表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たとえ神に選ばれなくても  作者: ナカマクン
【悪の侵蝕者が完全勝利する話】
144/181

第0.5話。ゴート卿との相談

挿絵(By みてみん)

 ご無事で何よりです。クレアさん、ミサキさん。あの【パレード】が来ると聞いて心配していたのですが、杞憂だったようですね。流石です。



 私ですか? ええ、おかげさまで今ではあの悪夢もすっかり見なくなり、朝まで眠れるようになりました。お二方にはいくら感謝してもしきれません。



 そうですね、家出したあの二人はこれからバリス卿監視の下で、心を込めた反省文を誠心誠意書かされるでしょう。バリス卿の合格が出るまで何時間でも……何日でも。ああ見えてバリス卿は怒ると怖いですね。臆病だったあの頃とは本当に別人のようです。



 ええ……あの件ですか。引き続き本部に掛け合ってはいますが……進捗は思わしくないですね。ご存知の通り、優秀な魔術師は国でも教会でも奪い合いになっており、やはり私のような一介の現場職では…………せっかく私を頼ってくれたというのに、申し訳ない限りです。



 はい、何名かの魔術師に目星はつけてあります。残念ながら義肢専門の魔術師は見つかりませんでしたが、お預かりした鉄の手足の複製が出来そうな魔術師や、人体の治療を得意とする公認魔術師を何名かリストアップはしています。してはいるの、ですが……。



 はい……懸念されている通り、彼らは国や教会から特別な認可を得て厳重監視下で活動を行う立場です。仮に大金を積んだとしても、一般人の依頼を引き受ける認可が下りる可能性は低いでしょう。申し訳ありません。



 違法魔術師……ですか。そちらもあまり期待はなさらない方が良いでしょう。実際に取り締まる立場である私の経験上、通報された魔術師の八割が詐欺師かその被害者、一割がおまじないと大差ない民間信仰者です。残る一割は本物ですが、そちらも玉石混交ですね。ただ虫が好きなだけの人や麻薬製造者なんかも混ざっていました。この場合は魔術の分類では生物学と薬物学に該当します。



 え? いやいや麻薬業者はともかく、いくら何でも虫好きなだけの人を逮捕なんてしませんよ。誤解されやすいのですが、学問として魔術を学ぶだけでは罪になりません。学んだ知識を悪用して他者に危害を加えて初めて罪に問われるのです。そもそも悪い事をしなければ通報なんてされませんよ。



 はい、クレアさんの仰る通りです。国や教会に匹敵する情報源を持たなくては違法魔術師を見つけられない上に、さらにその中から義肢を作れる魔術師を探し出す事は困難でしょう。



 資料、ですか。なるほど、確かに違法魔術師から押収した書物や物品は教会で保管しており、聖骸騎士なら閲覧も可能です。魔術師に対抗する為に魔術の知識は必要不可欠ですから。その中には義肢に関する資料もあるかもしれませんが、外部への持ち出しは禁じられていますので……申し訳ありません。



 あ、いえ、そんな、謝らないでください。申し訳ないのは私の方です。力及ばず、お恥ずかしい限りです。



 ええ、そうですね。魔術師は専門職です。もし仮に義肢に関する資料が持ち出せたとしても、義肢専門の魔術師でなければ実現は難しいでしょう。



 え? ええ、魔術師は一握りの天才を除いて専門職ですよ。あれこれと色んな方面に手を出す者は大成しません。あのジェルジェの惨劇を引き起こした元凶と思われる魔術師も、何十年という歳月と一生遊んで暮らせたはずの大金を注ぎ込んだはずです。自分の人生の全てをリソースにして、起こるかどうかも分からない一つの奇蹟を追い求める探究者だけが、魔術師になれるのです。



 はい、間違いありません。繰り返しになりますが、魔術師は一つの技術系統しか習得しません。浅く広く習得しても中途半端になり、その道の専門家の後塵を拝する結果しか出せないからです。



 えっ? 異なる技術系統を併用していた魔術師を見かけたんですか? どんな物がありました? 詳しくお話を伺ってもよろしいですか?



 結界学に……生物学に……ゴーレム学……降霊学……無辜の人々に殺し合いまでさせようとしたのなら、心理学……いえ、洗脳学……。召喚学の可能性と、分類不明が数点……。



 とても信じられません……。自衛の為に結界やゴーレムを他の魔術師から購入する者は珍しくはありませんが、これは常軌を逸しています。魔術師の死亡原因一位をご存知ですか? 事故死です。自分の研究が制御不可能になってしまい、暴走事故を引き起こして死んでしまうのです。よって魔術師は多かれ少なかれリスクを嫌い、自分の知識外の技術に頼る行為を避けます。にも関わらず、これは……。



 結論から申し上げましょう。この場合、考えられる可能性は二つです。まずはその違法魔術師が何らかの手段で完成品を他者から仕入れていた可能性。かなりの資産を持ち、裏のルートで売り捌かれている魔術品を買い集めた。あるいは魔術師から物品を盗む能力に長けていた。などが考えられます。



 そしてもう一つの可能性は……この魔術師が天賦の才を持っており、複数の技術系統を習得していた可能性です。私はまだ出会った事はありませんが、こういった天才は過去に何名も出現しており、歴史に名を残す発明をしています。この女性の魔術師は今どちらに……?



 ああ、すでに逮捕して教会に引き渡し済みでしたか。安心しました。それを先に言ってくれればよかったのに、クレアさんも人が悪い……。ちなみにそれはいつ頃の話ですか?



 ……妙ですね。その時期なら聖骸騎士に復職した私達に前任者から引き継ぎがあるはずですが、村民と一致団結して巨大海魚を退治した記録くらいしか目を引くものはありませんでした。



 おや、クレアさんも前任者に会っていましたか。ええ、今もウィダーソンのゾンビの件を担当されている方です。豪快で正義感の強い方なのですが、やや大雑把な性格をしておりまして、事務処理も苦手なのか書類にもあちこちにミスがありました。



 いえ、さすがに一度逮捕した魔術師をむざむざと逃したりはしないでしょう。しかし魔術師の取り調べを行った調書も残されていないとなると……いえ、まさか……いくらなんでもそんな事は……。



 まさか『優先した巨大海魚退治に満足して、牢屋に放り込んだままの魔術師の事をすっかり忘れてしまった』なんて、そんな馬鹿げたヒューマンエラーが…………起こる、わけ、ないですよね……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ