現地との接触は避けているのかもしれない」


「リスクを避けている説はかなりあり得ると思います」


「最後の一つは何だ?」


「単純に『関わっても意味が無い』という可能性だな。能力的な問題で、運営者はワールドリウムへ一方通行なので何も持ち帰れない。だから現地からのお土産は諦めて箱庭作りに集中している」


「なるほどです。だから運営者本人ではなく、その代理として女神像が置かれているのでしょうか」


「ああ。本人が来てしまったら帰れなくなるからな。この可能性もあると思う」


「完全な一方通行でしたら、こちらも対処しにくいですね」


「そうだな。もしあちら側に何か送り込めるのなら、いくらでも戦い方はあったんだが……そう楽にはいかないか」


「それって逆に言えば、送り込む方法があれば楽に戦えるって事ですよね? 参考までに聞かせてもらってもいいですか?」


「まだ机上の空論だが……念の為に一応話しておくか」






「人類かどうかはさて置き、運営者は間違いなく文明人だ。極めて複雑で高度な趣味を持ち、可愛い生き物を作るセンスにも長けている。当然、高い知能を持っているだろう」


「今回も手強い相手ですね」


「そうだな。だが、賢い敵だからこそ通じる手というのがある。例えば今回なら『ここは危険だ』と運営者が判断してくれれば、リスクを恐れて去ってくれるだろう」


「なるほど。もしかしたら運営者は【パレード】を見て、この世界は危険だと判断していたから今までは大人しかったのかもしれませんね」


「おっ、たしかにそれあり得るな。私なら異世界の扉を抜けた先があんな空間だったらその場で家に引きこもる。あんな気持ち悪くてヤバい場所は二度とゴメンだ」


「私達にも同じ事が出来るでしょうか」


「似たような事は出来るはずだ。例えば病気や怪物やゾンビなど、ありとあらゆる危険な物品を無法都市ディセブデオンから仕入れてワールドリウムに投入するとかだな。あそこは最近ますます治安が悪くなっているらしいから、まだオークションが開催してくれていれば嬉しいんだが」


「私達は行きませんでしたが、ナインさんはあそこに住んでいたんですよね」


「さっき馬車から落ちていったぞ、そいつ」


「余計な時は居るくせに肝心な時には居ない役立たずの変態には期待するな。それに、そういった物品が手に入っても向こう側に送り込めないのなら同じ事だ」


「だから机上の空論なんですね」


「そうだな。だがこうやって話しているうちに、一つだけ確実に送り込めるブツを思い付いた。いや、思い出した。運営者がどれだけ厳重に持ち物検査をしようが、ワールドリウムを監視している以上、これだけは決して防げまい」


「そんな物があるんですか?」


「『情報』だ。エメスがやってたように、知る事が原因となって発動する災害……言わば『情報災害』を使う。具体的には呪いや精神攻撃か。それらを用いて、この世界に手を出すのは危険だと思い知らせてやろう」


「なるほどです。でも、そーゆーのって手に入りますかね?」


「うーむ……いくらディセブデオンでも難しいだろうな。それにそんなブツがあったとしても、下手に使うと私達も道連れになる。その方面のプロの知識が必要だ」


「魔術師、ですか」


「ああ、魔術師を探そう。情報災害に関する知識と技術を持つ専門家の力が必要だ」


「ですが、この国の魔術師はもう全員招集されてますよ?」


「いや、まだ一人だけ残っている。ミサキとはぐれた際に私とハスキが出会った違法魔術師だ。彼女は様々な技術系統の魔術を使いこなしていて、見知らぬ人間を親しい人間だと思い込ませる認識改変の魔術さえ習得していた。その叡智を借りよう」


「ああ、あの時ブン殴ったあの偽ミサキか」


「その方、そんなに私に似てるんですか?」


「いや、背丈以外全然似てない。それなのに私とハスキはミサキだと認識していたから、相当に優秀な魔術師だな」


「その件のお話だけは私も伺いました。でもクレア様? その方ってたしか……」


「ああ、そうなんだよな……ゴート卿に協力してもらって司法取引を持ちかけるのはいい、として…………人間って、投獄されたまま忘れ去られて、どれくらい生きていられるかな……」









「あんたら、いつもこんな事をやってんのかい」


「ああ。変なのを相手にする時は、大体こうやって意見を出し合って解決方法を探っている。それがどうかしたか?」


「あんたらの話し合いを聞いてると、不思議なほど懐かしくなっちまってな。全部忘れても、感傷だけは残ってやがる……。きっと俺にも、そういう仲間が居たんだろうなぁ……」


「おい……? 泣いているのか?」


「泣いてねえよ。男が泣いていいのは家族が死んだ時と、タマネギを切る時だけだ。俺の事は気にせず、あんたらは魔術師を探してきてくれ。あんたらが言う情報災害とやらには、このクソッタレの呪いもきっと役に立てるだろうからよ」

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