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たとえ神に選ばれなくても  作者: ナカマクン
【アベルの偽物が現れた話】
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最終話。笑顔の魔法(クソ)

 まさか本当にお咎め無しで釈放されるとは思わなかった。


 嘘のように被害が戻ったとはいえ、爆発したうえに盛大にスベる最悪のテロをしたのに『次からは気をつけるように』で済まされるって、大丈夫かこの国。


「いやーなんつーかね、冷静に考えてみたんだけど、アベルだった頃の俺って、カッコよくなくちゃいけないって思い込みがあってさぁ、見た目も中身も全部嘘ついて見栄張ってたわけよ。多分それが原因でナインちゃんにも信用されなかったんだろうね。でも今はどうよ? 嘘偽り無いあるがままの俺の姿で生きてるのに、美少女だらけのパーティー作れてるんだぜ? アベルだった頃でもハーレム作れなかったのに、これって死ぬほど凄い事じゃない? いやあ俺は自分で自分が誇らしいね。うんうん」


「お前を仲間にする気は無いからな」


「そんなー!」


 リューイチはトチ狂った罰として逆さ吊りにした。『私はスベりました』という木札をぶら下げさせて、近所の子供が楽しめるように生卵を並べ、リューイチの体に的と得点を書き込んである。


「なんだあいつー! きめー!」


「やめてチビッ子たち! おじさんは悪いおじさんじゃないよ!」


 町の被害が一瞬で直ったり、虐待……お仕置きに必要な道具もポンポン出てくるあたり、本当にデタラメな魔法だ。テロがあんなに簡単に許されたあたり、精神に干渉する効果もあるのだろう。

 ……もしかして私も気がつかないうちに馬鹿になったりしてる?


 ちなみにハスキは、酔っ払って寝たミサキを背負って食べ歩きの散歩に出ている。事情聴取さえなければ私も行きたかったのに……。まぁ無罪放免だから贅沢は言えないか。


「お姉さま、アベルと接触してきました。報告をしてもよろしいでしょうか」


 とか考えていたら都合良くナインが戻ってきてくれた。


「思ったより早かったな。報告を頼む」


「かしこまりました」


 ところでなんか君、私の部下みたいになってない? 人の恋心を利用するような悪女になりたくないんだけど、私……。


「結論から言って……アベルは『白』でした。それゆえに、強い違和感を覚えました」


「白なのに?」


「はい。実は以前出会ったアベルは吐く息まで『黒』だったのです……。存在の全てが偽りで構成されているような、信用に値しない男でした……」


「その話さっき俺がやったよー」


「正体を確かめるために不意打ちを試してみましたが……あの無敵の能力は以前のままでした……。その上で私に見覚えがないかと尋ねてみたところ、『分からない』と『白』で答えました」


「『見覚えがない』でななく『分からない』か。会ったかどうかさえ定かではないと」


「ほらな偽物だろ! ナインちゃんみたいな美少女とのロマンチックな出会いを、この俺が忘れるわけねーんだわ!」


「しかしその直後に市街で大爆発が起こり……私も関与を疑われた為に撤退しました」


「あっ、それ俺だ」


「『白』。これは私の憶測なのですが……英雄アベルが一度だけ敗北したという噂があります。あの無敵の能力が敗れるとは考え難いのですが、その時に何かがあったとのではないかと……。なんでも金髪の女冒険者にボコボコに殴られたとか……」


「あっ、それ私だ」


「『白!?』おっ、お姉さま、どうやってあの無敵の絶対防御を!? ま、まさか色仕掛けでアベルに迫り、夜伽の最中に……そんな……そんなふしだらな……! 私というものがありながら、どうして……っ!」


「落ち着け! 人の肩を揺さぶるな! それちょっとミサキにやらせようとしたけど、やってないからな!」


「そうですか……安心しました……。お姉さまの純潔は私が一生誰にも渡しません……!」


「いつかは誰かに貰ってもらわないと困るんだけど!?」


「オイオイオイオイ! 罠だと知ってても俺なら引っかかるわそんなん! つーか実際に引っかかったってーの! そしてこのザマだってーの!」


「『白』。どこぞのハニートラップに引っかかったのは本当のようです」


「しかもその直後にあの女神から寿命の半分を徴収されてさぁ! 今じゃこの通り立派なオッサンよ! 生前より歳くっちまったなぁチクショー!」


「意味は分かりませんが『白』」


「じゃあお前、寿命の半分を人生の前半部分から差っ引かれたのかよ!?」


「へー寿命を代償にする必殺技で、そんなパターンあるんだー……って誰が納得するかーい! こんなん暴利やろがーい!」


 デレレレレレレレレレ……!

 あのドラムロールが鳴り始めた。


「お前のノリツッコミ、またスベりかけてんじゃねーか!」


「チッ、反省してまーす」


「はいお仕置き延長。卵の追加と小麦粉と油も置いとくぞ」


「天ぷらにでもするんかーい!」


「あ、そうだナイン。スレイは見かけなかったか? そいつが一番事情知ってるかもしれない」


「そういえば見当たりませんでした。以前はアベルにべったりで、私がアベルと多少会話しただけでも凄まじい殺気を放っていたというのに……」


「そのくせあいつ、手さえ握らせてくれなかったんだよ? ツンデレ好きだからいいけどさぁ、進展が遅い女の子って大体負けヒロインだよね。エロゲでもメインヒロインの出番を待ち切れずに、大体最初のエロシーンで抜いちゃうよね。それとも俺だけ?」


「一応聞くけど、リューイチは何か知らないか?」


「スレイのこと? あー……これはちょっと嫌な話になるから、あんまり話したくないんだよね。まあ……こんなんじゃ会えないし、俺とは別々の道を歩むルートになったって事で……」


「『白』。知っているようですお姉さま。拷問しますか?」


「いや、別にいい。この件はこれで終わりにしよう。深入りしたくはない」


「なんでだよ! 偽物の正体を暴いて、世界の平和を守ろうじゃん!?」


「私に守れるわけないだろ。世界の平和を守るのは、どこかの英雄様に任せた」


「うええー……」


「それにお前の言う通りあのアベルが偽物でも、お前がアベルの記憶を植え付けられた赤の他人でも、オリジナルから光のアベルと闇のリューイチに分離した両方本物でも、私には無関係だ。お前の依頼はここまで。どうしてもアベルに戻りたいなら、新しく他の冒険者を雇うんだな」


「うーん、たしかに下ネタさえ言えない品行方正な英雄で生きるのすっごい疲れたし、ついさっき今の自分が誇らしいって結論出ちゃったしなぁ。スッキリしないけど、しばらくはこのままでもいいかな。今後もスキルで取り寄せた宝石売り捌き続けてたら足もつくだろうし「オイそのリスク初耳なんだが?」大人しくナインちゃんと会社作ろうかな」


「じゃあとりあえずお前の依頼は完遂という事で、残りの報酬も払ってもらうぞ」


「はいはい」


 押し切っておいて何だけど、結局恋人作ってやれなかったのに、いいんだ。


「ではお姉さま、私は正妻としてお側に……」


「置きません」


「そんなー!」


 なんかリューイチと似たリアクションだな君。


「今後もお姉さまのお役に立てると思ったのに……!」


「君には感謝しているが、三人以上のチームで恋愛感情が発生すると、必ず軋轢を生んで内部崩壊する。必ず、必ずだ。だから三人以上のチームは全員ノンケの同性で統一するか、恋愛感情が発生した時点で解散するのが冒険者の鉄則だ。なあなあでここを緩めて、内部で足の引っ張り合いや殺し合いを始めた冒険者は数知れない」


「『白』。そんな……愛し合う二人だからこそ別れなくてはならないなんて……! ああ、でもそれはそれで悲恋感あってロマンチック……!」


「愛し合ってないからな! 大人しくリューイチとカタギの会社を作れ!」


「しかしその件につきましては、いかにお姉さまの命とあれど……私にも先祖代々の血を受け継いできた荒野の鷹最後の一人としての誇りがあります……。末代として、そう易々と暗殺業を廃業するわけにはいきません……」


 ああそっか君、同性愛者だから必然的に一族滅んじゃうのかぁ……割と笑い事じゃないな……。


「んん……」


 私は数秒だけ悩んで、言うだけ言ってみる事にした。


「もう君だけの身体じゃないんだから、自分をもっと大切にしてほしい。一族の誇りは大事だけれど、太陽の下で汗水流して真っ当に働く君の姿はきっと素敵だと思うよ」


「今すぐ冒険者組合に話を売り込んできます!」


 ナインの姿が消えた。

 うわぁぁあ! 私、悪い女になっちゃったぁ! 軽い気持ちで言ってみただけなのに!


「クレア様〜、ただいま戻りましたぁ〜」


「おいクレア! あっちの店の鍋のえっとなんか辛くて美味いヤツがあって、なんか凄かったぞ! どうやったらあんな美味い飯が作れるんだ!? 生の肉よりずっと美味いぞ!」


 自己嫌悪していると、今度はほろ酔い状態のミサキと何やら興奮しているハスキが仲良く肩を組みながら帰ってきた。


「あんなの始めてだ! 大きな町は凄いな! オレはまだ食えるぞ! 一緒に食おう! 行こうすぐ行こう! あっちあっち!」


「おい袖を噛んで引っ張るな! 破ける破ける!」


「ごーごぉー」


「分かった分かったから!」


 酔っ払いと食いしん坊に手を引かれて、私は歴史の刻まれた古都の街並みを歩く。「ねえ俺は? 忘れてない?」今回も酷い仕事だった、私もナインの事は言えない。もう冒険者なんて辞めて畑でも耕して生きようかと思ってしまう。「あの、逆さ吊りはマジで死ぬから、あの」しかし冒険者を続けていたからこそ、手に入ったものもある。それが今こうして私の手を「ウンコウンコウンコー!」「二度とそれやるなっつったろスットコドッコイが!」「ひでぶ!」


 逆さ吊りにしているロープを切ってやったら、リューイチは頭から落下して地面に垂直に刺さった。はぁ……。厄介なのと二人も関わり合いになってしまった。これからどうしよう。


「なんか楽しそーだな、クレア」


「私が? 馬鹿言え。息抜きのつもりが、とんでもない仕事だった。こんなのもうこりごりだ。リューイチとは金輪際二度と会いたくない」


「ガチで泣くからそーゆーの言わんといて!」


「そうですかぁ〜? 私はこの仕事、受けて良かったと思いますよぉ〜」


「まぁ、ちょっと散財する余裕があるくらい十分な実入りはある仕事だったかな。割に合わなかったけど」


「リューちゃんの魔法はとっても凄いですぅ〜。よしよし」


「でへへぇ」


「たしかにこいつの魔法が凄いのは認める。不死身だし、金になる物品をいくらでも出せるし、あれだけの事をやっても許されるし、どんな馬鹿馬鹿しい能力でも魔法は魔法だな」


「フヒヒィ」


「ムカつくなその声」


「蹴らんといて! そろそろ目覚めちゃうから!」


「でもリューちゃんの魔法で一番凄いのは、そこじゃないんですよぉ〜?」


「へー、じゃあ一番凄いのはどこだ?」


「あれあれぇ? もしかしてクレア様、自分で気付いてなかったんですかぁ〜?」


「え? なにが?」


「リューちゃんの魔法で、びっくりしちゃうくらい最高に凄かったところはですねぇ〜」


 ミサキはニンマリとだらしなく笑った。






「クレア様が、ずっと笑っていたところです」






 おしまい。

以上です。

ここまで読んで下さいまして、ありがとうございました。

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