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たとえ神に選ばれなくても  作者: ナカマクン
【アベルの偽物が現れた話】
123/181

第9話。爆発オチなんてサイテー!

「……セント、イノセント」


「うう〜ん……キャンバスぅ……?」


「目を覚ますんだイノセント。あの魔女はまだ生きているよ。世界の危機が迫ってるんだ」


「あと五分だけ……むにゃむにゃ……」


「やれやれ、君は大人になっても変わらないね」


「誰の胸が変わらないってコラ」


「えっ胸の話はしてなグェェエエエ!?」


「おかげでバッチリ目が覚めたよ。お前だけは私をイノセントと呼んでもいいが、もう私を騙せると思うなよ」


「目を覚ませってそういう意味じゃゴボボボボボボ!?」


「ここはあの世か? 三途の川はお前一人で渡れ」


「イノセント! 君は暴力的になり過ぎているよ! そんな子じゃなかっただろう? あの男のせいで君は暴力を振るう事への抵抗がグェェエエエエ!」


「濡れたらしっかり絞らないとな」


「このままじゃダメだよ! 悪い男とは別れないと! 君のためにならないよ!」


「そもそも付き合ってねーんだよ!」







 ハッ!? ……なんだか変な夢を見た気がする。


 気がつくと、視界一面に白煙が濛々と立ち込めていた。私はボンヤリと自分の手をかざす。真っ黒になってしまっているが痛みは無い。軽く手を擦ってみると、傷も火傷も無い肌が黒ずみの下から現れた。単に煤を被っただけらしい。


 そうだ、たしかリューイチがスベって爆発したんだ。

 …………ええ? そんなことある? 何言ってんの私?


「ケホッケホッ」


 爆発したはずのリューイチは爆心地で丸焦げになっていた。薄かったはずの髪の毛が見事なアフロヘアーになり、服はボロボロで口から白い煙を吐いていた。


「ミサキ……」


 ミサキも黒焦げのアフロヘアーになっていた。うつ伏せに倒れたままピクリとも動かない。「まさか」私の背筋を最悪の悪寒が「クレア様ぁ〜二次会どこ行きますぅ〜?」走ることはなかった。無事で何よりだ、この酔っぱらいめ。


「ハスキは……」


 ハスキはその辺の壁に刺さっていた。お尻だけが壁のこちら側に飛び出している。尻尾がパタパタと苦しげに動いており「ん〜! んん〜!」壁から中々抜け出せずにもがいていた。「ンミー」あ、子猫も無事なんだ。


「はぁ……はぁ……壁尻の作法を守らないと……」


 フラフラと歩いてきたリューイチが、ハスキの刺さっている壁にハスキの写真をペタリと貼った。それ何の意味があるんだ。


 まだ理性が状況を受け入れられてない。

 かなりの大爆発だった気がするが、見渡す限り壊れた建物は見当たらなかった。集まった民衆も皆アフロヘアーで煤まみれになっているが、死傷者は出ていないように見える。誰も彼もがポカンと口を開けて、この意味不明な自爆テロを起こした張本人を見つめていた。


「おい、リューイチ、お前、これ、お前……」


 正直言って私も混乱している。

 死傷者が出ていなくても、王都でこんな自爆テロを起こしたのだから大変な事になる。リューイチを置いて逃げるか? 私まで共犯だと言い出したらどうする? 主犯としてリューイチを突き出すか? 関係を疑われたらどうする? そもそもこんなクソ魔法、誰が信じるんだ? 騒ぎを聞きつけたアベルが出てくる前に逃げるべきか?


 私は頭を抱えようとして、自分もアフロヘアーになってしまっている事に気が付いた。これ元に戻るんだろうな!?


「どうするんだよ、お前! これから……!」


 騒ぎを聞きつけた衛兵達がゾロゾロと殺到し始めた。警報を告げる鐘の音がガランガランと鳴り響く。ハスキの後ろには何故か男達が列を作り始めた。自爆テロに巻き込まれて呆然としていた人々は、こちらを指差したり衛兵に駆け寄っていく。あああああもう逃げるのは無理だ……!


「大丈夫だ。実は俺のこのスキルには、どんな被害もすぐ戻せる上に、何をやっても何となく許される秘密の呪文がある。一種の保険のようなものだぜ」


「この状況から入れる保険があるのかよ!?」


「ただ人のネタだからそのまま使うのは抵抗があるんだけど、どうしよう」


「捨ててしまえそんな芸人魂!」


 どうやらリューイチは正気に戻ったようだが、もうそれどころじゃない。衛兵が私達の周りを取り囲んでいる。「お前達は完全に包囲されているー! 無駄な夫婦漫才をやめて、ただちに投降しろー!」夫婦じゃねーんだよクソボケコラァ!


「使え使え! もう今すぐ使え!」


「でもこれタイミングが限定されててさぁ、ボケた直後じゃないと発動しないんだよね」


「じゃあ今すぐボケろ!」


「あとツッコミも禁止ね」


「分かったからもう何でもやれ!」


「はいはい。『太陽が転んで泣いた。いたいよう』ナンチャッテー」


 寒過ぎるギャグに場の空気が凍りついた。

 冷たい風がピュウウと駆け抜ける。あまりの寒さに私どころか衛兵すら固まる中、「いやーははは、あーはは……」リューイチだけが頭をポリポリと掻きながら愛想笑いを浮かべていた。


「ダメかこりゃ」


 そして二回目の大爆発が起こった。






「またスベってんじゃねーかテメェェエエエ!」

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